• 検索結果がありません。

格付会社は、米国では100年以上、日本では27年余 りの歴史を経てきているが、その大半の期間につき、

非規制業種であった。ところが、米国では2006年の法 改正に基づき、2007年9月より、日本では2009年の法 改正により、2010年9月より、欧州連合では2009年の 法改正により2010年ないし2011年より、主要な格付会 社が証券監督当局などの監督下に置かれ、規制業種と なった。

なお、日米欧の何れでも、導入された格付会社規制

は、「登録できる制」であり、登録を受けない形で格 付会社が事業を営むことも一応は可能である。その場 合(無登録の格付会社の場合)、欧州連合では規制目 的の格付け利用が認められず、日本では金融商品取引 業が勧誘に格付けを利用する場合に一定の説明義務を 課 さ れ、 米 国 で は NRSRO( 後 述 ) を 名 乗 れ な い

(NRSRO を名乗れない格付会社の格付けは、利用範 囲が限定される)ことになる。

⑴ 米国の格付会社に対する規制

米国では、エンロン倒産の翌年、2002年10月に上院 の委員会がエンロンの倒産に関し格付会社の問題を指 摘した。これを受け、翌2003年から SEC が格付会社 制度に関する検討を開始し、2006年の NRSRO 登録制 への移行を含む信用格付機関改革法の成立へと進展、

2007年9月24日から主要な NRSRO は SEC の監督下 に置かれた。

ところで、NRSRO(nationally recognized statistical rating organizations)(直訳すれば、さしずめ、「全 国的に認知された統計的格付機構」であろうか)とは、

1975年に SEC が導入したもので、登録制に移行する までの間は、申し出のあった格付会社を対象に、一定

13 Securities and Exchange Board of India, Circular, Standardisation of Rating Symbols and Definitions, June 15, 2011

14 United States Securities and Exchange Commission, Report to Congress, Credit Rating Standardization Study, As Required by Section 939 (h) of the Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act, September 7, 2012

図表2 米 SEC 登録を受けた NRSRO の概況

名称(略称) アナリスト数 事業会社格付数 金融機関格付数 ABS 格付数

A. M. Best 77 2,043 NR 54

DBRS 75 3,863 14,941 10,091

EJR 2 877 89 13

Fitch 712 13,385 61,550 64,535

JCR 27 495 159 NR

KBRA 9 1,002 16,515 0

Moody’s 1,088 30.285 61,581 101,546

Mornigstar 17 NR NR 8,322

R&I 74 2,836 503 NR

S&P 1,109 44,500 54,000 117,900

注: 在籍アナリスト数、格付け件数等は、2010年12月末現在の情報として米 SEC に報告されたもの。件数は、

社数と銘柄数が混在していると推測されるため、比較はできない。R&Iは2011年に登録を取り下げている。

正式社名は長いため本表では省略し、出所の SEC 報告書で用いられている略称を掲載した。

出所: U. S. Securities and Exchange Commission, Annual Report on Nationally Recognized Statistical Rating Organizations, March 2012

の審査を経て、自らを NRSRO と称しても差し支えな い旨のノー・アクション・レターによる「指定制」(あ るいは「指名制」)によって運用されていた。この NRSRO 制度については、1990年代半ば以降、様々な 議論がなされたが、ノー・アクション・レターによる

「指定制」は2006年の信用格付機関改革法までの間、

見直されることはなかった。日本では1992年に大蔵大 臣が期間を定めて指定する「指定格付機関」制度が導 入された(2010年末に廃止された)が、これは、かつ ての米国の NRSRO 制度に倣ったものと思われる。

なお、2007年に米国の NRSRO が登録制に移行した 後も、複数次にわたる法令の改正により、規制内容・

範囲が変化してきている。近い将来、米国における格 付会社規制に関する制度が更に見直される可能性があ る。

本拠地・本店が米国外に所在する NRSRO は、カナ ダの DBRS Inc. と日本の株式会社日本格付研究所

(JCR)の2社・グループのみである。なお、日本の 株式会社格付投資情報センター(R & I)は、2011 年10月に NRSRO 登録の取り下げを申請し、同年12月 には登録が抹消された。

⑵ 日本の格付会社規制

金融戦略チーム(金融担当大臣の私的諮問機関)は、

2007年11月に発表した報告書で、米国のサブプライム ローン関連商品に対する格付けの問題を指摘した。翌 2008年7月には、渡辺喜美金融担当大臣が記者会見に て「格付会社について、サブプライムローン問題に見 られる市場動向(中略)欧米当局の動向を見据えつつ、

登録制度を含め国際的に整合的な公的規制の枠組みの 検討を事務方に指示したところ」と述べ、金融庁にお いて格付会社規制に向けての検討が開始されたことを 明らかにした。同年(2008年)の金融審議会の報告を 受け、2009年には金商法改正法案が国会に提出され成 立、2010年4月に信用格付業者登録制がスタート15した。

格付会社規制の導入について審議された2008年10月 から12月に掛けての金融審議会金融分科会第一部会の 議事要旨・配布資料を見れば明らかだが、ここで指摘

され、議論された格付けを巡る問題の多くは米国で発 生した問題であった。たとえば、サブプライムローン 関連証券化商品の格付けプロセスや、米 SEC の米国 における主要格付会社への立ち入り検査を踏まえた報 告書などが議論の対象16になっている。こうしたこと から、日本において格付会社規制が金商法に基づく登 録制の形で導入されるに至った主な理由は「サブプラ イム問題」に置かれていたものと総括できるのではな いかと筆者は考えている。

ところで、前小段の米 SEC に NRSRO として登録 を受けた格付会社と、日本の金融庁に登録を受けてい る信用格付業者の概況を比較してみたい。たとえば、

米 SEC によれば、2010年12月末時点での Moody’s に 在籍するアナリストは1,088名であった。一方で、日 本の金商法に基づく信用格付業者の開示資料による と、時点が1年ずれてはいるが、2011年12月末時点で ムーディーズ・ジャパンは45名、ムーディーズ SF ジャパンは12名のアナリストを擁していた。仮に、

ムーディーズ・グループに属する2社の在日現地法 人・信用格付業者間に在籍アナリストの重複がないと して、ムーディーズ・グループは、日本に57名のアナ リストを置いていたことになる。ムーディーズ・グ ループにおける、所属アナリストの人員数では、在日 現地法人は、グループ全体の約5%ないし6%を占め ていることになろう。

ムーディーズの究極的な親会社である Moody’s Corporation(親会社)は、株式をニューヨーク証券 取引所に上場しており、株主向けの各種情報開示を行 なっている。親会社の開示情報によると、同グループ の連結ベースでの2010年の売上高は20.3億米ドル、

2011年のそれは22.8億米ドルであった。地域別内訳と しては、2011年の売上高22.8億ドルのうち、米国内が 11.7億ドル、米国外が11.0億ドル、米国外売上のうち EMEA(欧州、中東、アフリカ)が708百万ドル、そ の他(つまり、アジア、オセアニア、中南米等)が 395百 万 ド ル で あ っ た こ と を 開 示 し て い る。 ム ー ディーズ・ジャパンおよびムーディーズ SF ジャパン の開示資料から、日本における2011年の格付事業に伴

15 実際に登録を受ける事例が出現し始めたのは2010年9月30日。

16 たとえば、金融審議会金融第一部会第53回会合(2008年10月15日)における議事要旨から、「サブプライムローンの格付プロセスにおいて利益相反が本当 にあったのか」、「トリプルAであった会社(AIG)が救済を受けたことを見れば、格付会社が将来の見方を間違えたことは明らか」といった、米国の証券 化商品や米国の金融機関の格付けに関する発言があったことが伺える。また、同会合に事務局(金融庁)から提出された配布資料では、米 SEC による米 格付会社主要3社に対する立入検査の結果を公表した報告書を紹介している等、米国において生じた問題が紹介されている。

う売上は約22億円であったことが読み取れる。為替 レートにもよるが、22億円は、3億ドル弱に相当する。

売上規模でムーディーズ・グループにおける日本の地 域シェアは1%台(22.8億ドル中の約22億円)であっ たと推定される。

ムーディーズが米国外に進出を開始したのは1985年 であり、同グループが初めて米国外に事務所を設置し た都市が東京17であった。ムーディーズは、ロンドン に1986年、シドニーに1988年、パリに1988年、香港に 1994年、シンガポールに1995年にそれぞれ拠点を設置 してきている。ムーディーズによる初の海外(米国外)

拠点となる東京をベースに事業を行なう格付会社の売 上高が、連結ベースでのグループ売上高の1%台、在 籍アナリスト数ベースで5%ないし6%程度である。

早い時期から日本進出に力を入れていたムーディー ズ・グループにとってすら、最近まで世界第二の経済 大国だった日本の位置づけは、この程度のものだ。

ムーディーズ以外の外資系格付会社については、究極 的な親会社が必ずしも格付け専業ではないため、公開 情報をベースとした同様の比較は困難であるが、状況 は大差ないもの(日本における売上高は、全世界での 売上高の2%以下程度)と推測される。また、在籍ア ナリスト数や売上高といった、信用格付業者の開示情

報を見る限り、日本における格付会社の経営実態は、

外資系格付会社の在日現地法人・日系格付会社共に、

中小企業と呼べる規模であると言えよう。このよう に、信用格付業者登録制は、中小企業しか存在しない 業界に、金融商品取引法に基づく規制が導入されたも のである。

なお、信用格付業者登録制は、法人ベースでの登録 制であるため、日本の金融庁の監督権限は、信用格付 業者の海外の親会社やグループ会社には及ばない。信 用格付業者の海外の親会社やグループ会社が付与した 格付け(たとえば、日本国債の格付け)は、日本の規 制上は、原則として、「無登録格付」として扱われる18 ことになる。

日本証券業協会は、2010年7月に「格付の利用のあ り方に関するワーキング・グループ」を設置した。研 究者を主査および副主査とし、国内の主要な証券会 社、社債の発行体、銀行、格付会社等の役職員を委員 とするメンバー構成によるワーキング・グループは、

同年10月から翌年6月に掛けて集中的な審議を行なっ た。その成果は2011年6月に『格付の利用のあり方に 関するワーキング・グループ 中間報告書』として公 表されている(【参考文献】日証協[2011])。日本国 内における格付けの利用者─機関投資家、証券会社の 図表3 日本の金融庁に信用格付業登録を受けた業者

名    称 登録年月日 アナリスト数 売上高(年商) うち格付売上高

株式会社日本格付研究所 平成22年9月30日 57名 17.9億円 15.1億円

ムーディーズ・ジャパン株式会社 平成22年9月30日 45名 21.5億円 21.0億円

ムーディーズ SF ジャパン株式会社 平成22年9月30日 12名 0.76億円 0.76億円

スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株

式会社 平成22年9月30日 41名 23.9億円 18.1億円

株式会社格付投資情報センター 平成22年9月30日 78名 37.7億円 22.1億円

フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社 平成22年12月17日 7名 5.1億円 5.1億円

日本スタンダード&プアーズ株式会社 平成24年1月31日 N/A N/A N/A

注: アナリスト数および売上高は、各社が公表している「金融商品取引法第66条の39に基づく説明書類」の最新版に拠る(2011年12月末または2012年3月末に 終了する年度)

出所:信用格付業者各社、金融庁

17 たとえば、【参考文献】Sinclair[2005]p.28を参照。

18 信用格付業者(格付会社の在日現地法人)が、「当該信用格付(海外の親会社等が付与した格付け)の付与について決裁し、または格付委員会の議決を行 なう」と、登録格付として扱えるとされている(信用格付業者監督指針Ⅲ−2−2)が、実例は極めて少数である。米国系格付会社による日本国債の格付 けは、何れも、無登録格付となっている。また、日本企業に対する格付けが無登録格付となっている事例(たとえば、ムーディーズによる野村ホールディ ングスおよび野村證券の格付け)もある。