第 4 章 日本の水産セクター協力の検証
4.3 漁村振興サブセクター協力の検証
検証
本調査で対象とするサンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクト、カキ養殖隊 員の活動、プティコートとサルームデルタのマングローブ持続的管理調査とその持続性強 化プロジェクトの事例から、本仮説の検証を試みる。
(1) サンルイ零細漁村女性と子供の地位向上プロジェクト
サンルイの加工女性 500 人を対象として、日本の草の根無償資金協力で開設された「女 性と子供の家」を拠点として、女性を組織化して労働環境の改善と収益の向上を図り、そ の収益で女性と子供に対して社会教育活動を持続的に実施することをめざした。
収入向上のための活動として、魚粉の生産、加工製品の量り売り(キロ売り)の導入、
直売、原料の共同購入、資機材(イスやマットレス)と会議室の貸出し、トイレの利用料 徴収、バイオ炭の生産販売が含まれる。社会教育活動として、識字教育、空手教室、保育 園、職業訓練(保育士、美容師、洋裁、染色)が実施された。
プロジェクトが終了して 6 年が経過し、現在まで続いている経済活動は、加工製品の量 り売り、女性グループで加工残渣を集めて魚粉用として販売すること、加工材料(塩)の 共同購入、加工品の外部から買い付けにくる商人への直接販売である。このように、水産 物加工の生産と販売において、同プロジェクトで導入されて現在まで継続されているもの が少なくない。
一方、社会教育活動の多くはプロジェクト終了後に継続して実施することができなかっ た。同プロジェクトに関わった日本人専門家によれば、「加工女性のための社会教育活動を 自前の費用で持続的に運営することは大変だったが、プロジェクト活動中になんとか運営 を軌道に乗せることができた。残渣の販売や製品の量り売りで、プロジェクト終了後も社 会教育活動を継続するだけの利益はあげていたが、利益が出ることに気付いた女性リーダ ーが、プロジェクト終了後にそれらを個人の商売としてやり始めたために継続することが 仮説⑭ 日本はいくつかの漁村振興案件を通じて、漁村住民の組織化による経済活動の 持続性強化を進め、一定の効果を得た。
61 できなかった」と語った。
同専門家は次のようにも語っている。「利益が出たときに、それをどう配分するかをワー クショップで決めたが、その点を女性に理解してもらうことが難しかった。プロジェクト の対象地がサンルイだけではなく、カヤールなど他の地域が含まれていれば、サンルイで の持続的な社会活動の実践方法の成功例を示すことで、より広い普及につながったかもし れない」。
漁村振興を目的に、経済活動の持続性を担保に実施される社会開発活動を実施するうえ での教訓が含まれていると思われる。
(2) カキ養殖隊員の活動
カキ養殖隊員の活動については、仮説⑥の検証(p.46 参照)で詳述したため繰り返さな い。カキ養殖隊員が生ガキのダカールへの出荷販売のため、4村の住民から構成されるソコ ン・カキグループを1983年に組織化し、その後2004年までの20年間はカキ養殖隊員が赴 任して共に活動し、最後のカキ養殖隊員が去ってから現在まですでに13年が経過した。こ こで指摘したいのは、ソコン・カキグループが設立されてから2017年現在までの34年間、
同グループは毎年経済活動を継続して実施してきたという事実である。
歴代隊員のソコン・カキグループに対する組織強化への支援や、同グループメンバーた ちの組織運営に対する継続的な努力に加えて、カキ養殖隊員といういわば第三者が、当初 の20年間、つねにソコン・カキグループのメンバーとともに存在したという点が重要であ った。
2017年6月にソコン・カキグループのメンバーと話し合ったとき、隊員はソコン・カキ グループに何を与えたかを質問した。その結果、「私たちは多くのことを隊員から学んだ。
たとえば、稚貝を付着させるための垂下連の作り方や設置に適切な場所を判断する方法、
付着した稚ガキの見分け方などだ。以前は何も知らなかったが、こうしたことはすべて隊 員たちが教えてくれた」、「隊員たちは必要な仕事を自覚して自ら行動する。だから、今あ るいは将来なにが必要かを自覚し、そのために今どのように適切な行動をとるのかを、私 たちは隊員たちから学んだ」といった回答を得た。個々の技術移転以上に、ソコン・カキ グループのメンバーたちは、隊員たちと空間と時間を共有することで、彼らの自覚的な行 動様式を20年の長きにわたって学んだといえよう。
(3) マングローブ持続的管理調査・持続性強化プロジェクト
この開発調査から技術協力プロジェクトに続く一連の活動では、サルームデルタに分布 する複数の漁村で、組織化された漁村住民を対象に、種々の社会経済活動が導入され、そ れらの持続性強化への取り組みが試行された。そのいくつかを以下に紹介する。
1) ウンバム村のライフジャケット工房
サルームデルタの中上流部に位置するウンバム村周辺では、漁期のエビ漁が住民の重要 な収入源になっているものの、毎年操業中に溺れて亡くなる者があとを絶たない。そのた め、村内にライフジャケット工房を立ち上げ、生産販売することで水難事故を防ぐととも に、村の経済活動として定着させることをめざした。この村には従来からアスポベルス
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(ASPOVRECE)という住民組織があったため、その組織をこの活動の受け入れ母体とした。
プロジェクト終了後もアスポベルスではライフジャケットの生産販売を継続した。問題 は政府が零細漁業振興策の一環として実施している輸入ライフジャケットの安価販売だっ た。ウンバム製のライフジャケットが8,000~10,000FCFAで販売されていたのに対し、輸入 ライフジャケットは5,000FCFA(のちに 2,500FCFA になる)だった。安価な輸入ライフジ ャケットは常に入手できるわけではないものの、漁民には政府補助金による輸入ライフジ ャケットの価格が浸透していた。
アスポベルスでは、NGOのVollesans Frontereの支援を得て周辺村での廉価販売を試みた り、2014~2015 年の環境奨励期間を活用して村のライフジャケット工房をテレビ放送して もらったりして、生産販売の促進活動を試みたが、十分に成功せず現在に至っている。
2) ジャンバン村の養蜂活動
ジャンバン村はサルームデルタのマングローブ林に位置する村である。プロジェクトで は村の委員会を組織し、マングローブに咲く花から蜜を集める養蜂活動をこの村に導入し た。蜂蜜生産は成功し、製品をソコンなど最寄りの市場へ出せるようになり、収入活動と して有望視された。ところが収益が出るようになると、委員会のメンバー間で収益金の分 配をめぐる相互不信や内輪もめが重なって生産活動は停止せざるを得なくなった。
3) ムンデ村の貝加工改善などの活動
サルームデルタの島嶼部に位置するムンデ村には強いリーダーシップをもつ女性リーダ ーがおり、彼女を中心に複数の管理委員会が組織されていた。プロジェクトでは、女性の 経済活動であった何種類かの貝類の生産加工の改善と付加価値化に取り組んだ。プロジェ クトの終了後もこれらの活動は継続された。管理委員会では、貝類の加工販売に加え、デ ィタと呼ばれる果樹の販売など、村内の経済活動をまとめ、収益の一部を村の基金として 蓄えた。その基金を利用してダカールで修学する村の若者のために下宿を確保するなど、
村の若者支援に活用している。
これら複数の事例に共通して言えるのは、村の住民を対象に組織化が行われ、その組織 を対象として経済活動が導入される場合、組織化から経済活動の導入までにさほど問題は 発生していない。ところがその経済活動によって収益が生まれるようになった段階で、メ ンバー内の疑心暗鬼が生まれる時期があるということである。ムンデ村ではカリスマ性を もつ村の女性リーダーが存在し、ソコン・カキグループでは長期間にわたってカキ養殖隊 員という第三者が存在した26。ウンバム村でライフジャケット工房の生産販売は外的要因か ら頓挫しているものの、強力なリーダーシップをもつリーダーが存在する。一方、こうし たリーダーやそれに代わる存在がいない村では、メンバー間の不信感を払拭する調整活動 がうまく機能せず、活動が停滞することが多い。
このように、日本がこれまで支援した漁村での組織化による持続的な経済活動への支援 は一定の成果を納めた。今後の課題として、経済活動の結果として収益が出る段階で、メ
26 元カキ養殖隊員(1997~1999年)によれば、同グループ内に有能なリーダーも存在したとのことである。