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1)北尾倫彦著 学習指導の心理学      有斐閣    1991.4

2)野々村弘子高部和子中学校技術・家庭科における「被服製作」教材の研究(第1報)

      日本家庭科教育学会誌35.2

3)松田伯彦 松田文子著  教育心理学研究法ハンドブック    大路書房 4)大沢清二著 生活統計の墓礎知識       家政教育社

5)斉藤喜博著 斉藤喜博全集 第1巻 授業と教材解釈・授業の可能性 国土社 6)村田泰彦著 生活課題と教育       光生館

7)河野公子編著 中学校技術・家庭科 指導細案 家庭生活    明治図書 8)鈴木寿雄監修 新しい技・家の展開      開隆堂

1992.8 1991.7 1991.3 1983.3 1984.6 1993.7 平成元年10月

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終 章

1.研究の概要

 中学校技術・家庭科「家庭生活」領域の授業設計や指導方法を研究する基礎資料を得るため に、中学・高校生及び社会人の「生活の豊かさ」「暮らし方」の意識を調査した。その結果か ら、中学生の生活意識を明らかにし、興味・関心を持たせることのできる「家庭生活」領域の 授業設計や指導方法を研究するとともに、授業評価を通して学校教育の場で活用できる有効な 授業分析の方法を研究し、次のような成果が得られた。

2.研究の成果

1)「生活の豊かさ」と「暮らし方」の調査結果

 人々に共通した「生活の豊かさ」の意識は、親しい友人や家族に恵まれ、安泰な暮らしがで きることであり、豊かさの意識は高い。しかし、地域の歴史・文化や個人の資質にはそれほど 関心はなく、食を支える農作業に対する興昧は薄い状況であることが分かった。

 その中で、中学生は若者の立場で安心して暮らせる社会、活動仲間や親戚付き合いができる ことに高い意識を示しているが、自己中心的な欲求が強く、気ままとも受け取れる暮らし方を 期待していることが分かった。

 また、「暮らし方」の共通した意識は、簡便な生活を志向しており、共同購入、地域行事な どの活動に参加の意思を持つ入は少ないことが分かった。また、生活を地域社会や自然との関 連性を考慮した生活行動が取られていない状況も伺える結果であった。

 中学生の特色は、簡便さを優先した消費を肯定的にとらえ、生活の時間管理や行動に主体性 が見られないことが分かった。

 このような中学生に自分らしい豊かな生活を営む力を育てるために、「家庭生活」領域でそ の素地を育てることが課題といえる。

2)家庭科の授業分析の方法

 再生刺激法を用いて、「衣生活に関する学習」の授業実践を分析した結果、家庭科の授業に 対して有効な授業分析の方法であることが以下の点から明かかになった。

 学習場面と生徒の生活体験を関連させながら理解を深める過程が把握できたこと、また、学 習活動に意欲を失うきっかけや理由が把握でき、個々の学習に対する意欲・関心の程度が明ら かになり、学習者の立場に立つ授業評価の方法としてその有効性が確かめられた。また、生徒 にとっては自己理解をする機会としての可能性も示唆された。

 なかでも、個に応じた指導が重要視されている今、個々の生徒を理解するのに有効な授業分 析法といえる。

3)「家庭生活」領域の授業設計

 「家庭生活」領域の授業設計は、調査研究から得られた課題である ①人間の信頼感の醸成、

②広範な生活観、③主体的な消費姿勢、④生活技術の育成、などに視点を置き、衣食住にかか わる仕事を核にした構成が望ましいのではないかと考えた。

 そこで、米飯の調理を発展させた「朝食つくりの計画の作成」を題材にし、食事をとる方法 には、家庭の食事以外に外食などがあることを認識させた。その上で、主体的に食事の方法を 選ぶには調理技術を身につける必要があること、調理の時間と労力の提供は家族の信頼感を構 築する営みであることなどを、生活体験から実感できるように授業を組み立てた。また、暮ら し方が生活排水や廃棄物の量と質に関連することから、人間の生活と社会・自然環境との関連 が感じられる活動も取り入れた。

4)授業実践と評価

 実践授業を再生刺激法により分析した結果、生徒が各授業場面においてどのような先行経験 と関連させて学習を理解したり、誤認したしするか、その過程が把握できた。また、学習に興 味・関心を示したり、失ったりした要因も把握できることが明らかになった。

 すなわち、再生刺激法による授業評価は、学習集団としての授業評価ではなく学習平門入に 焦点を当てた評価の方法といえる。

 授業前・後における生徒の意識調査の比較分析の結果、学習者は学習に興味を持ち好意的態 度を示した。また、「食事つくりの仕事」の学習を通して、生活と環境との関連や仕事内容の 理解、自分の家庭生活への関心が高まるなど、一定の学習効果が認められた。

3.今後の課題

 これらの授業実践は、附属中学校の生徒を対象に実施したものであり、地域の公立校の生徒 を対象にした結果ではない。また、授業者と研究者が同一人であることにも問題がある。

 今後、学校現場に帰り、この研究成果を生かした家庭科の授業分析・研究を継続し授業改善 を図りたいと考えている。

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おわりな二

 日々の授業や学級経営、生徒指導などと忙しい時間を送る中で、私を育てるエネルギーを沸 き立ててくれたのは、生徒の目や声だったと感じています。放課後の勉強会の折りに、ある生 徒が「せんせは、何で家庭科のせんせなんかに、なったんや」と尋ねました。私は「憧れた家 庭科の先生がいて、私も家庭科のせんせいになろうと思った・…」と答え、昭和30年当初に北 陸で過ごした中学校時代の話をしました。

 戦後の農村生活を送っていた私には、家庭科の授業で聞く「家庭のありかた」「衣食住の整 え方」の学習は、新鮮で光っているように感じました。教育実習の期間、教科指導をその先生 から受けたくて郷里に帰りました。教育実習を経験した昭和41年当時の日本は、社会経済が急 成長期を迎え、子どもの高校進学が普通だと誰もが考える時代になり、中学生の家庭科に対す る意識が自分の頃と異なるように感じました。放課後の図書室で授業後の指導を受けながら、

その感想を教科指導の先生に漏らしているのを、国語の授業を担当していただいた中山宇之一 先生が書架の向こうで聞いておられ、「本木。生徒の学習態度は、指導者の作った授業を映し たものだ、そういう気持ちのない者は、教師にはいらん」と貴重な指導をくださり、その言葉 は現在も、私の教育活動の指針となる言葉になっています。

 学校教育における、家庭科の授業に求められるものや巣たすべき役割は何かを問い続けてい た私には、生徒の単純な質問に揺さぶられました。「家庭科で、何を学んでいるのか」という 学習の命題を、生徒に持たせていないことを突きつけられた思いでした。

 価値観の多様化がすすみ、国際化・情報化時代といわれても、主役は人間が担当し、入間相       d

互の信頼が社会の根幹を支え、その人間を育てるのは家族であり、家族が営む家庭生活である と考えます。すなわち、岐路に立ったとき自分を原点に帰す、いわば、自然と生活への回帰力 を与えられる家庭科を理想としていました。しかし、自分の理想を現実の授業に生かせずに、

ひとりよがりな実践を続けているのではないかという不安が、生徒の質問によって表面化しま

した。

 本学に籍を置くことが認められ、生活・健康系(家庭科)の先生方をはじめとする多くの先 生から講義を受けながら、学ぶ意義と充実感を感じる毎日でした。勉強の楽しさより苦しさば かりを見てきた自分を発見し、生徒に苦しさを強いる授業を押し付けていたことを深く反省し

ました。

 なかでも、私の主任指導教官である高部和子教授の「家庭科教育論演習」での、技術教育の 松浦正史教授から授業の分析研究の方法を講じていただく機会を得て、授業分析のひとつの方 法として再生刺激法を紹介していただきました。

 学習者の生活体験が学習意欲・関心に関連するのではないかと感じていた私には、家庭科の 授業にも、その再生刺激法の有効性を確かめられたら、長年の「生徒から学ぶ授業、生徒と共

につくる授業」に役立つ研究になると感じ、さっそく、高部教授に附属中学校の授業で演習を したいと申し出て、中学校と連絡調整を依頼しました。家庭科担当の村田好子教諭は快く理解 を示していただき、同じ講義の受講者と共に再生刺激法を用いた授業分析の演習を実施するこ

とができ、課題研究の柱が立ちました。

 また、人々が持っている生活に関する意識から、授業設計に役立っ資料を得ることを考えて 調査を実施しましたが、それを進める上で多くの方の協力をいただきました。

 郷里の富山では、県立富山高校時代の恩師であり、現在、富山県教育委員会教育長をしてお られる八木近直先生から、富山県教育委員会生涯教育課にお口添えをいただき、生涯教育課で 主催された催しの参加者の方々のご協力をいただくことができました。また、中学・高等学校 の同窓生をはじめ、知人・親戚を含め、多くの皆さんのご協力も得られました。

 大阪では、池田市をはじめ、大阪府下全域に渡る中学・高等学校のご協力を得て、多くの調 査ができたことを感謝しています。また、石橋中学校、池田中学校の卒業生や保護者の方々の

ご支援も忘れることができません。

 何よりも、家庭科教育研究に2年間の期間を保証していただいた、大阪府教育委員会、池田 市教育委員会に謝意を申し上げ、学校現場で支えていただいた石橋中学校校長神山智弘先生を

はじめ教職員の皆様にお礼を申し述べます。また、資料収集や情報を提供していただいた大阪 府教育センターの指導主事の方々にも謝意を表します。

 最後になりましたが、未熟な私にご懇切、且つ適切な指導をいただいた高部和子教授には、

お礼の言葉もございません。先生のご恩に報いるには、先生が家庭科教育に注いでおられる情 熱を学校教育の場に広げることと心に誓っております。

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