4 考察
4.6 考察(5) 製品開発活動を持続・発展させる動機と意義
4.6.1 製品開発に損得を超えた価値を認める
製品開発は、下請事業とは異なる事業遂行上の困難が伴い、下請事業のように生産すれ ば取引先が購入してくれて、収入が得られるというわけではない。したがって、自社商品 開発を行うことを、ただ損得勘定、収益的な判断のみで継続していくことは、容易なこと ではない。今回の企業事例でも、損得を超えた価値判断から、製品開発を継続する意思を 持っている例が多く見られた。
ひとつには、「社会への貢献」を果たそうとする思いに基づく事例である。ファインの清 水社長は、自社の介護歯ブラシを使う人は「これしか使えない」という人であり、そうい う方に提供できることに、当社の存在価値がある、と語っている。たとえ人数は多くなく ても、自社の製品でなければいけない人に製品を届けたい、というのは、事例企業の経営 者に共通する思いであるように思われる。清水社長は、歯科医によるプロケアとセルフケ アに大きなかい離があることを知り、「知ってしまったからには何とかしたい」との思いで、
自社製品開発と並行して、正しいブラッシングを啓蒙するセミナー事業にも取り組み、ハ ード、ソフトの両面から、ユーザーのブラッシングの質の向上を目指している。高山医療 機械の高山社長は、「患者の命にかかわるというリスクを背負う覚悟がなければ、医療機器 を作ってはいけない」と語り、自らの高い品質管理への自負を示している。伊吹電子の松 田社長は、年金生活者でも購入できるように、発売から 10 年以上経つクリアーボイスにつ いて、今後も価格を上げるつもりはないと語っている。ナイトペイジャーが開発している 福祉製品は、「障害を持たれている方が自動車の運転を諦めるのではなく、近年発達を遂げ ている家庭用カーシミュレーターなどを使用し、運転練習装置として『外出活動』を間接 的にでもお手伝いする」「遊びと福祉機器の融合」といったコンセプトで、研究し開発して
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また、大手企業の生産拠点の海外移転などに伴う国内の製造業が衰退に向かう現状に対 して、日本でのものづくりをなくしたくない、という思いから、自社ブランド製品に取り 組む事例もある。テルタデザインラボ、丸和繊維工業は、国内で消費されているニット製 品のうち国内生産の製品が3%になってしまったという現状を憂い、高い技術をアピール できる自社ブランド製品を作って MADE IN JAPAN をまもりたいという共通の思いを語って くれた。日本でしか作れないニット製品が確かにまだあるのだという。大里化工は、「大手 メーカーが日本でものづくりしないならうちがやる」との思いから、自社製品の開発、お よび、製品開発を支援する事業を立ち上げた。
そして、すべての事例に共通して観察できるのが、自社製品を開発することに、本来の ものづくりの在り方を見出していることであろう。多くの企業でのインタビューで、下請 事業ではどんなに品質のよいものを作っても評価されることは少なく、いかに安く作った かでしか評価されないことへの不満、不信の思いが聞かれた。自社製品開発では、下請事 業では経験のないコンセプト作成や営業・マーケティング活動を行い、製品開発プロセス を実行していくことには、新しい挑戦や努力が必要となるが、その上で、自身が作りたい と思う製品を作ることができる。伊吹電子の松田社長の「新商品を開発するために、下請 事業をしている」という言葉は、そうした思いを端的に表している。また、自社製品、特 に自社ブランド製品の場合には、自社が生み出した価値を価格として適切に製品に反映さ せることができる。テルタデザインラボでは、2015 年秋冬シーズンに自社ブランド商品を 発売予定であるが、照田社長は、自社ブランド商品や「IKIJI」ブランド商品では、
価格のこと、値下げのことは考えずに、徹底的に品質の良いものを作りたい、という。 長 年OEM、ODM商品ばかりを手掛けてきただけに、自社ブランド商品に掛ける思いはひ としおであろう。
なお、多くの中小製造業では事業部ごとの収益や製品ごとの収益を測定し管理する「管 理会計」の考え方は厳密に導入されていないことが多い。だからこそ、次項で触れるよう に下請事業で得た収益を製品開発への投資に充てることで財務的なリスクを減らしたり、
製品原価の計算に金型投資の償却費を計上しない、といった策を取ることができる。さら に、新規に開発した製品の販売額は把握できても、自社の収益にどれだけの貢献をしてい るのかについて、正確に把握することができない場合が多いと想定される。こうした実情 は、収益管理の観点からは不十分であると考えられるが、新製品の成否について収益性 =
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損得で問われる可能性が少ないということである。すなわち、中小製造業者は、大手メー カーに比べて失敗を恐れずに新製品開発に取り組める環境にある、と考えることもできる だろう。
4.6.2 事業ポートフォリオを多様化させ、経営を安定化させる視点
伊吹電子では、下請事業で得た収益を内部留保し、蓄積した資金を原資として自社ブラ ンド商品開発を持続的に行い、商品ラインナップを拡大させてきた。その結果、2008 年の リーマンショックで取引企業が大きなダメージを受け下請事業の売上が落ち込んだ際、自 社ブランド製品の売り上げがその落ち込みを最小限に食い止めたという。景気変動がメー カー向けの需要と一般消費者の需要に及ぼす影響にはタイムラグが生じることが考えられ るため、ポートフォリオとして有効に機能したものと思われる。また、2015 年 5~6 月時 点で、今回取り上げた 11 社に対して直近 3 年間の業績傾向を確認したところ、回答のあっ た 8 社中では、向上傾向と答えた企業は 5 社、残り 3 社は横ばいとの回答が得られた。向 上傾向と回答した 5 社では、いずれも自社製品の販売増加が寄与している、との回答であ った。また、下請事業を有する企業においては、下請事業は軒並み横ばいから減少傾向に あるとの回答であり販売減少を自社製品の販売増加が補い、業績を維持できている、との 回答もあった。
このように、下請事業のみの事業体制から、自社製品の製造・販売を行うことで、事業 ポートフォリオは多様化し、経営を安定させることができる可能性がある。そして、下請 事業で得た収益の範囲で新規製品開発を行うことによって、借り入れなどによって資金調 達を行って製品開発を行うのと比較して、財務的なリスクは抑制できる。助成金など行政 の開発支援策を活用すれば、より大きな開発投資を行うこともできる。また、図表 4-8 で 示すように、事業リスクという観点でみると、OEM生産や外部企業との協業は、自社ブ ランド製品開発に比べれば小さい事業リスクで取り組むことが可能である。
さらに、自社製品開発を行うことで、さらに新たな事業展開が可能となることもある。
これは、自社製品開発によって自社の活動が広く業界や消費者に知れ渡る機会となること や、自社製品開発という新しい活動が、自社の組織能力を高める効果を有するためである。
ナイトペイジャーは、大手メーカーや周辺の中小企業との共同開発を展開しているが、こ れは自社ブランド製品が大手メーカーの担当者の目に触れ、興味を持ってもらったことが きっかけであった。ナイトペイジャーについては、共同開発事業としての下町ボブスレー
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図表 4-8 自社製品開発による事業ポートフォリオの構築
出所:筆者作成
プロジェクトへの参画も自社の存在を広くアピールする機会となっている。二宮五郎商店 は、もともと有名ブランドや大手百貨店のオリジナル商品の開発・製造を行っていたが、
そこで蓄積した技術や業界内での信頼を元に、自社ブランド製品を手掛けている。
4.6.3 「続ける」ことによって学習し、進化できる
下請事業では長年の技術的蓄積があっても、製品開発においては一からのスタートであ る。従って、これまで技術を蓄積してきたのと同様に、製品開発を持続的に行い、市場へ の製品投入を続けていくことで、自社なりのスキルを習得していくことになる。
2001 年に初めて自社ブランド製品を発売した大里化工では、得意の射出成形技術をいか すため、当初は雑貨小物の自社ブランド製品を開発していたが、単価が小さいため、なか なか大きな利益につながらなかった。そうした経験が、2 万円以上という価格の「フォト ラ」を生み出す動機の1つとなっている。また、既存の流通を使った販売では、利益率が 低くなってしまう経験から、「フォトラ」「ボトラ」では既存の流通で売ることは極力せず、
「インターネットでも販売できること」を意識して開発を進めた。
ナイトペイジャーでは、自社ブランド製品を量販店で展示販売を行い、店頭用のパッケ