第 3 章 理論上の枠組み
3.5 メタファーとメトニミー
77 rob 〈 theif target goods 〉
steal 〈 thief target goods 〉
(Goldberg 1995 : 45)
プロファイルとベースの概念は、名詞や動詞のような語彙の意味のみならず、構文の相 違の説明にも適用可能であると考えられる。本研究では、プロファイルとベースの概念を 用い、日本語とタイ語における授与動詞の構文の区別について論じる。
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図3- 9 「旅」の起点領域と「恋愛」の目標領域の対応関係 (谷口2005: 19)
メトニミーは言葉の意味的・文法的拡張に重要な役割を果たしている(Hopper & Traugott 2003)。また、同じベースでもプロファイルが異なると、異なる語彙や構文で表されるとい う現象にもメトニミーに関わっている。Langacker (2008: 69) は、プロファイルはメトニミ ーによる現象において重要な役割を果たしている [ 山梨 (監訳) 2011: 89] としている。ま た、多義性の現象もメトニミーが関わっており、言語使用において語彙に背景化された意 味が語用論的強化 (pragmatic strengthening) によってプロファイルされて新たな意味に拡 張し、その語彙の意味になる場合もある。Langacker (2008) は、メトニミーは、狭い意味 でプロファイル・シフトとしての特徴を持ち、「通常は1つのものをプロファイルするある 言語表現が、あるドメイン内においては、それと関連するほかのものをプロファイルする のに使用されることがある」(Langacker 2008: 69 [ 山梨 (監訳) 2011: 90] ) としている。メ トニミーによって多義性が引き起こされており、メトニミー的な使用が強化され、慣習化 されることによって多義語が生じる。この例としてLangacker (2008) は 英語の ‘come’ の 事例を取り上げ、メトニミーのプロセスにより、共通の概念ベースの異なる部分がプロフ ァイルされており、‘come’ が多義語になるとしている。
(7) a. They came all the way from Los Angeles.
b. He came at precisely 7: 45 PM.
(Langacker2008: 70)
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(7a) の ‘come’ は空間経路に沿って動いている出来事の全体がプロファイルされている
のに対し、(7b) の ‘come’ は ‘arrive’ と類似しており、目的地に着いた段階がプロファイ ルされている。これは2つの用法がメトニミーによって関連していることを示した事例で ある。
また、Langacker (2008) ではメトニミーはプロファイル・シフトという意味で用いられ ており、プロファイル・シフトの仕組みは以下の図のように表される。
図3- 10 プロファイル・シフトの仕組み(Langacker 2008: 250)
図3-10 に示したように、メトニミーのプロセスによって基本的にある対象A をプロフ ァイルしている表現が、何らかの点でAと関連しており心的にアクセスすることが可能な、
他の対象Bを示す表現として理解される (Langacker 2008: 250 [山梨 (監訳) 2011: 318] )。こ こではLangacker (2008: 250-251)は [ [ VIETNAM ― WAR] [ VIETNAM―WAR] ] という例を取り上げ、場所の名前から、言語使用で言語ユニットとして定着し、そこで起 こった注目すべき出来事への意味拡張を表すと述べている。
また、このプロファイル・シフトのプロセスは英語の与格構文 (a) と二重目的語構文 (b) のようなパラフレーズの表現に反映されている。
(8) a. Bill sent a walrus to Joyce.
b. Bill sent Joyce a walrus.
(Langacker 1986: 14)
(8a) と(8b) はいずれも同様の出来事を表すが、異なる構文が用いることにより、認知的
に異なる事態解釈を反映している (山梨2009: 97)。それぞれのプロファイル・シフトによ る認知の相違は以下の認知図式で示される。
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(a) (b)
図3- 11 与格構文と二重目的語構文 (Langacker 1986: 14, 1991: 14)
図 3-11 で示すように、(8a) では ‘walrus’ が直接目的語として ‘Bill’ から ‘Joyce’ へ移 動しており、‘walrus’ の移動経路が焦点化されているのに対し、(8b) では ‘walrus’ の移動 先である ‘Joyce’ の所有領域が焦点化されている。このようなプロファイル・シフトの認 知プロセスに対応して以上のような与格構文又は二重目的語構文が選択される。
本研究ではメタファーとメトニミーの概念を用い、日本語とタイ語の授与動詞の構文に おける多機能性について考察する。