第Ⅴ部 テクスチャーの触り心地の認知に色彩が及ぼす影響:“感性的質感認知”
10.4 考察
感に対する明度の影響は平滑面で生じ、視覚のみ提示条件で低明度の平滑面は高明度の平 滑面よりも快適さが低下した。
9章の実験Dでは、明度系列の色刺激(高明度色・中明度色・低明度色)を視覚提示し、
シボ深さが異なる3種類の触刺激を継時的に触覚提示して、心地良さを5段階評定した結 果、高明度色により心地良さは高まり、中明度色や低明度色により低下した。本実験Eの 結果は、同じ傾向を示した。さらに、実験Eでは、見た目だけで判断される「快-不快」
に明度が影響するだけでなく、色彩を含むテクスチャーを見ながら触る行為においても明 度が影響することが示唆された。
次に、刺激提示条件での評定の違いをみると、平滑面に対する触り心地の良さと快適さ は、触感のみ条件が最も高く判断され、視覚触覚条件、視覚のみ条件の順に触り心地の良 さと快適さの判断は低下した。実際に触ることで得られる「快」は、視覚情報が加わるこ とで弱まる可能性が示唆された。
以上から、色彩を含むテクスチャーが喚起する「快―不快」において、①見るだけの場 合でも、見ながら触る場合でも明度が影響すること、②高明度色のテクスチャーは低明度 色のテクスチャーよりも「快」が高く判断されること、③触感による「快」は、視覚情報 の割合が増すにつれて低下して判断されること、が示された。
10.4.3 「覚醒度合い」次元における明度の影響
明瞭感(はっきりした/ぼんやりした)と、緊張感(緊張した/ゆるんだ)は「覚醒度 合」の次元を想定した評定項目であった。これらの評定には、テクスチャーの主効果と明 度の主効果、明度と提示条件の交互作用がともに認められた。テクスチャーとしては、平 滑面が粗シボよりも緊張した評定とはっきりした評定がなされ、明度としては、低明度色 が高明度色よりも緊張した評定とはっきりした評定がなされた。
テクスチャーと明度の影響の強さは、明瞭感ではテクスチャーの効果量が明度よりも大 きかったが、緊張感では、テクスチャーと明度の効果量はほぼ同程度であった。触り心地 感と快適感ではテクスチャーの効果量が明度の効果量を大きく上回っていたことから、「快
-不快」に比べると「覚醒度合い」の方が、視覚的な情報(明度)が判断に影響しやすい ことが推察された。
また、明度による「覚醒度合い」への影響は、テクスチャー(平滑面、粗シボ)と提示 条件(視覚触覚、視覚のみ)を問わず、低明度色は高明度色よりも高い覚醒度合い(はっ きりした、緊張した)を示した。「覚醒度合い」は「快―不快」よりも明度の影響を強く受 けることが示唆された。
以上から、色彩を含むテクスチャーが喚起する「覚醒度合い」において、①明度の影響 が「快―不快」よりも大きいこと、②低明度色は高明度色よりも高い覚醒度合いを示すこ と、が考察された。
10.4.4 感情次元におけるテクスチャー触感と明度の関係
因子Ⅰを縦軸(高覚醒+、低覚醒-)に、「快・不快」に相当する因子Ⅱを横軸(快+、不 快-)にとった因子負荷量による散布図を作成した(Figure 10-17)。次に、同じ方法で、
因子得点による散布図(Figure 10-18)を作成しなおした。
Figure 10-18の4つの象限の中で、「快」×「高覚醒」の象限に平滑面を対象とした全
てのケースが位置づけられ、「不快」×「低覚醒」の象限に粗シボを対象とした全てのケー スが位置づけられた。よって、テクスチャーの違いにより喚起される感情が明確に異なる ことが示された。
平滑面を対象とした場合、低明度色(黒)を色刺激としたケースは、高明度色(白)を 色刺激としたケースよりも覚醒度合いが高く位置づけられた。これは、粗シボを対象とし た場合でも同様であった。よって、明度の低さが覚醒度合いを高めることが示された。
また、平滑面を対象とした場合では、高明度色、低明度色ともに、視覚のみ提示条件よ りも視覚触覚提示条件の方が「快」が高くなった。これについても粗シボを対象とした場 合でも同様であった、色を含むテクスチャーを見ることで喚起される「快―不快」は、見 ながら触ることにより「快」方向へと評定が移行した。
以上から、①色を含むテクスチャーが喚起する感情がRussell (1980)の「快・不快」と
「覚醒度合い」による2次元座標上にプロットされ、②明度により喚起される感情が異な り、「覚醒度合い」の方が影響を受けやすいことが示唆された。
色彩属性と感情次元に関して、Valdez & Mehrabian (1994)は、3つの感情次元
(Pleasure-Aiousal-Dominance emotion model)を用いて検討した結果、明度と彩度が感 情に影響をもつことを示唆した。その中で、無彩色における「快」の度合いは明度に比例 し、明度が高まると快も高まる傾向を示した。「覚醒度合い」は低明度の黒が高く、明度が 高くなるにつれて徐々に低まり、明灰色で最も低くなり、白でやや高まるとした。本実験 の色彩刺激に明灰色はないが、「快-不快」、「覚醒度合い」ともに Valdez et al. (1994)と 同じ傾向であった。
以上から、テクスチャーの触感により得られる快と覚醒度合いは、明度の影響を受けて 変化することが示された。
Figure 10-17. 因子負荷量による散布図。Russell (1980)の円環モデルにあわせて、覚醒度 合い(高+、低-)を縦軸、快・不快(快+、不快-)を横軸とした。
Figure 10-18. 因子得点による散布図。Russell (1980)の円環モデルにあわせて、覚醒度合 い(高+、低-)を縦軸、快・不快(快+、不快-)を横軸とした。