全国的な児童の「いじめ」「不登校」をはじめとした「心の荒れ」が大きな教育問題と なって,「心の健康」が重要視されている.
「授業がはじまっても教科書やノー・トを出さない」「授業中に立ち歩く」「教師の注意 や叱責に反抗する」などの行為をする児童が急増しているという報告があり,このような 言動は,体育科の授業中の「土いじり」や「友だちとふざける」などする児童にみること ができる.このような授業とは関係のない言動を「児童が,学習に対して学習意欲を減退
させ,無気力さ・無関心さ・無感動さを表出させている」ととらえ「しらけ」と定義づけ
た.
この「しらけ」を起こした児童を放置したままにしておくと,この児童の学習は停滞し たままになる.また,「体育嫌い」にも発展する可能性があり,「しらけ」解消は教師に
とっては急務であると考えた.
そこで本研究は,体育科における児童の「しらけ」の要因を探り,その要因に影響を与 えている下位要因との関連性を検討すること.児童の「しらけ」を診断する尺度を作成す ることを目的とした.
調査は,平成11年7月に大阪市内の公立小学校8校の5,6年生1200名を対象に実施
した.
有効回答は969名を得た.「しらけ」要因を多角的な視野より抽出するため,因子分析 は,全被験者,「しらけ」経験:の有無,自律的態度の未発達,社会的な態度の未発達など 計15分類に対して行った.「しらけ」因子の抽出は,主因子法によるバリマックス直交回 転を実施した.
因子の構造化は,重回帰分析を行い,そこで得た標準偏回帰係数を用い行った.因子分 析で得られた因子と「学習意欲」「目標設定」「感動体験」「自律的な態度」「社会的な態 度」との関連性を検討した.その結果を基にして「しらけ」発生のモデルの構造化を検討
した.さらに「しらけ」診断尺度及び診断基準の作成を試みた.
本研究で得た主な結果は次の通りであった.
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1.因子の抽出に関する結果
1)体育科の学習における「しらけ」因子は,全被験者,「しらけ」をよく起こす児童 等15分類において因子分析を行った結果,「課題の難しさ」「楽しさの未体験」「人間 関係の不成立」「あきらめ」「自分勝手」「存在感のなさ」「学習内容の理解不足」「まと まらない集団」「未達成」の9因子を抽出し解釈・命名した.
2)体育科の学習における「しらけ」の中核的因子を寄与率,出現率,因子構造より検 討した.その結果,「課題の難しさ」「楽しさの未体験」「あきらめ」を抽出した.
2.「課題の難しさ」「楽しさの未体験」「あきらめ」に影響を及ぼしている下位要因「や る気」「有能感」「目標設定」「感動体験の有無」「自律的な態度」「社会的な態度」の関連 性の検討結果.
3つの中核的因子に影響を及ぼしていると考えられる下位要因を「学習意欲」「目標設 定」「感動体験」「自律的な態度」「社会的な態度」と設定しそれぞれの関連性を検討した.
1)中核的因子と「学習意欲」関連性を検討した結果,中核的因子の得点の高い児童は 低い児童に比べ,「学習意欲」が有意に低く,また「しらけ」をよく起こす児童は「し らけ」を起こさない児童よりも「学習意欲」の得点が有意に低かった.これらのことか ら中核的因子の得点が高くなるにしたがって,「学習意欲」が低くなりるという関連性 があった.「しらけ」は「学習意欲」の低さから課題を難しくとらえたり,運動の楽し さに触れることができなかったり,すぐにあきらめたりするために起こると解釈した.
2)中核的因子と「目標設定」との関連性を検討した結果,中核的因子の得点の高い児 童が低い児童に比べて有意に「不適切な目標設定」をしていた.また,「学習意欲」の 得点の低い児童は高い児童よりも有意に「不適切な目標設定」をしていた.さらに,「し らけ」をよく起こす児童は「しらけ」を起こさない児童よりも有意に「不適切な目標設 定」をしていたことから中核的因子と「目標設定」の問の関連性が認められた.これら のことから,「しらけ」は,学習意欲の低さから「適切な目標設定」ができないために 課題を難しくとらえたり,あきらめたりして運動の楽しさに触れることができないため に起こると解釈した.
3)中核的因子と「感動体験の有無」との関連を検討した結果,中核的因子のうち礫 しさの未体験」因子で感動体験の少ない児童は多い児童に比べて有意に因子得点が高く,
感動体験の少ない児童は多い児童に比べて有意に「しらけ」を起こしているという関連 性があった.また,感動体験の少ない児童は多い児童よりも有意に「不適切な目標」を .82.
設定し,「学習意欲」の得点も有意に低かった.これらのことから,「しらけ」を面こ す根本的な要因は学習における感動体験の少なさであると推察した.感動体験の少なさ が「学習意欲」に影響し,目標設定が適切に行えないことで課題を難しくとらえたり,
あきらめたりしたために運動の楽しさに触れることができないまま学習が終わることが 何度も繰り返されるうちに「しらけ」は生起すると考えた.
4)中核的因子と「自律的な態度」との関連性を検討した結果,「自律的な態度」の未 熟な児童は,「自律的な態度」の確立している児童に比べ,中核的因子の得点が有意に 高く,「自律的な態度」の未熟な児童に「しらけ」をよく起こしていた.また,「自律 的な態度」の未熟な児童は「学習意欲」の得点が有意に低くかった,これらのことから,
「自律的な態度」の未熟さが,行動の自己決定する場面において判断力に欠け,失敗に つながる結果をまねくために,「学習意欲」が低下し,「適切な目標設定」ができない ことで課題を難しくとらえたり,あきらめたりしたために運動の楽しさに触れることが できないと解釈した.さらに「自律的な態度」を育成するためには,児童が単に「でき る」ようになるになるのではなく「何をどのように学ぶか」といった「学び方」の育成 が必要であると考えた.
5)中核的因子と「社会的な態度」との関連性を検討した結果,「社会的な態度」の未 熟な児童は,「社会的な態度」の確立している児童に比べ,中核的因子の得点が有意に 高く,「社会的な態度」の未熟な児童に「しらけ」をよく起こしていた.また,「社会 的な態度」の未熟な児童は「学習意欲」の得点が有意に低く,「不適切な目標設定」を する児童が有意に多かった.これらのことから,「社会的な態度」の未熟さは,他の友 だちから受容されなかったり,トラブルの原因になったりして仲よく学習できないため に「学習意欲」が低下し,「適切な目標設定」ができないために,課題を難しくとらえ たり,あきらめたりして運動の楽しさに触れることができないと解釈した.
3.「しらけ」発生モデルの構造化
体育科の学習に起こる「しらけ」は,授業における児童の「できた」「わかった」
という「感動体験」の少なさを基盤として「学習意欲」の低さから「適切な目標設定」
ができない状況を引き起こし,教師の提示する課題を難しくとらえたり,「できない」
ことを理由にあきらめたりすることで運動の「楽しさ」が体験できていないことから 起こるというモデルを図式化した.そこで児童に「楽しさ」を体験させるためには① 「達成」的要素が得られる学習②「親和」的要素が感じられる人間関係が必要である 一83一
と考えた.単に「できる」という「達成」ではなく,繰り返し行う中で試行錯誤を経 験し,問題解決の仕方を身につけること主眼とした学習が必要であると推察した.
4.「しらけ」診断尺度の作成及び診断基準の作成
「しらけ」診断尺度と診断基準の作成を試みた.「しらけ」診断尺度は,「課題の難し さ」「楽しさの未体験」「人間関係の不成立」の3因子から12項目で構成した.診断基 準の作成は,各因子ごとの平均値と標準偏差(M±1/3SD)と3つの因子の合計点か ら「しらけ」が「起こりやすい」「どちらともいえない」「起こりにくい」の3段階の 基準を作成した.この診断基準を判別分析による検討を加えた結果,66.9%の判別率 であった.
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今後の課題
本研究において,体育科の学習における児童の「しらけ」の要因は授業中の「感動体験 の少なさ」を基盤とした運動の「楽しさ」の未体験であったと考えた.本研究の第5章に おいて,「楽しさ」に触れる手だてについて検討をしたが,実証には至っていない.授業 場面において実証的なデータを集め検証していく必要があると考えた.
次に,本研究では「しらけ行動」と不適切な目標設定に高い関連性が認められた.新し い学力観が示され,自ら学び,自ら考える児童の育成には学習中の児童の「目標設定」は 非常に重要な事項であると考えた.教師が児童に助言して設定する目標は果たして,児童 にとって学習意欲を高めているのか.あるいは,児童が自ら設定する目標は,その児童に とって真に適切なのかといった問題である.また,心理学の動機づけの分野において目標 研究が活発化しているが,これらとの関連性についても検討したいと考えた.このことが,
児童の「しらけ」解消に役立つ資料がさらに提供できるのではないかと考えた.したがっ て,児童の「目標設定」についての研究の必要性を感じた.
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