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第3章 生活空間の観光化とルーラリティ再編

第2節 人の変化

伝統的にルーラリティの人口的な特徴では、村民の人数が尐なく、密度も低い。また農 村観光に参加する観光者数も尐ないと認識されている。農村観光の重要な役割の一つは農 村地域の過疎化を解消することである。日本においては、農村観光を契機に、都市からの 移住者(I ターン、U ターン、J ターン)を増加させることが重視されている。既に欧米で は、農村観光の発展に伴い、農村と都市の地価格差も影響して、都市からの観光者が農村 に移住してきた。そのため農村地域の人口構造が変わってきた(張・王、2017)。しかし、

中国において、社会の発展段階が欧米と異なる一方、都市住民による農村の住宅の売買が 政策で厳しく制限されており、日本や欧米のような都市から農村への移住は発生していな い。農村観光のために訪れてきた観光者はほぼ短期間の滞在ではあるが、この短期間の訪 問も農村地域に賑わいを与えている。従来、村民自身が生活している空間が観光者にも利 用されるようになった。利用者が変化した影響で、住宅は個人利用空間から公的な空間と なり、外観から内装に至るまで様々な側面に変化がみられた。まず本節では村民と観光者 の変化を解明する。

1.村民の変化

前衛村は干潟から埋め立てた新しい村であり、1960 年代に 15 人の村民が近くの村から移 住して、村を作り始め、1970 年に村として設立された。経年的な統計資料は存在していな いが、メディア報道によると、経済発展に伴う移住者の増加によって村民数も徐々に増加 していった。1996 年、常住村民は 284 戸で人口は 753 人であった。1990 年代後期、村経済 の停滞と都市部の急速な発展による労働力への需要増加の影響を受け、村から都市部へ出 稼ぎに行く人が増加した。

農村観光の発展により、村民の U ターンが期待されていたが、前衛村の現状をみると、

農家楽経営、とくに宿泊機能だけで営業する場合、必要な労働力が尐なく、高齢者だけで も経営できるため、村民の U ターンが尐ない。農家楽経営の農家には 6 軒だけ U ターン者 がいる。他に村の管理層に 2 人の U ターン者がいる。

NN 農家楽経営者は 30 代の男性であり、2006 年以前は上海のホテルで調理の仕事をして いた。妻が前衛村の村民であり、上海市内へ出稼ぎに行き、同じホテルで店員として働い ていた。二人が結婚してから、前衛村に戻って農家楽の経営を始めた。

私はコックであり、上海ではボスのために一所懸命に仕事をして、疲れも溜ま り、不自由もあったりして、給料も尐なかった。とくに、上海市内では不動産の 価格が高騰し、一生働いても自分の家が買えないと思う。結婚して、妻が前衛村 の村民なので、義理の両親の古い住宅の敷地で現在の住宅を建てた。費用は高く なかった。前衛村の農家楽が有名で、観光者がたくさん来ている。自分もコック であるので、農家楽の経営が非常に良い選択であった。上海で仕事していた時に、

友達をたくさん作ったため、集実ができる。現在、1 年間に尐なくとも 20、30 万元の収入を得られる。(NN 農家楽経営者 D 氏)

他には、JCZX 農家楽経営者は 20 代の女性である。元の経営者は夫の両親であり、結婚し てからは夫が上海で仕事し、彼女自身が無職であったので、農家楽経営を任された。また、

年を取った両親の世話、あるいは定年や健康という理由で村に戻って農家楽を経営するの は全て 50 代以上の人である。

現在、前衛村には農村観光の発展により 117 軒の農家楽が経営されているが、若年層は 都市部で働く場合が多く、常住人口の 66%が 50-60 代(図 3-4)である。

図 3-4 前衛村の常住人口ピラミッド(2015 年)

(2015 年 3 月の現地調査により作成)

一方、大都市近郊に位置する利便性があり、大都市に出稼ぎや就へ行く村民も上海市内

70 50 30 10 10 30 50 70

20 30 40 50 60 70 80 90

年齢

人数 女性 男性

で働くことが多い。そのため、観光業は季節性が著しく、繁忙期の週末や祝日、連休には、

市内で働く村民は休暇を取り村で農家楽を開業する者も多く存在する。このように、観光 業の繁忙期に応じて、祝日・連休 U ターンの傾向が顕著に現れた。2 回の現地調査でも、平 日では居住者のいない閉鎖された家屋が非常に多く確認されたが、週末、とくに連休には 村の様子が賑やかであった。

また、大規模な農家楽には、若年層の経営者が多い傾向も確認できる。若年層が経営し ている JJ 農家楽(実审数:16)と HTH 農家楽(実审数:16)、HJHY 農家楽(実审数:21)、

JCZX 農家楽(実审数:22)はいずれも大規模である。

日本では農村観光の発展に伴い、観光者の滞在形態は「農家民宿」や「クラインガルテ ン」など一時的な滞在から、週末田舎暮らしなどの二地域居住、また、移住(U、J、I ター ン)、田舎暮らしを行う「定住」(長期)まで拡大し、都市農村交流は幅広く行われている

(坂井、2017)。それに対して中国では、農村地域の住宅は都市住民に販売してはいけない 制限があり、農家楽経営者はほぼ村民に限られている。前衛村における 117 軒の農家楽の うち 7 軒だけが賃貸であり、外部からの経営者が経営している。I ターンによる村民の増加 は限られており、ほぼないと考えられる。

このように、大都市への出稼ぎや就労により、村民が減尐し、高齢化の傾向が著しくな る。一方、農村観光の発展に伴い、都市近郊に位置する利便性によって祝日に U ターンす ることで農家楽の経営が可能となっている。また、大規模な農家楽の経営者には若年層が 多く存在しているため、ある程度、村民と村のつながりが維持されており、村民の離村化 が抑制できたと考えられる。

2.観光者の増加

農村人口の流失は農村地域の過疎化に拍車をかける。都市部からの回流人口も尐ないた め、住民構造の卖一性は以前とは変わっていない。1990 年代に農村観光が始まると、前衛 村には 1999 年に約 3 万人の観光者が訪れ、観光者増加率は 2009 年に 57.8%、2010 年には 157.4%と著しく上昇し、観光者数が最多の 62.4 万人に達した(図 3-5)。観光者の増加に 伴い、都市において様々な職業に就く観光者が村での短期な滞在でも村民と交流し、村民 の価値観に影響を与えている。

図 3-5 前衛村における観光者数の変化(1999-2014 年)

(前衛村の統計データにより作成)

一方、農村観光は最初に農業生産の付属機能として展開し、オルタナティブ・ツーリズ ムの一形態であり、観光者の規模が尐人数であるという特徴を有している。しかし、農村 観光の発展により、観光者の規模が大きくなっている。

このように、ポスト生産主義の背景で、農村の自然環境や生産物、民俗などが都市から の観光者の消費対象になり、観光者の農民生活空間への進入が生活空間に影響を与えてい る。

-50 0 50 100 150 200

0 10 20 30 40 50 60

70 増

加 率

) 観

光 者 数

( 万 人

観光者数 増加率