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1 証券化を巡る最近の税制の動向

2007年のサブプライム問題、2008年のリーマン・

ショックを契機とし、証券化を巡る市場環境は大きく 変わった。SPC を利用した不動産ファイナンスに従 来積極姿勢をとってきた金融機関も、この時期を契機 に徐々に慎重なポジションへと変化した結果、2005~

2006年頃に組成された証券化案件のデット部分が弁済 期を迎えるにつれ、当該デット部分のリファイナンス 資金の出し手が見つからないという問題が生じた。こ うした中、証券化ビークルのリファイナンス問題に対 処するため、税制面で様々な措置が講じられることと なった。

45 信託法94条は、受益権の譲渡に関して、指名債権の譲渡の対抗要件に関する民法第467条の規定に準じ、受益権の譲渡は、譲渡人がこれを受託者に通知し、

または受託者がこれを承諾しなければ、受託者その他の第三者に対抗できず(第1項)、かつ、この通知または承諾は、確定日付のある証書によってしな ければ、受託者以外の第三者に対抗することができない。(寺本昌広著・「逐条解説・新しい信託法・補訂版」・268頁)

46 上柳敏郎/大森泰人編著・「逐条解説・貸金業法」・141頁

⑴ 特定債権流動化特定目的会社制度の創設

特定目的会社は、支払配当の損金算入を認めること により、実質的にビークルとしての課税所得が発生し ないようにする、いわゆるペイスルー性が法人に付与 されることによって証券化導管としての役割を果たす ことに大きな特徴がある。この支払配当の損金算入

(以下「導管性要件」という。)に関しては、一定の要 件を充足することが求められており、その一つとし て、同族会社に該当する特定目的会社(特定目的会社 の出資者の三人以下及びこれらと特殊の関係にある個 人・法人が出資の総数の50%超を有する場合、または、

三人以下の出資者で優先出資社員である者及びこれら と特殊の関係にある個人・法人が組織再編、役員選解 任、役員報酬、剰余金の配当のいずれかの決議につき、

議決権の50%超を有する場合が該当。)に該当する場 合には、特定社債を発行する必要があり、かつ、その 特定社債は金商法の開示規制上の募集の形態のうち、

50名以上への取得勧誘(発行総額一億円以上)を行う こととするか、又は特定社債を機関投資家のみが保有 することが見込まれていなければならないとされる

(租税特別措置法第67条の14第1項2号ニ)。私募形態 の不動産証券化スキームでは後者の方法により導管性 要件を充足することが指向されるので、特定社債の保 有者は銀行等のように税法上の「機関投資家」に該当 する者に限定されることとなる。

特定社債の弁済期限までにリファイナンス資金を

「機関投資家」に該当する資金の出し手から得ること が出来ない場合、現存の特定社債は債務不履行となる が、そのような特定社債を保有者が損失確定のために 譲渡しようとしても、譲渡先が税法上の「機関投資家」

に該当しない者である場合、特定目的会社の導管性要 件を阻害してしまうため、そのような譲渡は困難であ る。

このため、債務不履行に陥った特定目的会社の特定 社債を当初からの保有者である銀行等が塩漬け的に保 有し続けざるを得ず、こうした案件のリストラクチャ リングが進まない他、銀行経理上も、当該特定社債に ついて有税償却が求められるなど様々な弊害が生じる 可能性があった。

こうした問題に対処するため、特定債権流動化特定 目的会社制度が平成21年度の税制改正で導入された。

即ち、不動産ないし不動産信託受益権を特定資産とし

て保有する特定目的会社の発行・調達する特定社債又 は特定借入れ、及び不動産投資 GK-TK スキームの営 業者が調達するローンを特定資産として保有する特定 目的会社については、特定目的会社制度との関係上

「機関投資家」とみなすものとされた。これにより、

税法上の「機関投資家」に該当しないファンド等の業 者が元利払いの滞った特定目的会社に対してデット投 資を行うにあたって、新たな特定目的会社を中間に一 個介在させて、特定社債を譲受け、ないし、特定借入 れによるファイナンスの提供を行う場合でも、元利払 いの滞った特定目的会社の導管性を阻害することがな くなり、銀行等の当初のデット投資家の早期の損失処 理、スキームのリストラクチャリングの促進が可能と なった。

⑵ その他の規制緩和

特定目的会社における特定社債保有者に関する規制 も緩和されている。従来、特定社債に関しては、ペイ スルー型をその特徴とする特定目的会社制度を用い て、外国投資家が日本に源泉のある所得を無税のまま 海外に移転させることにより、日本側の課税ベースが 浸食される可能性があるという懸念から、特定社債及 び優先出資について、その50%超が国内において募集 されることを資産流動化計画に記載すること(「国内 募集要件」)が定められていた(旧租税特別措置法第 67条の14第1項1号ハ、及び同施行令39条の32の2第 3項)。外国の投資資金を我が国に積極的に呼び込む 観点から、平成22年度税制改正において、特定社債に ついて国内募集要件を廃止することとした(その一方 で、基準特定出資(特定出資のうち、利益の配当、残 余財産の分配に関する権利を予め放棄する旨が流動化 計画に記載されているものに該当しないもの)につい て、新たに国内募集要件が課されることとなった点に 留意されたい。)。

また、税法上の機関投資家の範囲として従来、海外 の年金基金は一切対象となっていなかったが、昨年、

金融商品取引法の関係府令が改正され、海外の厚生年 金基金・企業年金基金に類する者で一定の要件を満た す者については内閣総理大臣への届出により適格機関 投資家への移行が可能となった(金融商品取引法第2 条に規定する定義に関する内閣府令第10条第27号)こ とを受け、税法上も、海外の年金基金のうち、適格機

関投資家としての届出を行った者について、「機関投 資家」として認めることとされた。改正後は、特定目 的会社を利用した私募案件において、そのような海外 の年金基金を特定社債保有者とするスキームや、優先 出資者に海外の年金基金が加わるようなスキームも検 討可能となり、ストラクチャー組成にあたって、海外 の資金の呼び込みを促進する改正と評価出来る。

2 証券化ストラクチャーを巡る今後の課題

特定目的会社税制については、上記の通り、ここ数 年に行われた規制の見直しの結果、より使い勝手のよ いものへと近づいているものと評価しているが、その 一方で解決すべき課題もある。解決すべき課題の第一 は、会計と税の不一致がもたらす課税リスクと考える。

従前、導管性要件の一つに支払配当要件があり、「税 務上の所得(支払配当損金算入前)の90%超の利益配 当を行うこと」とされていたところ、利益配当は会計 上の税引後利益の額が限度であり、一方で税務所得=

税引前利益+税会不一致(税務上損金として認められ ない費用等の額)であることから、両社の差により、

税務所得の90%超の利益配当の要件を満たせない場 合、普通法人と同様の課税が行われることになる。ま た、後日税務調査が行われ、税務所得が増加した結果、

判定式割合が90%以下となって導管性要件を満たせず に、遡って通常課税されるリスクも考えられた。特に 上場の投資法人についてそのような課税が行われた場 合、ストラクチャーの安定性に関する一般投資家の信 頼を大きく損ねることも懸念されていた。

特定目的会社・投資法人の導管性要件の一つとして 90%配当要件が設けられた趣旨は、導管性が認められ た法人には配当の留保を認めない点にあると考えられ る。利益の全部を配当しても要件を満たせないようで は趣旨にそぐわないことから、平成21年度税制改正で は、従来の税務所得を参照する方式を廃止し、新たに

「配当可能利益の額の90%超の利益の配当を行うこと」

が導管性要件の一つとして設けられることとなった。

配当可能利益は決算により確定し、税務所得のように 後々の税務調査で金額が変動するリスクはないため、

制度の安定性に寄与するものとして評価出来る。しか しながら、特定資産に減損損失を会計上認識しなけれ ばならない場合や、保有不動産の賃借人に対する賃料 債権について会計上貸倒引当金の引当が求められる場

合などは、この部分について税務上は加算調整の対象 とせざるを得ず、税会不一致が生じた場合に法人税の 納付義務が生じてしまうという問題は依然として残る ことになる。

特定目的会社税制が現在採用している方式は米国の RIC、REIT をモデルとしたいわゆるペイスルー方式 であるが、欧州のように一定の要件を満たす投資用 ビークルについて免税を認めるという、ミューチュア ル・ファンド等により近い制度へ向けた、思い切った 制度の見直しを検討する必要があろう。

次に、利子を巡る源泉課税の問題について触れた い。これは特定目的会社税制に限った問題ではなく、

我が国の社債全般に共通する問題であるが、社債に関 して原則として源泉課税がなされるために、これが社 債のセカンダリー市場の発達の大きな障害となってい る点について述べたい。

現在、社債の利子に関しては、利子を支払う者は支 払の際に、所得税15%、地方税5%の源泉徴収を行う ことが義務付けられている(所得税法第174条第1号、

第181条及び第212条。地方税法第71条の5第2項)。

その一方で、内国法人のうち銀行、保険会社、信託会 社、第一種金融商品取引業者、資本金一億円以上の内 国法人のうち振替機関等の営業所の長の確認を受けた 者等が振替社債の利子の支払を受ける者である場合 は、源泉税免除の特例が設けられている(租税特別措 置法第8条第1項から第3項。以下、同条に基づき源 泉非課税の適用を受けられる者を「金融機関等」とす る)。

この他、外国法人及び外国の年金信託が振替社債の 利子の支払を受ける場合についても、現時点において は源泉税免除との措置がなされている(租税特別措置 法第5条の3第1項及び5項。以下、同条に基づき源 泉非課税の適用を受けられる者を「外国法人等」とす る。なお、この源泉非課税の制度は時限適用とされ、

平成25年3月31日までに発行された特定振替社債等に 限って適用があるものとされる。)。

外国法人及び外国年金信託に関する特定振替社債等 の源泉非課税措置は、外国の投資資金を日本に呼び込 むとの観点から、それぞれ平成22年度、23年度の税制 改正で導入されたものである。

ここで、特定振替社債等の保有者が利子計算期間の 中途で当該特定振替社債等を売却した場合における源