第 4 章 日本語における授与動詞の多機能性
4.2 補助動詞用法の授与動詞を含む構文の分類
本研究では、日本語の授与動詞の補助動詞の使用実態を調べることにより、その使用事 態がどのように構文間の関連性及び意味拡張に反映されているかということについて考察 を行うため、国立国語研究所による『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ) を資 料とした。「くれる」「あげる」「やる」をその活用形と合わせて検索し、授与動詞の本動詞、
慣用句、語彙化されたもの、翻訳作品を外し、無作為抽出した上で、対象となるものを出 現した順にそれぞれ500件ずつ合計1,500件抽出し、分析を行った。本研究では補助動詞 の意味拡張を中心に考察するため、研究対象は日本語の授与動詞の補助動詞「~てくれる」
「~てあげる」「~てやる」の全ての用法である。なお、本研究では敬語形である「~てく ださる」と「~てさしあげる」はそれぞれ「くださる」と「さしあげる」の本動詞の敬語 形からなるものであり、それぞれの拡張パターンを持つという理由で、対象外とした。分 析方法としては、澤田 (2014) の構文による分類を参考に、補助動詞が出現した文脈状況 を分析し、より詳細な構文の分類を行い、補助動詞による意味拡張の相違点及びそれに関 わる要因を考察する。
本研究では、澤田 (2014) の分類を参考にし、データに応じたより詳細な分類を行った。
澤田 (2014) は統語構造を基準にし、(1) のように日本語の授与動詞を構文型に分類した。
構文の具体例は (2)-(4) で示す16。澤田 (2014) は「物の授与性」「主語名詞句の恩恵を施す
16 澤田 (2014: 30) では、本動詞を「A型」、補助動詞を「B型」に分類し、前者は、[Xガ Yニ Zヲ クレル/ヤル] の構文をとるとされている。
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意図」「前項動詞のクラス」「授与動詞が取る項の数」の4つの基準に従って補助動詞 (「B 型」) の構文型の分類を行っている。
(1) B1型: [Xガ Yニ[…Zヲ V]テクレル/テヤル]
B2型: [Xガ[…V]テクレル/テヤル]
B3型: [[(Xガ)…V]テクレル/*テヤル]
澤田 (2014: 30)
(2) a. [太郎が花子にi [花子にi
花を贈っ]てくれた/てやった] (B1α型)
b. [太郎が花子に[花を摘ん]でくれた/でやった] (B1β型)
(3) [太郎が[花子を褒め]てくれた/てやった] (B2型) (4) [[雨が降っ]てくれた/*てやった] (B3型)
「*」は、B3型には「~てやる」がないことを示す。
澤田 (2014: 30)
澤田 (2014) は、「~てあげる」は謙譲語性を失い「~てやる」の美化語へと移行してい ることからそれを「~てやる」と統合して分析した。しかし、この2つの授与動詞はそれ ぞれの拡張パターンを持っている可能性があるため、本研究では「~てあげる」と「~て やる」を分けて「~てあげる」「~てくれる」「~てやる」の3つの授与動詞の分類・分析 を行う。
澤田 (2014) による「B1α 型」と「B1β 型」はいずれも授与・移動の意味が含まれる構 文であるが、前者は前項動詞が与格名詞句を項に取るものであるのに対し、後者は前項動 詞が与格名詞句を項に取らないものである。本研究では、「B1α型」も「B1β型」も授与性 を表し、この2つのタイプは3つの授与補助動詞の拡張パターンに影響を与えないという 点から、いずれの場合も「授与恩恵構文」として扱う。また、澤田 (2014) は、物の授与 性が失われており、前項動詞が与格名詞を項に取らないものという点で「B2型」を別に分 類している。その他に、「~てやる」の話し手の強い意志や自暴自棄を表す用法と「~てく れる」の恩恵を表さない用法も以上のような基準によって「B2型」として扱っている。
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「B1型」と「B2型」に関しては、その分類方法を変更し、「授与恩恵構文」「対象恩恵 構文」「恩恵構文」「行為強調構文」の4つに再分類する。なぜなら、「B1型」と「B2型」
は、それぞれ、前項動詞が与格名詞句を項に取る構文、或いは取らない構文とまとめるこ とができるようにも見えるが、コーパスのデータからみると、文脈状況によって繰り返し 出現するパターンの異なりが観察され、それぞれの異なるパターンにおける構文的特徴は、
補助動詞「~てくれる」「~てあげる」「~てやる」における意味拡張に影響を及ぼしてい ると考えられるからである。
更に、澤田 (2014) は、主語名詞句が恩恵を施す意図を持たないことを基準にし、(4) の ような自然現象を表すものを「B3型」として扱っており、「~てやる」にはない用法と主 張している。本研究においても、このような用法は「~てくれる」と「~てあげる」「~て やる」の意味拡張の相違点を引き起こしたと考え、澤田 (2014) の「B3 型」を受けつぎ、
「自然恩恵構文」と称する。
本研究では、上記の澤田 (2014) による基準を参考にし、構文の参与者と本動詞の性質 により、以下の4つの補助動詞用法の授与動詞を含む構文を区別する基準を設定した。
i) 物の授与性の有無
ii) 動作主による行為の受け手と恩恵の受け手の一致・不一致
iii) 行為の受け手の有無
iv) 動作主が行為を行う意図の有無17
コーパスの実例で繰り返し出現する構文のパターン及びこの4つの基準に従い、補助動 詞の授与動詞を含む構文を (5) のように分類した18, 19。分析する際には、本動詞を対象外 とするが、本動詞から補助動詞への拡張を考察するため、本動詞を含めた授与動詞の全て の用法における統語的・意味的特徴に関しては4.3で述べる。
17 ここでの「恩恵」とは、ある行為や出来事が生起する際に、その行為や出来事がある人に与えると話者 が捉える利益・不利益の影響と定義される。
18 本研究で用いられる構文の名称は筆者が名付けたものである。
19 本研究では、本動詞は [NP1有生物ガ NP2有生物ニ NP3ヲ クレル/アゲル/ヤル] の構文をとるもので あり、これを「授与構文」と称する。
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「授与恩恵構文」: [NP1有生物ガ NP2有生物ニ (/ノタメニ) NP3ヲ V テクレル
/テアゲル/テヤル]
「対象恩恵構文」: [NP1有生物ガNP2有生物 (有生物の所有物・体の部位)ヲ(orニ)
(/ノタメニ)V テクレル/テアゲル/テヤル]
「恩恵構文」 : [NP1有生物ガ(NP2有生物ノタメニ)…V テクレル/テアゲル
/テヤル]
「行為強調構文」: [(NP11人称ガ)…V テアゲル/テヤル]
「自然恩恵構文」: [NP1無生物ガ(NP21人称(1人称に属する側)ノタメニ)…V テクレル]