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第4章  総合考察と今後の課題

第1節  総合考察

  以上の点から,図画工作科の時間を用いた集団描画活動が,

 学級集団で生活している児童にとって,より良い適応を促す点 で有効にはたらくと考えた。

2 学級適応と集団描画活動

 今回の実践の中で,集団描画活動が児童の学級適応感に及ぼ す影響をグループ単位で検討したが,今回使用した学級適応感  に関する質問紙では,影響を与えているとはいえないと考えら

 れた。

  また,集団描画活動が児童の対人関係に及ぼす影響について  もグループ単位で検討した。6年生は,描出人数,心理的距離  にも4年生ほど変化が見られず,4年生は,はじめ親近的でな  い多くの友達を持っているが,集団描画活動を通してその数は

減り,より親近感のもてる友達のみを描くという結果が得られ  た。このことより,6年生よりも4年生において,集団描画活

動が,対人関係における心理的距離を縮める効果が認められた。

 また,6年生では心理的対人網が安定していることから,それ以  前の学年でこの活動を取り入れることが,学級適応に影響を与  えるのではないかと考えられた。

  次に,集団描画活動が児童の社会測定的地位と学級適応感に 及ぼす影響を検討した結果,4年生の社会測定的地位の高い男  子群のみ,同学年の社会測定的地位の低い男子群より有意に学  級適応感が高いことが示された。しかし,集団描画活動の前と  後の学級適応感と社会測定的地位との有意な差は見られなかっ

 た。

  そこで,著しく学級適応感が上昇・下降した児童の特徴を活 動の様子やふり返り表の自由記述をもとにさらに検討を加えた。

今回の集団描画活動では,集団に対する協調性をもち,異なる  意見にも耳を傾けることができる児童,この活動を通して安定

感が増した児童に対して,学級適応感が上昇する可能性が考え られた。一方,自分の意見に固執し,協調性に欠ける面が認め られる児童,描くことに対する迷いを抱き,自己主張の難しい児 童に対して学級適応感が下降する可能性が考えられた。

 このことより,教師は,随時,児童が描画に取り組みやすい よう助言をする必要があると考えられた。また,児童が,自分 の意思を伝えることができるよう,日常の教育活動に社会的ス キルの指導を取り入れることも重要であると考える。教師は,

集団の活動で生じる帰属感,連帯感を生かしながらも,集団で 描くことの不自由さを感じる児童に対しては,別の活動場面を 設定する必要性のあることも今回の実践からわかった。

 次に,活動直後のふり返り表の自由記述より,児童が集団描 画活動をどのように捉えていたのか検討した。両学年間の自由 記述の相違点として,4年生では「メンバーによる受容」とい

うカテゴリーがあげられた。これは,4年生は,ギャングエイ ジとして集団で行動することを好むため,仲間からの受容され る体験を必要としていると考えられた。6年忌では「今までに やったことのない図工」「描画に対する意外性」というカテゴ

リーがあげられた。このことから,6年生は,描画素材や制作 人数が今までと違うこと,また,1本の線に対する意外性という 新たな視点で集団描画活動をとらえていたと考えられた。

 最後に,集団描画作品に対する教師の印象評定と児童の学級 適応感の検討を行った。その結果,両者に相関が見られ,描か れた作品を通じて教師は,児童の学級適応感をある程度とらえ ることができるという結果が得られた。しかし,集団描画作品 に対する印象評定の方法で学級適応の把握が難しい児童におい ては,質問紙により的確に把握し対処していくことが,指導を 行う判断材料として有効な手段といえる。

  小学校では,学級集団で生活しているため,集団活動という 要素は排除して考えることはできない。また,生活班や掃除当 番などグループで活動することも多い。ゆえに,本研究では,

 仲間とともに活動し,描画を通して感情交流を行い,その作品  をみてみんなで物語を作る話し合いをすることが,学級適応の変

化に影響を及ぼしていると考えられる。

3 学級適応を促す教科教育活動の必要性

  先行研究(米澤,1985:浅川ら,1985)より,小学校での適応が中学 校進学への適応に影響を与えることが指摘されている。また,

 小泉(1992)は,小学校環境において早期に学級や学校に対する適  応についての処置,教育的介入プログラムの開発や充実が必要  であると述べている。以上のことから,日常の教科教育活動の  中で,学級適応を促す授業を展開していくことは今後,重要な  課題と考える。

4  「心の教育」と集団描画活動

  日常の教育活動において,心理療法的視点を生かした授業と  して集団描画活動を行うことは,児童の対人関係の心理的距離  を縮め,親近感を増すという効果が認められた。また,教師に  とって,描かれた作品から,児童の学級適応の状態を把握でき  る可能性があることは,児童の心の安定を理解し,心の危機に  対して早期に対処が出来ると考えられる。また,児童にとって,

 この創造的表現活動である集団描画活動は,学級環境との間で  均衡状態を維持するのに役立ち,心の安定や充実感を味わうこ  とが可能であると考えられる。また,この活動は,児童の感性  を養いながら,心の平静を保持するのに有効であり,心の危機  への予防にも効果があると考えられる。

  以上のことから,「心の教育」と集団描画活動は,相互に関連  が深く,「心の教育」を進めていく上で集団描画活動は,有益な

学習活動といえる。

5 「心の教育」と学級適応

 児童は,本来,学級環境における自らの役割を認識し,環境と  自らとの均衡をはかろうとする。集団での描画活動では,児童  同士の協調性や信頼関係が必要とされ,それにより心の安定が

生じると考えられた。児童達は,この信頼関係による心の安定  を基礎に,共通の課題に向かって自ら解決していこうとする。

 このような過程を通して,児童は,学級環境との均衡をはかる 力,適応力を身につけていき,この適応力があらゆる変化に対  して積極的に対応できる生きる力を伸ばすことにつながり,社

会への適応力を伸ばすと考えられる。その結果,創造性豊かな 心をもつ人間を育むことになると考えられ,学級適応を促進す  ることは,「心の教育」において重要な要素になると考える。