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5.4 受信機の概要

時刻比較用GPS受信機の全体ブロック図を図5.10に示す.受信機は,大きく分けてアンテナ,

アナログ信号処理部,デジタル信号処理部(ソフトウェア相関器)の3つのブロックに分けるこ とができる.このうちアンテナについては,市販の二周波用アンテナを使用したので,本研究の ために開発したのはアナログ信号処理部とソフトウェア相関器の二つの部分である.

5.4.1 アナログ信号処理部

アナログ信号処理部の目的は,アンテナから出力されるRF信号をA/D変換器に入力可能な周 波数帯域へ変換するためのものである.

A/D変換器

時刻比較用目的のためには,受信したGPS信号をデジタル信号に変換する際のサンプリングク ロックを,外部から供給される基準信号に同期させる必要がある.サンプリングクロックの同期の

5.4. 受信機の概要 53

GPS Antenna

Personal Computer RF Front-End

RF signal IF signal

ADC

1/10 MHz

10 MHz 1 PPS

Digital Signal

USB 2.0

Software Reciver

Pseudorange Carrier Phase

Atomic Clock

Antenna Part Analog Part Digital Part

図5.10: 時刻比較用GPS受信機の全体ブロック図

みでは2.2節で述べたように周波数のみの比較となり,時刻比較まで可能とするには,毎秒のサン プリングタイミングを外部から供給される1 PPSでリセットする機能が必要となる.加えて,リ セット機能が正確でないと,内部で生成するサンプリングタイミングの信号と,外部から供給さ

れる10 MHzの位相関係が,電源のon/offなどによりずれが生じ正確な時刻比較が行えなくなる.

本研究では,外部基準信号の入力が可能で,なおかつ10 MHzと1 PPSの位相関係がVLBI観 測で実績がある日本通信機製の汎用A/D変換器(K5/VSSP32)[85]を使用した.K5/VSSP32の 写真を図5.11に,諸元を表5.2にそれぞれ示す.

表5.2: K5/VSSP32の諸元

サンプリング周波数 40 KHz 64 MHz 11段階 サンプリングビット数 1, 2, 4, 8ビット

入力チャンネル数 最大4チャンネル 基準信号入力 5/10 MHz, 1 PPS 最大転送レート 256 Mbps

ホストインターフェース USB 2.0

RFフロントエンド

K5/VSSP32のアナログ入力帯域は300 MHzまでのため,L帯のGPS信号をIF帯域へ変換 する必要がある.ソフトウェア受信機は搬送波位相が主の観測量であるため,周波数変換におい て不要な位相情報が付加されないよう設計する必要がある.そこで,位相雑音特性がよいPLO

(Phased-Lock Oscillator)を使用して周波数変換を行った.

54 5章 時刻比較用GPS受信機の開発

図 5.11: 汎用A/D変換器(K5/VSSP32

試作したRFフロントエンドのブロック図を図5.12に,写真を図5.13に示す. アンテナからき た信号は,初段の低雑音増幅器(Low Noise Amplifier; LNA)で増幅された後,L1帯(1575.42 MHz),L2帯(1227.6 MHz)に二分配しRFフィルタで不要帯域を取り除いた後,外部10 MHz に同期したPLOによりIF帯に変換される.RFフィルタは,ミックスダウンによる折り返しを防 ぐのが目的のため,High-Pass Filter(HPF)を使用している.周波数変換後のIF周波数は,L1 が195.42 MHz,L2が147.6 MHzとした.サンプリング周波数を16 MHzとしているので,アナ ログ信号の有効帯域は8 MHzとなる.作成したRFフロントエンドの出力スペクトルを図5.14に 示す.サンプリング周波数が16 MHzであるため,IF帯域は16 MHz以下に設定するのが一般的で あるが,電源やローカル信号の回り込みの軽減を狙ってあえて高い周波数に設定し,K5/VSSP32 のアナログ入力特性を利用してアンダーサンプリングによりデジタル信号に変換している.デジ タル信号変換後のIF中心周波数は,L1が3.42 MHz,L2が3.6 MHzである.

5.4.2 ソフトウェア相関器

デジタル信号処理部の機能としては,受信信号と複製信号の間で相関をとり,擬似距離と搬送 波位相を計算することである.相関器を実装する際は,IF信号を複製信号で変調しビデオ周波数 帯域で相関をとる方式と,受信信号をベースバンドまで落として1/-1のビット列で相関をとる2 種類の方式があるが,本研究ではベースバンド方式を採用した.ハードウェア受信機ではビデオ 周波数帯域での相関方式が多いと思われるが,ソフトウェアで実装する場合は,どちらの方式も

5.4. 受信機の概要 55

LNA HPF

1500 MHz

Ref. 10 MHz

BPF 192~200 MHz

HPF 1200 MHz

Ref. 10 MHz BPF 144~152 MHz 1380 MHz

1080 MHz

A/D Converter

図5.12: RFフロントエンドのブロック図

図5.13: 組立てたRFフロントエンド

得られる結果は同じで処理速度も大差ないことから,プログラマの好みによるところが大きい.

パソコン上に実装したソフトウェア相関器のブロック図を図5.15に示す.サンプリングされたデ ジタル信号は,NCO(Numerically Controlled Oscillator)によりI(In-phase)/Q( Quadrature-phase)直交信号に変換されLPFLow-Pass Filter)を通過した後,あらかじめ受信機内で作成 された複製信号(付録A)との間で相関をとる.相関処理後の相関スペクトルは相互相関関数に

56 5章 時刻比較用GPS受信機の開発

8 MHz

図5.14: RFフロントエンドL1帯域の出力スペクトル波形

戻して群遅延および搬送波位相を計算する.衛星の仰角が低い間は,伝搬距離が長くなり信号が 減衰することから,相関処理の積分時間を長くした方がS/Nが改善され追尾が行いやすい.ただ し,GPS C/Aコードには50 bpsの航法メッセージが重畳されており,20 ms以上積分を行うと 符号が反転してしまい相関振幅が弱くなる危険性が生じる.そのため,単純なコヒーレント積分 が行えるのは最大20 msまでとなる.

GPUで実装する際は,図5.7にあるようにメモリ間の転送がオーバーヘッドとして大きいため,

衛星数分のデータを1次元の配列に並べ,FFTや相関に必要な複製信号との複素共役によるかけ 算は配列上で全衛星まとめて行うように実装した.この方式で,GPUL1L2別にしているが,

16 MHzサンプリングの信号を最大14衛星(28チャンネル)まで同時に処理することを可能と

した.