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Ⅳ.⼥⼦陸上⻑距離選⼿におけるトレーニング量の相違が ヘプシジンの分泌応答に及ぼす影響(研究課題 2)

1. 緒⾔

研究課題 1 では、⽇常的に⻑時間のトレーニングを実施している⼥⼦陸上⻑距離選⼿に おける鉄代謝や栄養摂取状況を、同年代の⼀般⼥⼦と⽐較をした。その結果、⼥⼦陸上⻑距 離選⼿における安静時の⾎清ヘプシジン濃度は、同年代の⼀般⼥⼦に⽐較して⾼値傾向を

⽰した。研究課題1での⻑距離選⼿群における炭⽔化物の摂取量は、体重当たり約5.5g/⽇

であった。連⽇にわたり⻑時間のトレーニングを実施していたことを考慮すると、炭⽔化物 の摂取量は必ずしも⼗分でなかった可能性は否めない。負のエネルギーバランスと鉄⽋乏 の発症が関連していることも報告されていることから(Petkus et al. 2017)、炭⽔化物を中⼼と したエネルギー摂取量の不⾜がヘプシジンの分泌亢進と関連している可能性が考えられる。

研究課題 1 では、⼥⼦陸上⻑距離選⼿と⼀般⼥⼦の鉄代謝を⽐較する横断調査であった た。⼀⽅で、スポーツ競技者は年間を通して同⼀内容のトレーニングを実施するわけではな く、⽬標とする競技会の実施時期を踏まえ、年間のトレーニング内容を数週間〜数ヶ⽉単位 で変化させる (ピリオダイゼーション)ことが多い。研究課題1 では、トレーニング量が⽐

較的少ない準備期 (オフトレーニング期)にデータの収集をしたが、複数の合宿などを⾏い

⽉間でのトレーニング量が⼤幅に増加する鍛錬期 (トレーニング期)においてはコンディシ ョン不良を訴え、トレーニングから離脱する選⼿が増えることは持久性スポーツ競技の現 場ではよく知られた事実である。また実際に、Nickerson et al. (1985)は、⼥⼦陸上⻑距離選⼿

のトレーニング期ではオフトレーニング期と⽐較して鉄⽋乏の罹患率が増加したことを報 告している(Nickerson et al. 1985)。したがって、オフトレーニング期からトレーニング期へ の移⾏に伴うトレーニング量の増加は、ヘプシジンの分泌増⼤を亢進させ鉄代謝の抑制を 引き起こすかもしれない。

そこで、研究課題 2 では⼥⼦陸上⻑距離選⼿を対象に、トレーニング量 (⽉間⾛⾏距離) の変化が⾎清ヘプシジン濃度を中⼼とした鉄代謝関連指標に及ぼす影響を検討することを

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⽬的とした。また、トレーニング量の増加は⾎清ヘプシジン濃度を上昇させるという仮説を 設けた。

2.⽅法

(1) 被験者

国内トップレベルの⼥⼦陸上⻑距離競技者16名 (20.5 ± 1.0 yrs)を対象とした。被験者は、

全員が同⼀チームに所属し、1 ⽇ 2回 (早朝、⼣⽅)の練習を週 6⽇の頻度で継続していた

(早朝のトレーニングは約1時間、⼣⽅のトレーニングは約2時間)。すべての対象者に対し、

研究の⽬的、測定内容および参加に伴う危険性について⼗分に説明し、書⾯にて協⼒への同 意が得られた者のみを対象とした。なお、本研究は、⽴命館⼤学に帰属する倫理委員会の承 認を得て実施した (BKC-IRB-2014-025)。

(2) 実験デザイン

トレーニング内容の相違が鉄代謝関連指標に及ぼす影響を検討するために、オフトレー ニング期 (LOW: 2015年2⽉中旬)およびトレーニング期 (INT: 2015年8⽉下旬)の2回 にわたり採⾎および⾷事調査を⾏った (Fig.5)。LOW は年間スケジュールの中で「準備期」

に該当し、トレーニング量は⽐較的少ない時期であり、⾷事は主に寮で提供される。これに 対して、INTは「鍛錬期」に該当し、10⽉に開催される全⽇本レベルの⼤会に向け合宿を含 んだ⻑時間の練習を連⽇実施し、トレーニング量は年間の中でも最も増加する (8⽉〜9⽉) 点が特徴として挙げられる。また、⾷事は主に遠征先で提供される。⽉間⾛⾏距離は、被験 者⾃⾝が記録している⽇誌をもとに評価した。LOW、INTのいずれにおいても、体組成、⾎

液指標および栄養摂取状況を評価した。また、直近1ヶ⽉以内のサプリメントの摂取状況お よび⽉経周期の状態を確認した。体組成の測定および採⾎は、早朝空腹時 (6時〜8時半)に 実施した。

27 Figure 5. Experimental design during LOW and INT.

(3) 測定項⽬

体組成

⾝⻑計 (ST-2M、株式会社ヤガミ、愛知)を⽤いて⾝⻑を測定した。また、多周波インピー ダンス測定機 (Inbody 720, Biospace, Seoul, Korea)を⽤いて、体重、体脂肪量および⾻格筋量 を0.1 kg単位で測定した(Demura et al. 2004)。

⾎液指標

早朝空腹時に前腕静脈より採⾎を⾏った。⾎中ヘモグロビン(Hb)濃度の測定は、臨床検査 会社に委託をした (株式会社 ファルコバイオシステムズ、京都)。それ以外の⾎液は、4 ℃、

3000 rpmで10分間遠⼼分離し、⾎清および⾎漿を得た。得られた⾎清および⾎漿は解析ま

での間、−80 ℃の超低温冷凍庫で保存した。

後⽇、⾎清鉄、フェリチン、総たんぱく(TP)およびクレアチンキナーゼ(CK)濃度を測定し た。これらの測定は、臨床検査会社に委託をした (株式会社SRL、東京)。また、⾎清鉄濃度 とTIBCを⽤いて、トランスフェリン飽和度 (Transferrin saturation; TSAT)を算出した{TSAT (%) = ⾎清鉄/ TIBC × 100}。⾎清ヘプシジンおよび⾎漿IL-6濃度は、ELISA法を⽤いて 解析した。また、ELISA法での測定には、市販のキットを使⽤した (R&D systems, Inc., USA)。

ELISA法による解析に伴うCV値は、2.3 % (IL-6)、3.1 % (ヘプシジン)であった。

Middle of February

Body composition assessment Blood sampling

Dietary Survey

LOW

Body composition assessment Blood sampling

Dietary Survey

INT

Late of August

February August

28 栄養摂取状況

⾃⼰記⼊式の⾷事記録法 (秤量法と⽬安量法の併⽤)による⾷事調査を実施し、栄養摂取 状況を調査した。調査期間は3⽇間 (平⽇2⽇、休⽇1 ⽇)とし、⾝体計測などの測定の1 週間前に実施した。

⾷事調査では、摂取した時間、料理名 (市販⾷品についてはその名称)、材料名、重量を記

⼊するように依頼した。また、⾷事前後の写真の撮影を依頼した。⾷品の重量は可能な限り 秤量し、秤量が困難な場合のみ⽬安量を記⼊した。⾷事記録⽤紙の回収時に写真と⾷事記録

⽤紙との内容を管理栄養⼠が対象者に照合し、⾷事記録内容の確認を⾏った。栄養素および

⾷品群別の摂取量は、5訂増補⽇本⾷品標準成分表に準拠した栄養計算ソフト (エクセル栄 養君 Ver. 4.5、株式会社 建帛社、東京)を⽤いて算出した。また、サプリメントの利⽤があ った場合には、サプリメントからの栄養素摂取量も本研究の結果に含めた。

(4) 統計解析

すべての実験データは、平均値 ± 標準誤差 (Means ± SE)を⽤いて⽰した。

Kolmogorov-Smirnov検定を⽤いて各変数の正規分布を評価した。LOWとINTとの間の平均値の差の検

定には、対応のある t 検定を使⽤した。統計解析は、SPSS software ver. 22.0 (International

Business Machines Co., USA)を⽤い、有意⽔準は危険率5 %未満に設定した。

29 3.結果

(1) ⽉間⾛⾏距離および⽉経の状況

⽉間⾛⾏距離は、INT (622 ± 94 km/⽉)がLOW (499 ± 106 km/⽉)に⽐較して有意に⾼値を

⽰した (p = 0.029)。また、LOWではいずれの被験者も鉄サプリメントを使⽤していなかっ た。⼀⽅で、INTにおいては被験者の44 % (INT)が鉄サプリメントを使⽤していた。鉄サ プリメントの使⽤期間は被験者によって異なりINT の開始 2 週間〜4 週間前から使⽤して いた。これらの期間中、その他のサプリメントを使⽤した被験者はいなかった。規則的な⽉

経がある (28 ± 2⽇)と申告した被験者は、LOWでは25 %、INTでは19 %であった。ま た、いずれの時期においても2名の被験者が無⽉経を申告した。

(2) 体組成

Table 4には、体組成の結果を⽰した。体重および除脂肪体重には、LOWとINTの間で有

意差は認められなかった。体脂肪量と体脂肪率は、INTがLOWに⽐較してそれぞれ有意に 低値を⽰した。

Table 4. Comparisons of physical characteristics between the two different training periods.

Variables LOW INT p

Height (cm) 160.5 ± 1.0 - -

Body weight (kg) 49.7 ± 1.3 49.1 ± 1.0 N.S.

Lean body mass (kg) 41.4 ± 0.9 41.7 ± 0.8 N.S.

Body fat (kg) 8.0 ± 0.7 7.4 ± 0.6 0.015

% Body fat (%) 15.8 ± 1.2 15.0 ± 1.1 0.023 Values are means ± SE. N.S.: No significant.

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(3) ⾎液指標

Table 5には、⾎液指標の結果を⽰した。⾎中Hb、MCV、MCH、MCHC、⾎清フェリチ

ン、TP、鉄、TIBC濃度およびTSATには、LOWとINTの間で有意差はみられなかった(p

> 0.05)。 ⾎清CK濃度は、INTがLOWに⽐較して⾼値傾向を⽰した (p = 0.09)。 ⾎漿 IL-6濃度には、LOWとINTの間で有意差はみられなかった。

いずれの被験者も鉄⽋乏性貧⾎ (⾎中Hb濃度 < 12.0 g/dL)には該当しなかった。しかし、

LOWでは31 %、INTでは37 %の被験者が、鉄⽋乏 (⾎清フェリチン濃度 < 20 ng/mL)に 該当していた(Reinke et al. 2012)。

Table 5. Comparisons of blood variables between the two different training periods.

Variables LOW INT p

Hb (g/dL) 12.9 ± 0.2 13.4 ± 0.3 N.S.

MCV (μm³) 90.0 ± 0.7 92.7 ± 0.8 N.S.

MCH (pg) 30.6 ± 0.7 30.7 ± 0.2 N.S.

MCHC (g/dL) 32.1 ± 0.2 33.1 ± 0.2 N.S.

Ferritin (ng/mL) 30.9 ± 5.6 28.1 ± 2.8 N.S.

TP (g/dL) 7.2 ± 0.1 7.1 ± 0.1 N.S.

Fe (μg/dL) 55 ± 6 65 ± 8 N.S.

TIBC (μg/dL) 340.7 ± 11.1 323.0 ± 6.9 N.S.

TSAT (%) 16.4 ± 1.9 20.1 ± 2.4 N.S.

CK (IU) 227 ± 27 369 ± 66 0.09

IL-6 (pg/mL) 0.35 ± 0.06 0.33 ± 0.06 N.S.

Values are means ± SE. N.S.: No significant.

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(4) ⾎清ヘプシジン濃度

Figure 6には、⾎清ヘプシジン濃度の結果を⽰した。⾎清ヘプシジン濃度は、INTがLOW

と⽐較して有意に⾼値を⽰した (LOW; 8.8 ± 6.1 ng/mL, INT; 16.3 ± 6.5 ng/mL, p = 0.027)。ま た、いずれの時期においても、⾎清ヘプシジン濃度と⾎清フェリチン濃度との間に有意な正 の相関関係 (LOW:= 0.498、p = 0.049、INT:r = 0.681、p = 0.027) が認められた (Fig. 7)。

鉄サプリメントの使⽤の有無が⾎清ヘプシジン濃度に及ぼす影響を検討したところ、鉄サ プリメントの利⽤者と⾮利⽤者では⾎清ヘプシジン濃度に有意差がみられなかった (p = 0.10)。

Figure 6. Comparison of serum hepcidin levels between the two different training periods.

Values are means ± SE. * p < 0.05 between the periods.

Figure 7. Correlation between serum hepcidin and ferritin levels.

Ferritinng/mL

90 100

80 70

50 60

40 30 20 10 0

0 5 10 15 20 25 30 35 40

Hepcidin (ng/mL)

INT LOW

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(5) 栄養摂取状況

Table 6には、3⽇間のエネルギーおよび栄養摂取状況を⽰した。⾷事からの炭

⽔化物および鉄の摂取量は、いずれもINTが有意に⾼値を⽰した (炭⽔化物: p

= 0.002, 鉄:p = 0.047)。また、鉄サプリメントを利⽤していた被験者 (n = 7)にお

いて、鉄サプリメントからの鉄の平均摂取量は9.5 ± 3.0 mgであった。エネルギ ー摂取量は、INTがLOWに⽐較して⾼値を⽰す傾向がみられた (p = 0.052)。⼀

⽅で、たんぱく質および脂質の摂取量は、INTにおいて有意に低下した (たんぱ く質: p = 0.002, 脂質: p = 0.010)。

Table 6. Comparisons of energy and macronutrient intakes during three days training period.

Variables LOW INT p

Energy (kcal) 2,140 ± 32 2,318 ± 385 0.052

(kcal/BWkg) 44 ± 2 48 ± 2 0.034

Protein

% Protein

(g) 115.8 ± 2.4 103.5 ± 4.5 0.002

(%) 21.7 ± 0.4 16.3 ± 0.4 <0.001

Fat (g) 64.2 ± 3.4 54.2 ± 0.2 0.010

% Fat (%) 27.0 ± 1.4 21.4 ± 0.7 <0.001

Carbohydrate

% Carbohydrate

(g) 275.8 ± 7.8 353.0 ± 18.4 0.002

(%) 51.3 ± 1.5 62.2 ± 1.1 <0.001

(g/BWkg) 5.6 ± 0.2 7.2 ± 0.4 <0.001

Iron (mg) 14.4 ± 0.4 17.3 ± 1.3 0.047

Vitamin C (mg) 228 ± 13 243 ± 24 N.S.

Values are means ± SE. N.S.: No significant.

   

33 4. 考察

研究課題 2 における主要な知⾒としては、⼥⼦陸上⻑距離選⼿では⽉間でのトレーニン グ量 (⽉間⾛⾏距離)の増加に伴い、⾎清ヘプシジン濃度が有意に上昇したことが挙げられ る。この結果は、⾎清ヘプシジン濃度の上昇がトレーニング量の増加と関連することを⽰唆 するものである。また、試合期におけるテニス選⼿では、⾎清ヘプシジン濃度が上昇したこ とを⽰した先⾏研究や(Ziemann et al. 2013)、7⽇間連続のトレーニングでは尿中ヘプシジン 濃度が有意に上昇したことを⽰した先⾏研究(Sim et al. 2014)の結果とも⼀致する。これらの 結果を踏まえると、スポーツ競技者におけるトレーニング量の増加は、安静時におけるヘプ シジン濃度の上昇を誘発する可能性が⾼いと推察される。本研究で対象とした⼥⼦陸上⻑

距離選⼿ (⽇本の⼤学陸上選⼿の中で最上位レベル)は、1⽇2回のトレーニング (合計3時 間)を定期的に実施していた。特に、持久性スポーツ種⽬における競技者では、1⽇に複数回 の練習を⾏うことは珍しくない。したがって、本研究から得られた知⾒は、陸上競技以外の スポーツ競技者に対しても⼗分に応⽤できるものと考えられる。

細胞培養(Nemeth 2003; Kemna 2005)および動物(Banzet et al. 2012)を⽤いた先⾏研究におい て、IL-6はヘプシジン産⽣を刺激することが明らかにされている。また、Pedersen et al. (2001) は、ヒトにおける⻑時間の運動は⾻格筋でのIL-6 の産⽣を顕著に刺激することを指摘して いる(Pedersen et al. 2001)。⼀過性の運動に対するヘプシジンの分泌応答に着⽬した研究では、

⻑時間の運動は運動直後にIL-6を増加させ、次いで、運動3時間後にヘプシジン濃度を上 昇させることが認められている(Peeling et al. 2009 a, b, c; Sim et al. 2012)。⼀⽅、本研究では、

⾎漿IL-6濃度にLOWとINTの間で有意差がみられなかった。したがって、INTにおける 安静時の⾎清ヘプシジン濃度の上昇に、IL-6 の増加は直接的に関与していないものと考え られる。しかし、本研究では運動直後におけるIL-6 やヘプシジンの分泌応答は検討してい ないために、この点については注意が必要である。

LOWでは被験者の31 %、INTでは37 %が鉄⽋乏 (⾎清フェリチン濃度 < 20 ng/mL)と 分類された。⼥性陸上⻑距離選⼿(Nickerson et al. 1985)およびプロサッカー選⼿(Heisterberg et al. 2013)を対象にした研究では、トレーニング期にフェリチン濃度が低下したことが報告 されている⼀⽅で、本研究では、⾎清フェリチン濃度に有意な変化はみられなかった。しか

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し、LOWおよびINTのいずれにおいても、⾎清ヘプシジンとフェリチン濃度との間に有意 な正の相関関係が認められた。この結果は、プロバスケットボール選⼿のシーズン前におい て⾎清ヘプシジン濃度と⾎清フェリチン濃度の間に正の相関関係を⽰した Dzedze et al.

(2016)の報告とも⼀致する(Dzedzej et al. 2016)。⾎清フェリチン濃度は、体内での貯蔵鉄量を 反映する⼀⽅で、慢性的な炎症の亢進はフェリチン濃度を上昇させる。したがって、本研究 においても、連⽇のトレーニングによる慢性的な炎症が亢進することで⾎清フェリチン濃 度の上昇が⽣じたのかもしれない(Borrione et al.2012)。

本研究の特筆すべき点としては、⾷事調査を実施していることが挙げられる。スポーツ競 技者の鉄代謝に着⽬した先⾏研究では、⽇々の栄養素の摂取状況に関する詳細な情報は検 討されていない。Nuviala et al. (1997)によると、鉄⽋乏 (⾎清フェリチン値 < 20 ng/mL)を有 する⼥性スポーツ競技者のエネルギー摂取量は2,176 ± 530 kcal/⽇であり(Nuviala and Lapieza 1997)、本研究のLOWおよびINTではそれぞれ2,140 ± 130 kcal/⽇ (LOW)、2,318 ± 343 kcal/

⽇ (INT)であった。残念ながら、本研究ではトレーニング中のエネルギー消費量に関するデ ータを実測することができなかったために、エネルギー消費量と摂取量のバランスにまで

⾔及することができない。また、本研究では、鉄サプリメントを利⽤していた被験者では⾎

清ヘプシジン濃度が⾼値を⽰す傾向がみられた。なお、被験者の鉄摂取量の平均値は、14.4

± 0.4 mg/⽇ (LOW)および17.3 ± 1.3 mg/⽇ (INT)であった。これらの値は、以前に報告され

た値 (例:14 mg/⽇)を上回るか、またはそれに近い値であった(Samuelson et al. 1996)。

本研究では、⼥性を対象としたため、⽉経による影響も考慮すべきである。実際に、⽉経 (失⾎)は鉄⽋乏に影響し、⼀般⼥性を対象とした研究では、⽉経⾎による鉄の減少によって ヘプシジン濃度の低下が確認されている。しかしながら、研究課題2で対象とした⼥⼦陸上

⻑距離選⼿は測定対象となった期間中、その他のサプリメントを使⽤した被験者はいなか った。規則的な⽉経がある(28 ± 2⽇)と申告した被験者は、LOWでは25 %、INTでは19 % に過ぎず、⽉経を有する被験者と正常の⽉経周期の者との間でも⾎清ヘプシジン濃度に有 意差はみられなかった。このことから、⽉経周期が本研究の結果に影響している可能性は低 いと予想される。