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第 3 章 GPS 時刻比較

3.6 観測方程式

GPS受信機が出力する観測量は,GPS衛星の発振器をもとに生成された送信信号と,受信機内 の発振器をもとに生成された複製信号間の相関処理により得られる群遅延と搬送波位相である.こ こで得られる群遅延は,衛星・アンテナ間の伝搬遅延に加え,発振器相互の誤差を含むため擬似

距離(Pseudorange)と呼ばれる.なお,擬似距離はPRN符号間の位相差にも等しい事からコー

ド位相(Code Phase)と表される事もある.

衛星kからの信号を受信機iで時刻tに受信した擬似距離Pikは式(3.5)で与えられる[38]. Pik(t) = rk(t−τik)ri(t)+Iik+Tik

+c[dti(t)−dtk(t−τik)] +c[di(t) +dk(t−τik)] +eki (3.5) ここで,rkは衛星の位置ベクトル,riは受信機アンテナの位置ベクトル,Iikは電離層による遅延,

Tikは対流圏による遅延,dtidtkは受信機,衛星のクロックオフセット,didkは受信機,衛星 の機器内遅延,eki は観測およびモデル誤差,τikは衛星,受信機間の伝搬遅延,cは光速を表す.擬 似距離の単位はmである.

同様に,搬送波位相Φki は式(3.6)で与えられる.

Φki(t) = ∥rk(t−τik)ri(t)∥ −Iik+Tik+c[dti(t)−dtk(t−τik)]

+c[δi(t) +δk(t−τik)] +λ[ϕi(t0)−ϕk(t0)] +λNik+εki (3.6)

3.6. 観測方程式 23 ここで,δiδkは搬送波位相における受信機,衛星それぞれの機器内遅延,ϕiϕkは受信機,衛 星の初期位相,Nikは搬送波位相の波数不確定,εki は搬送波位相における観測およびモデル誤差,

λは波長を表す.式(3.5)と式(3.6)の違いとして重要な点は,電離層遅延の符号が異なる事で ある.

GPS解析では,式(3.5),式(3.6)をそのままの形で使う他に,異なる局間や衛星間で差分を 取る事により,outlierの検出や,未知数を減らす事でパラメータ推定をやりやすくする工夫が行 われる.ここでは,主に時刻比較解析で使用される線形結合(Linear Combination)について説 明する.

一重位相差

2台の受信機ij間で共通の衛星kに対する差分を取る方法を一重位相差(Single Difference) と呼ぶ.これは,供視法と同じ観測量であるが,搬送波位相を主とする解析では,測地解析に習っ て供視法ではなく一重位相差と呼ぶ事が多い.搬送波位相の一重位相差は式(3.7)で表される.

Φkj(tj)Φki(ti) = ∥rk(tj−τjk)rj(tj)∥ − ∥rk(ti−τik)ri(ti)∥

−Ijk+Iik+Tjk−Tik

+c[dtj(tj)−dtk(tj−τjk)]−c[dti(ti)−dtk(ti−τik)]

+c[δj(tj) +δk(tj−τjk)]−c[δi(ti) +δk(ti−τik)]

+λ[ϕj(t0)−ϕk(t0)]−λ[ϕi(t0)−ϕk(t0)]

+λNjk+λNik+εkj −εki (3.7) 式(3.7)では,衛星の初期位相ϕk(t0) は共通なため完全に消去できる.また,伝搬時間τjkτik の違いは小さく,その間においてはδk(tj−τjk)≈δk(ti−τik),およびdtk(tj−τjk)≈dtk(ti−τik) とみなす事ができる.簡易表記()j()i = ()ij を用いて式(3.7)を書き直すと式(3.8)となる.

Φkij ≈ ∥rkrj∥ − ∥rkri∥ −Iijk +Tijk +cdtij+ij+λϕij(t0) +λNijk +εkij (3.8) 観測時刻は受信機の発振器を基準とするため,厳密にはtitjは等しくない.また,式(3.8)の rkも僅かに異なる.受信機の発振器が大きくずれていると,式(3.8)が成り立たなく恐れがある が,一般に時刻比較を行う局の受信機は原子時計に同期しており,その差は僅かなためtitj の ずれが問題となることはない.

同様に,擬似距離の一重位相差は式(3.9)で表される.

Pijk ≈ ∥rkrj∥ − ∥rkri+Iijk +Tijk+cdtij +cdij+ekij (3.9) 電離層フリー線形結合

マイクロ波が電離圏を通過する際,周波数に依存した分散が発生し,見かけ上伝搬時間に遅れ,

または進みが生じる.この遅延は近似的に周波数の2乗に反比例することから,L1帯,L2帯の周 波数を考慮した観測量は,式(3.10)〜式(3.13)と表す事ができる.

Pi,1k = ρki +ski + 1

f12Iik+Dki,1+eki,1 (3.10)

24 3 GPS時刻比較 Pi,2k = ρki +ski + 1

f22Iik+Dki,2+eki,2 (3.11) Φki,1 = ρki +ski 1

f12Iik+ ∆ki,1+λMi,1k +εki,1 (3.12) Φki,2 = ρki +ski 1

f22Iik+ ∆ki,2+λMi,2k +εki,2 (3.13) ここで,

ρki = rkri

ski = c(dti−dtk) +Tik Dik = c(di−dk)

ki = c(δi−δk)

Mik = ϕi(t0)−ϕk(t0) +Nik

である.ここで,機器内遅延Dkiki は時間的に変化しないバイアス成分とみなし無視する.ま た,観測誤差は白色雑音と仮定し,式(3.10)と式(3.11)を使って式(3.14)と書き直すと,電 離層に起因する遅延を相殺した観測量を求める事ができる.

P3 = f12

f12−f22P1 f22

f12−f22P2 (3.14)

= f12

f12−f22(ρ+s) + f12 f12−f22

1

f12I− f22

f12−f22(ρ+s)− f22 f12−f22

1 f22I

= ρ+s

同様に,搬送波位相は式(3.15)となる.

Φ3 = f12

f12−f22Φ1 f22

f12−f22Φ2 (3.15)

= ρ+s+ 1

f12−f22(f12λ1M1−f22λ2M2)

式(3.14),式(3.15)は電離層フリー線形結合(Ionosphere-Free Linear Combination)と呼ば れ,記号を用いて擬似距離はP3,搬送波位相はL3と表記される.二周波受信機を用いた時刻比 較では,P3L3観測量を用いた解析が基本である.

Geometry-Free

Geometry-Freeは式(3.12)と式(3.13)を単純に引き算するもので式(3.16)で与えられる線 形結合である.

L4 = Φ1Φ2 (3.16)

これはL1帯,L2帯による電離層遅延の差分と初期位相(M)の差分のみを持つため電離層の推定 に使用される.また,サイクルスリップ検出の際にも使われる.擬似距離の差分(P4=P1−P2) も同様である.