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授業設計についての視点

 「生活の豊かさ」と「暮らし方」の調査結果から、「家庭生活」領域の授業設計に当たる、

指導者の基礎資料として次のことが得られた。

 調査対象者全体が持つ「生活の豊かさ」の意識として、①家族や友入に恵まれ健康や災害の 不安のない安泰な毎日を基本にしていること、②地域文化や個人の資質に関する関心はそれほ

どでないこと、③食を支える農作業に対する興味は薄いこと、などが分かった。

 中学生の特色を、社会人と比較した結果、①子供が安心して生活できる環境を大切にしてい ること、②家族や親戚の人との関わりを楽しみにしていること、など子供の立場で感じる豊か さの意識を持っていることが分かった。また、③個の意識を優先した利己的とも解釈できる気 ままな暮らしも豊かさの要素にしており、高校生と比較しても、中学生がその傾向を強く示し

ている。

 生活経験の乏しい中学生の発達段階では、自己中心的な感覚を残していることは当然とも考 えられ、この未成熟な部分は、むしろ学習の成果が期待できる要素であると解釈できる。中学 生は自己の確立に向けて胎動が活発になる時期であり、自分の家庭や家族を中心とした生活を 客観視し、良い点、より良い方向に改めるための課題を模索している状況と思われる。

 すなわち、中学生は、価値意識の構築に向けて自分の意思で行動を開始し、自立への一歩を 踏み出す時期であるといえる。

 そこで、「家庭生活」領域について、家族や家庭生活に関する内容を「人間の生きる営み」

を核にして、総合的に学ぶ学習領域として位置づけた。

 時実利彦は、著書「人間であること」の中で、人間の「生きる営み」を「1学習しなくても 備わっている『たくましく』生きる本能・情動行動 2学習によって経験をつみ外部環境に適 応し、技術的存在者として『うまく』生きる適応行動3未来に目標を定め価値を追求し、そ の実現をはかろうとする創造行為であり、人格的存在者として『よく』生きる」9}、の3段階 に分けている。生活の豊かさは、この『よく』生きる営みの過程に・おいて見いだすことができ ると考える。

 アドルフ・ボルドマンは、人間の行動を動物と対比し、「動物の行動は、環境に拘束され、

本能によって保証されている。これに対して、人間の行動は、世界に開かれ、そして決断の自 由を持つ」 ・)と規定しており、中嶋俊介は「21世紀の入口に来て、各人が工夫しだいで各人な

りに大切にしたい生活を、充実したものとしていける物レベルでの諸条件を手にし始めている。

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(中略〉時代の変化のスピードに遅れず追走していこうとする限り、知識は際限なく必要にな る。必要な知識・情報を必要に応じて入手する方法を知り、かつ自らの判断で組立て直す応用 能力が、このような時代に生きるわたしたちには必要となっている。」le)と述べている。これ

らは「よく」生きるために自己選択力を養う重要性を論じていると解釈できる。

 大田たかしは、著書「教育とは何か」の中で「ヒトが入になるもっとも基本的な要因は、意 図的で積極的な『わきまえる』力、分別・選択する能力の発達にあり、ヒトは人になりっづけ

る存在である。(中略)生涯を通して選択を繰り返して人は育つ」1Dと述べている。また、

吉野正治は生活を扱う教育を「ある状況の中で、利用可能な条件を組み合わせ、最適な解を発 見し、一定の目標(価値)を実現して行くかといった実習教育」12)と規定している。

 本研究では、「人間の生きる営み」を「人間を社会・自然環境の中に存在させ、生活物資を 人と人の協働において有効活用して自分の生活目標の達成を目指すこと」と定め、「家庭生活」

領域の学習を通して、自分の目標を持ち豊かな生き方を創造する自己選択力の育成に役立てる ことを目的とする授業設計を作成した。

 ここでは、学習指導要領の「家庭生活」領域の目標である「家庭生活に関する実践的・体験 的な学習を通して、自己の生活と家族の生活との関係について理解させ、家庭生活をよりょく

しょうとする実践的な態度を育てる」の達成に向け、「人間の生きる営み」を体験的に学習さ せることが、自己選択力の育成に関わり、それはまた、今回の学習指導要領の改訂のねらいで ある「豊かな心をもち、たくましく生きる人間の育成を図り、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主 体的に対応できる能力の育成を重視する」3)などの達成を目指すことにつながると考える。

 そこで、「生活の豊かさ」と「暮らし方」の調査結果と「人間の生きる営み」を考慮に入れ て題材の選定や学習指導に際して指導者が持つべき視点を、次の4点にまとめた。

1)人間相互の信頼性…・人間相互の信頼と責任を培う場である、家庭と地域社会の果たす役        割を認識できる力を育てる。

2)生活の連鎖性・・・・・…個人の生活を、家族や社会と自然環境、資源とエネルギーなどとの        連鎖の環に位置づけて、相互の関わりを視野に入れて考える力を育

       てる。

3)主体的な消費姿勢・…生活の状況に応じて、必要な生活財やサービスを適正に選択できる        力を育てる。

4)生活に必要な技能・…生活様式の変化と生活技能の関係を知り、生活を主体的に営むため        に必要な技能を理解させ、技術を習得させる。

4 2 「家庭生活」領域の学習項目の組立て

1.学習者の生活経験

 中学校学習指導要領技術・家庭科の「家庭生活」領域の内容として、①家族の生活、②家庭 の経済、③家庭の仕事、④家庭生活と地域との関係、が示されている。ここでは、これらの内 容を並列的に位置づけるのではなく、「人間の生きる営み」をより良い方向に創り上げるため に「家庭の仕事」を核にして総合的に組み立てることが、効果的な授業設計になると考えた。

 それは、家庭生活は多くの事柄が同時に進行し、それぞれが関連し合いながら家族の生活を 成立させていることを、衣食住(と保育)を中心とした「家庭の仕事」を通して学ばせること が、領域の目標を達成させる方法ではないかと考えたからである。

 しかし、家族の形態や生活様式が多様化する今日、各家庭における仕事の内容も一様ではな い。また、中学生は「暮らし方」の調査結果において、生活に必要な生活物資の商品化や家事 代行などのサービス化を容認していることから、家庭生活の簡便化が進行すると予測できる。

 生活の簡便化は、家庭の仕事の中で「子供の手伝い」を不要とし、子供の家庭における生活 経験を減少させているので、中学生の家庭における生活経験は様々であり、家族や家庭生活の 認識は一定でない。このことは、授業設計に際して配慮しなければならないことである。

2.生活の史的導入部の設定

 指導計画作成に当たって、生活経験の異なる学習者に「家庭の仕事」と一口に言っても、同 じ仕事内容をイメージしているとは限らないことから、仕事内容を一般化する必要性があると 考えた。

 それには、「家庭の仕事」を生きるための基本的な営みと位置づけ、まず、生活の目的行為 を達成するまでの過程に必要な処理・作業を仕事内容として段階的にとらえさせる。次に、時 代の進展によって便利な道具類が考案され家電製品が普及したこと、さらに、家庭の仕事のサ ービス化が図られるようになったことなどから、「家庭の仕事」の守備範囲が変化し、それが、

時間の使い方や人の生き方、個人が必要とする生活技能の種類や質などを変化させていること を認識させる。

 これらの暮らし方の変化の学習を、家庭の仕事の指導計画の導入部として位置づけることが 有効ではないかと考えた。それは、「入間の生きる営み」を史的にとらえさせることは、今の 暮らし方を見極めることにつながり、自分のこれからの生活の方針を主体的に選択できる力を 育てるための基礎になるのではないかと考えたからである。

 例えば、現在の生活の中で 「食事をする」場合、目的を達成する手段は、米飯を炊くための

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下準備から取りかかる方法のみではない。外食を含め、ご飯や惣菜は商品として流通し、コン ビニエンス・ストアーでは24時間体制で弁当などの食料品を販売している。時間と労力を省き、

多少の費用を費やせば、目的とする行為を達成できる条件が整えられている。また、家庭にお ける仕事の内容を、単に時間と労力のかかるだけの仕事と位置付けた場合、家事労働の価値が 見失われ、簡便さのみを追求する暮らし方に傾斜し、そこには家族や家庭の果たす機能は非常

に小さくなっていると考える。

3.学習教材の組立

 前述のように、多様な暮らし方の中から自由に選択して生活できる時代においては、「家庭 生活」領域の適切な学習題材をどのように整えるかは大きな課題である。.

 家庭生活における仕事の内容には、「生活資材の入手・製作・保管とそれらの有効活用と廃 棄処理も含めた総合的な経営・管理的な仕事」「子供の養育や家族の健康管理などの仕:事」が あり、「家庭の仕事」の指導を通して、知識と技能を駆使して家族とその生活を管理・運営し ていることを理解させられる学習と考える。当然、その学習には、人間の生きる営みと社会や 自然環境との関連性も、体験的に学習させる展開を図ることが必要である。

 すなわち、「家庭の仕事」を、生活資材の入手、加工、使用・管理、廃棄までの家庭内だけ の仕事としてでなく、その過程に、自然と社会の循環に人間を存在させることによって、暮ら

しを組み立る力を育成することである。その中で、自分の生活状況と生活目標に合わせ、より

「よい」生活手段を選択するには、正確な知識と生活技能を持つことが前提であり、そのため には、生活技能を習得することの意義を理解させる題材が必要と考える。

4 3「家庭の仕事」の学習内容と指導計画

1. 「家庭の仕事」の学習内容と目標

 「家庭生活」領域の目標を達成するための内容として、学習指導要領には4っの内容が示さ れ、それぞれに指導事項が掲げられている。その中の「家庭の仕事」を対象に、調査結果から 得た指導者が持つべき4っの視点を考慮にいれた指導内容と目標などを次表にまとめた。

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