第Ⅲ部 テクスチャーによる色印象の喚起
5.3 結果
5.2.3 実験環境
実験室の照明は、演色性の高い蛍光灯であり、机上の照度は1000~1100lxであった。
実験は、実験者と実験参加者が対面式でおこなった。
5.2.4 実験参加者
21歳から49歳までの19 名(男性11名・女性 8名)が実験に参加した。平均年齢は、
31.2歳(SD = 7.6)であった。色覚が正常であることと、指先に怪我などがないことを実
験前に口答で確認した
5.2.5 手続き
実験者は、明灰色(N7)の厚紙(A3サイズ)を実験参加者と触刺激の間に位置させ、実験参 加者が直接、触刺激を見ることができないようにした。実験参加者は、触刺激の上で利き 手の指先を左右に数回動かして、(1) 粗滑感の言語評定、(2) 有彩色系統の色サンプルの中 から触印象に適した1色を選択する評定、(3) 無彩色系統の色サンプルの中から触印象に 適した1色を選択する評定をおこなった。触刺激の提示順は、実験参加者ごとにランダム にした。
5.2.6 実験計画
実験は、触刺激要因(粗シボ、中粗シボ、細シボ、極細シボ、平滑面の5水準)の1要 因で、被験者内要因であった。
チャー(平滑面、ごく細シボ)から高彩度色が選択され、シボ深さの深いテクスチャー(粗 シボ)から低彩度色が選択された。この色サンプルの選択評定の結果は、稲葉(2016a)
が色刺激を提示して触サンプルを選択した評定の結果と同じ傾向であった。
Table 5-3
触刺激から選択された色の彩度値と明度値の M・SD 平滑面 細シボ 細シボ 中粗シボ 粗シボ
0.00 18.86 36.96 58.10 76.54
M 9.37 6.11 4.76 2.86 2.82
SD 2.50 2.65 2.60 1.68 2.10
M 7.74 6.84 5.81 5.33 5.57
SD 2.98 2.06 1.71 1.94 1.49
触刺激 シボ深さ(㎛)
彩度系列の 彩度値(C)
明度系列の 明度値(V)
0 2 4 6 8 10
0 平滑面
18.86 極細シボ
36.96 細シボ
58.1 中粗シボ
76.54 粗シボ 色
サ ン プ ル の 彩 度
(C
)
触刺激のシボ深さ(㎛)
**
**
**
**
**
**
* p< .05, ** p< .01
Figure 5-1. C)の平均値(M
5.3.2 粗さをもつ触刺激により選択された無彩色
無彩色の明度系列の色サンプルの選択評定における触刺激の効果を検討するために、色 サンプルの明度値(V)を従属変数とし、触刺激のシボ深さ(㎛)を独立変数とする1要因の 分散分析をおこなった(Figure 5-2)。
その結果、触刺激のシボ深さに1%水準で有意な差が認められた(F (4,72) = 3.962, p
< .01, ηp2 =.18 ) 。Bonferroniの方法による多重比較により、平滑面からは、中粗シボ・
粗シボよりも明度が高い色サンプルが選択された(p > .05)。つまり、シボ深さの深いテ クスチャー(粗シボ)から中明度色(灰色)が選択され、平らなテクスチャー(平滑面)
から高明度色(白)が選択された。この結果は、彩度系列同様に、稲葉(2016a)が色刺 激を提示して触サンプルを選択した評定の結果と同じ傾向であった。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 平滑面
18.86 極細シボ
36.96 細シボ
58.1 中粗シボ
76.54 粗シボ 色
サ ン プ ル の 明
(度 V
)
触刺激のシボ深さ(㎛)
* p< .05, ** p< .01
*
*
Figure 5-2. 触刺激から選択された明度系列の色サンプルの明度(V)の平均値(M)。図
5.4 考察
5.4.1 粗さをもつ触刺激が喚起する色印象と色彩属性
触刺激を触って、その触感にふさわしい色サンプルを選択する評定により、触感が色彩 属性に対応する色印象を喚起することが示唆された。
シボの深さが段階的に変化するテクスチャーをもつ触刺激を提示すると、シボのない平 滑な面に最もふさわしいとされた有彩色の彩度は高く、シボの深さが増すにつれて彩度は 下降した。同様に、シボのない平滑な面に最もふさわしいとされた無彩色の明度は高く、
シボの深さが増すにつれて明度は下降した。以上から、テクスチャーのシボ深さと喚起さ れる色彩の彩度と明度に関連があることが示された。
同じ触刺激を用いて色印象に関する言語評定をおこなった4章の実験の結果では、シボ のない平滑面はシボの深いテクスチャーに比べて、より明るい印象とより鮮やかな印象が もたれた。本実験の結果は、この言語評定の結果と同じ傾向を示した。
本研究では、触刺激を実際に触り、その触印象にふさわしい色サンプルを選択する評定
(本章)と色印象の言語評定(4章)をおこなった。それに対して、Wright, Jraissati, &
Özçelik (2017)は、触感をあらわす形容詞22語を11組の反対語対として提示し、64色の
カラーチップの中からそれぞれの語にふさわしい色を複数選択する実験をおこなった。そ の結果、柔硬感、粗滑感、凹凸感、軽重感などをあらわす反対語対では、一方が明度の高 い色彩、もう一方が明度の低い色彩が選択され、明度との関連が認められた。粗滑感につ いては、滑らか(smooth)が高明度色とマッチし、粗い(rough)が低明度色とマッチし ており、本研究の結果と一致した。
5.4.2 色彩とテクスチャーの適合関係
色彩が喚起する粗滑感に関する触印象については、稲葉(2016a)が、色刺激(彩度系 列9色、無彩色系列5色)を提示し、それぞれの印象に適した触サンプル(シボの深さが 段階的に変化した樹脂板5種類)を実際に触って選択する評定をおこなった。その結果、
高彩度色と高明度色から、最も平滑な触サンプル(平滑面)が選択され、低彩度色と中明 度色から最も深いシボの触サンプル(粗シボ)が選択された。
本実験では、この先行研究とは逆に、触刺激を触覚に提示して、その印象にふさわしい 色サンプルを選択する評定をおこなった。両実験結果を比較すると、彩度に関しては、色 彩による触印象の喚起と、テクスチャーによる色印象の喚起は、同じ傾向を示した。明度 に関しては、高明度色と平滑面の関係は同じ傾向を示し、明度の減少がテクスチャーのシ ボ深さと比例した。しかし、色彩が喚起する触印象では、中明度色が最も粗さを喚起した が、テクスチャーが喚起する色印象では、低明度色がより粗さを喚起した。
その違いを考慮した上で、触印象と色印象において、触刺激と色刺激の適合関係を以下
度色が適合、平滑面と中明度色、粗シボと高明度色が不適合。これらの適合関係をTable 5-4、
Table 5-5に示した。この結果は、実験D(9章)における刺激の設定に反映した。
Table 5-4
彩度系列の色刺激と触刺激の適合関係
平滑面(0) 粗シボ(76.54)
赤系 高彩度色(11.60) 適合 不適合 赤系 低彩度色(1.80) 不適合 適合
シボ深さ(㎛)
彩度(C)
注)彩度系列の色相は、赤系・緑系・青系の中で彩度値(C)の差が最も大 きい赤系を代表させて実験D(9章)の色刺激とした。
Table 5-5
明度系列の色刺激と触刺激の適合関係
平滑面(0) 粗シボ(76.54)
白(9.4) 適合 不適合
灰色(5.0) 不適合 適合
シボ深さ(㎛)
明度(V)