3.7 自然斜面の維持管理
3.7.2 自然斜面の不安定化要因,点検ポイント
本項では,自然斜面から発生する土砂災害について,その発生形態を簡潔に紹介し,
なぜ災害(崩壊)発生に至るのか(不安定化の要因),何に着目すれば予測できるのか
(点検のポイント)について述べる。
(1) 土砂災害発生形態の概要
図 3.7.1 に示した道路における土砂災害の発生形態について,事例を図示しながら 紹介し,その特徴を簡潔に示す。
a) 斜面崩壊
斜面崩壊はその規模,材質(岩,
土砂),メカニズム等により小分類さ れる。
表層崩壊は岩盤を被覆している表 土(崖錐堆積物等)や花崗岩等の強 風化した岩盤が滑落する現象で降雨 や湧水が誘因となる場合が多い。
中・大規模崩壊は,固結度(せん断 強度)が低い地層や地質構造に不安 定な素因を有する自然斜面が,地下 水上昇や地震等の外力の影響で滑落 する現象である。
岩盤崩壊は,岩の表層が風化等に 伴って崩落する場合や,地質構造(流 れ盤,層理・節理面等)に沿って滑落 する。また,後者の場合,くさび状の 崩壊が多く見られる。
b) 落石
落石は,崩壊や剥離等により自然 斜 面 に 分 散 し て い る 転 石 の 落 下 (抜 落ち型)と岩盤斜面から崩落・剥離し,
落下した岩塊の落下(崩落・剥離型) に分類できる。
抜落ち型は,礫等を含む土砂或は 岩盤斜面から表面侵食や外力により 礫等が抜落ちて落下する。
岩盤崩壊・崩落は,亀裂や節理の 発達した岩の崩落により落石となる。
剥離型は岩盤中の不連続面に沿っ て剥離したり,風化・侵食しやすい岩 盤の表面が剥離したりする。
c) 地すべり
地すべりは,応力開放や地下水等の影響により発生し,突発的に発生する表層崩壊 とは異なり緩慢な動きの場合が多い。
抜落ち型の例
剥離型の例(上・下)
岩盤崩壊・崩落の例
図 3.7.2 崩壊発生形態の例 16)
表層崩壊の例 中・大規模崩壊の例
岩盤崩壊の例
図 3.7.3 落石発生形態の例 16)
図 3.7.5 土石流発生形態の例16) 図 3.7.4 地すべり発生形態の例 16) 岩盤地すべりは,比較的新鮮な岩
盤で発生し,一般に移動土塊が大き い。断層や破砕帯の影響を受けるも のが多く,大規模土工,地震や豪雨 が原因で発生する。
風化岩地すべりは,岩盤地すべり が風化して移行したものである。
崩積土地すべりは,礫混じりの土 砂からなり,風化岩地すべりがさら に風化したものである。多丘状,凹 状台地形をなし,すべり面は階段状 や層状或は弧状を示す場合が多い。
粘質土地すべりは,移動土塊の大 部 分 が 礫 混 じ り 粘 性 土 で 構 成 さ れ , 風 化 岩 ・崩 積 土 地 す べ り が さ ら に 風 化したものである。凹状緩傾斜地形 をなし,豪雨や融雪,河川ଚ㘩,小 規模土工等で容易に活発化する。
d) 土石流
土石流は,谷底及びその上流域の 土砂が,豪雨,融雪,地震等により 流動化し,谷底の巨礫等を巻き込ん で段波的に流出する現象である。
渓床堆積土砂礫の流動化による土 石流は,急勾配の渓床上に堆積して いる土砂礫が豪雨等により流動化す る。
山腹崩壊土砂の流動化による土石 流は,崩壊土砂が自然斜面を落下す る間にその構造が壊れ,水と混合し て流動化する。斜面崩壊との区別が 困難な場合がある。
天然ダムの崩壊による土石流は,崩
壊土砂により生じた天然ダムを水が越流浸食や天然ダムが崩壊して流動化する。
地すべり土塊の流動化による土石流は,高含水比の粘質土地すべり土塊が流動化す る現象である。
(2) 不安定化要因
自然斜面の不安定化要因も,盛土のり面や切土のり面と同様,降雨・融雪,地震等の 自然環境作用や対策工の劣化といった外的要因,風化・変質作用や地形・地質といった 内的要因といえる。
岩盤地すべりの例 風化岩地すべりの例
崩積土地すべりの例 粘質土地すべりの例
山腹崩壊の例 地すべり土塊の流動化 渓流土砂の流動化の例
天然ダム崩壊の例
盛土のり面の場合,降雨等の外的要因が主な原因となる場合,材料の劣化等の内的 要因が主な原因となる場合,或はこれらが複合した場合が考えられる。
切土のり面の場合,地形改変に伴う沈下や応力開放により,短期間に大きく地山強 度の劣化が進むため,どちらかといえば,内的要因が主な原因といえる。
一方,自然斜面の場合,長い年月をかけて内的要因である劣化が進行過程にあるため,
着目する要因は外的要因であるといえる。
影響要因については,「3.3 のり面の不安定化要因」で解説しているので,ここで は,先に紹介した土砂災害の形態毎に特徴的な要因をまとめる。
a) 斜面崩壊
表層崩壊は表層1~2m程度の崖錐堆積物等が崩壊する現象で,内的要因では,地形
(自然斜面勾配)や不安定(崖錐)層厚の影響を強く受け,外的要因として降雨や地震 が誘因と考えられる。また,最近研究が進められている樹木の根茎によるせん断強度 の増加の影響が大きい。特に,近年頻発する短時間豪雨との相関が高く,地表面から 浸透してくる雨水により含水比が上昇し,不飽和状態でせん断強度,主に粘着力が低 下して崩壊に至る。
中・大規模崩壊になると,内的要因は,地質や風化帯の分布状況,節理や断層とい った構造面の影響が大きくなる。外的要因は,表層崩壊と同じく降雨・融雪の影響が大 きいと考えられるが,表面からの雨水の浸透よりも,周辺から供給される地下水の上 昇の影響が大きく,短時間豪雨より長雨や連続雨量との相関が高い。これは,表層崩 壊の不飽和せん断強度の低下とはちがい,地下水により間隙水圧が増加し,すべり面 のせん断強度,主に内部摩擦角の低下が要因といえる。
岩盤崩壊は,内的要因では地形・地質・地質構造等,多くの要因の組み合せが影響 する。特に,地層構造(硬軟互層や流盤)の影響が大きいといえる。外的要因は,他 の崩壊形態と比べ,降雨より地震等の影響が大きい。
b) 落石
抜け落ち型の場合,既に自然斜面に 落下した状態にあるので内的要因とし ては,地形(斜面勾配),表土の地質,
植生と転石の状態(危険度)となる。
外的要因は,地震,風,倒木,降雨 や獣害であり,基本的には,山腹にあ る転石の状態を適切に評価することが 重要となる。(図 3.7.6)
崩落・剥離型は,岩盤崩壊と同様で あり,内的要因として地質構造,外的 要因とし地震の影響が大きい。
図 3.7.6 落石の不安定程度評価の例 16)
c) 地すべり
地すべりは大規模斜面崩壊と類似しており,内的要因として地形・地質,断層,破 砕帯等地質構造,すべり面強度,地下水があり,特に,過去の移動により形成された すべり面強度の影響が大きい。
外的要因は,降雨・融雪(地下水上昇),地形改変(末端部の切土,頭部の盛土),
地震,河川による侵食が挙げられる。
d) 土石流
土石流は降雨により渓床に堆積している土砂や流木が下流に流下する現象であるが,
内的要因としては渓床堆積土砂や流木以外に,山腹崩壊や地すべりによる崩壊土砂が 含まれる。このため,先に述べた斜面崩壊や地すべりの要因が全て含まれる。具体的 には,渓床勾配,渓床堆積土砂の分布(幅,深さ),植生(針葉樹林 or広葉樹林),崩 壊地の分布状況,天然ダム,地すべり地(土塊)の分布,風倒木の分布等となる。
外的要因は主に降雨(豪雨)であるが,降雨時の斜面崩壊,地すべり等により渓流 内に大量の土砂が供給されると大きな被害につながる。
(3) 点検のポイント
自然斜面は,人工斜面と比べ,現状の安定性(安全率)をいかに評価するかがより 難しい。これは,図 3.7.7 に示す変状の特徴(現地の状況)に対して①~⑩の箇条書 き 7)に示すような多くの問題点があるためである。
① 細かい亀裂は近づかないと目に 入らない。
② 植生が地山の特徴を隠してしま う。
③ 危険な亀裂面の連続性がわから ない。
④ 植生は地質境界も隠してしまう。
⑤ 岩盤の縞模様と亀裂が作る縞模 様との区別がつきにくい。
⑥ 開口亀裂は目視できるが,連続 しないし,危険に見えない。
⑦ 大きい断層は土砂化していて,
見つけにくい。
⑧ 開口亀裂は追跡が難しい。
⑨ 不連続面は,まっすぐに連続し ているとは限らない。
⑩ 湧水は降雨時およびその直後し か見つからない。
現地踏査では,先に解説した斜面崩壊,落石,地すべり,土石流の発生形態や不安 定化要因の全て,或はそれらの組み合わせに留意する必要があり,熟練した専門技術 者でも見落としや評価にバラツキが生じる。
図 3.7.7 地表踏査の留意箇所 7)
点検のポイントは,3.5 節,特に 3.5.3 項(切土)に記載されている留意点と同様で あるため,そちらを参照願いたい。
また,「道路法面維持管理のためのハンドブック(案)」:国土交通省近畿地方整備局
7)でも,地表踏査の要点及び着目点の事例が紹介されており,「切土ߩࠅ面」のいくつ ߆ߩ事例が参考になる。
ここでは,各発生形態で具体的にどのような点検が行われ,何に着目して評価され ているのかを実際の点検例を紹介しながら簡単に解説する。
a) 斜面崩壊
山腹斜面で発生している斜面崩壊は 比較的規模が小さく,殆どが表層の崩 壊である。現地踏査に於いては,この 崩壊跡地を探すことが重要なポイント である。
そのほか,土砂移動の痕跡として,段 差地形,根曲がり・倒木や裸地等の植 生異常,湧水等が評価の手がかりとな る。
実際の点検業務では,根曲がり等の 植生状況,滑落崖や裸地斜面の進行状 況を写真撮影し,過年度と比較するこ
とや図 3.7.8のように,不動地山と不安定土塊に杭を設置し,その距離を継続観測(モ ニタリング)することで変状の進行状況を把握し,評価を行っている。
b) 落石
落石発生源は,自然斜面では殆どの 箇所に存在する。このため,図 3.7.6 を参考に地形・表土条件や転石・浮石の 状態に対する不安定度を的確に評価す ることが重要である。
不安定と判断された転石や浮石の簡 易点検(観測)は,目視点検(写真撮 影),転石間(マーキング間)の距離計 測,浮石,岩盤亀裂の隙間計測,不安定 露頭を着色し,着色した岩塊の落下状 況確認等により行われる。
図 3.7.9は転石間の定点観測を行っ
ている事例である。不安定な転石が急勾配斜面にある細い木で停止しており,非常に 不安定である。
c) 地すべり
地すべりは,斜面崩壊と比べ規模が大きく,現地踏査のみで地すべりブロックを発 見するのは難しい。このため,机上における地形・写真判読が有効であり,机上で想
図 3.7.9 変状のモニタリング(落石) 図 3.7.8 変状のモニタリング(崩壊)