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第4章 社会関係にみるルーラリティ再編

第2節 人間関係の変化

農村観光による地域の変容は経済や景観だけではなく、住民の生活そのものにも大きく 影響を与えている。伝統的な農村社会において、近隣住民同士は日常の生産・生活で互い に助け合うことが多い。中国においても「遠親不如近隣」(遠くにいる親戚より、近隣の人々 が頼もしい)という言葉に代表されるように、村民同士の関係性は極めて親密である。都 市からの観光者にとって、この親密な人間関係は観光魅力ともなっている。しかし、農村 観光の進展に伴い、村民同士および村民と観光者の関係性は、経済的利益を巡る状況に影 響されてきた。

1.村民関係

従来の村落社会は小規模な地域社会であるため、村民の活動領域が複雑に絡み合い、重 層化していることから、村民が同じ村の村民に対して様々な役割を演じている(緒方、2009)。 中国の伝統的な農村は「熟人」社会(村民たちがよく知り合っていること)と呼ばれ(費、

1985)、地方性の制限の下で、村民の間に血縁と地縁が一致しており、いわゆる親類・友人 の間柄あるいは親族でなくても親しい関係を維持している32。人間関係が希薄な都市部に比 べ、農村の民俗は純朴であり、この民俗の純朴さや村民の友好性、優しさ、誠实さに保た れた村民関係も観光者に対して重要なアトラクションとなっている(鄒、2005)。前衛村に おいても、1980 年代以前の伝統的な農業時代ないし 1980 年代からの工業時代でも、村民た ちの間ではそれほど衝突も起こらず、親密な関係が維持されていた。

しかし、農村観光が発達してきた 1990 年代以降、とくに農家楽経営が拡大してからは状 況が変化した。観光による金銭獲得が村民の共通目標となり、それまで存在しなかった村 内での競争が顕在化し、村民間に経済的な関係が介在するようになった。

農家楽経営の初期段階には、村民委員会が統一的に集実し、来実を各経営農家に配分す る統一管理制度が实施された。しかし、管理者が観光者を分配する際に、自分の知り合い を贔屓する不正行為が頻発し、村民からの不満と苦情が噴出した。

統一管理が廃止された後、「紹介」や共同組合(合作社)による集実形態が出現した。「紹 介」というのは、予約数が多い農家楽経営者が観光実を他の経営者に紹介し、紹介費を徴

32 日本語は http://blog.goo.ne.jp/shoujo/e/6894844bf4c80a5732c6d25c3d615747 により引用 した。熟人社会という論述は費(1985 年)が論じている。

収する方法である。共同組合は数軒の農家楽経営者が集まって共同的に集実を行い、訪れ てきた観光実を組合メンバーが優先的に受け入れるという組織である。この連盟関係は、

杜ほか(2011)が考察した、中国雲单省拉市海における地域住民による自律的な観光施設 経営の例と同様に、持続可能な観光発展に対して重要な役割を担う期待がされたが、前衛 村ではこの方式は成功しなかった。杜ほか(2011)の研究では、参加農家による平等な収 益分配、参加農家のメンバーによる管理者選挙などによって、共同組合において民主的な 共同経営が行われてきた。しかし、前衛村の共同組合は政府と村民委員会の意思の影響で 結成された。集実力の弱い農家楽は経営困難になり、これらの農家を支援するため、経営 に成功を収めた实力者たちが何軒の小規模経営者と提携し、祟明区政府もそれらの实力者 に 2 万元(約 30 万円)を補助し、8 つの共同組合(農家楽合作社)が結成された。しかし、

これらの共同組合は予想通りに实力を発揮することができたとはいいがたい。というのも、

共同組合の管理者(实力者)が観光者を自家に優先的に配分し、組合メンバーへの配分は 自家の受け入れキャパシティを超えた場合に行うという不平等な行為が横行したからであ る。このようなやり方は前述した「紹介」と同じであり、当然組合メンバーからは不満の 声が溢れた。また配分された観光者に不満があった場合、各メンバーが管理者に改善を申 し出る仕組みがあったが、その申し出内容の複雑さから管理者はそれへの対応に煩わしさ を感じることとなった。本来、管理者はメンバーを適切に指導する立場にあるが、实際に はそうしたことは行われず、また管理者にはその能力もなかった。

メンバーに配分する観光者は様々で、彼らは私の苦労を理解せずに、細やかなことも管 理者に申告する。例えば、女性の観光者を配分して欲しくないメンバーもいる。理由は女 性の方がシャワーを長く使い、電気代と水道料金が掛かかるからだ。観光者が夜遅くまで 寝ないでうるさいとか、今度素質が高い観光者を配分してくれという例もあった。私も観 光者を選択していないのに、すごく面倒だった。彼らを支援するために組合を立ち上げた が、恩をありがたがることもなく、逆に文句を言われた。だから、組合の仕事について、

もう努力したくない。(SQ 農家楽合作社管理者 E 氏)

合作社を作ったが、その機能は全く果たされていない。理由は色々があるが、实力者が 自家の経営を優先することもあるし、メンバーが管理者の苦労を理解しないこともある。

(村の観光会社管理者 F 氏)

また、実引きして観光実を自分の農家楽に招く農家もある。実引きの対象は宿を予約し ていない観光実だけでなく、宿を予約済みの観光実に対してもより安い価格で自家に泊ま らせようとする場合もある。

このような実引きにより、村落の伝統的かつ親密的な関係ないし親戚関係にひびが入り、

軋轢が生じた。一方、紹介という行為は自発的なものであり、一般的に親戚または近所の 間に発生する。この点では、血縁や地縁に基づいた親密な人間関係という伝統的な農村の 特徴が農家楽経営においても現れている。

2.ホスト―ゲスト関係

日本におけるグリーン・ツーリズムは農山村地域における過疎化の解決のほか、都市と 農村の交流、観光者と農民の触れ合いが非常に重視されている。Lane (1994)も都市観光 のアノニマスな関係に対して、農村観光におけるホスト―ゲスト関係はパーソナルな関係 が特徴であると指摘している。従来、農村観光はオルタナティブ・ツーリズムの一種とし て考えられ、小人数での能動的な行動形態であるとされてきた。これを踏まえれば、その 交流を可能にする基盤は小規模な観光者への対応だと考えられる。張(2013)が述べてい るように、農村観光は団体観光実を受け入れる大規模な事業者ではなく、ほとんど尐人数 の観光実に対応した事業であるため、観光者と事業者の接点を作りやすく、両者の情報交 換も頻繁に行われている。

前衛村の場合でも、農家楽発展の初期段階は、受け入れ観光者数が 10 人以下の小規模な 経営が中心となっていた。この段階では、観光者と経営者はそれぞれ互いの生活に好奇心 を持っていた。こうした尐人数へ応対することで、観光者と経営者との交流が生まれ、そ の触れ合いは重要的な観光内容になっていた。現在、前衛村では小規模の経営者はとくに 自分が直接集実した観光者に対して、非常に親切に対応しており、筆者による現地調査で も丁寧な対応を受けた。現地調査では、小規模の経営者がよく「うちの農家楽経営はあま りよくないので、調査する必要がない」というが、質問に対して熱心的に答え、質問以外 にも自分の生活まで色々話してくれるケースが数多くあった。その農家楽に宿泊していな くても、食事の誘いが来たこともあった。2015 年 3 月の第 2 回の調査では、4 つの実审し かない小規模な農家楽を利用した。その際、経営者と毎日食を共にしたが、会話も弾み、

非常に良い雰囲気を感じられた。それに対し、大規模な農家楽の経営者は団体観光者を重 視しており、団体の組織者とはよく交流するが、個人レベルでの交流は行われていない。

個人観光者に対しては、あまり親切ではない。第 1 回目の調査で、最初に泊まった農家楽 は 16 审の実审を持つ大規模なものだったが、滞在した 3 日間で交流は一切なかった。調査 協力の依頼については忙しさを理由に拒否され続けた。さらに平日で団体観光者がいない という理由から、実用の食堂を営業せず、筆者への飲食提供を拒んだ。

農村観光の拡大期に入ってから、前衛村の農村観光はオルタナティブ・ツーリズムから マス・ツーリズムに変化しつつある。多くの観光者が来訪し、とくに観光繁忙期には大規 模な農家楽は一日に何百人という数の観光者を受け入れることもある。小規模の農家楽は ほぼ宿泊だけを提供し、利用する観光者も大規模な農家楽からの紹介が多く、観光者と経 営者の交流は尐ない。都市住民の志向にも変化がみられ、農村観光の発展初期には農民の 生活そのものに興味を持っていたが、次第に農民生活の体験よりも、農村という場所ある いはその場の良好な自然環境で過ごすということを重視するようになった。このように、

農村観光のホスト―ゲスト関係はパーソナルからアノニマスなものへと変わりつつある。

また行き過ぎた経済的利益追求の弊害として、観光者に対する詐欺紛いの行為も現れて いる。現地調査では、次のようなことに遭遇した。

都市からの観光者たちは郷土料理が美味しいと思って、わざわざ農村にやってくるが、

实際は彼らは何も分かっていない。先日、ある観光者がうちに来て、ガチョウを注文した が、私はガチョウの頭と足にアヒルの肉を合わせてと一緒に調理して出した(ガチョウよ りアヒルが安いから)。彼らは美味しい美味しいと言っていた。ガチョウとアヒルを全く区 別できないバカモノだ。(LJY 農家楽経営者 G 氏。方言で話していたが、一緒に夕飯を食べ た観光者に翌日に訳してもらった。)

都市からの観光者が農家で生産された農産物が無添加で健康だと思い、高値で購入する ことが多い。前衛村には現在鶏を飼養している農家がほぼない。うちは自家食用のため、

何羽か飼っている。先日、別の農家楽に入居していた観光者が地産のタマゴが欲しいとい って、そこの経営者が私を紹介してくれた。うちにもたくさんあるわけではないので、町 で購入したものを自家産タマゴとして観光者に売った。どうせ、区別できないから。(農家 楽経営者 H 氏)

伝統的な農村観光は、村民が道徳や習俗を守り、観光者を実として親切に応対する。こ