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第2節 方去

第1項 「しらけ」構造モデルの検討

第4章で検討し,関連性が認められた「しらけ」の要因とその要因に影響を与えてい る下位要因について構造化しモデル図を作成した.

第2項  「しらけ」解消の方法についての検討

 「しらけ」構造モデルにしたがって,要因及び下位要因から考えられる「しらけ」解 消の方法についての検討を行った.

第3節結果

第1項 「しらけ」構造モデルの検討

 第4章で検討した「課題の難しさ」「楽しさの未体験」「あきらめ」「不適切な目標設 定」「学習意欲」「感動体験」の関連性からそれぞれの配置を考えた.図5−1にそのモデ ル図を示した.

       一60一

「しらけ」の要因

楽しさの未体験 課題の難しさ

不適切な目標設定

学習意欲の低さ

自律的な態度の未確立 社会的な態度の未確立

         図5−1

 体育科の学習に起こる「しらけ」は,授業における児童の「できた」「わかった」

という「感動体験」の少なさを基盤として「学習意欲」の低さから「適切な目標設定」

ができない状況を引き起こし,教師の提示する課題を難しくとらえたり,「できない」

ことを理由にあきらめたりすることで運動の「楽しさ」が体験できていないことから        一61一

感動体験の少なさ

 「しらけ」構造モデル

起こることを示している.このモデルは,どこに「しらけ」発生の要因があるのかを 把握するためのものであった.なぜならば教師が児童の「不適切な目標設定」や「学 習意欲の低さ」に注目して,たとえそれを解決させたとしても根本的な解決には至ら ないと考えた.つまりこのモデル図から,「しらけ」発生の根本的な要因は授業にお ける「感動体験の少なさ」であり,「しらけ」を生まないためには,教師はどの児童 にも「できた」「わかった」という感動が得られるような学習を仕組む必要があるこ とを示唆するものであった.そのような経験が児童の「学習意欲」を高め「適切な目 標設定」ができ,運動の「楽しさ」に触れることができるものと考えた.さらに下位 要因について個々にその対応した指導の方法についての検討が必要であると考えた.

第2項  「しらけ」解消の方法についての検討

(1)体育学習における楽しさの重要性

 千駄52)は体育科の学習における「楽しさ」について因子分析法を用いて調査した.

その結果,「達成」と「親和」であると報告し,運動の楽しさを「運動の遂行やその 結果によって生ずるよろこびや感動等の快感情とその快感情に対し学習者の新しい意 味づけや価値づけがなされた状態」と定義づけた.

 千駄の「楽しさ」を基にして「しらけ」を児童が起こさな方策として,

  ①「達成」的要素が得られる学習   ②「親和」的要素が感じられる人間関係

を重視した学習展開が必要であると考えた.また児童にとっては運動に対する「意味 づけ」や「価値づけ」は大切なことがらであると考えた.千駄53)は体育科の学習に おける小学校高学年の「やる気」の中核的要因として「達成」「見通し」の「自主的 学習活動要因」を挙げ,「意図的・計画的な練習によって目標を達成し,達成した快 い体験が強化されることによって生起するやる気」であると結論づけた.先に述べた 運動の「意味づけ」や「価値づけ」はこういった「やる気」が高まった中で学習する 過程で児童が体得していくものと推察した.

 平成11年5月新学習指導要領35)が出され,改訂の②に「自ら学び,自ら考える力 を育成すること」と示された33).これは,多くの知識を教え込むことになりがちで あったこれまでの教育を転換するものであった.稲垣・波多野11)は,我が国の教育        一62.

の「知識偏重」の傾向から,膨大な知識を記憶することに主眼がおかれたために,児 童はその知識をうまく使うことができずにいると,現在の教育の在り方について憂い た.そして,他者の見いだした知識を取り入れる力,問題解決によって新しい知識を 創造する力を育成すべきであると論じた.また,柴田55)は,図5−2に示す学力が必 要であると述べた.

学力

学んだカ=基礎的知識・技能(学習到達度)

鰍[:1::=:瓢::難痂

学ぼうとする力

 図5−2 これからの児童の身につけべき学力(柴田)

 これらをまとめてみると児童に体育の「楽しさ」に体験させるためには,目標達成 のために,たくさんの情報(知識)の中から必要なものを取捨選択するカ,意図的・

計画的な学習を企てる力や,既習した知識をつかって問題解決する力が必要であると 考えた.また,これらの力を用いて目標が達成された時,運動の「意味」や「価値」

に気づくことにつながるのではないかと推察した.そこで,「しらけ」を生まない学 習として,「体育科の学習において児童に運動の『楽しさ』である『達成』や『親和』

を体験させることができれば,児童は『しらけ』ない.」という仮説が設定できると 考えた.そこで千駄の報告をもとに2つの視点から「しらけ」を起こさないための方 法について検討した.また,第3章で「しらけ」の中核的因子とした「課題の難しさ」

「楽しさの未体験」「あきらめ」の3因子に関連させ検討した.

①「達成」的要素が得られる学習

 千駄 2)は,運動の楽しさに「達成」「親和」を挙げた.では児童に「達成」を体 験させるにはどうすればよいか.無籐38)は,自学者を育成する上で「遊び」につい て述べ,「遊びは同じことが何度も繰り返され(中略)その遊びにおいて,行動の新 しい組み合わせが出現しうるし,それを新たな行動のレパートリーとすることができ る.その中には当然将来役立つ行動が含まれているだろう.(中略)遊びという領域 でこそ試行錯誤的に実験することが許されるのである.」と重要性について論じた.

      .63一

この論述から,①繰り返し行うこと,②試行錯誤,の重要性を示唆するものであった.

繰り返し行うことの意義は,「こうするとうまくいった」「こんなやり方もあった」

等に気づくことにあると考えた.また試行錯誤の意義は,成功・失敗の原因を考える ことができるところにあると考えた.波多野・高橋工2)は,「日常的認知のかなりの 部分は,ある活動に繰り返し従事する中で,そこで役立つ問題解決の方略を習得する」

と述べ,繰り返す行うことの重要性を論じた.さらに,鎌原22)は,失敗することで,

新しい情報を得ることができると述べ,児童の学習において試行錯誤できる場の必要 性を論じた.また,本研究の「課題の難しさ」や「あきらめ」の因子は,目標設定の しにくさや運動に対しての関心・意欲の低さや失敗経験に起因した「しらけ」の要因 であった.これは現行の体育科の学習が「できる」ことに主眼においた授業が展開し ていることを物語るものであると推察した.すなわち,教師が系統だった学習の流れ を意識するあまり,小刻みな学習計画をたて,その時間内にどれだけの児童を「でき る」ようにしたかを重要視しがちになっている62).そのため,児童にとっては「で きる」ことが最大の関心事であり,できずに停滞したり失敗を回避したい思いから「課 題の難しさ」や「あきらめ」が生じたのではないかと推察した.したがって,教師が 授業の中で児童をどれだけ「できる」したかをねらうのではなく,児童に何を身につ けさせたか,児童に何を学ばせたかをねらうべきではないかと考えた.このことによ り児童は単に「できる」ようになって味わう「達成」だけではなく,学習で得た知識

・技術を用いて十分活動することを保証される中で「繰り返し行い」「試行錯誤」を 経験し,身につけた知識・技術をつかうことが「できた」という「達成」を味わうこ

とができると考えた.このような「達成」を児童が経験したとき体育の学習を「楽し い」と感じ,児童は「しらけ」ないと推察した.

②「親和」的要素が感じられる人間関係

 千駄52)の研究によれば,「二品因子の具体的な項目は,「ミスしてもみんながは げましてくれた」「友だちに教えてあげた」「自分の考えが仲間に理解された」「協力 して練習できた」等であった.このことから,「親和」的要素として「励まし」「相 互理解」「協力」があると考えた.本研究で得られた「人間関係の不成立」や「まと まらない集団」等の因子は,この「親和」的な内容の欠如が起因していた.桜井47〕

は「自分は周りの人から支えられている」といった他者受容感は,「学習意欲の源」

ともいうべきものであると「親和」的要素の重要性を論じた.また北尾25)は教師と       一64一

児童との問の人間関係において「親和」が高まると児童の「学習意欲」も高まると述 べた.これらのことをまとめると児童の「学習意欲」には,高めるためには学習の中 での人間関係において「親和」的要素が不可欠であると推察した.したがって,体育 科学習にのみならず,学級経営においても日頃からの児童の人間関係について注意す

る必要があると推察した.

(2)「しらけ」構造モデルの各要因別に解消の方策.

①感動体験の少ない児童

 授業中に「わかった」「できた」という感動体験の必要性は多くの知見の中に見受 けられた.北尾26)は,「普段の授業が中程度の能力の児童に焦点を合わせて展開し ているために能力の低い児童がお客さんになってしまっている」と述べ,「そういう 児童が授業中に『よそ見』をしたり『居眠り』をして誰が止められようか」と現在の 授業の展開の仕方を批判した.このことは授業中には全ての子どもが「できた」「わ かった」といった体験ができるように展開を仕組まなければならないことを示唆する ものであった.したがって教師は,一人ひとりのカを把握するとともに,児童の設定 した目標が適切であるか否かを判断し,不適切な目標に対しては適宜指導ができる力       h

量が求められると推察した.

②学習意欲の低い児童

 辰野69)は授業中に児童の学習意欲を喚起させる方法として次の5っを挙げた.

(i)驚き…  児童が過去の学習とか経験に基づいて予想する現象と相反する現象,

       起こりそうもない現象,さらには不可能と思われる現象を示し,そこ        に生ずる驚きの感情を動機づけとして利用する.

 例えば,「オリンピックの100m走で選手は呼吸をしているのだろうか」と問うこ とによって児童は自分たちの経験に基づいていろいろな思考をめぐらせ,学習への動 機づけを喚起させるならば「しらけ」解消の方策となりうると考えた.

 (i)疑問…  有効かどうかわからないような一般的原理を提示して信じようか信        じまいかといった疑問を生じさせる.

  日高ら15)は,児童の興味・関心に基づいた「遊び」に着目し,「身体運動文化を 中核とした総合学習プログラム」の試案を示した.その中でテニスボール,野球のボ ール,ソフトボールを児童に与えて「どのボールが一番遠くに投げられるだろうか」

       一65一

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