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以上、これまでの我が国の証券化市場を概観してき た。いろいろと述べてきたが、住宅金融支援機構の証 券化支援業務によるものを除けば、結局のところ、サ ブプライム・ショック以降の証券化市場の低迷は、確 かに、サブプライム・ショックはきっかけにはなった が、それ以前の問題として、オリジネーター・サイド のニーズが減っていることがその主な原因であると考 える。オリジネーターが証券化を利用しようとする きっかけとして、①財務対策については、企業業績の 回復や会計制度の変更等により、ニーズが激減し、② 資金調達についても、昨今の金余りの状況下、主要な オリジネーター候補と目されるところが証券化を大き く活用せずとも十分に調達できている。③ OTD モデ ルによるものについては、国内ではもともと組成が困 難であり、リスクが濃い分野については、CMBS に 代表されるようにアレンジャーも撤退し、また、市場 の信頼も失ったまま、という状況である。そして、サ ブプライム・ショック後の規制強化等が拍車を掛けて いる構造である。とは言っても、オリジネーター、投 資家ともに全くニーズがなくなるわけではなく、むし ろ、本当に理解している関係者の中で、粛々と続いて いるというのが現状ではなかろうか。そして、それで、

今のところは我が国の金融システムは一応回っている わけである。

では、今後の我が国の金融市場・金融システムを考 えても、そういった状況でいいのであろうか。以下、

その点について述べたい。

⑴ 我が国の金融システムの状況と今後の課題 周知のとおり、国内の民間セクターの資金需要の低 迷と、あまりリスクを大きく取りたがらない国民性も あり、余剰資金は預金や保険から国債を中心とした公 共セクター(および海外)に流れている状況である。

これを金融機関の立場から見ると、預金は集まるが公 共債以外に運用先が乏しく、「金余り」の状況にある ということになる。しかし、我が国全体からいうと、

マッチングしているわけであり、決して「金余り」と いうことではない。むしろ、国債の海外保有比率は上 昇傾向にあり、徐々に「お金が足りなく」なっている 状況とも言える。また、周知のような国の財政状況で ある。そして今後は?というと、少子高齢化の中で、

預金は徐々に減っていくことが予想され、激減を予想 するレポートすらある。一方で、社会保障費の増大や インフラ更新需要が高水準で続く見込みであることな どを考慮すれば、そう簡単に公共セクターの資金不足 が減るとは思えない状況である。確かに経常収支は今 のところ黒字を確保しているという意味では「金余 り」ではあるが、今後の状況は予断を許さず、また、

後述のとおり、海外への投資ということを考えるので あれば、少なくとも「余っている」という状況ではな いであろう(法人セクターの資金余剰が、国内に投資 先が足元ないというのはわからないではないが、海外 にもないという状況は困る。)。従って、預金の減少の スピードとともに国内の民間セクターの資金需要も 減ってくればいいのだが、それでは経済成長は見込め ない。今後の経済成長は、人口減が予想される中では あるが、それであるからこその内需拡大と海外需要の 取り込みの両方が必要になる。とすると、対内投資の ための資金だけでなく、外貨の調達も必要になり、ま すます、「お金のない(必要な)」国になっていく。国 内での資金需要が出てくれば、国内の金融機関は公共 債を売却して、その需要に応えることになるであろ う。しかし、それは、公共債の海外保有比率をさらに 上昇させることになる。足元の財政状況が大きく変わ らないと予想され、かつ、経常黒字が維持できるかど うかといった議論がある中で、過度に公共債の海外保 有比率を上昇させるのは危険であることは言うまでも ない。また、金融機関が公共債の代わりに民間向けの エクスポージャーを保有するということは、規制自己 資本比率の低下にも繋がる。つまり、国内の資金需要 が出てきたとしても、金融機関に、あまり、公共債を 売ってもらっても、それはそれで困るのである。そう すると、金融機関も事業会社セクターも資金調達につ いて一層の自助努力が必要ということになってくる。

また、古くて新しい議論であるが、そういった経済

成長を考えるに当たって、我が国ではリスクマネーの 供給が不足しているということが言われている。「リ スクマネー」の意味自体が実は曖昧に使われているこ とが多いが、大きくデット性のものとエクイティ性の ものに分け、デット性のものに焦点を絞ると、信用力 の高くないゾーン(含む、信用力が「わかりにくい」

ゾーン。また、同じ「信用力の高くないゾーン」と言っ ても、そういった「ボロワー」という場合と、そういっ た「クラス(メザニンなど)」という場合がある。)と、

期間の長いゾーンということになるのではないだろう か。こういった問題が未だ解決されていない中で、我 が国は、上述のように、「お金のない国」になって行 く可能性があることを念頭において、今後の金融機能 を考える必要がある。

⑵ 「お金のない国」におけるリスクマネーの供給と 我が国の金融システム

「お金のない国」におけるリスクマネー供給の仕組 みは、やはり、(OTD モデル云々以前の問題として の)米国が参考になるのではないだろうか。米国にお けるリスクマネーの供給に触れられる場合、シリコン バレーの話や様々なファンドやエンジェルの存在に言 及されることが多いが、デットの世界で忘れてはなら ないのは、大小様々な規模のノンバンクの存在であ る。彼らが ABL やリース等で運転資金や設備資金を 供給している面がある。そして、その彼らも、その資 金調達は容易ではないため、銀行からの担保金融や証 券化も活用しながら資金を調達してきた。尤も、証券 化と言っても、規模が小さいうちは、コストや市場に おける信認の観点から、いきなり資本市場に打って出 られる訳でなく、銀行の ABCP ブログラムやモノラ インの保証等第三者の信用補完を活用しながらという ことである。証券化を活用した資金供給チャネルの多 様化といったことが語られる際に、トランチングによ る多様な投資家へのアクセスといったことが言われる ことがあるが、米国では、それ以前に、このような形 で、資金供給チャネルが重層的にできているのではな いだろうか。

一方で我が国では、デットの供給は銀行に大きく依 存している。確かに多くのノンバンクはあるが、その 発生の経緯からではあるものの、「銀行系」「メーカー 系」「商社系」といった系列ノンバンクが多い。消費

者金融や商工ローンといったところは独立系が多かっ たが、そのありようの是非はともかく、その多くは淘 汰あるいは系列化されていった。また、周知の通り、

多くの大企業も銀行からの借入があり、欧米では資本 市場中心の中長期資金についても我が国では資本市場 と間接金融を使い分けている。また、その銀行も元を ただすと、護送船団方式の中で、運転資金等の短期金 融と設備資金などの長期金融が分けられており、現在 の多くの銀行は、もともとは短期金融主体の商業銀行 が母体である。昨今、例えば、銀行の株式保有におけ る5%ルールが緩和の方向で検討されるなど、銀行に さらにリスクテイクを促す方向の議論をよく耳にす る。確かに、銀行には多くの規制コストも掛かってお り、また、優秀な人材も多い。従って、銀行がワンス トップで様々なファイナンスニーズに応えられるとい うのは社会的にも大きなメリットがある。さらに、

シャドーバンキングへの規制のあり方といった議論も ある。しかし、それにより、上述のような歴史的な経 緯の中で、さらに、銀行への規制が厳しくなる中で、

これまで言われていたような資金供給の単線化に拍車 を掛けるという面も無視できない。

今後、「お金のない国」になっていく可能性がある 中では、「量」という観点で、デットについても、も う少し議論をすべきなのではないか。そして、その場 合、確かに社債市場も大事であるが、「リスクマネー の供給」という観点で、銀行などと(中小・独立系を 含めた)ノンバンク等の銀行以外のセクター(以下、

「ノンバンク等」)の適切な役割分担ということがもう 少し議論されてもいいような気がする。特に、ABL やリースといった手法は、本来、モノや売掛債権など の資産あるいは資産から生み出される収益に着目した 金融手法であるはずで、銀行の得意とする(していた)

企業自体の信用力に着目した手法とは異なる面もあ る。銀行の立場からすれば、「だから、企業へのフロ ンティングは銀行(及び系列証券会社)が行い、その リスクを多様な投資家でシェアする市場型間接金融を 活用するのだ。」と言われそうであるが、市場型間接 金融は、既述の通り、銀行の与信能力を活用するもの である。最初に、銀行と異なる与信スキルが必要な分 野のフロンティングを銀行が行うのは馴染まない。

従って、企業カルチャーが一朝一夕に変わらないとい うことを前提とすれば、そういった意味でもリース会

社などに期待する面というのは大きいのではないだろ うか。そして、そのような中、本当に「お金のない国」

になれば、ノンバンク等も銀行からの借入にはあまり 期待できなくなる。また、ノンバンクについては、ノ ンバンク自体の成長戦略という観点で海外進出も重要 である。そのような中、証券化についても、ノンバン ク等のそういった社会的な意義の面から議論され、活 用されるべきであろう。そして、その際には、「お金 のない国」という状況が相応の期間続くことを前提 に、どのようにして安定的な市場を作っていくかとい うことを官を含めた市場関係者の間で真剣に議論すべ きであろう。

無論、ノンバンク等だけでなく、銀行も努力が必要 になる。特に、上述の様に預金が減って行くと予想さ れる中、インフラ更新のための長期資金供給は増えて 行くことが予想される。また、我が国の企業の海外進 出に当たって、これまで以上に外貨資金を供給して行 くことも求められる。これらの資金は、規模も大きく、

やはりノンバンクよりも銀行等が主要な役割を負うも のと思われる。欧州では、銀行の長期資金調達手段と して、カバードボンドが古くから認められている。

リーマンショックの際は、カバードボンドにより銀行 へ資金供給がなされ、また、昨今の欧州危機もあり、

安全・安定した調達手段として注目され、ユーロだけ ではなく、ドルなどの外貨での発行も増えている。特 に足元は、カナダやアジア・オセアニアでも、銀行の 外貨調達手段としても注目され、さながら「法制化競 争」の状況である。筆者は現在所属する日本政策投資 銀行において、日本版カバードボンドの実現のための 活動を行っているが、それには以上の様な背景があ る。邦銀の場合は、資金調達に困っているわけではな く、むしろ足元は、集まりすぎるほど預金が集まり、

また、格付けも相対的には優位に立つなど、今はチャ ンスである。しかし、余裕がある今だからこそ、将来 のための準備が可能である。古く特債法ができた時点 で、リース会社やクレジット会社の多くは、資金調達 に困っていた訳ではない。しかし、あの時点から準備 をしていたからこそ、90年代後半に活用できたのだと 思う。

以上、資金調達の観点から、ノンバンク等の再認識 とそれに伴う証券化の活用やカバードボンドについて 触れてきた。一方で、OTD モデルに基づく証券化は