• 検索結果がありません。

坂井 豊

(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 シニアパートナー 弁護士)

1 我が国の法人が所有する建物棟数のうち、新耐震基準を満たしていない又は未確認のものは33.6%とされている。

2 同法案、概要、新旧対照表等については、国土交通省のウェブサイト上の「国会提出法律案」を参照のこと(http://www.mlit.go.jp/policy/file000003.

html)。

3 衆議院のウェブサイトを参照のこと(http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DB08C6.htm)

て提言をさせて頂く。

1 改正案の内容

⑴ 特例事業者(SPC)による不動産特定共同事業 が可能に

ア 現時点の規制

不動産特定共同事業の許可要件は、現行法では① 資本金1億円以上の法人であること、②宅地建物取 引業の免許を有すること、③事業を的確に遂行する に足りる財産的基礎・人的構成を有することという 要件がある。そして、かかる要件を SPC が充足す ることは困難であることから、事実上、SPC が不 動産特定共同事業の許可を取得することは実務上想 定不可能であり、不動産特定共同事業は相当程度の 規模を有する大手不動産会社のみが運営しているに すぎなかったと言っても過言ではない状況にあっ た。

また、前述のように SPC が事実上、不動産特定 共同事業を行うことが困難であるため、倒産隔離が 図れず、その結果、SPC を用いず事業者自身が不 動産特定共同事業を行う場合、当該事業者が行う他 の事業(不動産特定共同事業以外)の影響を受ける ため、かかる倒産隔離が充分でないことを主とした 理由により十分な資金を得ることが困難であり、そ の結果不動産特定共同事業に対する出資は、コーポ レートローンの色彩の強いものにならざるを得ず、

大規模に不動産特定共同事業を行うことも事実上困 難であった。

イ 改正案の内容

以上のような状況の中、改正案においては、合同 会社のような SPC であっても、一定の要件に適合 する場合、「特例事業者」として届出により、不動 産特定共同事業が可能となる予定である(改正後不 特法2条6項)。

また、不動産特定共同事業のうち、一定の要件

(下記に記載)を満たすものを新たに「特例事業」

と定義し、「特例事業者」から委託を受けて不動産取 引、及び事業契約締結の代理・媒介を行う行為を「不

動産特定共同事業」の範囲に追加する予定である。

かかる改正によって、不動産特定共同事業者が SPC から委託を受けることによって、不動産特定 共同事業を営むことが可能となり、出資者が SPC を介して出資を行うことが可能になり、倒産隔離を 図ることが可能となったため、その点を懸念して投 資をしてこなかった投資家からも資金を調達するこ とが可能になったと評価しうる(別紙1、2のス キーム図を参照)。

なお、特例事業者から不動産取引の委託を受ける 業者を「第三号事業者」といい、特例事業者の TK 出資に係る契約締結の代理・媒介を請け負う業者を

「第四号事業者」という。

以下、下記の改正点について、簡潔に紹介したう えで私見を述べる。

(ⅰ) 「特例事業」の要件についての改正及び提言 まず、特例事業の要件については下記となる予定 である。

a 「不動産特定共同事業」を専業とする法人

(日本に事務所を有しない外国法人を除く)

b 不動産特定共同事業契約に基づく不動産取引 に係る業務を他の一の不動産特定共同事業者

(「第三号事業者」)に委託すること。

c 不動産特定共同事業契約の締結勧誘業務を他 の不動産特定共同事業者(「第四号事業者」)に 委託すること。

d 銀行、信託会社その他不動産に対する投資に 係る専門的知識及び経験を有すると認められる 者として主務省令で定めるもの又は資本金の額 が主務省令で定める金額以上の株式会社(これ らの者を「特例投資家」と総称する。)を相手 方又は事業参加者とすること。

e その他(→主務省令に委任)

まず、a の要件に関しては、SPC が不動産と不動 産特定共同事業者の間に入ることで、倒産隔離とい う観点から、不動産特定共同事業以外の事業リスク を事業参加者が受けないことを担保しようとするも

4 但し、完全親子会社間における TK 出資(100%親会社が TK 出資を受け入れて不動産取引を行う法人の株式・出資の全てを有するケース)は、不動産特 定共同事業契約に該当しない点に留意が必要である。

のといえる。b、c の要件に関しては、倒産隔離ス キームにおける業務の適正な運営を確保するという 観点から、実際の業務の遂行は不動産特定共同事業 遂行のための財産的基礎及び人的構成等の要件を充 たす者として許可を受けた不動産特定共同事業者が 行うことを求めるものといえる。d の要件に関して は、倒産隔離スキームにおける論理必然性の要件で はないようにも見えるが、倒産隔離スキームの一つ の適用場面として不動産の再生案件といったリスク の高い事業が念頭におかれていることに鑑みて、事 業参加者保護という観点から、スキームへの参加者 を、事業内容について十分理解し、適格な投資判断 が可能であるようなプロ投資家に限定する趣旨で設 けられたものと推察される。

a が改正の最大のポイントであると考えられる が、これによって SPC は事業者の倒産から隔離さ れているため、投資家は、倒産隔離されていること を前提に出資するので、SPC(不動産特定共同事業 者)はプロ投資家から資金を調達しやすくなったと 評価しうる。また、不動産証券化で、不動産を受託 する信託会社が見つかりにくいケースとして、(ⅰ)

既存不適格物件、(ⅱ)境界線につき隣地と争いが あるもの、(ⅲ)開発案件、(ⅳ)不動産用途により 敬遠される傾向があるもの(パチンコ・ホール、ガ ソリン・スタンド、老人ホーム、レジャーホテル 等)、(ⅴ)地方老朽施設等があるが、上記のように SPC を利用して、信託化せずに証券化することに よって、上記施設の建替え等の際に資金調達が容易 になるといえ、この点からも不動産証券化促進の見 地から評価しうる。

b の、第三号事業者に係る規制に関して検討する と、「一の」第三号事業者への委託とされているの は、特例事業者が行う不動産取引の全体について同 一の第三号事業者に関与させて責任を持たせる趣旨 であると考えられる。しかしながら、かかる規制を 前提にすると実務上は、特例事業者の不動産取引に 係る業務を複数のアセット・マネージャーが共同し て受託することができなくなると想定する。もっと も、この点に関しては、再委託等によって対応する ことが考えられる。

「不動産取引に係る業務」の内容については、第 三号事業(特例事業者の委託を受けて当該特例事業

者が当事者である不動産特定共同事業契約に基づき 営まれる不動産取引に係る業務を行う行為に係る事 業)(改正後不特法2条4項3号)が第一号事業(不 動産特定共同事業契約を締結して当該不動産特定共 同事業契約に基づき営まれる不動産取引から生ずる 収益又は利益の分配を行う行為)(同項1号)を行 う特例事業者の存在を前提としていることからすれ ば、不動産取引の代理・媒介業務や収益の分配に係 る業務を想定しているものと考えられる。

第三号事業者に対する新たな行為規制として、自 己と特例事業者との間の不動産取引及び自己が業務 を受託する複数の特例事業者相互間の不動産取引の 代理または媒介の原則禁止(改正後不特法26条の 2)、特例事業者から委託された業務の全部の再委 託の禁止(改正後不特法26条の3)、が新設されて いる。

また、上記 c の要件の通り、特例事業者(SPC)

は、不動産特定共同事業契約の締結の勧誘の業務を 第四号事業者に対して委託しなければならないとさ れている。

この点、第四号事業者の許可の要件として、金融 商品取引法の第二種金融商品取引業登録を受けてい ることが必要になる点に留意が必要である(改正後 不特法5条1項6号)。これは、今般の法案の附則 における、金商法の「有価証券」の定義に係る改正 を前提としている。すなわち、現行の金商法2条2 項5号ハにおいて、「有価証券」とみなされる集団 投資スキーム持分の定義から、現行不特法2条3項 に規定する不動産特定共同事業契約に基づく権利が 除外されているところ、倒産隔離スキームにおける

「特例事業者と締結した不動産特定共同事業契約に 基づく権利」については、かかる除外の対象とはな らず、新たに集団的投資スキーム持分の定義に含ま れるとされている(改正法附則6条)。したがって、

かかる金商法の改正案の結果として、倒産隔離ス キームにおいて、第四号事業者が行う不動産特定共 同事業契約に基づく権利の募集等の取り扱いについ ては、金商法の第二種金融商品取引業の規制が適用 されることになり(金融商品取引法28条2項2号、

2条8項9号)、第四号事業者は第二種金融商品取 引業登録(同29条)が必要になると措定されている。

このように、倒産隔離スキームにおける、特例事業