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内分泌撹乱様作用評価試験

ドキュメント内 はじめに (ページ 88-106)

Ⅰ 要旨

本研究の目的は、携帯電話から発せられる電磁波が内分泌撹乱様作用を有するか否か を明らかにすることである。これまでに報告されている内分泌撹乱物質の多くがエスト ロゲン様作用を持つことで生体内における内分泌に影響を及ぼすと報告されており、こ れを踏まえ本研究においては電磁波ばく露によるエストロゲン様作用の可能性につき 検討を行った。

内因性のエストロゲンの影響を考え、本研究においては卵巣切除後の雌のSprague-

Dawley(SD)ラットを用い、高周波電磁波の短期ばく露の影響を明らかにするために

実験を行った。

電磁波ばく露は、ばく露群のラットに1439MHz TDMA PDC方式の電磁波をカルー セル式のばく露装置を用いて、脳平均SAR7.5W/kg、全身平均SAR1.2W/kgの強度でば く露させた。偽ばく露群に対しては、ばく露群と同様な電磁波ばく露装置に入れる処置 のみを行った。ケージ群のラットは、電磁波ばく露装置には入れなかった。なお、陽性 コントロールとして17-β-エストラジオールを投与するE2群を設定した。体重を測定 した後子宮を切除し、子宮重量は脂肪組織を除去した後に計測した。血清エストラジオ ール値はラジオイムノアッセイによって評価した。

結果は、子宮重量/体重比、血清エストラジオール値ともにばく露群、偽ばく露群、

ケージ群の3群間において有意差は認められなかった。また、本実験条件においては携 帯電話の電磁波レベル(脳平均SAR<2 .0W/kg)を大幅に上回る強度の電磁波ばく露に よっても、血清エストロゲン濃度、子宮重量に有意な影響をもたらさないことが示され た。

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Ⅱ 研究目的

高周波電磁波(800MHz-2GHz)を使用する携帯電話は近年目覚しく広く普及して きている。それに伴い、携帯電話から発せられる電磁波による遺伝子、癌、睡眠、免疫 系、神経系などへの影響に関する社会的懸念が生じている。携帯電話を含めた、電磁波 を発する電気製品の普及から、電磁波の影響は環境問題として取り上げられることもあ る。

また一方、同様に環境問題として社会的関心を集めているものとして内分泌撹乱物質 が挙げられる。内分泌撹乱物質は通称“環境ホルモン”と呼ばれ、環境中に放出された 化学物質がホルモン様もしくは抗ホルモン様に作用する。これらは生体の恒常性、生殖、

発生、行動などに関与する過程に影響を及ぼす可能性が指摘されている。これまでに報 告されている“環境ホルモン”の多くはエストロゲン様作用を持つとされ、主に生殖へ の影響が動物実験で確認されている。

エストロゲンは乳癌の危険因子であることが知られており、エストロゲンばく露過剰 に繋がる晩期閉経、エストロゲン治療、高エストロゲン血症などは乳癌リスクを高める と報告されている[1](図1)。乳癌はエストロゲン受容体を発現していることが多く、

エストロゲンは、乳癌に受容体を介して作用し、乳癌の増殖、転移を含めた進展に寄与 する。実際に乳癌の治療では抗エストロゲン製剤が用いられている。

“環境ホルモン”は乳癌を含めた癌の発生について関連が疑われている。1960年代 から1970年代にかけて切迫流産の治療に広く使用されたジエチルスチルベステロール

(DES)は合成エストロゲンであるが、子宮内でDESにばく露された女性は乳癌に関 する危険率が20-30%高いと報告されている[2]。これらの報告も受け、エストロゲン 様作用をもつ環境ホルモンのばく露が乳癌リスクを高めるという社会的懸念が高まっ てきている。

これまでに電磁波ばく露と乳癌リスクについては様々な疫学的検討がされており、メ タアナリシスによると電磁波ばく露による女性の乳癌リスクは1.12倍(95%信頼区間 1.09-1.15)、男性の乳癌リスクは1.37倍(95%信頼区間1.11-1.71)高まると報告され ている[3]。しかしながら図2、3に示す通り、電磁波の乳癌リスクへの影響については 各研究間の差が大きく結果が様々であり、未だ結論が得られておらず社会的不安が解消 されていないのが現状であると考えられる。

携帯電話から発する高周波電磁波が、“環境ホルモン”と同様の作用、すなわちエス トロゲン様作用を有するかどうかを本年度の研究目的とした。血清エストロゲン値、及 びエストロゲンの標的臓器である子宮の重量変化を検討することで、高周波電磁波のエ

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響が大きいため、卵巣切除後の雌ラットを実験に用いた。1439MHz、TDMA、PDC方 式の高周波電磁波を1日4時間、3日連続でばく露させ、実際の携帯電話からのばく露レ ベルを数倍以上に上回る条件でのばく露による血清エストロゲン値およびエストロゲ ン標的臓器である子宮の重量に対する影響を検討したので報告する。

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図1 エストロゲンと乳癌リスク 文献1より抜粋

* RISK GROUPの「LOW」を基準とした「HIGH」の相対危険度

†35歳以上の卵巣切除と乳癌の危険度との間に関連を認めない。

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0 1 10

Relative Risk and 95% CI (log scale)

Vagero 1985

McDowall1986 Wertheim

er 1987 Vena 1991

Guenel1993 Schreiber 1993

Vena 1994 Loomis 1994

Cantor 1995a Cantor 1995b

Fear 1996 Tynes1996

Coogan1996 Verkasalo

1996 Li 1996

Kelsh1997 Gammon 1998

Coogan1998 Johansen 1998

Petralia 1998

Feychting1998 Kliukiene1999

Floderus1999 Forssen2000

ALL

0 1 10

Relative Risk and 95% CI (log scale)

Vagero 1985

McDowall1986 Wertheim

er 1987 Vena 1991

Guenel1993 Schreiber 1993

Vena 1994 Loomis 1994

Cantor 1995a Cantor 1995b

Fear 1996 Tynes1996

Coogan1996 Verkasalo

1996 Li 1996

Kelsh1997 Gammon 1998

Coogan1998 Johansen 1998

Petralia 1998

Feychting1998 Kliukiene1999

Floderus1999 Forssen2000

ALL

図2 電磁波と乳癌リスク(女性)

文献3より抜粋

ALL

Floderus1999 Feychting1998 Cocco1998 Johansen 1998 Stenlund1997 Fear 1996 Savitz1995 Theriault1994 Floderus1994 Rosenbaum 1994 Guenel1

993

Tynes1992 Loomis 1992 Matanoski1991 Demers 1991 0 1 10 100

Relative Risk and 95% CI (log scale)

ALL

Floderus1999 Feychting1998 Cocco1998 Johansen 1998 Stenlund1997 Fear 1996 Savitz1995 Theriault1994 Floderus1994 Rosenbaum 1994 Guenel1

993

Tynes1992 Loomis 1992 Matanoski1991 Demers 1991 0 1 10 100

Relative Risk and 95% CI (log scale)

図3 電磁波と乳癌リスク(男性)

文献3より抜粋

データ中央の点はrelative risk(相対危険度)を示す。

線は95% CI(95% confidence interval:95%信頼区間)を示す。

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Ⅲ 試験方法

1. 実験動物

実験動物は12-13週齢の雌のSprague-Dawley(SD)ラット64匹を用いた。実験の 約4週前に卵巣切除処理を行い、処理から実験までに十分な回復期間をとった。

ばく露装置に装着し電磁波ばく露する「ばく露群」(16匹)、ばく露装置には装着する が電磁波ばく露を行わない「偽ばく露群」(16匹)、電磁波ばく露もばく露装置への装着 も行わない「ケージ群」(16匹)、17-β-エストラジオールを投与する「E2群」(16匹)

の4群に分けた。「偽ばく露群」「ケージ群」は陰性コントロールとして、「E2群」は陽 性コントロールとして用いた。温度22±2℃、湿度40±5%の条件で給水給餌装置を有す るケージ内で4匹ずつ飼育を行った。

2. 血清エストロゲン値、子宮重量測定

3日連続のばく露翌日に麻酔下に心臓採血および子宮の摘出を行った(図4、5)。 血液は血清分離を行い測定が始まるまで-80℃で保存した。摘出した子宮は付着した 脂肪組織を全て除去した上で重量を測定した。

血清エストラジオール濃度の測定はSRL incに委託しラジオイムノアッセイを用いて 測定した(参考資料1-5)。

図4 卵巣切除後ラットの子宮 図5 付着した組織を切除した後の卵巣切 除後ラットの子宮

ラットの双角子宮

ラットの双角子宮 子宮に付着した脂肪組織は全て 切除した後に重量を測定した。

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参考資料2

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標準血清の代わりに SIGMA社 の エ ス ト ラジオール(参考資 料5)を使用。

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参考資料4

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3. ラット脳電磁波ばく露装置

ばく露装置はBurkhardtらの報告[4]に基づき、改良修正を加えて作製したもので、

基本的にはImaida らの実験[5,6]、Tsurita らの実験[7]、Yamaguchiらの実験[8]、Hata らの実験[9]に用いられたものと同じ型式である。(平成12-16年度研究と同様)電波の 外部への漏えいを防ぐため、シールドルーム内(図6)でばく露実験を行った。

3.1. 構造

今回、我々は12-13週齢の雌ラットを用い、平成12、13年度の実験の際に用いた体 重制限を加えた30週齢以上のラットの実験の際と同じ直径60mmのアクリルの筒を用 いて実験を行った。このアクリルの筒を8個用意し、それぞれにラットを固定した。筒 の先端は先細りになり、その先端からラットが鼻先をだせるようになっている。また、

ラットの位置を固定するために、筒の後方には仕切り板がある(図7)。それら8個のア クリル筒を、ラットの頭部が中心に向くように放射状にカルーセルの上に配置した。そ のカルーセルを90×90×70 cmの小型電波暗室内(図8)にモノポールアンテナを中心 に設置した(図9)。ラットの体温上昇を防止し、かつ固定によるラットのストレスを低 減させるためにばく露装置の上部に取り付けたファンにより新鮮な空気を送風ダクト を通じてラットに送風した(図10)。この装置を、シールドルーム内にばく露実験用お よび偽ばく露実験用に計2台準備した。

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図1 実験室内シールドルーム

図2 アクリルの筒

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図3 電磁波ばく露箱

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図4 送風ダクト、モノポールアンテナ、カルーセル

図5 ばく露装置内のラット

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3.2. 電磁波周波数

1439MHz TDMA PDC方式(実際の携帯電話通信で使用されている周波数、Frame period 20 msec、duty比33%)を用いた。

3.3. ドシメトリ

電磁波ばく露によるドシメトリはnumericalラットモデル(図11)を用いたFDTD法 にて計算されており(図12)、これにより頭部・全身それぞれのSARを求めた。

図6 numerical ラットモデル

0.001 0.01 0.1 1.0 [W/kg]

図7 ラットモデルを用いたドシメトリ解析

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