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第5章 局所力学刺激による細胞内 Ca 2+ 濃度上昇と PKCα のトランスロケーション

5.3 考察

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5.3.2 PKCα の二相性トランスロケーションと

Ca

2+

・ DAG の関係

先行研究において,PKCαトランスロケーションの動態を改変したベイトマン 方程式にフィッティングすることでパラメータ化した研究がある[34][100].

𝑅 = 𝑅0+ 𝑆𝑘𝑜𝑛⁄(𝑘𝑜𝑛− 𝑘𝑜𝑓𝑓)(𝑒−𝑘𝑜𝑓𝑓𝑡− 𝑒−𝑘𝑜𝑛𝑡) (1)

上記(1)式のRはPKCαの輝度が増加した部分(刺激位置,刺激位置近傍の細 胞膜)を細胞質で割った蛍光輝度比であり,R0は刺激前の蛍光輝度比を表して いる.Sは定数であり,tは時間を表す.KonとKoffはそれぞれPKCα活性化の 反応速度定数,PKCα 非活性化の反応速度定数を表す.Sinnecker と Schaefer ら はkon  koffは低いDAG濃度を意味し,kon  koffは高いDAG濃度を意味すると報 告している[100].本実験で観察されたPKCαの 1 次反応(Control,小胞体内の Ca2+を枯渇,細胞外の Ca2+を除去した条件)と 2 次反応(Control,小胞体内の Ca2+を枯渇)を(1)式にフィッティングした(Table. 5-1).PKCaの1次反応に 関しては3つの条件で有意な差はなく,Ca2+の増加と同時にPKCαは活性化され

た.Schaeferらはヒト胎児由来腎臓細胞において,Carbachol(20 μM)負荷中で

Ca2+オシレーションとほぼ同時に PKCa がトランスロケーションすると報告し ている[34].さらに,本研究で得られたKonと Koffに有意差はなく,それぞれ 0.17 s−1–0.20 s−1 と0.16 s−1–0.18 s−1であるが,これは薬理学的な結果と似ている

ことから[100],局所的な力学刺激における PKCα の 1 次反応が,GPCR を含む

薬理学的な反応と同じ経路である可能性を示唆する.

細胞外の Ca2+を除去した実験でも細胞内の Ca2+濃度上昇観察されたが,これ はTsukamotoらの実験でも報告されている[72].Tsukamotoらの実験ではPLCの 活性化は局所的な力学刺激によって小胞体内の Ca2+が放出されることと,細胞 内のCa2+伝播が関与していると報告している.このことはDAGが産生されてい る可能性を示唆している.本実験からもDAG結合ドメインを阻害時にはCa2+濃 度上昇が起こったにもかかわらず,PKCαの1次反応は見られなかった.これら の結果から,PKCαの 1 次反応には細胞内の Ca2+濃度上昇と DAG 依存性の C1 ドメインが必要であることが示唆された.一方,PKCαの2次反応は Controlと 小胞体内のCa2+を枯渇させた条件でKonとKoffに有意差はなく,1次反応に比 べて有意に小さい値になったことから,1次と2次のトランスロケーション機構 は異なる可能性が示された.Maaschらは局所的なCa2+がPKCαの膜への親和性 を増加させると報告している[56].また Medkova らは cPKC はまず Ca2+依存性 のC2ドメインを介して細胞膜表面に結合し,次にC1ドメインの1部分である

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C1aドメインが膜へ挿入されるように構造変化することでDAGに結合すると提 案している[101] [102].さらに,NalefskiとNewtonらも,Ca2+のC2ドメインへ の結合が細胞膜に対する親和性を有意に高くし,Ca2+濃度が高いままである限り DAGを細胞膜上で探索すると提案している[54].また,産生されたPIP2やDAG は細胞膜上を拡散することがわかっている[103][104].このメカニズムに基づく と,PKCαの 1 次反応は細胞に広がる Ca2+濃度上昇によって引き起こされ,細 胞膜へトランスロケーションすることが可能になる.しかし,局所的な力学刺激 では薬理学的な刺激よりも DAG の産生が低いだろうと考えられる.Tsukamoto らの実験ではPLCの活性化はCa2+伝播と平行して細胞質全体で生じ,特に刺激 位置付近では高い活性化をしてる[72].本実験からも細胞全体にCa2+伝播しても,

刺激位置から遠い細胞膜付近では PKCα の輝度上昇が変化しないか,減少して いる.一方で,PKCαの2次反応は細胞外からのCa2+流入によって引き起こされ るので,刺激位置へPKCαが局在し得る.また2次反応はC1ドメインが阻害さ れたことで起こらなくなるので DAGが必要だと示唆される.PKCα は PMA や PDBuによる薬理学的な手法によって C1ドメインのみで,持続的な活性化を引 き起こすことが報告されている[54][105].しかしながら,DAG は可逆的な複合 体を介して作用し[102],その活性化はDAGが迅速に代謝されるため[106],2次 反応にDAGが必要かどうか,刺激位置にDAGが局在しているのかは不明であ る.C1ドメインとDAGを含む細胞膜の親和性は非常に高く,PKCを細胞膜へ 動員するための分子接着剤として働いていることから[107],力学刺激における 応答時間がCa2+に関係する1次反応よりも長くなる可能性がある.

Table. 5-2 The association(kon)and dissociation(koff)of initial and secondary translocations of PKCα. Data are averaged values ± S.E. #P < 0.05 vs control.

Initial translocation Secondary translocation

kon koff kon koff

Control 0.180 ± 0.012 0.181 ± 0.011 0.084 ± 0.006# 0.084 ± 0.006#

Thapsigargin 0.168 ± 0.010 0.164 ± 0.011 0.082 ± 0.008# 0.087 ± 0.010#

Removal of

extracellular Ca2+ 0.197 ± 0.015 0.161 ± 0.022 - -

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5.3.3 PKCα の二相性トランスロケーションと

メカノセンサーの関係

本実験において,Go6976を負荷するとPKCαの1次反応は引き起こされたが,

2次反応は抑制された.Go6976はRTKであるJanus Activating Kinase 2(JAK2) とFms like Tyrosine Kinase 3(FLT3)を阻害するとの報告がある[108].FLT3は RTKであるPlatelet-Derived Growth Factor-Receptor(PDGF-R)に分類される1種

であり[109],PDGF-RはPDGF-ABの負荷によってPKCαトランスロケーション

を引き起こすことが報告されている[27].さらに,PDGF-RによるPKCαトラン スロケーションは GPCR の活性化による PKCα トランスロケーションよりも遅 く反応すると報告がある.このことから本実験における力学刺激がRTKを活性 化し,PKCα の 2 次反応を引き起こしている可能性がある. 1 次反応時間が他 の条件より長く持続したのは Go6976 などの ATP 競合性のある薬剤によって cPKCが細胞膜に長く留まるとの報告と一致する[110][111].

本研究結果からは,GPCRとRTKが力学刺激によってどのように活性化され ているかは明らかにできていない.従来研究より,伸展刺激によって ATP が放 出されることが報告されている[112].このATPの放出はヘミチャネルがメカノ センサーとして働くことで行われ,さらに放出された ATP はオートクラインに よってGPCR を活性化すると報告されている[11].一方,Hayakawaらはアクチ ンストレスファイバーの張力の増加が MS チャネルを活性化すること示し,細 胞骨格であるアクチンはインテグリンと MS チャンルとの間で力の伝達を担っ ていると報告している[113].近年,Transient Receptor Potential(TRP)チャネル などの Ca2+透過性イオンチャネルが MS チャネルとして働くことが報告されて おり[114][115],これらのCa2+透過性イオンチャネルはGd3によって阻害される.

本実験において,Gd3によって Ca2+透過性のMSチャネルを阻害すると Ca2+濃 度上昇は抑制され,PKCαの1次・2次反応共に見られなかった(Fig. 5-18).こ のことからGPCRやRTKがMSチャネルを介して力学刺激によって活性化され ている可能性が示唆された.

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ドキュメント内 九州大学大学院 工学府 機械工学専攻 (ページ 77-81)

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