第3章 生活空間の観光化とルーラリティ再編
第5節 まとめ
まず、住宅の外観要素において、農村発展によって新規のルーラリティが付与された。
従来の研究では、農村建築におけるルーラリティは伝統的・古い・小規模であることが特 徴とされてきた。この伝統的な建築は地域の自然環境に制限されていながら、自然とも調 和している。しかも、経済条件の制限があり、一般的には地元の原材料を利用している。
経済発展と新しい建築原材料の発達に影響され、農村地域に自然環境の制限を超えて、現 代的な建築を建設できるようになってきた。一方、現代建築は快適で住みやすいだけでな く、農村住民が経済向上した「脱貧致富」(貧困から脱離し、富裕になる)を象徴する文化 的な側面もあり、農村建築の現代化が進んできた(王、2017)。
農村生活空間の重要な構成要素である家屋は、建設当初は経済状況や建築材料の制限な どによって、住民の生活を充足させる 1 階建ての簡易な建築物であった。しかし 1980 年代 末から経済水準の上昇と建築材料の多様化、技術の発達などに起因して、住民の生活空間 を改善する需要が高まった結果、新たに 2~3 階建ての住居が建設されるようになった。こ の変化は経済発展と住民自身の生活需要によるもので、農村観光の影響を受けていない。
逆に、この居住面積の拡大による空部屋の出現によって、その後の農家楽経営などの農村 観光に必要な条件が備わった。また、住宅の外観は西洋風の「別荘」式に変化し、現代農 家、とくに中国では「社会主義新農村建設」の政策の成功の象徴となっている。また一部 の観光実もこのような農村環境で立派な別荘に泊まれることこそ農村観光の新しい形態で あると認識し満足している。この住宅は都市部の集合住宅と異なり、ルーラリティの新し い表現となっており、新規のルーラリティと考えられる。
また、住宅の設備や内装において、ルーラリティの低下が著しくなっている。伝統的に 居住機能しか備わっていなかった農家に、観光機能が誕生することになったのは 1999 年か らの前衛村観光発展の展開期以降のことである。農家楽経営の初期段階には、観光者のた めの実审の設置は、農家の空部屋しか活用されなかったが、農村観光の進展により、観光 者の要求と政策の規制、政府の指導により、部屋の内装や間取り、設備がホテル並みに整 備された。しかし、これらの要素において、都市部のポジティブな特徴はルーラリティの 低下に繋がるものではあるものの、農村観光の発展にポジティブな影響を与えるものでも ある。一方、かまどのような農村的特徴を持つ設備は農村の雰囲気が保ち、ある程度ルー ラリティを維持している。
次に、住宅の敷地における自然風景が減尐することにより、ルーラリティが低下してい る。より多くの観光者を受け入れるため、一部の経営者が菜園だった中庭を利用して新し
い建物を増築し、経営規模を拡大する動きも現れた。このように、増築により、庭の自然 風景が消失することで生じるルーラリティの低下が農村観光にネガティブな影響を与えて いる。
最後、集落景観においても、ルーラリティの低下がみられる。農家楽経営により、家屋 に広告看板を立てたり、観光実の利便性のために路標や街灯、ごみ箱などが設置されたこ とで、ルーラリティが低下している。しかし、これらの変化も農村観光の発展にポジティ ブな影響を与えている。一方、農村住民が綺麗だと感じる都市部の街路樹も農村に導入さ れ、本来の街路樹と共に新たな自然風景を創り出し、新規のルーラリティとなっている。
住民の生活空間に観光空間が侵入した要因としては、農村発展による住民収入の増加と いう経済的要因と、観光業の発達による観光者の増加という需要側の要因、村民自身によ る経済的利益の追求という供給側の要因、政府からの支援あるいは制限の政策要因などが 挙げられる。