3 事例分析
3.11 事例企業(10) 株式会社二宮五郎商店
3.11.3 現社長による経営の改革
二宮社長は社長就任後、様々な形で経営の改革を行っており、その成果が商品戦略に表 れている。ここでは、マーケティングの4Pのフレームワークで、当社の商品戦略を整理 する。
①Product(商品)
当社では、大手百貨店やアパレルメーカーのオリジナル商品の OEM 生産を多く手掛けて いる。依頼企業の担当者からは、これを作ってほしい、という細かな注文があるのではな く、開発予算、ターゲットや対象年齢、売り場や販売時期(例えば秋の百貨店の催事で販 売する、など)、販売数量はどれくらい、といった要望が提示される。二宮社長は、その情 報に合わせて製品のデザインや仕様を検討し、提案を行う。このプロセスにおいては、飲 食店を経営していた時代の経験が生きている。緻密な観察して、細かいところに気が付け ること。顧客が要求していること、要求していることの意図を汲み取って対応し、接客す ることの経験が生きている。
二宮社長は、デザインは売れる商品を作るために非常に重要視されるべきものと考えて おり、丁寧なものづくりは基本であるが、それ以上にデザインが重要であると考えている。
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商品のデザインは、二宮社長自身が担当している。社長には「デザインは自分自身の、二 宮五郎商店の思想を込めるもの」という思いがあり、商品のデザインを外部のプロダクト デザイナーに任せることはしたくないと考えている。外部のデザイナーは色々な商品をや っており、世の中のニーズをかぎ分けてやるので、平均的なものづくりになってしまうの では、という危惧もある。また、皮革のデザインは、様々な皮革ごとの特徴、性質を的確 に理解していないとできないとも考えている。さらに、皮革はアパレルとは違い、流行に よる幅が小さく、どこのブランドにも何十年も変わらない定番の形があり、変わっていく と逆に価値が下がっていく場合もある。外部のデザイナーに依頼しなくとも、社長自身が 皮革を扱ってきた経験と知見から、デザインすることが可能であると考えている。「IKIJI」
のデザインについても、統一コンセプトを踏まえつつ社長自身で行っている。また、二宮 社長は、37、8歳の頃からCADを一から自学で勉強して、周囲の同業者に先駆けてデ ザイン検討・図面作成に採用した。それ以降、取引先へのデザインの提案も、CADで作 成した画像を用いている。現在社内では、社長と社長の子息がCADによる作図ができる。
二宮社長は、製造する商品の幅をどんどん広げている。皮革業界は、企業ごとに作るも のがかなり細分化している。なぜなら、作るもので設備が異なるため、生産効率を考える と、単品、あるいは種類が極力少ない方がいいからである。しかし、二宮社長はそういう 風潮から脱却し、消費者が求めるものは何でも作りたい、と考えており、特に社長に就任 後は、あらゆるアイテムに挑戦するようになった。
商品に使用する皮革材料は、規格品は一切使用せず、革の選定から行っており、欧州産、
北米産の原皮を中心に、国内の松坂牛の皮革なども使用している。
②Place(チャネル)
当社は創業以来、製品を問屋に卸す業態からスタートしており、業界として一般的な取 引慣例を守っていた。しかし先代社長は、多くの製造者が多くの問屋に卸す取引形態では、
問屋においては当然ながら、自社の製品が特別扱いされることはなく、商品の1つとして しか扱ってはもらえない、という体制に疑義を持ち、自前で百貨店、小売店に直接売り、
利幅を多く取っていく方式に変える試みを行っていた。二宮社長は先代の試みをさらに推 し進め、問屋への卸販売を一切なくした。現在の販売は、OEM販売が売り上げの8割を 占め、残りが百貨店、小売店への納入や、消費者への直接販売である。自社ブランドの商 品は、百貨店の他、インターネットでも販売しており、販売アイテムが多いのが藤巻百貨
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店18で、藤巻百貨店の第1号商品は当社の商品である。今後は自社商品の販売の比重を多 くしたいと考えているが、OEM製品も増えているので現状販売構成はほとんど変動して いない。
百貨店とメーカーの商談は、百貨店の商談室にメーカーが出向いて回るのが通例である が、当社の場合は、自社ブランド商品、百貨店のオリジナル商品問わず様々な商品を卸し ているため、二宮社長のもとに担当者が一堂にやってきて、代わる代わる商談を行ってい く。百貨店側としても、いろんな生産者に任せるよりも信頼ある1社に任せる方が安心で ある。当社の営業担当が社長1人で済むのは、このように相手がこちらに来てくれるから である。取引先にとっては、当社の工場に来れば、サンプルがあり、材料があり、社長や 職人からの知恵ももらえるので、結果的に商談がスムーズに行えるのである。
③Promotion(プロモーション)
当社はすべての商品が国内生産で、革の仕入から仕上げに至るまで外注を使わず自社で 内製することを掲げている。また、型紙製作、型入れ、裁断、下拵え、縫製、金具取付、
仕上げまで、商品製作の各工程を分業化せず、1人の職人が行うことを基本としている。
こうした取り組みが、当社製品の品質を保証する大きなアピールポイントとなっている。
また、当社の自社ブランド商品のうち、2011 年に「すみだモダン」19のブランド認証商品 として「革風呂敷」「風琴マチシリーズ」の 2 商品が認証されており、当社の高い技術力が アピールされている。
④Price(価格)
当社の自社ブランド商品の顧客ターゲットは、30代の中盤以上の方を想定している。
これは、革製品は、資材を吟味して、丁寧なものづくりをして、なおかつ適正な利益を出 そうとすると相応の価格がするため、顧客は相応の所得がなければといけないと考えてい るためである。そうした価格設定である以上、頻繁に買換えてもらうことなく、価格相応 に1つのものをずっと使ってもらえるようにものづくりすることが大事と考えている。ま た、大手百貨店などのオリジナル商品については、依頼先から要望価格が提示されるが、
18 元伊勢丹の名物バイヤーとして知られた故・藤巻幸大氏によるプロデュースで 2012 年に立ち上がっ た E コマースサイト。藤巻氏の慧眼に適う高品質な商品が取り揃えられ、販売されている。
19 本章第8節(事例(7)株式会社丸和繊維工業)を参照
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依頼先は当社の製造力の実力を十分に理解しているので、取引価格について無理な注文は 来ない。このように、自社ブランド商品、OEM商品ともに、当社が実質的な価格決定力 を有している。