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ドキュメント内 方言と日本語教育 (ページ 63-127)

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地点では右が子牛の温き声を,左が牛一般の鳴き声を区別することを示す。

先にも述べたように「牛(総称)」がベコ系の地域でも「鳴き声」までべ一で ある地域はあまり広くないことがわかる。

 以上「牛」に関わる語の全国分布を見てきた。「語」はそれ単独で存在する ものではなく「語彙」という構造の中で存在することはよく書われることで あるが,このように関連語彙の分布図を検討してみると,単に古い語が周辺 地域に残存すると言うことばかりでなく,そのような構造・体系の中でお互 いに連動しつつ変動を引き起こしているようすをうかがい知ることができる。

 なお,ec 8−1〜5は佐藤亮一監修(1991)『方角の読本3に,図8−6は徳 川宗賢編(1979)『日本の方雷地図』による。先にもことわった通り,これら の地図は触本言語地図』の略図で,もとの地図はee 8−1:LAJ5−236・237・

238,図8−2:LAJ5−207,図8−3:LAJ5−208,図8−4:LAJ5−209,図8

−5:LAJ5−206,図8−6:LAJ5−210でみることができる。

8.3文法事象の分布

 次に,文法事象の分布と歴史を簡単に見てみよう。

 「方書文法全国地図s第2集92図の「出した」の全国分布をもとに話を進 める。略図は示していないので,ぜひ実物にあたって見てもらいたい。

 現代語のサ行五段活用動詞「出す」の過去形にあたる「出した」を全国で どのように護うかを示している。

 おおまかにいって「ダシタ」系(水色の地域)が,東日本と近畿の中心部 ならびに四国の大半に分布しているのに対して,「ダイタ」系(赤色の地域)

が,近畿地方の周辺部から九州にかけて分布している。

 東京方雷ではサ行五段活用「出す」の過去形は「ダシタ」である。「ダシタ」

はヂ出す」の連用形「ダシ」にそのまま,過去を意味する助動詞「タ」が付 いたものである。このように連用形を変化させることなく過去形などを作る ことを「非音便」と呼ぶとすると,東京方欝ではサ行五段活用の動詞は,こ

こに挙げた「出した」をはじめとして,「貸した」「殺した」のように,すべ て非音便で過去形を作る。地図では水色の地域が非音便の分布域である。水 色の記号で示した語形の中には,〈dahita>〈dasuta>のような形も見られ るがこれらは「ダシタ」の変化形であり,葬音便であることにかわりははな

い。

 これに対して,過去の助動詞「タ」などが付く時,「ダイタ」のようにイ音 便になる地域がある。地図では赤色の地域にイ音便が見られる。赤色の記号 で示した語形の中には,<daata><deeta>といった形もあるが,これらは

「ダイタ」の変化したものであり,イ音便である点では共通する。

 文献による歴史をたどってみよう。サ行四段活用(現代語の五段活用)動 詞のイ音便は平安時代中期ごろから現れたといわれる。これはカ・ガ行四段 活用動詞のイ音便が平安初期から現れるのに少し遅れる。そして,カ・ガ行 がイ音便である点は現在にまでいたっているが,サ行のイ音便は近世には衰 退し,もとの非音便に戻ってしまった。つまり,サ行イ音便は,いったん中 央語史の中に現れ,定着した後,滅び,罪音便に先祖返りするのである。以 上の歴史は,京都を中心にしてのものである。江戸時代後期には文化の中心 地は江戸に移るが,江戸の資料ではサ行のイ音便はほとんど見当らない。

 以上の歴史的な変遷は地國上に顕著に反映されている。かつてさかんであ ったサ行イ音便が,その後衰退し,葬音便が新たに京阪から広がる様相が,

中部から茜の分布からうかがえる。そして,東旨本では江戸の資料が示すよ うに,もともと非音便の勢力が強かったらしく,イ音便の地域は東B本には ほとんど見当らない(GAJ2−94「任せた」, GAJ2−98ド貸した」も参照のこ

と。なお,以上の歴史的記述にあたっては奥村三雄(1968)を参照した)。

 このように文法事象でも,中央での歴史と方言の分布との閲に密接な関連 を見出すことができる。

 これらのことは,反対にいえば,方言の分布を見ることによって中央語の 歴史を考察することも可能であるということになる。語彙に関していえば,

文献においては出てきにくい語の歴史を考察するのに方言の分布を用いるこ

とで可能になるし,文法に関していえば細かなニュアンスの問題など,文献 でははかり知ることのむずかしい点を現在の方言によって確かめることも可 能であるわけだ。さらには当然の事ながら,文献は文字資料であるから,実 際の音声などは方書でしかわからないということがある。そう考えると,方 言はいうなればことばの考古学的な資料であるともみられるだろう。

第9節 方書の現在と将来

 前節でも述べたように,臼本語の歴史を考察する上でも重要な資料となる 方言であるが,その現状はどうなっているのだろうか。方言が衰退している

という声も聴かれるが,実態はどうであるのか。また,社会は大きく変動し,

伝統的なB本文化は転換期をむかえている。方言もそのような社会変動の中 で将来はどうなっていくのだろうか。

9.1.方番の現在

 全国の百雷の概観を行ない,また,方言と中央語の歴史的な関係をみてき た。それでは方雷の現状はどのようであるのだろうか。

 伝統的な方書の衰退と言うことがよく意われる。その実態をみてみよう。

 国立国語概究所では山形県鶴岡市で戦後の地域書下の変貌を20年ごとに追 跡している。第1圓目の調査は1950年に,第2回厨は1971年に,第3圓穣は

!991年に実施している。第3圓臼については現在集計中であり,その結果は まだ出ていない。ここでは第1回目と2圓霞の調査結果に見られる動きをみ てみよう(国立国語研究所1974a)。

 pa 9−1には2胴の調査における音声五二について共通語で答えた人の割 合を示した。それぞれの項Bの伝統的方欝の特徴を簡単に記すと,唇音性1

というのは「火曜臨をクワヨービと発音(合拗音),唇音性IIというのは「韓J をフィゲと発音,口蓋化とは「税務署」をジェームショと発音,有声化とは

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en 9−1 鶴岡市方薔の音声項目の2回の比較(前回=1950,今睡1971)

「鳩」をハドと発音,「鼻音化」とは「帯]をオンビと発音,中舌とは「辛子」

と「鳥」を同様に発音(シ・スの区別なし),iとeというのは「息」と「駅」

を同様に発音すること(イ・エの区別なし)である。グラフの外側ほど共通 語化が進んでいることを示し,いずれの項呂も語により出入りは見られるが 2團目の調査では共通語化している人の割合が高くなっていることがわかる。

 図9−2には2團の調査の音声項召の動きを点数化して世代別に示してい る。点数の高い方が共通語化している。いずれの調査においても若い世代ほ ど得点が高く,かつ,どの世代も20年の時間の中であきらかに共通語化が進 んでいることがわかる。世代はいずれも各調査時のものであり,1950年には 高年層ではかなり方言的な色彩が強かったのが1971年には高年層でも共通語

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 図9−2 鶴岡市方言の音声項屋の     pa 9−3 鶴岡市方雷の音声項H      共通語化,20年の変化と世代差       の岡一世代の20年の変化

化が進んでいる。

 図9−2に示した2回の調査結果を第1回霞の調査時の年齢に合わせて書 き換えてみたのが図9−3である。これによりある年齢層が20年間にどのよう な動きを見せたかがわかる。20年前に35歳未満だった世代では20年閥にさら に共通語化を受けたのに対し,35歳以上だった世代ではその影響をほとんど 受けていない様子がわかる。

 ee 9−4には2圓の調査におけるアクセント項霞について共通語で答えた 人の割合を示した。共通語の「猫」①「旗」②「鳥」①「背中」⑨「団扇(う ちわ)」⑨②(共通語アクセントを①②…のような数値で示す方法については 第2節を参照)に対し,それぞれネコ,ハタ,カラス,セナカ,ウチワが鶴

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鶴岡市方言のアクセント項目の   函9−5 2回転比較(前回=1950,今圓1971)

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19 24 34 44 54 fi9 鶴岡市方言のアクセント項

目の共通語化,20年の変化 と世代差

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岡方言アクセントである。やはりいずれの項目も20年後の方が共通語化が進 んでいる様子が見られる。

 図9−5には各調査時の世代溺にアクセントの共通語化を点数化して示し た。1950年には若い世代でもあまり共通語化が進んでいなかったものが,1971 年には各世代とも共通語化が進行し,かつ若い世代ほど共通語化が著しい様

ドキュメント内 方言と日本語教育 (ページ 63-127)

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