第 3 章 理論上の枠組み
3.3 プロトタイプとスキーマ
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図3-4の左側の円は二重目的語構文の構文スキーマにおけるネットワークであり、右側 の円は ‘send’ の語彙のネットワークである。「V NP NP」の二重目的語構文は物の位置や 所有の移動を表す動詞が用いられており、その中で ‘give’ や ‘send’ が使用頻度が高く定 着度も高い (太線)。これにより、両方の語彙とも「give NP NP」や「send NP NP」という 特定の構文スキーマが二重目的語構文の構文ネットワークにおいて成立される。
本研究では「構文文法」及び「認知文法」の理論を枠組みとして日本語とタイ語の授与 動詞の多機能性は構文間の関連性を持っており、構文のネットワークを構成していると捉 える。この枠組みを構文的アプローチと呼び、これに従って考察を行う。
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カテゴリー化の能力とは、カテゴリーのプロトタイプに基づいて新たな事例を拡張事例 として取り込んでいく能力であり、複数の事例の間に認められる類似性の認知プロセスを 介して、これらの事例からより一般的なスキーマを抽出していく能力もカテゴリー化の能 力の一種である (山梨2009: 131-132)。スキーマと事例の関係は以下の図3-5に示される。
図3- 5 スキーマと事例の関係 (ティラー・瀬戸2008: 62)
図3-5で示したように、[A] は [B] と [C] のスキーマであり、[B] と [C] は [A] の事 例である。換言すると、[B] と [C] は [A] の具現化であり、[A] は [B] と [C] の抽象化 である。これらの事例 [B] と [C] はスキーマ [A] との共通点を持っており、事例からス キーマへの関係はスキーマ化 (schematization) であり、スキーマから事例への関係は事例 化 (instantiation) という (ティラー・瀬戸2008: 62)。また、スキーマ、プロトタイプ、拡張 事例の関係は以下の図3-6に示される (Langacker 1993: 2)。
図3- 6 スキーマ、プロトタイプ、拡張事例の関係(Langacker 1993: 2)
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このスキーマ化と事例化の認知プロセスは言語使用において文法の中核を成す構文の創 造的な拡張においても重要な役割を果たしている (山梨2009: 174)。‘give’ を伴う二重目的 語構文の多義性はその一例である。以下の例文は ‘give’ を伴う二重目的語構文の通常の用 法、つまり、プロトタイプ ((3)-(4)) から拡張したもの ((5)-(6)) であり、スキーマ、プロ トタイプ、拡張事例は図3-7で示される。
(3) John gave Mary a Book.
(4) She gave him her telephone number.
(5) Give me liberty, or give me death!
(6) Give peace a chance!
(山梨2009: 174-175)
図3- 7 二重目的語構文の拡張 (山梨2009: 175)
図3-7で示したように、プロトタイプのボックスは具象名詞 (concrete noun) であるのに 対し、拡張事例のボックスは抽象名詞 (abstract noun) であり、一般的な名詞のスキーマを 示している。このようになスキーマ化と事例化のプロセスはプロトタイプから拡張事例へ の展開をも規定している (山梨2009: 176)。
本研究ではこのプロトタイプとスキーマの概念を用い、両言語の授与動詞の多義性を考 察し、日本語とタイ語の授与動詞の構文ネットワークにおいてプロトタイプのメンバーか ら拡張したことを明らかにする。
76 3.4 プロファイルとベース
認知言語学ではプロファイルとベースの概念は重要である。尾谷・二枝 (2011: 46) は、
「認知文法では、言語の意味はその背後に潜む認知ドメインに照らして得られるものであ る」と指摘している。Langacker (1987: 184) は、以下の「円」(circle) と「弧」(arc) を表す 図を取り上げ、プロファイルとベースについて説明している。
(a) (b)
図3- 8 ベースとプロファイル (Langacker 1987: 184)
図3-8に示したように、(a)「円」と(b)「弧」は全体と部分の関係を表し、「円」と「弧」
は同様の「円」というドメインから成立したものである。「弧」には「円」という概念が必 要となる。「円」の全体を「ベース」(base)、ベースの中で焦点化されている部分を「プロ ファイル」 (profile) と呼び、プロファイルされている部分は太線で表示される。換言する と、「意味には構造があり、その前面にあり中心的な意味としての『プロファイル』と、そ れとともに想起される『ベース』と呼ばれる背景的な意味が存するとした (上原・熊代2007:
102) 」ということである。
プロファイルは認知主体の捉え方 (construal) によって捉えられる。Goldberg (1995) は、
‘rob’ と ‘steal’ を取り上げ、参与者の語彙的プロファイル (lexically profiling of participants) が異なることについて説明している。‘rob’ と‘steal’ はベースは共通しているが、プロファ イルされる部分が異なる。‘rob’ の場合、ターゲットと泥棒がプロファイルされており、
‘steal’ では貴重品と泥棒がプロファイルされている。これは以下に、それぞれの動詞でプ
ロファイルされる参与者役割を太字で表示する。このように、参与者役割の統語的な現れ 方が異なるのは、プロファイルが異なるためである (Goldberg 1995: 45 [河上他 (訳) 2001:
61] )。
77 rob 〈 theif target goods 〉
steal 〈 thief target goods 〉
(Goldberg 1995 : 45)
プロファイルとベースの概念は、名詞や動詞のような語彙の意味のみならず、構文の相 違の説明にも適用可能であると考えられる。本研究では、プロファイルとベースの概念を 用い、日本語とタイ語における授与動詞の構文の区別について論じる。