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調査概況及び写真データの数値化

2 研究概要

2.2 研究対象

2.2.1 調査概況及び写真データの数値化

調査は、路上観察や予備調査を重ね、以下の4都市の16地域における言語景観について行った。

2007年6月から12月にかけて東京都23区内にある銀座、表参道、新宿、秋葉原、門前仲町で、2009 年2月に上海市にある南京路、豫園、新天地で、3月に大阪市にある道頓堀、心斎橋、日本橋電気街 で、2010年6月に香港にある旺角、油麻地、尖沙咀、銅羅湾、蘭桂坊である。この16地域を対象と した理由は一般知名度が高く、質量ともに代表的な商業集積地域であり、社会経済活動が集中してい るからである。

まず、最初の観察や予備調査では、「商業施設の言語景観には経済原理が反映されやすいため、言語 的多様性は公的表示よりバラエティーに富んでいる」(井上 2007)ということから、東京都内23区 にある商業集積地域から選ぶことにした。具体的には、「東京の商業集積地域(商業統計調査報告~商 業集積地域別集計編~)平成9年」により、区ごとに商店数が多い商業集積地域上位3位までをリス トアップした。次に商店総数が多い区のランキングから1位の中央区にある銀座地域(当区1位)、 11位の港区にある青山通り表参道周辺(当区3位)、3位の新宿区にある新宿駅東口(当区1位)、10 位の千代田区にある秋葉原(当区1位)、15位の江東区にある門前仲町周辺(当区2位)という5つ の地域のメインストリートを選んだ。ここで取り上げた5つの調査地域の一般的イメージは、一言で いえば、銀座が高級感溢れる古くからの繁華街、表参道が外国高級ファッションブランド店の林立す るおしゃれな町、新宿が活気溢れる新興繁華街、秋葉原が世界各地からの人々を引きつける電気街、

門前仲町が下町情緒豊かな場所と言われている。本研究では、各地域の言語景観に見られる言語使用 の状況はどの程度このイメージを反映しているのかにも注目したい。考察の結果は、この5つの地域 における言語景観に見られる言語使用パターンを本国志向(銀座、新宿、門前仲町)、欧米志向(表参 道)、アジア志向(秋葉原)に分けられたことである。そして日本の他の都市も、あるいは他の国の都 市もこの考察の結果と同様にパターン化されるかどうかを検証したいという問題意識で、後に、大阪、

上海、香港で東京の3パターンの5つの地域に類似した地域をそれぞれ選び、調査を行った。

調査対象は調査地域のメインストリートに面した両側の明瞭に見られるすべての店名表示、広告看 板などの商業看板が主体となる非公的言語景観で、デジタルカメラで撮影した。1夜間になると、景観 上また変わってくるため、調査の時間帯は昼間(主に午後1時から4時まで)に限定した。

本研究では、採集した写真データを地域、言語種、表記法、文字種の組み合わせ方、業種という 5 つの項目に分けて、統計ソフトSPSS(15版)によるコレスポンデンス分析という多変量解析法 に適用できるように、それぞれコード2を与えて、数値化した。本節では、写真データの数値化の方法 を説明する。

共時的実地調査のほか、通時的調査も可能とするために、日本に関しては、他の研究者が集めたデ ータ、中国に関しては、歴史写真が収録された写真集を活用した。詳細は各関連章節で説明していく。

1いわゆる公的表示は本研究の対象外だが、今後の研究のために、同時に撮影した。ただし、永久的、半永久的ではな いと判断した看板は調査対象から排除した。また、ほとんど目立たない小さなもの(原則的に、手書きのメニューなど A4サイズより小さいもの)は排除した。なぜならば、都市景観の構成要素としては、不適切と判断したからである。筆 者個人の判断による誤りの可能性があることを指摘しておく。

2データの形は、入力時と地域別延べ数及び2項目組み合わせごとのコレスポンデンス分析を行う際には、カテゴリ・

アイテム型で、一方、全項目のコレスポンデンス分析を行う際には、01(ゼロイチ)型とした。

2.2.1.1 地域

実地調査の対象とする地域別のサンプル数内訳はで表1のようである。詳しい説明は後に各章で行 い、ここでは省略する。

表 1 言語景観の地域別サンプル数内訳

地域名

493 14. 6 14. 6 14. 6

258 7.6 7.6 22. 2

203 6.0 6.0 28. 2

304 9.0 9.0 37. 1

323 9.5 9.5 46. 7

363 10. 7 10. 7 57. 4

78 2.3 2.3 59. 7

281 8.3 8.3 68. 0

291 8.6 8.6 76. 6

102 3.0 3.0 79. 6

220 6.5 6.5 86. 1

138 4.1 4.1 90. 2

91 2.7 2.7 92. 9

48 1.4 1.4 94. 3

128 3.8 3.8 98. 1

66 1.9 1.9 100.0

3387 100.0 100.0

銀座 表参道 新宿 秋葉原 門前仲町 南京路 新天地 豫園 道頓堀 日本橋電気街 心斎橋 旺角 油麻地 尖沙咀 銅羅湾 蘭桂坊 合計 有効

度数 パーセント 有効パーセント 累積パーセント

2.2.1.2 業種

先行研究では、業種による言語景観の違いについて言及した研究に正井(1969/1972)、染谷(2002)、 金(2005/2007)、オバタ・ライマン(2005)等のものがある。しかし、業種を分類するには共通した 基準がないようで、本研究では、筆者が先行研究を参考にし、調査した地域の具体的状況を考慮した 上で、14種類に分類した。その分類法は表2で示した。

言語景観において、業種による違いがいかに言語使用を左右するかを分析することで、言語外的な 要因、主に社会経済的要因が言語使用にもたらす影響を考察する。

表 2 言語景観の業種一覧表

業種

飲食関係(和食、洋食、喫茶店、食料品等)

ファッション関係(服、バック、靴、ウェディング等)

事務所等 (会社、組織等)

医療、健康、美容関係(エステ、美容院、病院、クリニック、薬店、マッサ ージ、ジム等)

建物の名称(ビル等)

デパート、モール等 銀行、金融関係

芸術、工芸品関係(博物館、ギャラリー、ジュエリー、時計等)

娯楽施設(クラブ、カラオケ、ゲームセンター、パチンコ等)

書店 電気製品(売場)

その他(神社、教会堂、コンビニ等、不明)

ホテル・旅館 複合・総合ショップ

2.2.1.3 言語種

今回の調査において、出現したすべての言語種と複数の言語種の組み合わせは表 3 のようである。

ただし、仏語、伊語、西語、独語、露語等はヨーロッパ諸言語(ヨ)としてまとめ、韓国語、タイ語、

ヒンディ語等はアジア諸言語(ア)としてまとめた。3

表 3 言語景観の地域・言語種別サンプル数内訳

地域名 と 言語種 のクロス表 度数

318 77 9 46 1 0 0 0 0 0 31 0 9 0 2 0 0 0 493

82 88 2 67 0 2 0 0 0 0 11 0 4 0 1 1 0 0 258

125 47 0 13 2 0 0 0 0 0 12 0 4 0 0 0 0 0 203

195 58 3 5 1 1 0 0 0 0 32 4 1 0 0 0 3 1 304

260 33 6 3 0 0 0 0 0 0 20 0 1 0 0 0 0 0 323

16 24 126 17 0 0 166 0 9 3 2 0 0 0 0 0 0 0 363

1 29 12 10 0 0 24 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 78

1 10 180 3 0 0 84 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 281

218 20 0 0 0 0 0 0 0 0 42 0 0 0 3 0 6 2 291

61 18 1 2 0 0 0 0 0 0 13 0 1 0 0 0 6 0 102

108 50 0 34 0 0 0 0 0 0 26 0 1 0 1 0 0 0 220

13 7 71 1 0 0 41 0 0 0 3 0 0 2 0 0 0 0 138

0 2 55 0 0 0 34 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 91

2 16 0 19 0 0 11 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 48

8 45 27 21 0 0 20 0 0 0 6 1 0 0 0 0 0 0 128

0 46 3 13 0 0 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 66

1408 570 495 254 4 3 384 1 9 3 200 7 21 2 7 1 15 3 3387

銀座 表参道 新宿 秋葉原 門前仲町 南京路 新天地 豫園 道頓堀 日本橋電気街 心斎橋 旺角 油麻地 尖沙咀 銅羅湾 蘭桂坊 地域

合計

J E C E+ヨ E+C E+C+ア C+ヨ C+ア J+E J+E+C J+ヨ J+C J+ア J+C+E+ヨ J+E+C+ア J+E+C+ヨ+ア

言語種

合計

バックハウス(2005)は「日本語以外、あるいは日本語の代わりに、ほかの言語を含む多言語表示」

という定義があり、言語景観が単一言語表示か多言語表示かという観点からすると、表示に日本語が 含まれていても、実際には他の言語と結合している場合、日本語以外の言語の項に分類している。こ のように分類法はまだ議論する必要があると思われるため、本研究では、採用しなかった。

2.2.1.4 表記法

飛田(2002)は、「表記とは、一定の文字列と一定の言語単位とが対応することによって、空間に固定 された言語表現をいう。その言語表現を書き表す文字と符号の文字列のきまりを表記法という。」と定 義している。本研究での表記法という用語は特に言語景観における縦書き、左横書き、あるいは縦書 きと横書きを組み合わせたもの、右横書きという4種の言語表記のいずれかを指すものである。ただ し、横書きで九十度回転した状態で縦の形で表示している看板も横書きの項に分類した。

01型データで多変量解析法のコレスポンデンス分析を行う際に、両方(縦書きと横書きを組み合わ せたもの)を情報として単純化するために、それぞれ縦書きと左横書きにばらした。

表 4 言語景観の地域・表記法別サンプル数内訳

地域名 と 表記法 のクロス表 度数

196 261 36 0 493

14 236 8 0 258

80 104 19 0 203

59 218 27 0 304

100 201 22 0 323

38 286 34 5 363

8 60 10 0 78

5 234 12 30 281

73 184 30 4 291

24 73 5 0 102

27 176 17 0 220

7 109 7 15 138

2 68 1 20 91

0 46 2 0 48

4 118 3 3 128

3 62 0 1 66

640 2436 233 78 3387

銀座 表参道 新宿 秋葉原 門前仲町 南京路 新天地 豫園 道頓堀 日本橋電気街 心斎橋 旺角 油麻地 尖沙咀 銅羅湾 蘭桂坊 地域

合計

縦書き 左横書き 両方 右横書き 表記法

合計

本研究での表記法という用語は特に言語景観における縦書き、右横書き、左横書きあるいは縦書き と横書きを組み合わせたものという4種の言語表記のいずれかに指すものである。なぜこの表記法に

注目したかというと、縦書きと右横書きは中国語と日本語伝統の表記習慣であり、左横書きは欧米諸 語表記の影響を受けたものであり、両方は前述のとおりに、融合したものだからである。つまり、左 横書きは欧米(西洋)志向のシンボルで、縦書きと右横書きは本国志向のシンボルで、縦書きと横書 きを組み合わせたものは両方に配慮を加えたものだということを前提とした。

2.2.1.5 文字種

本研究では、使用されている言語種の組み合わせ方を示しておいたが、実際の言語景観における言 語使用では、文字種も言語種に相応していくつかを組み合わせている。ただし、英語、仏語、伊語、

西語、独語、露語等の文字はローマ字としてまとめた。韓国語、タイ語、ヒンディー語等の文字はア ジア諸言語文字としてまとめた。

その組み合わせの状況を示したのが、表5である。

表 5 言語景観の地域・文字種別サンプル数内訳