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投資信託及び投資法人に関する法律(以下、「投信 法」という。)は、現在見直しが検討されている。

方向性としては、金融審議会(平成24年1月27日)

での大臣諮問を受けて、同審議会の「投資信託・投資 法人制の見直しに関するワーキンググループ」におい て、①投資信託法制に関しては、国際的な規制の動向 や経済社会情勢の変化に応じた規制の柔軟化や一般投 資家を念頭に置いた適切な商品供給の確保等について 検討されており、②投資法人法制に関しては、資金調 達手段の多様化を含めた財務基盤の安定性の向上や投 資家からより信頼されるための運営や取引の透明性の 確保等について検討がなされている。平成24年7月3 日には、同ワーキンググループから中間論点整理28が 公表された。以下では、議論の対象となっている点の うち、重要と思われる点について解説し、見解を簡潔 に述べる。

1 受益者書面決議制度に関する問題

⑴ 現状と課題

投信法17条、投信法施行規則29条で、書面決議を要 する約款の「重大な内容の変更」として、「商品とし ての同一性を失わせる」29ことが規定されている。当 該規定については、実務上、形式的な変更ではない限 り商品としての同一性が失われるものと慎重に解釈さ れ、書面決議を要する範囲が広く捉えられており、こ れにより投資信託の運営の機動性が害されている。ま た当初から運用方針等について幅広な記載をしておく ことで後の約款変更を回避する傾向があるとされてい ると指摘されている。

⑵ 私見

この点については、「重大な内容の変更」に該当す るか否かの基準を、「商品としての基本的な性格の変 更」とした上で、受益者保護に配慮しつつ、その具体 的な内容を事務的に検討すべきである。

また、信託報酬の引下げ等の受益者の利益に資する 変更は、受益者に不利益がないことから、事務手続の 簡便化の見地から、「商品としての基本的な性格」に変 更があっても書面決議を不要とすることが適当である。

更にいうと、上記の「商品としての基本的性格」に 変更がないか判断する際、何を考慮要素とすべきかと いう点については、基本的には受益者がいかなる商品 を購入し、その商品自体に変化があった場合に、受益 者の保護をはかる必要があるか、すなわち受益者の意 見を聴く必要がある根本的な事項であるかといった視 点で検討していくことが考えられ、典型的には、委託 者、受託者、投資方針、分配方針・頻度、報酬体系、

基本的スキーム等が考慮されるべき要素となるものと 考えられる。

また、別の観点から意見を申し上げると、投信法29 条によって、書面決議が不要な場合でも、受益者には 売却機会の確保を図るため、約款変更について事前の 通知をすることが望ましい。

27 パブコメ回答36~44番参照

28 http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/toushi/siryou/20120703/03.pdf 29 野村アセットマネジメント株式会社編著・「投資信託の法務と実務」・447頁

2 書面決議を要する併合手続の見直し

⑴ 現状と課題

投信法16条によれば、投資信託間の併合に当たって は常に双方の投資信託において書面決議を要すること とされている。

しかしながら、かかる書面決議の煩雑さが、非効率 な小規模投資信託を存続させ、ひいては経費率の上昇 を通じて受益者の利益を害しているおそれがあると指 摘されている。

⑵ 私見

上記問題点を受けて、主に小規模の投資信託の併合 を促進する観点から、前記⑴同様、併合の前後で「商 品としての基本的な性格」に変更がない投資信託につ いては書面決議を不要とすることとし、「書面決議を 要する約款変更範囲の見直し」と同様に、受益者に不 利益が生じないよう、併合の場合の考慮要素を要件化 して受益者の不利益を防止するのが望ましい。

併合時に投資信託の「商品としての基本的性格」に 変更がないか否かを判断する際の考慮要素は、併合と いう性質上、必然的に⑴の書面決議の場合よりも広く なると考えられる。その際には、例えば、合併先の投 資信託の委託者、受託者、投資方針、分配方針・頻度、

報酬体系、基本的スキーム等の規定上のものだけでは なく、運用の実績や現状のステータスに関しても、受 益者は広く利害関係を有するであろうから、これらの 点も考慮要素の一つにすべきと考えられる。

併合後の投資信託の信託報酬は、併合前の双方の投 資信託の信託報酬よりも下回ることを要件とすべきか という点に関しては、前記のような小規模の投資信託 の場合は、そのような要請が高いものと推測される が、逆に大型かつ運用実績の良好な投資信託同士の併 合も理論上は否定できないから、かかる場合にまで信 託報酬を下げる必要性は乏しいと考えられる。した がって、一律に決めることはできず、この点は規定し ない方が望ましい。

更に、併合に関する諸手続のコスト(書面決議手続 費用等)は誰が負担するか(委託者か投資信託財産か)

という点に関しても、併合の時の状況に応じて柔軟に 対応できるように、規定しないか、または規定するが

当事者の別段の定めがある場合は除く等の任意規定で あるということを前提にした規定を設けるべきと考え られる。

3 受益者数要件の撤廃

⑴ 現状と課題・検討の方向性

投信法第17条第8項によれば、書面決議において は、信託法の規定30を踏まえ、議決権を行使すること ができる受益者の半数以上であって(受益者数要件)、

当該受益者の議決権の3分の2以上の賛成を要するこ とと規定されている。

しかしながら、事業支配性の性格の薄い投資信託に おいて受益者数要件は必ずしも要しないと考えられる。

⑵ 私見

書面決議については、みなし賛成制度(投信法17条)

が容認される等、既に一定程度決議要件が緩和されて いる。

そもそも、書面決議は、受益者にとって重要な事項 に関して、慎重かつ適切に受益者の意見を反映させる ために、要求されているものと解釈されるが、前述の ように事業支配性が薄いことに照らせば、緩和の方向 性を検討すべきであるが、具体的には、現在書面決議 事項とされているものの中でも重要性の低いもの、及 び決議の迅速性を図る必要性の高いものに関しては緩 和し、それ以外は書面決議の決議要件を変更しないの が、バランス上妥当ではないかと考える。

4 反対受益者の受益権買取請求制度の見直し

⑴ 現状と課題

投信法第18条1項によれば、現在、書面決議に反対 した受益者は、受託者に対し自己の受益権を公正な価 格で買い取ることを請求できると規定されている。

しかしながら、基準価額が毎日算出され、当該価格 による償還が随時可能なオープンエンド型投資信託に おいて、当該制度が必要か再検証の必要があるとの指 摘がある。

⑵ 私見

この点に関しては、18条1項で公正な価格での買取

30 信託法113条等

を請求できるが、その場合の金額と、オープンエンド 型投資信託31で随時償還した場合の金額の差異に着目 して検討すべきと考える。

具体的には、随時償還した場合の金額よりも、18条 1項で買取を請求した場合の金額が大幅に上回る場合 には、この場合に随時償還を認めないのは受益者に とっての不利益が大きいから、この場合は随時償還が できることによって18条1項の適用を否定する理由に 乏しいため、規定を存続させるべきであるが、それ以 外の場合には撤廃しても受益者保護の見地からは問題 は少ないものと考えられる。

なお、実務上、買取請求をする場合の方が、随時償 還をする場合に比べて、事務手続等の負担が重いが、

この点はまた別の問題として整備していく必要がある。

5 同一投資信託における複数の報酬体系等の容認

⑴ 現状と課題

投信法6条によれば、投資信託の受益権は均等に分 割されていなければならず、運用方針だけではなく信 託報酬体系等も受益権間で同一である必要がある。

その結果、例えば、同一の運用方針の下で信託報酬 体系だけが異なる商品を組成する場合であっても複数 の投資信託を組成する必要があり、組成分及び運用分 のコストが別にかかるため効率的ではない。

⑵ 検討の方向性

同一投信信託において、「均等」ではない受益権の 設定を認めることとし、受益者保護及び利益相反防止 の観点から差異を認めたとしても問題が少ないと考え られる要素とは何であるかを検討し、重要な事項に関 しては均等性を要求し、重要でない事項に関しては均 等性を要求しないことを例外的に認めるべきである。

例えば、信託報酬体系、為替ヘッジの有無、分配頻 度については受益者によって差異を認めることが考え られるが、運用方針や分配方針の差異については受益 者が商品選択の際に重視することであると一般的に評 価しうることから、現状を維持するか、または「その

差異が投資者保護の見地から重要でない場合」等一律 に禁止するのではなく、運用方針や分配方針に関して も一般的に禁止するのではなく、不利益性を考慮して 一部禁止することが、投資信託の運用の効率性の確 保、新たな魅力的な商品の開発に伴う投資信託市場の 活性化の見地からは望ましい。

6 外部委託に関する規制の明確化

⑴ 現状と課題

投信法12条、21条に投資信託委託会社の運用指図権 限の外部委託における、委託先の範囲等に係る規定が ある。

他方、運用指図以外の業務(例えば、信託財産に関 する帳簿書類・報告書の作成、基準価額の計算等32) については明文の規定がない。

なお、投資信託委託会社は金商業者であり、現行法 上も、投資信託の運用指図以外の事務については、当 然、①外部委託元である運用業者は外部委託先に対する 監督責任を負うとともに、②当該外部委託先の過失によ り発生した損害についても、受益者に対しては一義的に 運用会社が賠償責任を負っていると解されている。

また、この場合には、金商法42条の3、金商法施行 令16条の12、金商業等府令130条1項10号等の規制も かかるがここでは検討しない。

⑵ 私見

投信法12条で規定された業務以外の委託が投信法 上、可能であるかどうかについて不明確であるとの指 摘がある。確かに、規定されていない以上、法的な規 制はなく当然に認められるとの解釈も可能ではある が、明確性を期し、業務の法的な根拠を明確にするこ とによって業務を適正に行うことを可能にすべく、こ の点について法定化すべきである。

この点、一般に、外部委託は業務の効率化の見地か ら行われるものであるが、脚注32に記載の通り、委託 会社の業務のうち、(ⅰ)契約の根幹をなすもの(例 えば、契約の締結、目論見書の作成)と(ⅱ)付随的

31 野村アセットマネジメント株式会社編著・「投資信託の法務と実務・第4版」・117頁:ファンドの発行する証券(信託契約型では受益証券、会社型では投 資証券)をファンド(信託契約では信託財産、会社型では会社の財産)自体が、純資産価額で解約または買戻しに応じるファンドである。すなわち、信託 契約型投資信託では信託契約の「一部解約」を、会社型投資信託では「減資」を常時行うファンドである。

32 野村アセットマネジメント株式会社編著・「投資信託の法務と実務・第4版」・68頁:他に、投資信託委託会社の業務としては、①信託約款の作成と監督当 局へ届出、②信託契約の締結、③受益証券の発行、④収益分配金・償還金の支払い、⑤目論見書の作成、⑥運用報告書の作成と交付、⑦信託財産の組入有 価証券の議決権等の指図行使等がある。