第 6 章 セネガル水産業発展の方向性
6.1 問題の所在
6.1.1 水産物流通の変化
本調査を通じて、ここ数年急激に水産物流通が変化していることが明らかになった。そ の変化を端的に示しているのが、水産物輸出における仕向け国と輸出品目の変化である。
本報告書の第2章で述べたように、2000年には国内の鮮魚流通の77%がダカール州、カ オラック州、ジュルベル州の3州で占められていた。2015年にはこれら3州での鮮魚流通
は50%に減じ、2000年には 5%に過ぎなかった水産加工会社向けの流通量が 31%に増加し
た。また、マリ、ガンビア、ギニアビサウなど近隣諸国向けの鮮魚流通量が2000年の0.4%
から2015年には4%へ増加した(図 6、図 7(p.15)参照)。
水産物輸出は2000年の8.8万トンから2016年の19.2万トンへ2.2倍に伸び、とくに2011 年以降の伸びが顕著である。アジア向けのタチウオがブーム化する一方で、西アフリカ近 隣諸国向けの輸出量が急増した(図 8(p.17)参照)。ECOWASやUEMOA域内の財政リス クが低下し、支払い条件の問題が緩和したことによって、セネガル国内の水産加工会社が 近隣の内陸諸国向けに小型浮魚凍結品の輸出を増やしたからである。水産物輸出における 低価格の小型浮魚が占める割合が増加した結果、輸出単価は 2000 年の2,116FCFA/kg から 2016年の1,035FCFA/kgへ半減した(2.2.7参照)。
水産加工会社の経営にとっては、低価格の小型浮魚(イワシ、アジ、サバ)を扱うより も、タイやハタ、シタビラメのような高価格の底魚をEU向けに輸出する方が、より利益が 見込める。ところが、底魚輸出だけでは年間を通して一定の従業員を確保することが難し いため、水産加工会社は近隣の内陸諸国向けに小型浮魚の凍結品を輸出せざるを得ないと 判断していると考えられる40。近隣諸国の財政リスクの低下という外的条件の変化が、水産 加工会社の経営判断を後押しした。
こうした近年の水産物流通の背景を知るには、水産加工会社が鮮魚を買い付けるセネガ ルの零細漁業における漁獲魚種の構成を把握し、水産資源の状況を概観する必要がある。
6.1.2 漁獲魚の質的変化
セネガル水産局発行の零細漁業部門における魚種別漁獲統計のうち、魚類の水揚げ量を
「小型浮魚」、「主要底魚」、「その他の魚類」に分けて整理した。「小型浮魚」に含めた魚種 は、イワシ類・アジ・サバの類であり、統計に記載されるEthmalose, Sardinella ronde, Sardinella plate, Anchovy, Maquuereau espagnole, Chinchard june, Chinchard noirの7種である。「主要底魚」
に含めた魚種は、ハタ、タイ、シタビラメの類であり、統計に記載されるBadeche, Fause merou (Thiof), Merou gris, Merou de medeteranee, Merou de goree, Merou rouge, Pagre a point bleus, Pagre, Sar, Sole langue, Sole de rocheの11種である。「その他の魚類」は、総魚類水揚げ量か ら「小型浮魚」と「主要底魚」の漁獲量を除いた漁獲量である。1983年から2015年までの 水産統計を用いたが、1985年、1987 年、1988年、1991年の4年間は統計を入手できてい
40 2017年6月15日、ELIM PECHE社の韓国人マネージャーからの聞き取り結果に基づく。セネガル国内
の他の水産加工会社においても、似たような状況があると考えられる。
74 ない。
上記の条件で、カテゴリー別年間魚類水揚げ量の1983年から2015年までの推移を図 20 に示す。
資料:セネガル水産局 図 20 零細漁業によるカテゴリー別魚類漁獲量の推移
1983年に13.8万トンだった魚類の漁獲量は、2015年に36.0万トンへ2.6倍に増加した。
その内訳を見ると、小型浮魚が1983年の6.9万トンから2015年の27.7万トンへ4.0倍に伸 びているのに対し、主要底魚は1983年の6.5千トンから2015年の9.8千トンへ1.5倍にし か伸びていない。その他の魚類は1983年の6.3万トンから2015年の7.3万トンと、1.2倍 の微増である。つまり、この間の漁獲量の増加は、小型浮魚の生産増に因るものである。
その小型浮魚の漁獲量も、1983年から1997年までは右肩上がりで伸びてきたものの、それ 以降は25万トン前後を行き来しており、生産量は停滞傾向を示している。この期間におけ る主要底魚の漁獲量の推移をみると、2009年に3万トン強を漁獲する例外はあるものの、
概ね1万トン前後の漁獲量で推移している(図 21)。
1983年に4.1万人だった漁業者数は2015年に5.3万人(2014年は6.1万人)へ増加し、
この期間にピログ数は8.5千隻から9.5千隻に、ピログの動力化率は62%から85%に増加し た。漁獲努力量の増加によって、小型浮魚の生産量がある時期まで順調に伸びる一方、主 要底魚の漁獲量は2009年の例外を除き頭打ちになっている。
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資料:セネガル水産局 図 21 主要底魚の漁獲量の推移
1984年には16.5万トンの漁獲量のうち56%が7魚種からなる小型浮魚であり、7%が11 魚種からなる主要底魚、37%がその他の魚種で構成されていた(図 22)。それが2015 年に なると、魚類の総漁獲量 36 万トンのうち、主要底魚の占める割合は 3%、その他の魚種も
20%と低下しており、その分小型浮魚の占める割合が77%と相対的に大きくなっている(図
23)。
漁獲努力量の増加に比例して小型浮魚の生産量は一定時期まで伸びている一方、主要底 魚の漁獲量は停滞している。近年のセネガルの零細漁業は、小型浮魚への依存を過度に高 めることで維持されている側面がある。
図 22 1984年の魚類漁獲量の構成
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図 23 2015年の魚類漁獲量の構成
6.1.3 持続的資源利用時代の水産開発
前項の分析が示すように、近年の零細漁業は小型浮魚への依存傾向を強めている。しか し、小型浮魚の漁獲量は1997年以降、25万トン前後で停滞傾向にある。主要底魚の漁獲量 も同様に1983年以降1万トン前後の漁獲量で停滞傾向を示している41。この間に漁業者数 やピログ隻数と動力化率の増加があり、漁網など漁具資材の天然素材から合成繊維への転 換に代表される漁業近代化の時代を経てきたことを考え合わせると、漁獲努力量は相当に 増加しているとみなければならない。それにも関わらず、現時点の小型浮魚と主要底魚の 漁獲量はともに停滞傾向を示している。
セネガルの水産業は、限られた量の資源を管理し、保全することを通して、いかに水産 資源を持続的に利用していくか、そして現在ある資源の付加価値をより高めて、いかに効 率的に利用し、それを公正に配分していくかという時代に入ってすでに久しい。その考え を端的に示しているのが、2016 年 8 月 23 日に承認された水産開発政策書簡(LPSDPA 2016-2023)である。そのため、本報告書における「セネガル水産業発展の方向性」も同書 簡の方向性に沿って検討すべきだと考える。
以下の項では、当書簡のなかで述べられる開発目標である①持続的水産資源管理と保全、
②水産製品の付加価値向上、③養殖開発、に沿って、本調査結果をふまえて考えを述べる。