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本論文では,細胞遊走や血管新生など発生学,医学的に関心が集まっている細 胞の力学応答について,細胞内タンパク質であるPKCαと細胞内Ca2+に注目し,

物理的細胞創傷から細胞遊走初期に至る過程に PKCα トランスロケーションが 深く関与していると考え,PKCαトランスロケーションをライブイメージングす ることにより,細胞遊走初期過程における PKCα トランスロケーションのメカ ニズムについて検討した研究報告である.

本研究では,血管内皮細胞内のPKCαとCa2+を同時にライブイメージングし,

隣接細胞に創傷を与えた場合と直接細胞に局所的な力学刺激(微小変形)を加え た場合の2つ実験系から,Ca2+濃度上昇とPKCαトランスロケーシのシグナル経 路について調査した.本章では第 4 章から第 6 章までの結果をまとめ,本研究 から明らかになった力学応答による PKCα トランスロケーションの時空間的な 変化のメカニズムを説明し,細胞遊走初期過程との関係性を検討する.

第 4 章では,隣接細胞に創傷を与えると,創傷した細胞を中心に Ca2+濃度上 昇が見られ,それに伴い細胞膜全体で PKCα トランスロケーションが引き起こ された(1次反応).続いて,PKCαは創傷側でのみ輝度の上昇が持続する現象が 確認された(2次反応).この反応時間と部位の異なる二相性を持った PKCα ト ランスロケーションは ATP や PMA による薬理学的手法では確認されなかった ことから,薬剤負荷による細胞応答とは異なるシグナル経路が関与しているこ とを示した.また,二相性のPKCαトランスロケーションを引き起こした細胞の 遊走を観察したところ,創傷領域へと遊走することが観察された.このことから 隣接細胞の創傷によって引き起こされる細胞内 Ca2+濃度上昇と PKCα の二相性 トランスロケーションが,細胞遊走の開始と方向性を調節している可能性を示 した.二相性トランスロケーションを引き起こすメカニズムとして,(1)隣接細 胞の創傷による細胞間張力の変化によって細胞のメカノセンサーが刺激され引 き起こされる可能性と,(2)パラクライン作用やGAP結合による細胞間情報伝 達機構が重要な働きをしている可能性の2つが考えられると考察した.

第5章では,(1)に着目し,PKCαとメカノセンサーの関連性を直接的に調べ るために,細胞にマイクロピペットを用いて局所的な力学刺激(微小変形)を与 えた際の細胞内 Ca2+濃度と PKCα トランスロケーションを観察した.本章の実 験から,細胞に力学刺激として局所的な微小変形を与えると,1 次反応として Ca2+濃度上昇に伴う細胞膜へのPKCαトランスロケーションが確認された.さら に,2次反応として刺激部位のみにPKCαが局在する現象が確認され,細胞を微

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小変形させると,従来までの薬剤刺激応答とは異なった応答が生じることを明 らかにした.PKCα の輝度変化から反応速度定数を算出すると,1 次反応は

Carbachol 負荷による GPCR を経由した反応速度定数と近い値だったことから,

微小変形によるPKCαの 1次反応は GPCR によって引き起こされていることが 示唆された.また,2次反応は,メカセンサーとして考えられているCa2+透過性 チャネルとRTKを阻害すると抑制された.このことから微小変形部位に局在す る2次反応にはCa2+透過性チャネルとRTKの関連が明らかとなった.これらの 結果から PKCα の部位局在性を持つ二相性トランスロケーションは力学刺激に よって引き起こされていることが明らかとなった.

第6章では,5章の結果を踏まえ,細胞遊走初期メカニズムを明らかにするた め,4章では明らかに出来なかった(1)と(2)の寄与を調べた.第4章と同様 に,隣接する細胞を創傷(破壊)させた時の細胞内 Ca2+濃度上昇と,その後の PKCαトランスロケーションを観察した.第5章と同様にメカノセンサーである Ca2+透過性チャネルとRTKを阻害するとPKCαの2次反応は抑制された.一方,

細胞間情報伝達方法であるパラクライン作用とGAP結合を阻害してもPKCαの 二相性トランスロケーションは確認された.このことから,細胞創傷時の遊走前 過程における二相性PKCαトランスロケーションは隣接細胞が創傷することで,

細胞は細胞間張力の変化を力学刺激として感知し,局所的に細胞のメカノセン サーが活性化することで PKCα が部位局在性をもった 2 次反応を引き起こして いると考えられた.また,18α-GAによってヘミチャネルを阻害するとPKCαの 1次反応は起こったが,2次反応は抑制された.このことから,PKCαの2次反 応にはヘミチャネルを介し細胞外から Ca2+が流入することが必要である可能性 を示した.さらに隣接細胞が創傷すると,創傷 3 時間後に PKCαの局在部位で 仮足が創傷側へ伸びているのが観察された.このことから,遊走方向にPKCαが 局在することで遊走開始に関与している可能性が示唆された.

近年,細胞の力学応答に関しての研究が盛んに行われており,数多くのシグナ ル経路が存在することが報告されている[127][128][129][130][114].本研究によっ て明らかになったシグナル経路はその 1 部ではあるが,Fig. 7 のような 2 つの PKCαトランスロケーションと細胞遊走誘発への関与を提示できたと考えてい る.PKCαの1次反応は,物理的細胞創傷により細胞間接着の損失による張力の 変化による力学的刺激によって細胞のGPCRが活性化し(Fig. 7 1-1),小胞体か らCa+を放出し細胞内Ca+濃度を上昇させる(Fig. 7 1-2).同時にDAGも産生 されており,細胞全体でPKCαはトランスロケーションを引き起こす(Fig. 7 1-3).このときPKCαは細胞間接着を弱める働きをし,遊走しやすい状態になる.

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PKCαの2次反応は,細胞間接着の損失による張力の変化による力学的刺激によ って細胞のCa2透過性チャネルとRTKが活性化し(Fig. 7 2-1),刺激を受けた 部位へ細胞外からCa+を流入させる(Fig. 7 2-2).詳細なタイミングは明らでは ないがRTKの活性化が起こり(Fig. 7 2-3),PKCαを遊走方向へ局在させる(Fig.

7 2-4)ことで,遊走開始に関与している可能性があることである.PKCαは細胞

の遊走,増殖,血管新生に関わっている.したがって,本実験による物理的細胞 創傷に伴う力学刺激による PKCα トランスロケーションのシグナル伝達の解明 は,今後の血管内治療や血管新生などの再生医学の発展に貢献することが期待 できる.

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Fig. 7 隣接細胞創傷時の細胞内PKCαの時空間的な動態

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ドキュメント内 九州大学大学院 工学府 機械工学専攻 (ページ 118-122)

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