第 7 章 実際の時刻比較とその評価
7.5 考察
時刻比較精度の長期での悪化,TWSTFTとの結果で時々生じる大きな飛び,いずれもL2C衛 星が少ない時間帯が生じているためだと思われる.そこで,TWSTFTとの比較で,誤差が大き かった5月25日(MJD 56437)と,よく一致していた5月30日(MJD 56442)のL3搬送波位相
7.5. 考察 77
-6 -4 -2 0 2 4 6
56434 56435 56436 56437 56438 56439 56440 56441 56442 56443
Two-Way - SDR (ns)
MJD -2
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
Time Differences (ns)
SDR TWO
図7.4: 衛星双方向方式との比較結果
観測量が推定に寄与した衛星数を調べてみた.結果を図7.5に示す.図7.5の左が5月25日,右 が5月30日の衛星数である.
結果が良くない25日は,有効な衛星数が2個以上あるのは全体の半分程度しかないのに対し,
30日は80 %以上使われている.通常のGPS解析が可能な4機以上衛星が有効だった割合も10
%得られている.衛星数が少ない原因は,サイクルスリップの検出に失敗して,解析段階では失 敗した衛星パスが全てoutlierとして扱われてしまったためである.通常のPコードを受信可能な ハードウェア受信機による観測では,サイクルスリップの検出に失敗した衛星が存在しても全体 の解析には影響しないが,L2Cの衛星しか利用できないソフトウェア受信機では,衛星が少ない 時間帯にサイクルスリップの検出に失敗すると時刻飛びが発生してしまう.
実際に,時刻比較の計算に寄与する衛星数が増えた場合,結果が改善するか評価を行った.観測 衛星数を増やすことは不可能なので,推定パラーメータの数を減らすことで検証した.L3解析では,
もともと推定パラメータの数が少なく,減らせるパラメータは対流圏遅延だけである.今回の実 験は国内で行ったことから,天気予報に使用する正確な対流圏遅延のモデルを使用してTWSTFT との比較を行った.結果を図7.6に示す.図中の十字が対流圏遅延を推定した場合(図7.4下と同 じ結果),四角がモデルを使用して,時刻比較に寄与する見かけ上の衛星数を増やした結果である.
比較期間の前半部分では目立った改善はみられないが,一番誤差が大きかった5月25日(MJD
56437)では,モデルを使用した結果の方が明らかに良くなっている.このことから,L3解析で
必要となる衛星数を増やすことで市販受信機と同等な結果が得られると思われる.
今後の解決策としては,
1. サイクルスリップ検出をより厳密な方式で行い,パラメータ推定時にもサイクルスリップ検
78 第7章 実際の時刻比較とその評価
0 sat 8.0 %
1 sat 39.1 % 2 sat
38.7 % 3 sat 13.8 % over 4 sat
0.4 %
2013/05/25 2013/05/30
0 sat 1.9 %
1 sat 16.6 %
2 sat 49.0 % 3 sat
22.4 % over 4 sat
10.1 %
図7.5: 可視衛星数の比較 出が可能なように解析手法を改良する.
2. サイクルスリップ検出に失敗しても,他の衛星でパラメータ推定が行えるよう二周波観測可 能な衛星数を増やす.
の2種類の解決策が考えられる.対象をGPSに限定してしまうと解析手法による解決策しか選べ ないが,二周波観測可能な衛星はロシアのGLONASSも対応していることから,衛星数を増やす 方がソフトウェア受信機の柔軟性を生かした解決策であると考える.GLONASSを取り込む場合,
観測量がFDMAであるため解析ソフトも変更を必要とするが,ソフトウェア受信機でGLONASS も受信可能なように改修し,時刻比較精度の改善を図りたい.なお,図7.4における可視衛星数 が十分得られている区間(MJD 56441 & 56442)のTWSTFTとの差分は標準偏差で0.7 nsであ り,これまで行われた既存実験と同等な結果が得られている[87].
-6 -4 -2 0 2 4 6
56434 56435 56436 56437 56438 56439 56440 56441 56442 56443
Two-Way - SDR (ns)
MJD
GMF KARATS
図7.6: 時刻比較に寄与する衛星数を増やした場合の比較結果
7.6. まとめ 79
7.6 まとめ
開発した時刻比較用ソフトウェアGPS受信機の時刻比較性能について確認した.二周波観測可 能な衛星数が不足する時間帯をカバーするため,あらかじめ一重位相差による一周波観予備解析 を行い,その結果を初期値とした二周波解析を行うことで,小金井〜鹿島基線で3×10−13の観 測精度を得た.これは,国際時国比較網でPPP解析により得られる精度と同等である.ただし,
現状ではL2C衛星が不足する時間帯で解析上の問題から発生する時刻飛びが残っており,1 日で 10−15台は達成しなかった.長期的な比較精度の問題は残るが,今後衛星数を増やすことで解決が 期待でき,ソフトウェア受信機の設計,実装としては予定した時刻比較結果が得られたと考えて いる.
TWSTFTとの比較では,こちらも時刻飛びの問題は残っているが,サイクルスリップ検出が
ちゃんとできた後半部分の観測では1ns以下の一致度を得ており,ソフトウェア受信機の測定結 果が正しい観測を行っていることが確認できた.
今回の比較結果から,開発したソフトウェア受信機が原子時計の変動を計測可能な精度を有し ていることを確認した.一方で,衛星をGPSに限ってしまったため,衛星数減少に伴う時刻比較 精度の悪化が生じたのも事実であり,現状では民生用信号のみの解析では実用性には問題が残る 結果となった.より高度なサイクルスリップ検出を行うなどで解析手段で回避する方法の他に,ソ フトウェア無線技術という特性を生かし,マルチGNSS対応により解決する方法での解決を図り
たい.GPS/Glonassに加え,中国の北斗もほぼ実運用体制に入っており,多様な衛星に対応する
ことで,長期的に安定した時刻比較を実現したい.
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