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ドシメトリに基づく物理的影響メカニズムの検索

ドキュメント内 はじめに (ページ 151-191)

Ⅲ 結果のまとめ

6.2 ドシメトリに基づく物理的影響メカニズムの検索

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1 .序論

1.1 研究目的

本研究は、高周波ばく露が生体に及ぼす細胞生物学的な影響について、物理的な立場 から機構解析を行うことを目的としている。本研究と並行して、「6.1細胞影響評価と機 構解析(以下「6.1項の研究」という。)」では生物学的な立場から研究が行われている。

2つの研究プロジェクトでは、生物学的な検索の指標に共通点はあるが、6.1項の研究が 細胞の種類や生化学的な検出系を考慮した生物学的側面に着目しているのに対し、本研 究では高周波電磁界の制御やそれに伴う熱的環境の変化などに着目した物理的な側面 を重点的に検討の対象としている。これらの研究が互いに補完しあうことで、高周波電 磁界の生体影響に対する理解が深まることが期待される。この点が6.1項の研究と本研 究の特色であり、この特色を活かした成果を得ることが本研究の目的である。

本研究の検討対象には、ばく露によって生じる物理環境の変化によるアーチファクト を明らかにすることも含まれる。すなわち、細胞試料を高周波電磁界にばく露すると、

細胞位置における物理環境の変化は避けられず、その結果として細胞機能に影響する可 能性がある。その変化はばく露によって生じる点では高周波電磁界による作用には違い ないが、電磁界固有の作用であるとは限らない。例えば、高周波ばく露が温度上昇をも たらすことは周知であるが、これは熱作用として扱われ高周波電磁界にのみに限られた 作用ではない。したがって温度上昇による影響と、高周波電磁界そのものによる影響は 区別されなければならない。ばく露による影響が、高周波電磁界による熱的な作用であ るのか、非熱的な影響であるのかを明らかにすることも重要な課題である。

今年度は前年度の研究をふまえ、物理環境の変化をより深く検討し細胞実験を実施す る。より詳細な熱解析手法により、作用が細胞位置の温度場だけに依存するかどうかを 明らかにする。また熱的な作用と非熱的な作用を識別することを目的として、円形導波 管ばく露装置に高精度の温度制御機構を付加し、詳細な実験と解析を実施する。

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1.2

これまで細胞用のばく露装置として、我々の研究室では円形導波管のTE01モードを利 用したばく露装置[1]、方形スリット導波管を用いたばく露装置[2,3]を開発し、6.1項の 研究の実験に使用されてきた。また、昨年度は、円形導波管のTM01モードを用いた新 たなばく露装置(図2.2)[4]を用いた細胞ばく露実験を行い、平均電力が同じであれば 熱ショックたんぱくの発現はピーク電力に依存しないことがわかった[5]。本年度は、

このばく露装置を用いて、さらに詳細な熱解析にもとづいた細胞ばく露実験を報告する。

またばく露装置に高精度の温度制御機構を付加し、その性能評価を報告する。

第2項では、前年度の成果をふまえ、不均一温度場における電磁界ばく露による細胞 影響を詳細に検討した結果を報告する。前年度では、平均電力が同一条件で実験を行い、

熱ショックたんぱくの発現はピーク電力に依存しないことがわかったが、さらに多角的 な面から検討を重ねるために、温度場を詳細に検討し、発現量を比較した結果を述べる。

第3項では、第2項に述べた結果をふまえ、温度測定の重要性について再検討する。細 胞実験に使用されるインキュベータは、庫内の温度分布が一様でないことはあまり認知 されていない。また実験に使用する温度計の誤差を含めた検討が重要であることをこの 項で検討する。

第4項では、昨年度まで用いてきた円形導波管型ばく露装置に改良を重ね、ペルチェ 素子とサーミスタ温度計によるPID制御を用いた高精度の温度制御機構について述べ る。この制御機構により、いままでは温度上昇が著しく細胞実験が不可能であった高電 力のばく露についても可能になった。最後に、第5項で得られた結論をまとめ、本年度 の成果を総括するとともに、今後の課題について述べる。

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2.不均一温度場を考慮した細胞影響評価

2.1 はじめに

前年度の研究において、パルス波を用いたばく露実験を行い、平均電力が同じであれ ば熱ショックたんぱくの発現はピーク電力に依存しないことがわかったが、さらに多角 的に検討するために、詳細な熱解析を行い実験を行った。電磁界ばく露により細胞位置 の温度上昇が生じるが、その温度場は細胞位置によって異なり一様ではない。そのよう な不均一な温度場において、熱ショックたんぱくの発現を定量的に解析した。

2.2 ばく露装置の仕様

この実験に使用したばく露装置は円形導波管ばく露装置である。円形導波管ばく露装 置は、導波管内に培養容器を設置する構造のため、電波の外部漏洩が小さいという特長 がある。また、円筒導波管のTM01モードを用いた装置であるため、金属終端面上に培 養容器を置くことができ、熱伝達が良いことがあげられる。ここで円筒導波管のTM01モ ードとは円筒導波管内で電界と磁界が図2.1に示すような分布を持つ[6]。図2.1のような 導波管内のモードを用いることにより、細胞培養容器内の細胞用培地における電磁界分 布の制御が可能になり,定量的な曝露評価を行う場合に有利である。数値解析の結果に よれば、ばく露装置への入射電力1Wあたりの培地底面での最大SARが24.1W/kg、培地 底面における平均SARが17.9W/kgである。また、培地の注入量を変化させ、培地の高 さを変えることにより(この実験では培地の高さを7mmとして行った)、細胞位置(本 実験では付着細胞を使用しているので培地底面となる。)でのSAR分布が変化し、目的 に応じた条件でのばく露を行うことが可能である。本研究で使用した培地の高さ7mm の条件では、細胞の存在する培地底面におけるSAR分布の相対偏差が約25%であり、

Kusterらの主張する相対偏差30%以内が望ましいとするばく露装置の要求を満たし[7]、 比較的均一性の高いばく露を行うことが可能である。

ここでは温度制御機構を配置せずにばく露実験を行い、昨年度の研究結果を詳細な熱 解析を行うことにより多角的に検討した。ばく露実験の装置の構成は図2.4に示す。

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図2.1 円形導波管のTM01モードにおける電磁界分布

図2.2 円形導波管のTM01モードを利用したばく露装置。

円形導波管下部に金属終端面が設置されている。

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図2.3 円形導波管ばく露装置の金属端面

この上に細胞培養容器(90mmφ)を設置する。培養容器は金属終 端面の溝に固定され、毎回同一の条件でばく露が可能である。

図2.4 実験装置の構成 2.3 実験の概要

ばく露に使用した細胞はJCRB (Japanese Cancer Research Resources Bank)にて 入手したチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO-K1細胞である。本実験では熱ショッ クタンパク(HSP:Heat Shock Protain)の1種であるHSP70について遺伝子レベルでの 発現を定量的に検出する。HSP70が遺伝子レベルで発現する場合、細胞中に存在する

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HSP70の遺伝子発現を観測するにはHSP70の塩基配列を持つmRNAを定量的に検出出 来ればよい。mRNAを定量的に観測するために、ここではリアルタイムRT-PCRという 手法を用いる。PCR(Polymerase Chain Reaction)は目標とする塩基配列(ここでは HSP70の塩基配列)を持つDNAを増幅するための手法である。PCRではmRNAを直接 増幅出来ないため、mRNAをDNAに逆転写(RT:Reverse Transcription)する必要があ る。mRNAの塩基配列をDNAへ一度逆転写し増幅する手法をRT-PCRという。ただし

通常のRT-PCRでは遺伝子発現の定量化が出来ない。ここでは遺伝子発現量を定量化す

るために、目標遺伝子の増幅量を時間的に追跡し、そこから最初の遺伝子の量を推定で きるリアルタイムRT-PCRを用いている。リアルタイムRT-PCRで遺伝子発現量の定量 化を行う場合に、基準となる遺伝子を用いてデータの規格化を行う必要がある。この基 準となる遺伝子のことを内在性コントロールと呼び、実験条件や実験処理法によって発 現量が変動しない遺伝子を選ぶ必要がある。内在性コントロールには多くの細胞で常に 一定量発現すると考えられているGAPDH(グリセロアルデヒドリン酸脱水素酵素)遺 伝子を使用した。

2.3.1 実験手順

実験の手順は次の通りである

① 培養容器内に細胞を1×10 cells/dish6 で播種

② インキュベータ内で一晩培養(37℃、5% CO2、湿度100%)

③ インキュベータ内に設置したばく露装置に培養容器を配置し2.45GHzにてばく 露(ばく露条件は、培地底面の平均SARを5W/kg、10W/kg、shamとし各4時 間のばく露を行う)

④ ばく露後すぐにセルスクレーパーを用いて培養容器から細胞をはがし、RNA抽 出装置(QIAGEN社 BIO ROBOT EZ1)で細胞から目的の遺伝子を含む全ての RNAを抽出

⑤ 吸光光度計でRNA濃度を測定した後、-80℃で凍結保存

⑥ すべてのばく露が終了した後、RNAを解凍してリアルタイムRT-PCR装置

(ABI PRISM7000、Applied Biosystems) にかけて、その結果からHSP70の 遺伝子発現をΔΔCt法を用いて解析

本実験では、5W/kgと10W/kgのばく露条件においてサンプル数を10枚とし、shamば く露の条件においてサンプル数を5枚とした。

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2.4 HSP70発現量の温度依存性

熱ショックたんぱくは熱以外の環境的要因、病原体、化学物質などによっても発現す るが、主に熱影響によって発現されることが知られている。熱ショックたんぱくの発現 量については、熱環境に曝される時間にも依存するため、今回のばく露条件である4時 間において、熱環境を変化させた条件で熱ショックたんぱくHSP70の発現量を調査し た。

図2.5 HSP70発現量の温度依存性

図2.5にHSP70発現量の温度依存性を示す。図の縦軸は37℃の条件における遺伝子発 現量で規格化したときの「遺伝子発現量比率」であり無次元量である。また横軸は温度℃

を示し単位は摂氏である。ここでは37℃の条件における遺伝子発現量で規格化している ので、37℃における遺伝子発現比率は1である。コントロール数は37.0、38.5、39.5、 40.6、41.4、42.2℃(設置時間は4時間、ただし培地の初期温度は37℃のため37℃以上 の条件では定常温度に至るまでマイルドな温度上昇となる)の6条件で各5枚ずつ行い、

ΔΔCt法により37℃コントロールを基準値として相対値を求めた。エラーバーは標準 偏差を示す。それぞれの培地底面の温度は蛍光ファイバー温度計(Model 790, Luxtron)

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