第 4 章 日本の水産セクター協力の検証
4.2 資源管理サブセクター協力の検証
4.2.1 資源調査/統計整備
検証
日本は漁業海洋調査船を新造する無償資金協力を1983年に実施した。同調査船の老朽化 が進んだ1999年に調査船を更新する支援を実施し、同時に調査船操舵の個別専門家を派遣 した。2011 年には経年磨耗などにより機材に故障が出始めている現状から、フォローアッ プ協力を実施している。
2003~2006 年に実施した漁業資源評価・管理計画調査では、調査船による試験操業で漁
獲した商業的価値の高い 7 魚種(マハタ、ヘダイ、ツバメコノシロ、ハマギギ、ニベ、ニ シアカシタ、ニシオオイサキ)について、コホルト解析を用いて資源状態を評価するとと もに、その方法をカウンターパートに技術移転した。その結果、7魚種のなかでニベが資源 仮説⑦ 日本は漁業調査船ITAF-DEMEを供与するとともに、資源評価手法にかかる技 術支援を行った。同調査船は現在においても資源環境調査を実施し、資源量把握に貢献 している。
49
の持続的再生産の観点からもっとも危険な状態にあり、次いでハマギギとマハタが危険で あり、ツバメコノシロとニシアカシタも資源の持続的再生産という点で安全な領域にはな いことを明らかにした。
ITAF-DEME号の運行計画は、基本的に雨期に3航海、乾期に3航海の年間6航海である。
乾期と雨期ともに、①沿岸底魚資源調査、②沖合底魚資源調査、③沿岸浮魚資源調査の 3 資源調査を実施する運行計画となっている。1 航海あたりの日数は、沿岸底魚資源調査で
12~15日、沖合底魚資源調査で12~15日、沿岸浮魚で10~15日である。
2013年7月にJICAのフォローアップ支援によって、ITAF-DEME号の整備が完了した。
ITAF-DEME号の運行記録から、2014 年~2016 年の航海数と漁業操業日数を抽出したもの
が表 11である。ここで示される年間漁業操業日数とは、資源解析のための漁業操業日数を 記したもので、往復の航海日数や漁場の移動日数などは含まれていない。
表 11 ITAF-DEME号の運行状況
年間航海数(航海)
(A)
年間漁業操業日数
(日)
稼働率
(対年間計画運航数)
(A)/6 x 100 (%)
2014年 3航海 47 50
2015年 6航海 84 100
2016年 2航海 27 33
ITAF-DEME号はダカール・チャロイ海洋研究所(CRODT)の運行計画に沿って運行して
おり、2013 年以降は EU の資金支援で実施されるセネガル持続的漁業管理プロジェクト
(ADUPES)によるセネガル海域の資源調査と、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)
のメンバーとして、モーリタニアからギニアコナクリまでの海域の資源調査を担当した。
このように、2015 年の稼働率 100%を除き、近年の稼働率はさほど高くはないものの、
ITAF-DEME号は現在においても資源環境調査を実施し、資源量把握に貢献している。
検証
2003~2006 年に実施した漁業資源評価・管理計画調査において、現行の漁業統計のレビ
ューが行われている。それによれば、水産局(DPM)と CRODT のそれぞれが、独自のデ ータ収集方式と推計手法を用いて水産統計を作成している。
CRODTではデータの入力から推計までコンピューターでシステム化され、帳票を用いて
サンプル漁船の漁獲量から、水揚げ地ごとの月間水揚げ量を推計している。サンルイ州か らティエス州までの推計を行っているが、ティエス州以南の地域では行われていない。水 産局では漁獲量の推計以外に、漁獲高、仲買人の買い付け・搬出量、小売人の地域内販売 仮説⑧ 日本は水揚げ施設、水産センターなどの流通拠点を整備してきたが、これら拠 点における統計記録により、セネガルの漁業統計整備、同統計の標準化に貢献した。
50
量、加工品の製品重量を調査している。水産局では8大水揚げ地24以外の支所に職員を配置 し、漁獲データの収集にあたっているものの、CRODT方式の帳票は用いられず、台帳記入 方式で、その台帳記入方式にも統一基準がない。
長年CRODT方式と水産局方式の2つが併存してきたため、2000年のサンルイ州での水
産局の推計漁獲量が CRODT による推計漁獲量の 1.7 倍になり、同じ年のダカール州で
CRODTの漁獲量が水産局のそれの2.4倍になるなどの弊害が起こっている。こうした弊害
を避けるため、水産局とCRODTの漁獲データ収集の共同作業化が必要だとされ、8大水揚
げ地ではCRODTの帳票によるデータ収集が定着してきた。
これまでの漁獲統計整備にはこうした背景がある。しかしながら、2017年5~6月に実施 した本調査の時点においても、水産局とCRODTで異なる漁獲統計が併存している事実があ り、依然として2つの機関のあいだで漁獲統計が統一されるには至っていないようである。
ロンプール水産センターでの聞き取りによれば、漁獲量統計については基本的にFAOの 漁獲統計手法に準拠して推計している。これは、サンプル船の漁獲量を測定して、それを 全体の漁船数に換算する方法であり、上述のCRODTの帳票方式を採用しているものと思わ れる。水産物流通統計に関しては、従来から水産局が実施してきた台帳記入方式に加え、
水産物の出荷時に発行される出荷地・品質証明書 (certificate of origin and healthiness of
product) に記載の情報が部分的に利用される。この証明書は 1969 年 2 月 12 日付け政令
(decret) No.69-132に基づくものであり、出荷地、製品の種類(鮮魚や加工品など)、送り主、
風袋、荷受人、品質状態、運搬手段、日付などが記載される。
カヤール水産センター建設時に基本設計を担った水産エンジニアリング㈱の担当者によ れば、「計画時に統計整備について直接のコミットメントは行っていない」とのことであっ た。ただし、「水産センターが建設され、コンピューターやプリンター、無線機、レーダー、
気圧計、風向風速計などが提供されたことで、水揚げ場で検査官が水揚げ量をチェックす ることがより厳格化され、出荷ごとに発行される伝票類の情報がデジタル化されたことで、
結果的に水産統計の整備に役立った」(同担当者)とは言えるだろう。
ロンプールとカヤールの水産センターとは異なり、ミシラ漁業センターでは周辺の漁民 に漁船や船外機、漁具を支援し、漁民は彼らの水揚げ額からセンターに負債を返済するシ ステムを今日まで採用している。そうしたセンターの漁民支援システムを円滑化するため に、傘下漁船ごとの水揚げ量や金額を含む統計データの収集システムが構築された。した がって、同センターが構築した方法は、漁業統計整備の標準化というよりも、ミシラ漁業 センターでの漁民支援システムを円滑に進めるために整備された統計システムだと言える。
以上のことから、日本による水揚げ施設や水産センターなどの流通拠点の整備により、
コンピューターやプリンターが供与されたことで、セネガルの漁業統計整備におけるデジ タル化への移行を促進し、統計整備の円滑化に寄与したとは言えるものの、同統計の標準 化に貢献したとまでは言えない。
24 サンルイ、カヤール、ヨフ、ワカム、スンベジュン、アン、ンブール、ジョアールの水揚げ地。
51 検証
水産局漁業管理部漁場管理課のMamadou Thiam氏に、ITAM-DEME号による資源環境調 査の結果が、セネガル政府による資源管理計画策定や漁業規制にどのように寄与している のかを確認したところ、「資源環境調査の結果は水産局による水産政策の施策づくりに直接 役立てられている」という回答を得た。「例えば、2006年に零細漁船にライセンスシステム が導入されたのは、ITAF-DEME号による水産資源調査の結果をふまえてのものだった」と いう。
また、CRODTのMassal Fall所長によれば、過去の2年間において、同氏は定期的に漁業・
海洋経済省に呼ばれ、水産資源調査の結果について報告している。それは、漁業・海洋経 済省内での施策づくりを目的とする水産資源の現状把握のためであるとのことだった。