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82 8章 結論 開発した受信機の性能を評価するため,

1. 観測精度の理論値との比較

2. 共通基準信号,共通アンテナによる市販受信機との比較 3. 小金井〜鹿島間の水素メーザーを源振とした時刻比較 4. 小金井〜はがね山間のTWSTFTとの比較

を行った.

観測精度は擬似距離,搬送波位相とも理論値と問題ない範囲で一致しており,RFフロントエン ド,デジタル信号処理部として実装した相関処理ソフトウェアが正常に動作していることを確認 した.共通アンテナ,共通信号による市販受信機との比較では,擬似距離観測量は系統的な変動 はみられず,ハードウェア受信機と同様の観測量が得られていることを確認した.搬送波位相に ついては,L140 ps程度,L2では80 ps程度の変動成分が観測された.原因としては,周波数 変換に使用したPLOの温度特性が考えられる.フロントエンド内の温度環境をモニタするととも に,装置全体の恒温化を図っていく必要がある.

水素メーザーを用いた時刻比較実験では100秒で3×1013の比較精度を得た.現状では,全て の衛星がL2C信号を送信していないため,衛星数減少からくるパラメータ推定が不安定となる時 間帯が発生し,1日で1015には達していない.今後,GLONASSへの対応などにより衛星数の 増加を図り,常時安定したパラメータ推定が行えるようになれば1/τ での安定度改善により1 で1015台の比較精度に達すると考えている.

TWSTFTとの比較では,両方式の差分が標準偏差で1.7 nsを得た.ここでも,衛星数減少に

伴い差分が大きくなる時間帯が発生しているが,安定して解析ができていた時間帯の結果では,

TWSTFTとは1 ns以内の一致結果が得られており,ソフトウェア受信機が原子時計の変動を正

確に捉えていることが確認できた.

拡張性

本研究では,ソフトウェア無線技術を用いたことで拡張性がある時刻比較用GPS 受信機の開発 が行えた.開発した受信機では民生用GPS信号しか対応しなかったため,ハードウェア受信機と 同等の精度を得るまではいかなかったが,L2Cという新しい信号への対応を容易に行うことを確 認できた.

欧州のGALILEO,中国の北斗など各国のGNSS開発は活発化しており,Binary Offset Carrier

(BOC)のような測位信号そのものの改良も行われている.このような状況には,アルゴリズムや 方式の変更に柔軟に対応可能なソフトウェア受信機の方がハードウェア受信機より優れており,マ ルチGNSS時代のGNSS時刻比較ではソフトウェア受信機の優秀性をより発揮できると思われる.

複数の衛星を扱う場合はチャンネル数が増え,新しい信号によってはより広帯域なサンプリン グが必要となり,さらなる高速処理の必要性も考えられるが,GPUでは実装枚数を増やすことで 容易に演算性能を向上させることができる.GPUを用いたソフトウェア受信機では,新しい衛星 や,より広帯域な新信号への対応も処理速度的にも問題なく対応できることが期待される.本研 究で開発した受信機をもとに,今後はGPS以外の衛星や信号への対応を行い,複数衛星による時 刻比較精度の改善と,ソフトウェア受信機によるマルチGNSS対応の柔軟性を示していきたい.

8.2. まとめと課題 83

8.2 まとめと課題

時刻比較の装置にソフトウェア無線技術という新しい手法を取り込んだ今回の受信機開発は,こ れまでハードウェアメーカーに頼りきりだった装置開発において,新たな着眼点を与えるととも に,SDR方式の有効性を実証できたと考える.汎用のADCとパソコン上のソフトウェアで,処 理速度,観測精度いずれも市販のハードウェア受信機と同等の結果が得られたことから,ソフト ウェア受信機でも十分実用に耐えることを示した.

今回の受信機開発では,アンテナ以外は汎用装置/部品を使用して組立てた.フロントエンド には安定したPLOを選択したつもりであったが,温度特性までは注意がいかず,結果として搬送 波位相にPLOの温特が原因と思われる変動が残ってしまった.精密計測を行う上では,使用する 装置の雑音特性に加え,温度などの環境特性にも注意して選択および対策を行う必要性を改めて 感じた.今後は,アナログ部分での信号評価についても検討していきたい.

時刻比較におけるソフトウェア無線技術の利用はまだ始まったばかりである.本研究で行った GPS受信機開発と,本文中で紹介した複擬似雑音用モデムの開発をとおして,SDR技術が持つ柔 軟性と利便性の高さを認識した.NICTの研究をきっかけとして,他国でも光ファイバの伝送装 置をソフトウェアモデムで開発する研究や,FPGAではあるが時刻比較用GNSS受信機をソフト ウェア無線で作る研究が始まっている.スペクトル拡散を基礎とし,より伝送揺らぎが少ない媒 体を使用した時刻比較の研究は多くなされている.これら装置にSDR技術を用いることは,デジ タル信号処理部の多くを共通化でき装置開発を容易にするとともに,ハードウェアの装置ではブ ラックボックスとなる,デジタルフィルタや信号処理部の特性を自分たちで評価することも可能 となる.今後は,他機関との協力や技術交換も行いながら,SDR技術を用いた時刻比較高精度化 の研究を続けていきたい.

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