5 中国における言語景観
5.2 単純集計
5.2.2 文字種
日本語の場合、文字体系には、漢字・ひらがな・カタカナ・ローマ字がある。ほとんどの欧米諸言 語にはローマ字が使われている。中国語は漢字、その他のアジア諸言語の場合、朝鮮語はハングル、
ヒンディー語はインド文字、タイ語はタイ文字を使っている。実際の言語景観における言語使用では いくつかの文字種を組み合わせているものも多い。現在、中国で正書法として採用されている簡略化 された漢字の内、正確には字全体が簡略化されたものだけを簡体字という。偏や旁など一部が簡略化 されたものを含めたものは簡化字という。これらの漢字は『簡化字総表』にまとめられている。
1955年、中国文字改革委員会が「漢字簡化方案草案」を発表し、1956年1月、「漢字簡化方案」が 正式に公布され、514字の簡体字と54の簡略化された偏や旁が採用された。数年の使用実験を経て、
簡化字は1959年までの4度公布され、1964年には『簡化字総表』にまとめられた。
1977年、中国文字改革委員会は新たに「第二次簡化方案草案」を発表し、さらなる漢字の簡略化を 目指した。しかし、この試みは文化大革命の直後ということもあって、あまりにも拙速な方案だった ため、字体が簡略化されすぎて、「読みにくい」、「見苦しい」と猛烈に批判されて社会に混乱をもたら して不成功に終わり、8年間の試行で廃止された。これらの簡化字は俗に二簡字と呼ばれる。この後、
若干の漢字の取扱に変更があったものの新たな大規模な文字改革は行われておらず、公式に定められ た規範としての簡体字は安定期に入っていると言えよう。
現在、中国大陸やシンガポールのほとんどの出版物は完全に簡体字を採用しており、学校教育も簡 体字しか教えず、繁体字の読解力が低下しつつある。一方、台湾や香港、北米の華僑社会などでは繁 体字を使い続けており、簡体字があまり読めないという人が多い。
表 34 中国における言語景観の地域・文字種種別01型データサンプル数内訳
繁体字 漢字 ひらがな アジア諸言語文字 カタカナ ローマ字
油麻地 87 0 0 0 0 43
旺角 112 19 2 0 1 57
豫園 72 269 3 1 2 100
銅羅湾 50 8 4 0 2 105
南京路 53 320 3 3 4 229
尖沙咀 11 1 0 0 0 48
新天地 15 40 0 0 1 69
蘭桂坊 6 0 0 0 0 64
図32は表34を視覚化したものである。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
豫園 旺角 油麻地 南京路 新天地 銅羅湾 尖沙咀 蘭桂坊
ローマ字 カタカナ
アジア諸言語文字 ひらがな
漢字 繁体字
図 32 地域別文字種割合(中国)
中国各地域の言語景観における文字種割合は図 32 で示した。各地域の言語景観における漢字(簡 体字)と繁体字を合わせた漢字使用率の順番で並べ替えた。
漢字使用率順に並べ替えられた各地域の順番は図の順番と対応し、ほぼ一致する。この結果に対応 して、漢字(簡体字)・繁体字の使用率が高い地域では、中国語の使用率も高い。一方、ローマ字表記 は使用率を見ると、漢字の使用率と反比例していることが分かる。