第 3 章 GPS 時刻比較
3.3 衛星信号
変調方式
GPSの測距信号は同一の搬送波周波数に複数の変調信号を多重化可能なスペクトル拡散方式
(Spread Spectrum System)[19]の直接拡散(Direct Sequence)方式が使用されている.直接拡 散は,搬送波信号に1または-1の信号を掛け合わせる事で位相を180◦反転させるBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調方式である.搬送波,拡散符号,変調後の信号のイメージを図3.2に 示す.
3.3. 衛星信号 17
PRN Carrier
Spred Spectrum
Binary Shift Keying
図3.2: 搬送波,拡散符号,変調波の関係
直接拡散を数式で表すと,元の信号をb(t),拡散符号をc(t)とすると拡散後の信号s(t)は式(3.1) となる.
s(t) =b(t)×c(t) (3.1)
c(t)は1または-1の符号であることから,元の信号b(t)を取出すには式(3.2)のように,s(t)に c(t)を掛け合わせる事で復調(逆拡散)できる.
s(t)×c(t) = [b(t)×c(t)]×c(t)
= b(t)×c2(t)
= b(t) (3.2)
拡散に使われる信号としては,巡回符号(Cyclic Code)である擬似雑音(Pseudo Random Noise;
PRN)符号が使われている.PRN符号は名前があらわすように次のような“雑音もどき”の特性 を持つ.
平衡性(balance property) 系列の各1周期内で,「1」の出現する回数と,「-1」の出現する回 数は,たかだか1しか違わない.
連なり性(run property) 1周期に含まれる「1の連なり」と「-1の連なり」のうち,それぞれ の連なりの半分は長さが「1」で,1/4は「2」,1/8は「3」...;すなわち,連なりの数kの ものは1/2kの割合で存在する.ただし,この規則は,分類して行った場合に連なり数が意 味ある場合にのみ成立する.
相関性(correlation property) 系列を巡回させ,あらゆる状態で各項ごとに比較を行った場 合,一致する項の数と,一致しない項の数は,たかだか1しか違わない.
18 第3章 GPS時刻比較 この特性を持つ符号を使用して逆拡散を行った場合,符号が1ビットでもずれると復調ができな くなる.ビット数が7 bitのc(t)どおしのかけ算は図3.3に示す.
0 7 14
+1
-1/7
N shift
図3.3: 7bit PRN符号の自己相関特性 スペクトル拡散方式の特徴としては[20],
1. 帯域中に混ざる挟帯域な混信波や干渉波は,逆拡散ステージで符号により拡散される事から,
雑音による影響を受けにくい.
2. 異なる符号による拡散信号は対域内の白色雑音と同等なため,同一帯域に複数信号を混在可 能(Code Division Multiple Access; CDMA)な方式で,周波数の利用効率が高い.
3. 図3.3で示したように,拡散符号と逆拡散符号の時間,周波数が一致した場合のみ復調が行 える事から,受信機内で作成した符号と受信符号間のずれを測る事で,伝搬時間を正確に求 める事ができる.
などの特徴がある.複数の衛星が同一の搬送波信号を使用することが可能なのと,“測距能力”に 適した通信方式という事からGPSの測距信号として使用されている.
測距信号
実際にGPS衛星から送信される信号はInterface Specification IS-GPS-200[21]で定義されてい る.衛星には,セシウムまたはルビジュウム原子時計(発振器)が搭載されており,全ての信号の 基準として使用される.
搬送波は,発振器基準周波数f0 = 10.23 MHzを154倍したL1帯(1575.42 MHz)と,120倍 したL2帯(1227.6 MHz)の2波がある.2010年以降打ち上げられたGPS Block IIF衛星には,
115倍したL5帯(1176.45 MHz)の信号も送信されている[22].
L1帯には,C/A(Coarse/Acquisition)コードとP(Precision)コードの2種類の拡散符号が BPSK変調されている.C/Aコードのチップ周波数は1.023 MHz,周期は1 msのゴールド符号 系列である.Pコードのチップ周波数は10.23 MHzで,1.5秒周期で繰り返す1.5345×107 bitの 系列と,これよりも37 bit長い系列を組合せて,約2.3547×1014bitの系列を生成し,これを37 個の部分に分割して各衛星に割り当てている.Pコードの周期は1週間で,日曜日の0 h GPST