第Ⅱ部 色彩による触印象の喚起
3.2 方法
実験Aの方法を以下に示した。なお、本章では、実験Aの中からトーンが喚起する触印 象を言語評定したデータを対象とし、4章で、テクスチャーが喚起する色印象を言語評定 したデータを扱った。
3.2.1 刺激
色刺激は、Hue&Toneシステムに準拠した印刷色票であるデザイントーン130(日本カ ラーデザイン研究所製)を用いた。色票は、光沢のあるコート紙であった。用いたトーン
iii 本章の内容は、「色彩とテクスチャーが喚起する触感と色感」(稲葉, 2018a)として、日本感性工 学会論文誌 17 (1)に掲載された(pp. 99-108)。
また、日本感性工学会 第19回日本感性工学会大会(東京)において、2017年9月11日に口頭
は、純色のVトーン、明清色のPトーン、暗清色のDkトーン、低彩度の濁色であるGr トーン、中彩度の濁色であるDlトーンの計5トーンとした(Figure 3-1)。設定した色相 は赤(色相R)、緑(色相G)、青(色相B)の3色相で、合計15色の有彩色であった。
無彩色は、3段階の明度をとり、白(N9.5)、灰色(N5.0)、黒(N1.5)の3色とした(Table
3-1)。色刺激のサイズは50mm×50mmで、明灰色(N7)の台紙(150mm×210mm)の
中央に貼付した。
触刺激は、シボ加工された樹脂板を用い、シボ深さが等間隔になるように、表面が平ら な平滑面、平均シボ深さが36.96㎛の細シボと76.54㎛の粗シボの3種類とした(Table
3-2)。樹脂板のサイズは、40mm×170 mmで、前方が開いた箱の中に設置して、実験参加
者からは直接見えないようにした。
V P
Gr Dl
Dk Lgr
Dgr
L B
S
Dp
明清色
純色
暗清色 濁色
N9.5
N5.0
N1.5
N 1 2 3 4 6 8 10 12 14
Vp
9
8
7
9
5
4
3
2 明 度
(V
)
彩度(C)
Figure 3-1. 色相Rにおける12のトーン区分。太線の○は実験に用いた色刺激をあらわす。
Table 3-1 色刺激の一覧
色相 トーン 色相(H) 明度(V) 彩度(C)
R / V 6.5R 4.4 12.4 中明度×高彩度
R / P 7.6R 7.9 5.6 高明度×中彩度 R / Gr 8.6R 5.7 1.9 中明度×低彩度 R / Dl 8.3R 4.8 4.4 中明度×中彩度 R / Dk 5.7R 3.1 2.3 低明度×中彩度 G / V 5.8G 5.3 8.0 中明度×高彩度 G / P 6.2G 7.1 6.7 高明度×中彩度 G / Gr 4.1G 5.6 1.8 中明度×低彩度 G / Dl 6.3G 4.6 3.1 中明度×中彩度 G / Dk 5.5G 3.2 2.0 低明度×中彩度
PB / V 6.4PB 3.3 8.7 中明度×高彩度
PB / P 5.2PB 6.9 5.4 高明度×中彩度
PB / Gr 6.3PB 5.5 1.4 中明度×低彩度
PB / Dl 5.0PB 4.5 4.1 中明度×中彩度
PB / Dk 6.8PB 2.9 2.7 低明度×中彩度
色相(H) 明度(V) 彩度(C) 備考
7.3YR 9.1 0.3 高明度
9.6RP 5.0 0.4 中明度
6.9YR 2.6 0.4 低明度
注)日本カラーデザイン研究所製デザイントーン130色票を使用した。
N1.5
有彩色 マンセル値
備考
無彩色 N9.5 N5
Table 3-2 触刺激の一覧
触刺激 シボ深さ
(㎛)
JIDA サンプル記号
粗シボ 76.54 JTX-010
細シボ 36.96 JTX-004
平滑面 0.00 Flat
注)日本インダストリアルデザイナー協会製スタンダードサンプルを使用した。
3.2.2 尺度
評定項目として、触印象と色印象をあらわす言語尺度などを用いた。触印象に関しては、
永野他(2011)、Okamoto et al. (2013)による5つの主要な触感次元を元に、「なめらかな/
ざらざらした」(粗滑感)、「平らな/でこぼこした」(凹凸感)、「やわらかい/かたい」(柔 硬感)、「あたたかい/冷たい」(温冷感)、「さらっとした/しっとりした」(摩擦感)を用 いた。色印象に関しては、明度に対応した「明るい/暗い」(明暗感)、彩度に対応した「あ ざやかな/くすんだ」(鮮やか感)、そして、色相に対応した言語尺度として温冷感を共用 した。さらに、大山(2001)により、色・形・音楽・映像などの多くの感覚領域で共通し て有効であるとされた印象評価因子(4因子11尺度)の中から、「派手な/地味な」(活動 性因子)、「軽い/重い」(軽明性因子)、「緊張した/ゆるんだ」(鋭さ因子)、「好きな/嫌 いな」(価値因子)を加えた。また、触感の感情的な価値をあらわす「ここちよい/ここち よくない」も加えて、計12項目を設定した。評定は、Table 3-3のように、5段階尺度で おこなった。
Table 3-3 評定項目の一覧
1 かなり
2 やや
3 どちら でもない
4 やや
5 かなり
なめらかな 1 2 3 4 5 ざらざらした やわらかい 1 2 3 4 5 かたい あたたかい 1 2 3 4 5 冷たい
平らな 1 2 3 4 5 でこぼこした
さらっとした 1 2 3 4 5 しっとりした
明るい 1 2 3 4 5 暗い
軽い 1 2 3 4 5 重い
あざやかな 1 2 3 4 5 くすんだ
派手な 1 2 3 4 5 地味な
緊張した 1 2 3 4 5 ゆるんだ
好きな 1 2 3 4 5 嫌いな
ここちよい 1 2 3 4 5 ここちよくない
3.2.3 実験環境
実験環境は、北向きの窓をもつ室内で演色性の高い蛍光灯が用いられた。刺激を提示し た机上面の照度は、1000~1100lxに保たれた。刺激は、ライトグレーのテーブル上に提示 された。
3.2.4 実験参加者
19歳から23歳までの正常な色覚を有した12名(男性9名・女性3名)が実験参加者 となった。平均年齢は20.4歳(SD =1.3)であった。
3.2.5 手続き
実験者と実験参加者が対面して実験をおこなった。先ず、実験参加者の手・指に怪我な どがないことを確認した上で、記入用の調査票を実験参加者に渡した。そして、提示した 刺激に対する印象を12項目それぞれで5段階評定する回答方法を説明した。
実験は、色刺激提示試行と触刺激提示試行とからなり、半数の実験参加者は、色刺激提 示試行、触刺激提示試行の順でおこない、残りの半数は、その逆でおこないカウンターバ ランスをとった。
色刺激提示試行では、実験参加者ごとに18色の色刺激をランダムに提示し、それぞれ の色刺激に対する12項目の5段階言語評定をおこなった。色刺激には触らないこと、回 答は実験参加者が調査票に自記入することを教示した。回答時間は実験参加者に任せ、そ の間は色刺激を机上に置いた。1つの色刺激に対する回答が終了した後に、次の色刺激を 提示した。
触刺激提示試行では、実験参加者ごとに3種類の触刺激をランダムに提示し、それぞれ の触刺激に対する12項目の5段階言語評定をおこなった。触刺激は、手前の開いたライ トグレー(N7)の箱の中に設置し、実験参加者が直接見ることができないようにした。実 験者が触刺激を据えた箱の開口部を実験参加者側に向け、箱の中にあるプレートの表面に 利き手の人差し指をおくように教示した。そして、触刺激表面で人差し指を左右に数回動 かして、12項目の5段階言語評定に回答するように教示した。回答を記入するまでの間は 繰り返し触刺激に触ることを許可した。
全ての提示試行が終了した後に内観をとった。刺激と評定内容をFigure 3-2に示した。
3.2.6 実験計画
実験計画は、有彩色系列においては色相(3;R、G、B)、トーン(5;V、P、Gr、Dl、
Dk)の2要因、無彩色系列においては明度(3;白、灰色、黒)の1要因、テクスチャー 系列においてはシボ深さ(3;平滑面、細シボ、粗シボ)の1要因であった。いずれも、
被験者内要因であった。
提示刺激 評定
色刺激 色印象言語評定
(色感)
触刺激
(シボテクスチャー)
触印象言語評定
(触感)
Figure 3-2. 刺激と評定内容。