第9章 わが国地方自治体における財務管理内部統制の構築
2 各章の要旨
まず第1章では、財務管理内部統制の意義を、人口減少社会への対応のため、地方自治 体に自律的な行財政運営が求められているところに求めた。自治体においては、地方創生 を推進するため、地域資源を用いた創意工夫が求められている。一方、地方自治体の財務 については、公会計改革の進展により、本格的に発生主義・複式簿記の導入や固定資産台 帳整備等が行われることになり、自治体に高度な財務管理が求められている現状を明らか にした。不適正経理が続発するなど地方自治体の信頼が揺らぐ事態に対応するため、内部
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統制のフレームワークを利用することで、財務管理手法をより統制が効いた形で制御しつ つ、業務の有効性や効率性を高めることを企図した。財務管理内部統制の構築には、財務 管理および内部統制の両面からのアプローチが必要であることを述べた。その上で、両者 の連携による相乗効果により生み出される財務管理内部統制の意義および必要性について まず明らかにした。
続いて財務管理の根幹ともいえるスチュワードシップ概念を、英国における「自治体」
の生成とその定義について、1835年都市法人法成立前後の英国地方自治体の状況から、自 治体における「財産管理」と「公益の実現」がスチュワードシップの2つの要件であった ことを導き出した。このスチュワードシップ概念の定義と財務管理の定義を踏まえ、財務 管理内部統制の定義を「財務の視点に立って、公共サービスの目的を効率的・効果的に達 成するために、内部統制の枠組みのなかに財務管理の諸要素を連携させて、計画・指揮・
統制するシステム」とした。続いて、地方財政改革、公会計改革の動きを中心に自治体財 務の現状を概観した上で、財務管理上の課題を抽出し、整理した。
第2章では、わが国地方自治体における内部統制構築の課題について、2つの総務省報 告書を中心に内部統制の目的・基本的要素について分析した。この分析を通じて、第1章 で示した財務管理における課題を内部統制の目的と要素への関連性について論じた。2009 年の総務省の内部統制に関する報告書 2は、民間の内部統制フレームワークを参考に、基 準及び実施基準をベースとして、自治体独自の要素を加味しつつ、作成された。地方自治 体における内部統制の定義・目的・基本的要素について分析を行い、その上で第1章にお いて抽出した財務管理上の課題について、内部統制の目的・基本的要素に照らして、それ ぞれがどの分野に関連するかについて検討を試みた。その結果、ITの活用を除く分野に ついて関連性があることが確認できた。
第3章では、財務管理のフレームワークとしての財務管理モデルのあり方とその活用や 導入について論じた。英国勅許公共財務会計協会(Chartered Institute of Public Finance
Accountancy:CIPFA)は2004年、公共部門、特に地方自治体の財務管理のベストプ
ラクティスを示すとともに、各組織の財務管理をこの水準に引き上げることを目的に、F Mモデルを開発した。FMモデルは、CIPFAが収集した財務管理実務におけるベスト プラクティスと、自らの組織の財務管理状況を比較し、自己診断することができるツール である。CIPFAはこのFMモデルを自治体に対して採用を促している。導入した自治 体が拡大していないという課題はあるものの、英国の自治体および政府省庁をはじめ、北
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米のGFOA(北米政府部門財務担当者協会)やアブダビ首長国投資庁など海外の組織に おいても活用が広がっている。このFMモデルは、自己診断ツールとして、詳細な項目設 定を通じて、自治体の財務管理をベストプラクティスと比較する形で、自らの財務管理の 水準や位置等を認識することが可能となる。国外への展開も図られているFMモデルにつ いて、わが国の自治体財務管理における指針の一つとして適用の可否について検討し、わ が国自治体向けに調整を施した上で導入することが可能という結論を導き出した。FMモ デルは、自治体の財務管理の統制環境に影響を与えるものであり、このFMモデルを活用 し、統制環境を整備することで、財務管理内部統制を構築し、財務管理のフレームワーク を確立することを示した。
第4章では、財務に関する専門知識を持つ人材として、自治体における最高財務責任者
(Chief Financial Officer:CFO)の役割について論じた。ここでは、英国地方自治体に おけるCFOの責任と役割について、CIPFA意見書『最高財務管理責任者の役割』を 基に、CFOが事務総長の下で財務を統括する役割を担っていることを明らかにした。C FOはその資質を担保するために、1972年地方自治法 151条において設置が規定された 法定職である。また、人材の水準を一定にするため、英国の6つの会計士団体が定めるい ずれかの資格を有することと規定されている。CIPFA意見書は、CFOの資質につい て、5つの原則と3つの要素を設定している。これを分析し、CFOのあるべき姿として、
「意思決定への関与」「先進的な財務管理の実施」「不正・腐敗の検知」「専門資格の保有」
が求められることを明らかにした。CFOは自治体財務のトップとして財務管理を取り仕 切る一方で、内部統制の構築にも一定の役割を負っている。内部統制の構築、内部監査の 実施について、CFOが関与することが求められており、財務管理内部統制を構成するキ ーパーソンであることを明らかにした。
第5章では、財務管理実務を取り扱う財務部門における財務機能の役割とそのあり方に ついて論じた。まず、CIPFA討議資料Emerging Strongerから財務機能に求められる 役割を抽出し、財務機能のあり方・役割と内部統制の関連性について分析した。英国地方 自治体の財務関連部署・職の設置状況とわが国の自治体の財務関連部署の位置づけを比較 し、わが国自治体の財務部門が機能面で分離され、財務運営が非効率になりがちであるこ とを指摘した。また、わが国における財務機能が分離の原因である内部牽制機能の問題点 を明らかにし、内部統制構築による改善方策についても検討した。その上で内部統制の機 能を活用することで、財務機能の効率的な統合を図る可能性について考察し、財務管理内
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第6章では、資金管理におけるリスク管理のあり方について、英国の資金管理規範を例 に取り上げ論じた。英国地方自治体におけるリスク管理について、資金管理の視点から、
CIPFAのTreasury Management Code(資金管理実務規範)を基に考察している。近 年、わが国自治体の資金の運用・管理においては、金融商品の多様化に伴い、高リスク商 品に手を出した結果、損失を被ったり、裁判が提起されたりするなど、問題が表面化して いる。従来の自治体財務管理においては、リスク管理の視点が乏しく、問題の原因はリス ク管理の重要性を認識せず、安易に収益を追った結果によるものと断じた。リスク管理の 観点から安全性を高めた財務管理のあり方について、英国の考え方から考察した。リスク の管理においては、リスクの排除・回避ではなく「許容できるリスクの範囲という考え方」
が重要であり、リスクを一方的に避けるのではなく、許容できるリスクを取りつつ、リス クの管理を行うことで、リスクへの対応が可能であることを明らかにした。財務管理内部 統制においては、リスクの評価と対応は重要な基本的要素であり、これからの自治体には リスク管理をする上で、CIPFAのリスク管理手法が財務管理内部統制において有用で あると結論づけた。
第7章では、事業実施における資金調達のあり方について、PPP(Public Private Partnership)を事例に自主的な財務による資金調達について明らかにした。英国地方自治 体における事業資金調達の手法について、官民連携型ジョイントベンチャーによる事業資 金の確保に関する英国自治体の事例を調査した。わが国第三セクターやPPP事例との比 較を通じて、新たなPPP手法であるLABV(Local Asset-Backed Vehicle)から資金調 達スキームとしてのPPPの役割と新たな可能性について考察を行った。この章における 重要な点は、既存の国庫補助金や、地方債発行に頼らない社会資本整備の可能性を探った ことである。これまで、また現在でも多くの地方自治体の施設整備においては補助金や地 方債発行による財源確保が欠かせなかった。しかし、補助金を受けるためには施設内容を 補助基準に合致させる必要がある。また、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法 律の制限を受け、施設の転用・目的外利用は制限され、転用・除却に際しては補助金返還 が求められる。本章で取り上げたPPP事例、特にLABVは、補助金・起債を充当しな いため、これらの制限は受けず、より自由度の高い施設整備の可能性がある。LABVは 官民双方が折半出資を行い、特に公共部門は現物出資が認められるため、英国においては 市街地や地域再開発の手法として用いられている。また、これまでPFI(Private Finance