• 検索結果がありません。

第4章  フェーズ皿:叩き台のデザインー調査

第5節  考察

 本調査では、専門里親潜在性における里子の養育支援二一ズを、クロス集計・カイ二乗 検定と、因子分析からの重回帰分析・判別分析から明らかにしようとした。これにより、

専門里親潜在性における養育支援二一ズが量的に客観性をもって具体的に見いだされた。

しかしながら、本調査の結果は、分析方法においてサンプル数に対する統計上の数値から は妥当なものといえるが、サンプルは居住地域に偏りがあり、それが結果に影響を及ぼし

でいる可能性は否定できない。よって、この結果の一般化には注意が必要である。また、

専門里親の関心度と希望度の変数を用いた重回帰分析では、説明力を示すR2値が高くは なかったことから、本調査の質問項目から得られた養育支援二一ズの因子以外の要因が存 在することも考えられる。これらの限界があることを指摘した上で以下考察をすすめる。

1.「専門里親潜在性」にみる里子の養育上の困難性

 各質問項目と、「専門里親潜在性」の変数として扱った「専門里親の関心度」・「専門里 親の希望度」のクロス集計およびカイ二乗検定の結果によると、専門里親潜在性の高い層 が低い層よりも、養育上困ったことに遭遇している様がうかびあがった。「養育上困った こと」の内容としては、要保護児童といった生活環境が不安定である子どもや虐待を受け た子どもに生じるとされる里子の発達上の問題や行動上の問題、子どもの成長段階に直面 するものごとに関わる困難や、家族・近隣関係、自身のストレス等に関する困難が大きく

占めている。分離・喪失体験、愛着障害、愛着障害に起因する愛1青剥奪性発達遅滞、注意 欠陥多動性障害や自閉症等の発達障害、心理的外傷(トラウマ)、解離性障害といった心 身に傷を負う障害とその症状や行動上の問題などの特徴は、多くの里親関連の書籍がとり あげている、家庭と引き離された子どもや被虐待児の特徴や問題である(たとえば、厚生 労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課、2003:里親養育マニュアル作成検討委員会、

2004:庄司、2005など)。また、坪井(2005)の実証的研究では、虐待により子どもが 受ける影響についての詳細な文献研究とともに、被虐待体験のない子どもに比べ被虐待体 験のある子どもに「社会性の問題」、「思考の問題」、「注意の問題」、「非行的行動」、「攻撃 的行動」などが有意に見うけられること、また、きょうだい関係、親子関係といった対人 関係や、学業成績に問題があることが示されている。近年、里親関連の学術誌『里親と子 ども』では、r虐待・発達障害と里親養育」と題した特集が組まれ、虐待の影響、心理・

行動上の問題、対応と治療や、虐待を受けた子どもの委託について紹介された(『里親と 子ども』編集委員会、2007)。

 この調査の背景には、里親制度と養子縁組制度の混用により養育里親そのものの二一ズ がこれまでの研究では把握できていなかったことがあるが、この結果から、専門里親制度 がさす専門里親に近い専門里親潜在性の高い層と、子どもの年齢が小さいうちに養子縁組 し、自分の子どもとして育てる従来の養子里親に近い専門里親潜在性の低い層との、里子 を養育する上での困難の差が明確になったといえる。前章でもふれたように、従来、養子 縁組希望が多かったなか、実親との問題がなく年少の心身に問題のない子どもを養子縁組

あるいは里親委託してきた経緯がある。しかしながら、そのなかでも、養育里親を希望す る、なかには実子もいる里親が、実親のいる多様な年齢層の被虐待児等の子どもを養育す るには、さまざまな困難があることが明らかになった。従来の里親支援ではカバーしきれ ていなかったであろうこれらの困難に、専門里親が対応していくことができるための支援 が必要なことを示唆している。

2.社会的養育の価値の重要性

 専門里親潜在性との関連において、専門里親潜在性の高い層は数多くの社会的養育の価 値観をもっていること、また、「社会的養育者としての貢献に対する二一ズ」の因子が他 の養育支援二一ズに比して重みの高いことが明らかとなった。専門里親潜在性の高い里親 らが、被虐待児の実家庭の状況や被虐待児が抱える問題等の背景を理解し、それら子ども たちの代替的養育にある里親の役割を認識していることがうかがえる。このような社会的 養育の価値は本来養育里親がもつべきものであり、被虐待児の養育にあたる専門里親の場 合においても大前提である。専門里親を開拓し育成する研修や支援を通じ、社会的養育の 価値の啓発や理解をうながし、そして実際の里子の養育に具現化されることが重要であり、

第一義的に徹底して取り扱わなければならない要素であることを再認知させたといえよ

う。

 先行研究でみたように、里親制度に理念が欠如している問題がここに大きく関連してい るといえる。しかしながら、因子分析からの専門里親潜在性における重回帰分析・判別分 析では、「社会的養育者としての貢献に対する二一ズ」を構成する観測変数の筆頭には「実 親との再統合への支援」があがり、次いで「養育の代替」「安全な実の家庭への復帰」とな っている。里親推進における行政の施策よりもずっと専門里親の潜在性の高い里親の方が この大切さを認識しており、逆にいえば専門里親の育成には欠かせない価値観注2)となっ ているということである。

 前章でふれたように、里親関連のテキスト等にはこれら社会的養育の価値が示され、子 どもの家族をもつ権利や家族再統合についても概説されている。しかしながら、これまで の里親に対する研修や指導において、社会的養育の価値に関する内容は、新規登録里親研 修において里親制度の意義や目的にふれる程度で、その後の一般研修ではほとんどとり上 げられてはいなかった。現在の専門里親研修でも、そのような内容に関しては自己学習と

レポート作成での学習が主となっている。このような内容量・方法では、少なからず社会 的養育の価値についての理解は得られるかもしれないが、実際の里子の養育にその価値が

反映されるかまでには不十分であろう。

 専門里親支援モデルには、里親自らが専門里親になろうとする動機・理由や、委託され る子どもはどのような子どもであるととらえているか、また、どのように養育しようと考 えているかといった養育観などを点検し、自分の内面にある期待や不安を見つめることの できるような、具体的な学習が少なくとも必要なのではないだろうか。里親申請者や新規 登録里親に対する研修や個別の説明にとどまらず、里子の養育過程を通じ継続的に点検す ることで、このような価値は里子の養育に反映されるようにもなるものであり、力を入れ てとり組んでいかねばらない要素であると考える。

3.里子の養育過程で起こりうる困難への対応

 専門里親潜在性との関連におけるクロス集計・カイ二乗検定からは、要保護児童に現れ る発達上、行動上の問題や子どもの成長段階に直面するものごとに関わる困難から、家族・

近隣関係、自身のストレス等に関する困難など多種多様な困難を、専門里親潜在性の高い 里親らが経験していることがわかった。そして、専門里親潜在性における養育支援二一ズ の分析から見だされたそのような困難に関係する二一ズには、「自身と里子を含む家族内外 のストレスに対応する二一ズ」、「学童期・思春期の問題に対応する二一ズ」や「里子の実 親とのかかわりに対応する二一ズ」というものがあがった。これらは、里子の養育過程で 起こりうる困難に対応する要素である。里子の養育において、これらへの対処につまづく と、不調ケースとして措置変更に至る場合も少なくなく、それは里子にとっても里親にと っても深い傷を負う経験となってしまうこともある。また、これらが児童相談所のワーカ ーにとっても里親委託を躊躇させることにもなりうるという(庄司、2003;宮島、2002)。

 学童期・思春期の問題に対応する二一ズに関しては、里子の成長段階における発達の基 本的な知識やそれに応じた養育方法に関する内容に加え、問題が生じた時にその里親子が

どのようにそれを乗り越えていくかの対処法に関する内容が必要になってくる。これまで 里親は乳幼児の受託が多かったわけであるが、今後、専門里親には高年齢児の受託も必然 的に多くなることから、学童期・思春期に入ってからの困難や問題への対応がますます求 められる。このような内容は現在行われている事前研修にも含まれているものであるが、

事前の学習は里親にとって里子の養育過程で何が起こりえるかの予見やその予防につなが る面はある。しかしながら、経験してみてはじめて知識と実際がむすびつくことも多い。

里子養育の過程の必要な時にその里親子に応じた対処ができるよう支援する必要がある。

 自身と里子を含む家族内外のストレスや里子の実親とのかかわりといった内容は、前章