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近年、資産流動化スキームを用いた開発案件等が増 加する中で、資産流動化法の利用にあたっての手続が 煩雑である、規制負担が重い等の指摘を受け、投資家 保護に反しない範囲で資産流動化スキームについて一 定の規制の弾力化を主眼に置いた改正が2011年に行わ れた。以下では、改正の内容と、それによって可能に なったスキーム等をまず中心に記載し、その後、改正 法に関して更なる改正すべき点に関して詳述する。

1 改正法の内容

⑴ 資産流動化計画の変更に係る規制の緩和 ア 従来の規制

改正前の規制では、資産流動化計画の変更があっ た場合には、所定の期間内に内閣総理大臣に届け出 なければならない(改正前資産流動化法第9条)、

と記載されており、投資家保護に支障をきたさない 軽微な変更についても、一律に届出が必要と解釈 されていた。

しかしながら、改正前においては、軽微な事項に 係る変更を含め全ての流動化計画の変更について届 出が義務づけられていたため、特に多数回にわたる 変更が不可避となる開発型のスキームでは変更届出

の手間・コストが大きく、全体として資産流動化ス キームの利用の妨げになっていると批判されてい た

イ 改正後の規制

資産流動化スキームの根幹に関らない「軽微な変 更」について、変更届出義務が免除(改正後資産 流動化法第9条但書)された。

また、同様の観点から、特定目的信託における資 産信託流動化計画についても、一定の軽微な変更の 場合には資産信託流動化計画変更時の届出義務を免 除することとしている(改正後資産流動化法第227 条1項但書)9,10

(ⅰ) 変更手続の簡易化

期中において変更の必要性が高い事項については

(かつ、スキームの根幹に関らない事項であって11、 投資者保護の観点から重要性が低い事項、改訂手続 を認める必要性が高い事項。)、あらかじめ資産流動 化計画に定める方法により、簡易な手続による変更 が可能になった(改正後資産流動化法施行規則第13 条~17条、18条7号、20条、21条等)。

⑵ 資産取得に係る規制の見直し

ア 従たる特定資産に係る、譲受契約書等の当局へ の提出義務の免除

(ⅰ) 改正前の規制

改正前資産流動化法4条3項3号、施行規則7条 によれば、業務開始届出時の添付書類として、「特 定資産の譲受に係る予約その他の内閣府令で定める 契約書12の副本又は謄本」の添付が必要とされ、特 定目的会社が業務開始届出時後、確実に特定資産を

6 長崎幸太郎編著/額田雄一郎改訂・「逐条解説資産流動化法・改訂版」・95頁 7 本村彩著・「一問一答・改正資産流動化法」・12頁

8 改正後資産流動化法施行規則26条の2、111条の2

9 本村彩著・「一問一答・改正資産流動化法」・14頁:なお、軽微な変更のみが行われた場合には、①別紙様式10号による資産流動化計画変更届出書(改正後 資産流動化法9条2項)、並びに添付書類である②変更後の資産流動化計画、及び③資産流動化計画の変更が法の規定に基づいて行われたことを証する書 類(法9条3項)を提出する必要はない。もっとも、軽微な変更の行われた後に軽微な変更に該当しない資産流動化計画の変更が行われた場合(「軽微で ない変更」)、または軽微な変更と軽微でない変更が同時に行われた場合には、当該軽微な変更についての内容についても反映された資産流動化計画が当局 に提出されることになる。

10 本村彩著・「一問一答・改正資産流動化法」・14頁:なお、今般の改正において資産流動化計画の変更届出義務を一部免除したのは、スキームの根幹に関ら ない事項であって投資者保護の観点から重要性の低い事項については、当局においてその変更内容を随時に判断する必要性が低いと考えられたためである と解釈されている。なお「軽微な変更」は、規則26条の2 に記載されており、かかる記載は限定列挙であると解釈されている。

11 例えば、特定資産の処分方法や特定資産の管理・処分業務の受託者等の氏名または名称その他営業所所在地等といった「特定資産の管理処分及び処分に関 する事項」(規則19条1号・2号)はスキームの根幹に関わる事項かつ投資者保護の観点から重要性の高い事項であると考えられること、および一般的に その内容がいったん確定すればその後に頻繁な変更が予定される性質のものではないと考えられることから、改定手続の対象とはされていない。

12 施行規則7条では、①特定資産の譲受けに係る契約又はその予約、②開発により特定資産を取得する場合には、当該開発に係る請負契約またはその予約、

③特定資産の譲受けに係る業務の委託契約が規定されていた。

取得できることを担保させていた13

しかしながら、いわゆる従たる特定資産に関して は、流動化業務に与える影響が軽微であることか ら、それ単体について譲受契約書等を当局に提出す ることによって詐欺的証券発行を防止する必要性が 乏しいと考えられてきた。

(ⅱ) 改正後の規制

「不動産その他の特定資産に付随して用いられる 特定資産であって、価値及び使用の方法に照らし投 資者の判断に及ぼす影響が軽微なもの」は、「従た る特定資産」14とされ(改正後資産流動化法4条3 項3号、規則7条1項、8条1項)、業務開始届(改 正後資産流動化法4条2項)を当局に提出する際に 特定資産の譲受契約書等及び管理・処分業務委託契 約書を添付することを免除するとされている(改正 後資産流動化法4条)。

イ 特定資産の価格調査に係る規制の見直し

(ⅰ) 従前の規制

改正前においては、特定目的会社は、資産対応証 券の募集を行うにあたり、第三者である弁護士、公 認会計士、不動産鑑定士等が特定資産の価格につ き、調査した結果を、優先出資や特定社債の引受け の申込者に対して通知しなければならないこととさ れていた。そして、特定資産が不動産である場合に は、不動産鑑定士による鑑定評価を踏まえた第三者 による価格調査の結果の通知が必要とされており、

不動産鑑定士による鑑定評価及び第三者による価格 調査が二重に義務づけられていた。

この点に関しては、第三者による価格調査を義務 付けた趣旨は、資産対応証券の引受けの判断におい て、裏付けとなる資産の価値が適正なものであるこ とを確保することが重要なことであることになる。

しかしながら、不動産の鑑定評価は、国が定める不 動産鑑定評価基準によって不動産の経済価値の算定 過程に一定の客観性が担保されており、その公平

性・適正性が確保されていることに鑑みれば、重ね て第三者による調査結果を義務付ける必要性は乏し いと批判されていた。

(ⅱ) 改正後の規制

特定資産が土地もしくは建物またはこれらに関す る権利もしくは資産である場合には、従前の不動産 鑑定士による鑑定評価を踏まえた第三者価格調査の 結果に代えて不動産鑑定士による鑑定評価の評価額 のみを通知すれば足りることとされた(改正後資産 流動化法40条1項8号、122条1項18号)15

ウ 特定資産の譲渡人による重要事項の告知義務等 の撤廃

(ⅰ) 従前の規制

特定目的会社が特定資産を譲り受けようとする場 合には、その譲受に係る契約書に譲渡人が当該資産 に係る資産対応証券に関する有価証券届出書等に記 載すべき重要な事項を告知する義務を有する旨の記 載が必要とされていた(改正前資産流動化法199 条)。

しかしながら、売買契約書における告知義務の記 載は商慣習上特異であるため、譲渡人の理解を得る ことが容易でないといった批判や、入札等における 定型化された契約書に盛り込むことが困難であると いった批判がなされていた。また、実際の資産流動 化スキームにおいては、アセット・マネージャー等 の専門家の関与は一般的なものとして定着してお り、譲渡人による告知義務を通じた特定目的会社の 調査能力の補完を法的に義務付ける必然性は薄れて いるといった指摘がなされていた16

(ⅱ) 改正後の規制

前記の点を踏まえ、譲渡人の告知義務に関する上 記規制は廃止された。

また、今般の改正によって下記の一連の告知義務 も廃止されている。

13 長崎幸太郎編著/額田雄一郎改訂・「逐条解説資産流動化法・改訂版」・67頁:かかる書類を添付させる趣旨は、特定資産の取得の確実性や特定資産の管理・

処分業務の確実な遂行を確保することにより詐欺的な証券発行を防止することにあったとされている。

14 「従たる特定資産」(改正後資産流動化法施行規則6条の2)とは、①特定資産である不動産等に付随、②特定資産である不動産等と一体として使用、③資 産流動化業務の収益の確保に寄与するものとされている。

15 本村彩著・「一問一答・改正資産流動化法」・192頁 16 本村彩著・「一問一答・改正資産流動化法」・228頁