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6. 炭鉱メタンガス回収利用最適化技術の調査方法の提案

6.5 ロングウォール(LW)での炭層ガス排出

LW 払い内のガス量や流入速度は以下の事項に依存する。

・ LW採炭に影響を受ける貯留層内のガス量

・ 炭層のガス包蔵量と飽和率

・ 炭層に関わる脱離速度定数

・ 採掘領域の上位そして下位の炭層までの距離

・ 有効応力に影響を受ける岩盤の岩力学特性

・ 岩盤のガス包蔵量と空隙率

決定すべき主要な計画値は採掘期間中と採掘後の密閉地域から排出ガスのガス量と排出速 度である。前述したように、生産を制限するガスを軽減するために生産中のガス排出だけに 焦点を当てるのは一般的な作業である。

LW からのガス排出のレートを予測するために適用できる手法は数多くあり、簡単な地質 モデルによって周辺地層からのガス排出度合いを推定する方法から(図 6.5-1)近代的な有 限要素法(Ashelford D, 2003、Guo et al.,2006)まである。図6.5-1 では炭層からの距離が 短いほどガス排出割合が高く、上部に 150 m離れた地点や下部に 50 m以上離れた地点での ガス排出割合はゼロになっている。

最新のモデル手法は正味の結果を大幅に変えるだけではなくサイトの特定条件に適するよう に修正することができる。

6.1 節で上述したガス貯留層サイズの概念に基づき、推定における課題はガス貯留層のど の部分が実際の排出に寄与しているか決定することである。炭鉱内にあるバージン状態の炭 層ガスは、採掘によって発生する応力降下の度合いによって決定される等温吸着曲線上のガ ス量まで排出される。この事実は地質モデルには含まれない。地質モデルでは排出量の割合 を幾何形状から推測するので、ガス包蔵量がモデルで想定したよりも大幅に大きい場合や小 さい場合には誤差を生じる。

採掘後の流体圧力(Noack, 1997、図6.5-2)は欧州の石炭差業界で使用されているもので ある。図の結果は欧州の深部炭鉱に特定したものであるが、一般的に他の地域でも一致する。

採掘前の流体圧力(Pre Mining Fluid Pressure)は地下水位位置から深度に比例して上昇し、

採掘跡の流体圧力は赤線で示されている。採掘によって炭層深度から空洞ゾーンの上の深度 まで大気圧力になり、地表へ向けて圧力が上昇し、採掘前の流体圧力と合流する。採掘炭層 の下盤方向では急激に圧力が上昇して、Noack(1997)のモデルでは炭層から下約60 m 離 れたところで採掘前の流体圧力と一致すると示唆されている。この流体圧力推移は多くの地 質モデルと一致する結果となっている。

図 6.5-2 採掘前と採掘後の流体圧力

(出典:Noack, 1997)

これらのモデルからもLW の影響ゾーン内にある上下盤から多量のガスが排出されること

が示唆される。地層の地球物理学的特性の変化によって多少のバラツキがあるが、空洞ゾー ン内で発生する圧力降下によって残留ガス(メタンでは約 1.0 m3/t、CO2では約2.0 m3/t)

まで、または離れたところでは少し高いガス包蔵量までガスが排出される。この図は排出量 の計算方法を提供するが、次の課題は排出が発生する速度や時間的な観点である。

LW のガス排出モデルへ時間的な概念を最初に導入したのはAirey(1968, 1979)であり、

有効時間定数での有効応力を考慮した。この概念は FPPROG ソフトウェアの開発に繋がっ ていて、英国の廃棄炭鉱での排出ガス減衰の予測(Kershaw, 2005A)に今でも使用されてい る。英国での様々な炭層深度(300 m、600 m、900 m)での採掘領域からの距離に関する時 間定数を図 6.5-3に示している。そしてその結果による時間とガス排出割合の関係を図 6.5-4 に示している。図 6.5-3では深度300 mの炭層の上部では 103時間が経てばガスはほとんど 排出される。

図 6.5-3 ガス排出時間定数

(出典:Airey, 1979)

Airey(1968, 1979)は図6.5-3に示す減衰曲線を決定するために採掘領域の上下での応力 と時間の観測した関係を使用した。近代の有限要素プログラムは応力と浸透率の関係を使用 して同じパラメータを計算している。

これらの多くのパラメータは、QLD州のGoonyella Middle層に関するガス包蔵量と典型 的な豪州の複数炭層の条件を使った検証作業によって実証されている。図 6.5-5 に検証作業 に使った LWガス排出を示す。

図6.5-5 LWガス排出に関する作業例

(出典:Airey, 1968 & 1979)

縦軸:深度、

横軸:ガス 包蔵

縦軸:深度、

横軸:流体圧力

この例において、ガス貯留層内の総ガス量(Q1+Q2+Q3)の約 70 %は採掘後の残留圧力 に基づいて排出される。この放出される 70 %の内、80 %が生産中に排出され、20 %が生産 後に排出される。LW 生産量が増大すると(速度が上がると)、離れた炭層からの脱離速度によ って多くのガスは密閉域に送られる。これによって生産中の特定ガス排出レートを低減する ことになる。炭鉱の総排出ガス量に大幅に寄与するものは生産中の排出ガスである。

生産中に排出されるガスの 50 %は切羽面の200 m以内で排出され、切羽面から500 m以 内となると 70 %が排出される。これらのことから、開式採掘跡坑井を使った切羽近傍のガス 捕集が困難であることが分かる。特に、LW の採炭進行方向がメタン成分の高いガスのある ところでガスは上昇し、CO2成分が高いところで下降する場合にガス捕集は困難になる。

多くの豪州炭鉱で見られる複数炭層においては空隙岩石も含めてガス発生源が複数になる。

有効な採掘前ガス抜きのために必要なガス抜き坑井を得るコストが高くなり、ガス抜き坑井 の位置を決めるのも問題となる。

炭鉱メタンガス湧出・回収・利用量のモニタリングを行う上で、ガス発生源の認識に関し て豪州炭鉱で直面している基礎的な問題は、上下盤にある炭層からのガス排出を推定するモ デ ル の 精 度 を 確 認 す る た め の 研 究 や デ ー タ 取 得 が 不 足 し て い る こ と が あ る 。 ガ ス 排 出 量 は 日々大きく変化しているので、モデル結果と観測されるガス排出量をヒストリーマッチする ことは適切とはいえない。離れた炭層または空隙岩石から脱離したガスによって、実際に観 測されたガス量が予測よりも高くなる場合がある。この分野での理解を深めるために、採掘 後の流体圧力の状況や非採掘対象層のガス包蔵量の包括的なモニタリングが必要となる。

大気放出される炭鉱ガス量を削減するプロジェクトにおいて、この情報なしで進める時の 主なリスクは、ガスの発生源に関する間違った仮定に基づき、実際には主要なガス源ではな い炭層に不適切で高価な採掘前ガス抜きを実施することである。採掘後の流体圧力とガス包 蔵量はガス貯留層が密閉域や廃棄炭鉱へ輩出されるガス量の決定に使用されるため、炭鉱メ タンガス湧出・回収・利用量のモニタリングを行い、シミュレーションにより精緻なガス排 出を推定するモデル構築することである。ガス湧出量の予測には、例えば財団法人石炭エネ ルギーセンター(JCOAL)が開発したCOSFLOWやMFG3-Dといったシミュレータがある。