1.実験動物
60GHzばく露実験および準ミリ波帯実験ともに実験動物は、Specific Pathogen Free の有色家兎(Dutch種、体重:1.8-2.5kg、週令:13-16週、雄性)86羽を実験に供し た。
60GHzばく露実験は、すべての実験を金沢医科大学動物実験施設で行ったが、準ミ
リ波ばく露実験は、情報通信研究機構(以下、「NICT」と略す)で、ばく露実験を行っ た。実験開始の少なくとも3日前に動物専門業者によりNICTに実験家兎を輸送し、ば く露実験開始日まで動物を環境順化させた。準ミリ波ばく露およびばく露後の急性期の 眼傷害の経過については、NICTで実験を行ったが、長期変化については、金沢医科大 学に家兎を移動しその経過を観察した。
すべての家兎は実験開始前に細隙灯顕微鏡下で(SL-130、ツアイス、図1)前眼部 に異常がないことを観察した後、画像として記録・保存した。なお、動物業者から購入 した実験家兎には、角膜上皮傷害が49%に見られた。角膜蛍光色素染色により角膜上皮 傷害を認めた家兎は、抗生剤およびビタミンB12軟膏により、角膜上皮傷害を完全に治 療後に実験に供した。
図1 細隙灯顕微鏡 図2 レーザーフレアセルメーター 電波ばく露前の前眼部の炎症の有無はレーザーフレアセルメーター(FC-2000、
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コーワ、図2)で測定し、その程度を数値として評価した。
なお、すべての動物実験は金沢医科大学動物実験指針に従って行った。
飼育環境(温度:24±2℃、湿度:50±10%)
2.ばく露装置とばく露条件 実験1:ミリ波ばく露実験
ミリ波(60GHz)ばく露実験は金沢医科大学動物実験施設(基礎棟、地下1階)のシ
ールドルーム内にばく露装置を設置して行った。(図3)
5W級インパット発振器(QBY-603400, QUINSTAR Technology, Inc.)に焦点距離 15cmのレンズアンテナを装着し、3000、1500、800、100、10mW/cm2 6分間のばく露 を行い眼傷害発症閾値の検索を行った。
図3 動物実験施設のシールドルーム内に設置したばく露装置
家兎はプラスチック製の固定器(本実験用にデザインした特注品)に保持し、焦点距 離15cmのレンズアンテナ(本実験用にデザインした特注品)を介して6分間のばく露を 行った。
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注射することにより全身麻酔を行い、0.4%オキシプロカイン点眼による局所麻酔をば く露直前に両眼に行った。両眼瞼はガムテープで開瞼状態に保持した。
麻酔施行により家兎の瞬目が抑制され、角膜は乾燥しやすくなり角膜上皮傷害が誘発 される。これを防ぎ角膜上皮を正常状態に維持することを目的に、ばく露前に2%ポリ ビニールアルコール(マイティア®、千寿製薬)を両眼に点眼した。
実験には各ばく露強度ともに4~12羽の家兎を用いた。
一部の家兎は屠殺後、傷害された組織を摘出し、病理標本を作製した。
実験2:準ミリ波ばく露実験
準ミリ波ばく露実験はNICTで行った。
ばく露装置は信号発生装置、信号増幅器、焦点距離15cmのレンズアンテナおよびば く露強度を測定するパワーセンサーから構成される。周波数18-26.5GHzまでは信号発 生装置(68397C、アンリツ)からの信号をTWTアンプリファイヤー(ETM40K, ETM Electromatic Inc.)で増幅し、周波数26.5-40GHz帯はTWTアンプリファイヤー
(ETM40Ka, ETM Electromatic Inc.)を使用した。
図4 準ミリ波ばく露装置(出典:NICT)
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実験2‐1:準ミリ波帯ばく露による眼内温度変化の検討
家兎の片眼の眼窩球後、硝子体、水晶体、角膜の各部位に直径0.5mmの蛍光式温度 計(Luxtron790,Luxtron)プローブを挿入(図5)、検討周波数を18、22、26.5、35、 40GHzの5種類とし、最大入射電力密度800mW/cm2 3分間ばく露のばく露前、ばく露中、
ばく露後の眼内温度変化を検討した。
図5 眼内温度測定位置 実験2‐2:準ミリ波帯ばく露による眼傷害の形態学的検討
5種類の周波数(18、22、26.5、35、40GHz)を実験1と同様に焦点距離15cmのレン ズアンテナを介して、家兎の片眼に800mW/cm2 6分間ばく露し、形態的な眼傷害発生 を指標に各周波数の眼傷害の程度を比較検討した。
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Ⅳ 試験結果
実験1:ミリ波ばく露実験 (1) 3000mW/cm2 6分ばく露
図6に焦点距離15cmのレンズアンテナを介して3000mW/cm2のミリ波を家兎の片眼 にばく露した際の眼傷害の経過を示した。ばく露直後より虹彩の縮瞳、毛様充血、虹彩 血管の拡張を認め、ばく露により前眼部ぶどう膜炎が誘発された。ばく露1日後より角 膜混濁、角膜上皮傷害、毛様充血を認めた。ばく露3日後には角膜混濁、毛様充血がピ ークを迎え、それ以降には各所見は徐々に軽快したが、ばく露7週間後には角膜混濁は 瘢痕化した。角膜上皮傷害はばく露1日後にピークを迎え、ばく露部位に一致した部位 の角膜上皮細胞に欠損が観察されたが、ばく露3日後には角膜上皮欠損領域は縮小して いた。角膜上皮傷害は、軽度ながらもばく露8日目まで観察され、その後治癒した。上 述の所見は8羽中8羽、全例に認めた。
虹彩血管が拡張した家兎に虹彩血管蛍光造影を行ったところ、ばく露部位の虹彩血管 から著しい蛍光色素の漏出を認め(図7)、ばく露により血液-房水柵が破綻されたこと を示す所見が得られた。
図6 3000mW/cm2ばく露による眼傷害の経過
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図7 3000mW/cm2ばく露眼の虹彩血管蛍光造影
図8に3000mW/cm2 6分ばく露3日後の水晶体上皮伸展標本(瞳孔領中心部)を示す。
正常水晶体では認められない瞳孔領中心部に分裂期の細胞が見られることより、ばく露 により、なんらかの傷害が水晶体に及んだことを示唆する所見が得られた。
図8 3000mW/cm2ばく露3日後の水晶体上皮伸展標本
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図9に焦点距離15cmのレンズアンテナを介して1500mW/cm2のミリ波を家兎の片眼 にばく露した群の中で、最も重篤な眼傷害を示した家兎の経過を示した。ばく露直後よ り軽度の虹彩の縮瞳(1羽/8羽)、虹彩血管拡張(2羽/8羽)を認めたが、その他の眼 炎症所見は認めなかった。ばく露1日後より角膜混濁(3羽/8羽)、軽度の角膜上皮傷 害(5羽/8羽)、微かな毛様充血(3羽/8羽)を認めた。ばく露3日後には上記の所見 は消失していた。
ばく露8日後、3週間後、7週間後まで観察を行ったが、ばく露眼、非ばく露の反対眼 ともに正常所見を呈した。
図9 1500 mW/cm2ばく露による眼傷害の経過
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(3) 800、100、10mW/cm2 6分間ばく露
電 磁 波 ば く 露 後 の 眼 傷 害 の 発 生 、 推 移 、 傷 害 の 治 癒 過 程 に つ い て3000お よ び 1500mW/cm2群の所見を指標として、眼傷害消失の閾値を検索したところ、800mW/cm2 ばく露群において、微かな一過性の角膜上皮傷害が認められたが(1羽/5羽)、100、
10mW/cm2ばく露群では、実験に供した4羽すべてで、角膜上皮傷害、眼内の炎症発生
を示す縮瞳所見、眼内フレアの上昇などは実験期間を通じて見られなかった。
図10に各ばく露群の眼内フレア値の変動を示した。各ばく露群ともにばく露直後の方 が、ばく露1日後よりもフレア値が高い傾向を示した。3000mW/cm2 6分ばく露群は非 ばく露の反対眼より有意に高い(P<0.01)眼内フレア値を示し、眼内炎症を誘発して いることを客観的に示したが、それ以外のばく露群、1500、800、100、10mW/cm2 6 分ばく露では、ばく露群、非ばく露群の両者に統計的有意差は認めなかった。
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL EX CTL
曝露直後 曝露1日後 曝露直後 曝露1日後 曝露直後 曝露1日後 曝露直後 曝露1日後 曝露直後 曝露1日後
3000 mW/cm2 1500 mW/cm2 800 mW/cm2 100 mW/cm2 10 mW/cm2
Flare (Photon count/m s)
図10 各ばく露の眼内フレア値の変動
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図11に周波数毎の眼内温度の変化を示した。各周波数のデータは5-7眼のデータを 平均化したものである。最も高い眼内温度を示したのは40GHzで次いで35>22≒
18>26.5GHzの順であった。温度上昇が最も顕著に見られた眼組織は角膜で、水晶体で
もばく露による若干の温度上昇が見られたが、硝子体、球後でのばく露による温度変化 は認めなかった。
図11 周波数毎の眼内温度の変化
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実験2‐2:準ミリ波帯ばく露による眼障害の形態学的検討
図12に各周波数を800mW/cm2 6分間ばく露1日後の眼傷害所見のまとめを示した。18、
22、26.5GHz群では眼内のぶどう膜炎惹起を示す縮瞳、毛様充血は無く、角膜混濁また
は角膜上皮傷害を示す蛍光染色所見も認めなかった。35GHzでは前眼部の炎症所見、
角膜混濁は認めなかったが、瀰漫性の角膜上皮傷害を認めた(1羽/4羽)。40GHz群で はばく露直後より明らかな縮瞳を示し(4羽/4羽)、角膜混濁も4例全例に認めた。
ばく露後の眼傷害の程度を指標とした各周波数による眼傷害は、40GHzが最も重篤 な傷害を示し、35GHzでは一過性の微細な角膜傷害を示したが、18、22、26.5GHzの 条件でのばく露では、眼傷害は誘発されなかった。
図12 周波数と眼傷害
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Ⅴ まとめ
1. 60GHz 5W発信装置に焦点距離15cmのレンズアンテナを装着し、3000mW/cm2の6 分間ばく露により、一過性の角膜上皮傷害、前眼部ぶどう膜炎の症状である虹彩血 管拡張、縮瞳が見られ、眼炎症が誘発された。また、一過性の傷害が水晶体にも及 ぶことが示唆された。
2. 3000、1500、800mW/cm2の電力密度で6分間のばく露では、ばく露量に依存した 眼傷害の発生が認められたが、100、10mW/cm2のばく露では眼傷害の発現はなか った。
3. 眼傷害、眼内温度上昇を指標にした準ミリ波帯の予備検討では、40>(60)>35
>18、22>26.5GHzの順で異常所見が見られた。今後40GHzでの検討が必要と思 われる。
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