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第8章 地方自治体財務管理内部統制における業績管理

2 サービス水準検査に対する見解

2010年11月1日から3日にわたって、英国の複数の研究者に対してサービス水準検査 を中心に、ヒアリングを実施した。この調査ではHoward Davis所長代理(当時ウォーリ ック・ビジネススクール)、Steve Martin教授(カーディフ・ビジネス・スクール)を中心 にヒアリングを行ったが、彼らは 2002 年刊行の報告書「Changing role of the Audit Commission Inspection in the local government」においてサービス水準検査に関する調査 を行っており、その報告書の内容について、質問・確認を行うことが主な目的であった。

この報告書では、英国におけるサービス水準検査の概要を、BVからCPAにかけて、監 査人・検査官や自治体幹部、現場担当職員のインタビューに基づき分析している。

まず、その前提として、Peter Watt博士(バーミンガム大学)とHoward Davis所長代 理に対しては、検査等の用語定義の整理について質問した。別表のように、Audit、Inspection、

Scrutiny、Assessment、Governance といった言葉について、英国ではどのように捉えら

れているのか、またそれは日本で認識されている同様の機能について適用できるのか、も しくは改めてその機能から言葉を再定義するべきか考察した。

図表8-2 用語定義の整理

原語 訳語 意味

Audit 監査 狭義では財務監査を指す。公共部門では、VFM まで含む広義に

捉えている。

Inspection 検査(サービス水

準検査)

公的セクターで長い歴史を持ち、初期には技術的な分野で法令 を遵守しているか、または水準に達しているかを調査すること を言う。BV以降は、パフォーマンスの水準を調査することを 指すようになった。

Scrutiny 監視 詳細に見たり、調べたりすることをいう。議員が執行部に対し

て行うことにも使われる。

Assessment (業績)評価 比較をし、得点付け、格付けをすることをいう。経年比較、他

団体比較、目標と実績の比較のように比較をすることを表して いる。ベンチマークやターゲットも含まれる。

出所:Peter Watt、Howard Davis両氏とのヒアリングから作成。

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まず、Audit は狭義で捉えれば財務監査のことを指す。公共部門では、広義に捉えられ

ることが多く、VFMを調査することも監査の中に含まれる。

つぎにInspectionは、公共部門のなかでは古い歴史を持ち、初期には技術的な水準を満

たしているかを判断するものであったが、BV以降は自治体サービスの業績の水準を調査 することを指すようになり、次第にVFM監査との近接が見られるようになった。

Scrutiny は、詳細に見ることや調べる、検査することを指す。地方自治体においては、

議員が執行部を監視することを指すことが多い。また、個々のテーマを設定して行われる ことが多い。なお、AuditやInspectionもScrutinyの一部であると見られている。

Assessment は、比較をし、得点付け、格付けをするということを指す。経年比較、他

団体比較、目標と実績の乖離値の比較や、ベンチマークやターゲットを含んだものとされ ている。

これらのヒアリング内容から、図表8-2のように、各語の訳語と意味を整理した。

また、監査人と検査官の違いについて、それぞれの資質やどのような人がこれらに任命 されるのかについて聞いたとき、監査人に求められるのは財務に関する専門資格であるが、

検査官には一般的マネジメント能力が必要とされるとの回答があった。監査人に監査理論 に基づく監査技術や財務会計に関する知識が求められるのは当然のことと思われるが、検 査官の能力としてマネジメント能力が必要との回答は、実施されるサービスの実態解明が 検査官の役割であり、サービスそのものへの理解が求められている結果ではないかと考え る。

さらに、BVからCPA、CAA(Comprehensive Area Assessment:包括的地域評価)

にかけてサービス水準検査がどのように変化したかということについて質問をした。

BVで行われたサービス水準検査は当初、狭い範囲のサービスに焦点を当てていたが、

2003年のCPAでは全体的なサービスの検査へと移行した。このことが Scrutinyに近く なってきたと評されている。また2008 年の労働党政権末期になると、焦点はエリア(地 域)に対して当てられ、CAAへと変化した。CAAでは市民の目線から業績を評価する ことになっており、制度が変化するにつれてサービス水準検査の対象とする範囲が広がっ ている。たとえば、住宅サービスを例に挙げると、最初BVでは、家賃の徴収や住宅の修 繕といった非常に細かな個々のサービスについてサービス水準検査を行っていた。ところ がCPAになると、住宅サービス全体についてサービス水準検査を行うようになり、サー ビス水準検査の量が多くなったと説明されている。

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また、サービス水準検査の意義について伺ったところ、労働党政権下でサービス水準検 査は英国で前例のない規模に成長し、その影響はニュージーランドにも広がり、西欧社会 では大きな実験であったとの見方がされ、そして最大の効果としてもたらされたものは、

サービス水準検査を包括的に行うことにより、自治体サービスの改善へ焦点を当てたこと である。この中でサービスの劣っている団体については、全体的な底上げの効果が見られ、

サービスのボトムラインが上昇した。しかし一方では、もともと業績の良かったトップク ラスの団体については、必ずしも天井が上がっているとは言えなかった。その上、サービ ス水準検査の結果向上のための業績改善をする中で、革新的なサービス提供は危険と見な され、幹部職員たちは新しいチャレンジをせず保守的になったという副作用もあった。し かし、全体的に見れば、サービスの劣る団体の業績が向上したのは疑う余地もなく、それ はサービス水準検査の効果であったと評価されている。

カーディフ・ビジネススクールでは、Steve Martin教授に、サービス水準検査の構造や 地方自治体監査委員会廃止によるサービス水準検査への影響について伺った。

地方自治体監査委員会の廃止によって、イングランドのサービス水準検査については廃 止されることが決定されている。一方でウェールズやスコットランドではそれぞれの地方 政府が存在するため、廃止されていない。地方自治体監査委員会のサービス水準検査廃止 の理由としては、1つにはサービス水準検査が多くなりすぎたということが言える。また、

早期にサービス水準検査で大きな問題が解決してしまい、現在ではサービス水準検査によ る改善が少なくなったことも理由に挙げられる。さらに、イデオロギー的な問題で廃止さ れるという理由もある。過去 13 年の労働党政権下で政府支出は増加し、サービス水準検 査が非常に増加した。キャメロン政権は小さな政府を志向しており、公共支出を大幅に削 減しようとしている。そのような理由で地方自治体監査委員会とともにサービス水準検査 は廃止される。ただし、教育・福祉・警察などの個別の検査機関の廃止については言及さ れておらず、存続する見通しである。

サービス水準検査以外にも、監査の面でも影響があるとの指摘もあった。それは、自治 体の監査人の選定は地方自治体監査委員会が行っており、地方自治体監査委員会廃止後の 詳細は決まっていないが、自治体が監査人を自ら選任することになるだろうという見通し であった。イングランドでは従来から、監査人の独立性を重視して、地方自治体監査委員 会が監査人を選定してきた。しかし地方自治体監査委員会が廃止されることによって監査 の受検者が監査人を選定してしまうと、独立性の面が危惧されるということである。

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また、地方自治体監査委員会の廃止で業績のターゲットの多くを失うことになるが、そ の場合に何を頼りに改善すればよいのかとまどいが生じるが、政府の考え方は「すべて選 挙民が決める」ということである。