4 日本における言語景観
4.3 多変量解析
4.4.1 文字種
4. 4 通時的考察
先行研究のような共時態の現状記述は必要不可欠なものであり、これまでの言語景観研究が果たし た意義が大きい。しかし一方で、言語景観における通時的研究という視点を導入する必要性が生じて いることも事実である。つまり、言語景観における言語使用の変化を進行中の言語変化現象と捉える べく、将来的変化予測も含めた使用傾向変化を捉える視点として導入すべきである。
本節では、様々な先行研究及び他の研究者のデータを活用し、各地域間の比較を試みる。
通時的変化を見るために、本研究と同質の先行研究を比較することを試みた。正井(1969/1972)と 染谷(2002)のものは、調査目的、調査地域あるいは調査範囲が本研究と異なるが、いわゆる私的看 板を扱ったという点で、本研究と同質なものだと見なされる。ここでは、文字種の組み合わせ方とい う項で正井(1969/1972)や染谷(2002)の研究によるデータと比較する。文字種の各種組み合わせの 件数はそれぞれの調査で得られたサンプルの総件数の占める割合を算出し、視覚化したものが図 24 である。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
正井(1969/1972)
染谷(2002)
江(2007)・銀座
江(2007)・門前仲町
江(2007)・新宿
江(2007)・秋葉原
江(2007)・表参道
割合
ローマ字 漢+ひ+カ+ロ ひ+カ+ロ 漢+カ+ロ 漢+ひ+ロ 漢+ひ+カ カ+ロ ひ+ロ ひ+カ 漢+ロ 漢+カ 漢+ひ カタカナ ひらがな 漢字
図 24 文字種の通時的変化
図24では、以下のようなことが読み取れる。
漢字のみでの表記は年代順で顕著に減少していることが観察される。言語景観における日本語使用 は減少傾向にある。
ローマ字のみでの表記は急速に増加していることが観察される。西洋諸言語使用は増加傾向にある。
門前仲町で得られた文字種の組み合わせ方の状況は、染谷(2002)による文字種の組み合わせ方の集 計結果と比べると、似たようなパターンであることが観察された。
調査した5つの地域における漢字のみの表示の使用率を比較することによって、各地域の漢字のみ の表示の使用率はそれぞれの地域の歴史の長さと正比例をなすのではないかと考えられる。このこと から、同時点での地域別調査を中心とした本研究でも、ある程度通時的変化が推察されたと言えるだ ろう。
つまり、本研究と正井(1969/1972)や染谷(2002)の研究との比較によって得られた漢字(日本語)
使用の減少傾向とローマ字(欧米諸言語)使用の増加傾向が見られた。このことから、多言語化は通 時的に進んでいることが証明できたといえる。