第 4 章 圧電ゴムの適用
4.3 圧電ゴムの鉄道分野におけるセンサへの適用の検討
4.3.2 車両側扉戸先における異物挟み込み検知センサへの適用の検討
鉄道車両では,駅での乗客の乗降の際,側扉を閉じた際に乗客の持ち物などの異物を側扉 戸先に挟み込むことがある.その際,現状の異物挟み込みセンサでは,検知できる大きさに 限界があり,指先,杖の先およびベビーカーのシャフト等のような細いものを挟み込んだ場 合,異物として検知できず,挟み込んだまま車両が走行を始めてしまう事象が発生している.
そのため,側扉戸先において,小さな異物でも検知できるセンサの開発が期待されている.
このようなセンサとして,柔軟性および大面積での作製が可能な圧電ゴムが有効であると 考えられる.
4.3.2.2 圧電ゴムを内蔵した車両側扉戸先ゴム
側扉の戸先において異物を検知するためには,戸先ゴム内にセンサを設置することによ って,異物と接触した際にセンサから電気信号が発生して異物を検知する方法が有効であ る.そのようなセンサとして圧電材料に注目した.一方,図4-18に示すように,一般的な 鉄道車両に使用されている戸先ゴムの形状および異物が挟み込まれると想定される位置を 考慮すると,戸先ゴム内に設置する圧電材料に求められる形状は,長さ:1500mm以上,幅:
7mm以内,厚さ:1mm程度が妥当である.このような形状のPVDFやPZTを作製すること は困難である.
そこで,内蔵する圧電材料として圧電ゴムの適用を検討した.
圧電ゴムの圧電性能は,圧電セラミックスや圧電フィルムに劣るが,以下の利点がある.
· 長さ1500mm,厚さ1mmの形状のセンサを作製できる.
· 母材がゴム材であるため,柔軟性があり壊れ難く,大きな変形にも追随できる.
· 母材が戸先ゴムと同じゴム材であるため,指等が挟まれても影響が小さい.
以下,圧電ゴムを内蔵した戸先ゴムをセンサ戸先ゴムとする.
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Figure 4-18 Schematic image of installed piezoelectric rubber in door-end rubber of train car.
4.3.2.2 圧電ゴムの作製方法
圧電ゴムのゴム材には,成型性,加工性および分極のし易さを考慮して,EPDMを用い,
圧電セラミックスの粒子には,粒子径が0.25~0.5mmのPZT F-2(㈱フコク製)を用いた.
圧電ゴムの作製方法は,第2章で述べた0-3複合体圧電ゴムの作製方法と同様であるが,
加硫成型する際に,図4-19に示すように金型を用いて2000 mm×100 mm×厚さ1 mmの形状 に圧電ゴムを成形した.成型した圧電ゴムは,表面に電極となる銀ペーストを塗布した後,
3 kV/mmの電場を印加して分極した.分極した圧電ゴムは,幅5 mmに切断した.
以上の作製方法により,2000 mm×5 mm×厚さ1 mmの大きさの圧電ゴムを作製できる.
ここで,圧電ゴムのPZT粒子濃度は,約60 Vol%とした.これは,第2章で述べたように,
圧電ゴムの成型性および圧電性能を考慮したためである.PZT粒子濃度が約60 Vol%よりも 小さい場合,成型性は良いが,圧電性能が非常に低い.一方,約60 Vol%よりも大きい場合,
圧電性能は高いが,成型性が悪い.
Figure 4-19 Photo image of molding piezoelectric rubber for door-end rubber of train car.
Mold Piezoelectric Rubber
2000
100 Unit : mm
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4.3.2.3 圧電ゴムの圧電性能
作製した圧電ゴムの圧電性能を評価するため,d33に加え,d31を測定した.d31はこれまで 述べてきたd33と異なり,図4-20に示すように,圧電材料を引っ張った際の加えた応力(方
向1)に対して,圧電ゴム表面から発生する単位面積当りの電荷(方向3)を示す.本検討
において,d31 を測定したのは,異物が接触した際に,戸先ゴム内の圧電ゴムの変形が引張 方向にも変形するためである.
d31の測定には,動的粘弾性測定装置DDV-01-FP(東洋精機製作所㈱製)を用いた.測定 に用いた圧電ゴムの大きさは,50mm×5mm×厚さ1mmとし,測定時の荷重の振動条件は,
平均荷重1N,振幅変位±5μmおよび周波数100Hzの正弦波とした.測定では,荷重,変位
および発生電荷を測定した.測定状況を図4-21に示す.
測定の結果,作製した圧電ゴムのd33は4 pC/N,d31は約6 pC/Nであった.この値は,PZT のd33(100~600 pC/N)およびPVDFのd33(約30 pC/N)と比較すると小さく,センサとし ての感度はこれらよりも劣る.ただし,圧電材料から発生した電荷を増幅するチャージアン プを使用することができれば,増幅された電圧値を利用することができる.この際,チャー ジアンプから出力される電圧は,レンジによって任意に変更することができるため,作製し た圧電ゴムでも十分な電圧を得ることができる.本測定において用いたチャージアンプ
Model-4001B-50(昭和測器㈱製)の場合,0.0001~0.1 V/pCの範囲での設定が可能である.
Figure 4-20 Schematic image of piezoelectric strain constant d31.
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Figure 4-21 Photo image of measurement of d31 of piezoelectric rubber for door-end rubber of train car.
4.3.2.4 センサ戸先ゴムの概要
作製した圧電ゴムは,別途実施した検知感度試験および設置の際の施工性を考慮して図 4-21に示すように,戸先ゴム内に設置した.
圧電ゴムは,側扉下端部から80 mmの位置より上方に,土台を介して戸先ゴム内に設置 した.土台に用いた材料は,シール材やクッション材として使用されている発泡体のバッカ ー材である.土台を用いた理由は,電気的,機械的なノイズの対策および戸先ゴム内の突起 の上に正確に圧電ゴムを設置するためである.また,下端部に30 mm,上端部に50 mmあ る中実部は,側扉が閉じた際に,閉じる力によって戸先ゴム内の隙間を埋めないためのもの であり,位置は異なるものの,通常,全ての戸先ゴムにある.
戸先内部の圧電ゴムには,異物を検知した際に発生する信号を伝達する配線が接続され ており,配線は,戸先ゴム上部から取り出される.取り出された配線は,チャージアンプに 入力される.
Figure 4-22 Schematic image of the inside of the sensing door-end rubber.
Piezoelectric Rubber Charge
(Direction 3)
Vibration (Direction 1)
118 4.3.2.5 再開閉指令装置
センサ戸先ゴムから発生し,チャージアンプで増幅された異物検知信号を車体に伝達し,
側扉を再開させるためには,異物検知信号を入力し,車体側へ側扉の再開信号を出力する装 置が必要となる.
そこで,図 4-22に示すような異物検知用戸先センサ制御装置(以下,制御装置とする)
を作製した.作製した制御装置の主な仕様を以下に示す.
・ センサ戸先ゴムからの異物検知信号および車両からの側扉閉め信号を入力する 2 つの 入力端子,側扉への再開信号を出力する1つの出力端子である.
・ 駆け込み乗車等による車両遅延への影響を減らすため,側扉閉め信号を受信してから数 秒間は制御装置が動作しない非検知時間とする.非検知時間は,検知する異物の大きさ に合わせて1.7~3.2 sの間で0.1 s毎に設定できる.
・ 非検知時間後を検知時間とし,検知時間内に規定値以上の電圧が入力された場合に,再 開信号を出力する.検知時間は,0.7~2.2 sの間で0.1s毎に設定できる.
Figure 4-23 Photo image of the Instrument of door control system.
4.3.2.6 異物検知感度の検証試験 (1) 定置試験
センサ戸先ゴムのセンサとしての機能を検証するとともに,圧電ゴムから発生する異物 検知信号と戸閉速度および異物の大きさとの関係を求めるために定置試験を実施した.
試験には,材料試験機 AG-50kN(島津製作所㈱製)を用い,試験機に側扉戸先を模擬し たジグを設置した.試験状況を図4-23に示す.設置したジグの下側に作製したセンサ戸先 ゴムの中央部から150 mmを切断した試験体を取付け,上側に通常の戸先ゴムを取付け,異
Foreign Substance Detection Signal
Input Output
Door Closing Signal
Re-Open Signal
119 物を模擬した直径の異なる金属棒を挟み込んだ.
試験速度と荷重および発生電荷の最大値を図 4-24に示し,異物の直径と荷重および発生 電荷の最大値の関係を図4-25に示す.測定の際,試験速度との関係では,直径12 mmの異 物を使用し,異物の直径との関係では,試験速度を1000 mm/minとした.
異物の直径を同じに下場合の試験速度と荷重および発生電荷の関係では,試験速度によ らず荷重の変化は小さいのに対して,発生電荷は試験速度の増加とともに増加している.こ れは,試験速度が遅い場合は,圧電ゴムから発生した電荷が荷重載荷中の時間とともに放電 してしまうため,最大値として小さくなるものと考えられる.また,荷重および発生電荷の 最大値の関係から,センサ戸先ゴムの圧電ひずみ定数d33またはd31は,約3 pC/Nである.
この値は,圧電ゴム単体の試験結果よりも僅かに低い値である.これは,戸先ゴム内に圧電 ゴムを設置することによって,圧電ゴムが直接異物である金属と接触せずにゴム材を介し て異物と接触するため,接触面積が増加して圧力が低下し,実際に加わる荷重として小さく なるためと考えられる.また,試験速度を一定とした場合の異物の直径と荷重および発生電 荷の関係から,異物の直径の増加に伴って発生電荷が増加している.これは,異物の直径の 増加に伴って圧電ゴムに加わる荷重が増加するためである.
ここで,試験速度を 1000 mm/min に一定とした試験における発生電荷の結果より,制御 装置の異物検知の規定値を8 Vとすると,チャージアンプのレンジを0.1 V/pCとした場合 に約5 mm以上の異物を検知できることがわかった.本試験の段階では,実車の側扉の戸閉 速度が明確ではなかったが,本試験の最大速度である 1000 mm/minよりも遅いとは考え難 いため,制御装置の規定値は8 Vに設定した.
Figure 4-24 Photo image of the bench test for for sensing door-end rubber.
150 mm Usual door-end rubber
Sensing door-end rubber
Foreign substance