3.7 自然斜面の維持管理
3.7.3 ハザードマップ作成の提案
一般的に作成されているハザードマップは,自然災害による被害を予測し,その被 害範囲を図示したもので,まず,予測される災害の発生地点(どこで,どのような現 象が起きるのか),被害の到達範囲および被害程度(どこまで,どの程度の被害がある のか),さらには避難経路,避難場所(どこに,どのようにして逃げるのか)等の情報 が既存の地図上に示されている。
ハザードマップを利用することで,災害発生時に住民などは迅速・的確に避難を行 うことができ,また二次災害発生予想箇所を避けることができるため,災害による被 害の低減に非常に有効である。
では,道路維持管理におけるハザードマップとはいかなるものか,誰のために,ど のような目的で作成するのか。
本項では,最初に,道路維持管理におけるハザードマップ作成の必要性(目的)に 着目して整理し,その目的を踏まえた,使いやすいハザードマップとはどのようなも のかについて取りまとめる。
(1) 道路維持管理のためのハザードマップの必要性
道路維持管理のためのハザードマップは,一般的なハザードマップの目的とは異な り,道路利用者に危険な箇所を明示して災害による被害を低減させるものではない。
その目的は維持管理作業を行っている点検者が被害の内容と範囲を予測するために作 成するものである。すなわち,点検作業の効率性や精度の向上を目的としている。
道路防災点検の手引き(豪雨・豪雪等):財団法人 道路保全技術センター17)による と,平成 8年度道路防災総点検の前後の災害状況の比較では,明らかに点検以降の防災 対策の推進により,災害発生件数が減少しているが,平成 8年度点検の総合評価で点 検対象外や対策不要箇所でも多くの災害が発生していることが示されている。
また,同手引には,平成 18 年度点検における技術的課題として,3.7.1 項に示した 図 3.7.10 変状のモニタリング(地すべり)
平成 8年以降の災害の特徴と問題点や最近の降雨状況の変化を踏まえ,以下の 5つの 課題を示している。17)
① 管理用地外や平成8年度点検対象外からの災害の低減
② 点検の重複を避けるために平成 8 年度点検,防災カルテ点検等既存点検の成果 を活用するなど,合理的,効率的な点検の実施
③ 上記を実現するために,既存資料や空中写真,地形図を活用した点検箇所の絞 込みと災害要因の抽出
④ 安定度調査の精度向上
⑤ 防災点検データベースの更新
道路維持管理のためのハザードマップは,上記 5つの課題と 3.7.1 項の末尾に示し た 5つの現状の問題点を解決し,効果的で効率的な点検作業を実施するために有効な 資料として作成する必要がある。
(2) ハザードマップの作成
ハザードマップは上記 5 つの課題の「③上記を実現 するために,既存資料や空 中写真,地形図を活用した 点検箇所の絞込みと災害要 因の抽出」で検討した資料 を有効に利用し,点検時に 必要な情報等の加筆,状況 写真の添付等を行い,手軽 に点検に持参できる資料と して取りまとめる。
また,日常点検,定期点 検,緊急時の点検等,全て の点検作業に有効な資料を 作成する。
図 3.7.11 に,ハザードマッ プ作成フローを示す。
a) 既往資料収集整理
既存資料の収集では,過去の点検記録が最も重要な資料となる。平成 8年,平成18 年の総点検記録,日常点検,定期点検,災害記録等の資料を収集する。対策施設や詳 細調査に関する資料も重要であるが,古いデータは残っていない可能性が高い。その 他には,法規制情報や地質・植生情報等の資料を収集する。
b) ベースマップ
ベースマップの範囲は,表層・岩盤崩壊や落石の場合は道路に面する自然斜面の尾 根まであれば十分であるが,地滑りや大規模崩壊の場合は,背後の地形も必要な場合 がある。また,土石流であれば流域全体が含まれている必要がある。
既往資料収集・整理
ベースマップの選定
記載内容の検討
地形・空中写真判読
ハザードマップ(案)作成
現地概査・写真撮影
ハザードマップ作成
・既往点検記録
・法規制情報,植生分布
・対策工情報
・図面の範囲
・縮尺
・種類(道路台帳,白図,DM,LP等)
・崩壊形態,荒廃状況
・影響範囲と規模
・対策工,現地写真
・点検のポイント,箇所・ルート
・微地形判読
・植生,荒廃状況,対策工
・判読結果の整理
・流域,ブロック,箇所等に分割
・現地調査計画
・荒廃状況,対策工
・点検のポイント,箇所・ルート
・崩壊形態と影響範囲
・対策工,点検のポイント
図 3.7.11 ハザードマップ作成フロー
図面の種類は,精度が高いほど現地の情報をつかみやすいが,全ての範囲を平板測 量するには膨大な時間と費用を必要とするので,都市計画図や DM,LPデータ等を活 用するのが妥当といえる。縮尺は 1/500~1/5000程度以上の精度が必要といえる。
c) 記載内容の検討
マップに記載する内容は,どのような危険因子がどのような状態(危険度)にあり,
災害時にどのような被害をもたらすかを把握できる内容であり,主に以下の項目を含 めたものが有効と考えられる。
① 踏査結果(滑落崖,異常堆積,落石源,渓流の状況,地すべり地形等)
② 予想される崩壊形態(落石・斜面崩壊,地すべり,土石流等)
③ 保全対象への影響要因(落石・斜面崩壊,地すべり,土石流等)
④ 影響範囲と規模(道路への影響等)
⑤ 対策工(種類・規模・目的,効果等)
⑥ 写真(現地状況,点検のポイント等)
d) 地形・空中写真判読 表 3.7.2 判読する主な情報の例 17) 地形図および空中写真等から道路に影
響する災害要因の判読を行う。判読した 結果は地形図等に記入して整理する。
地 形 判 読 は , ベ ー ス マ ッ プ お よ び 1/25,000~1/50,000 程 度 の 地 形 図 を 用 い る。判読範囲はベースマップの範囲或は 道路から 1km程度が目安である。
空中写真判読は,実体視できるもので,
撮影時期の違うものがあると比較でき変 状を捕らえやすい。斜め空中写真やオル ソフォト等の活用も有効である。
判読の結果は,表 3.7.2 に示す凡例に 従って災害に関して注意を要する地形や 地被状況を抽出する。
結果の整理は,地域特性と判読結果を 踏まえ,道路に影響する災害要因が判読 された箇所について取りまとめる。
e) ハザードマップ案の作成
地形・空中写真判読結果をベースマップに記入し,ハザードマップ(案)を作成する。
その際,判読結果と共に既存資料を基にした対策工,法規制情報,災害履歴等を基に した点検のポイントも取りまとめて記入する。図 3.7.11にハザードマップ(案)作成例 を示す。また,作成したハザードマップ(案)を基に現地概査計画を立案する。
図 3.7.12 ハザードマップ(案)作成例17)
f) 現地概査
現地概査は,荒廃状況や対策施設等,ハザードマップ(案)の内容を現地で確認し,
必要に応じて修正するために実施する。また,ポイントとなる現地の状況や対策施設 の写真撮影,現地の点検箇所,点検ルートを確認する。
g) ハザードマップ作成
現地概査結果を基に,ハザードマップ (案 )を 修 正 ・加 筆 し ハ ザ ー ド マ ッ プ を 完 成させる。ハザードマップは,点検時に 現地に持参して確認することを前提とし ているため,出来るだけ連続した図面で,
扱いやすく,見やすい形に折りたたんで 仕上げる。
図 3.7.13 のハザードマップ案はベー スマップの範囲が不足しているが,荒廃 状況,対策工,点検のポイント,現地写 真等を整理したマップとなっている。
図 3.7.13 ハザードマップ作成例