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総 合 考 察

ドキュメント内 問   題 (ページ 42-50)

MMと子どもの感情理解との関連

本論では,これまで検討されていない感情理解の発達 と母親のMMの関連を問い,乳児期に測定されたMM 得点の高さが4歳時の感情理解能力の高さと相関するこ とが明らかとなった。4歳時,顔表情の認識課題は平均 点が高く,多くの対象児が既に一定の理解に達している と考えられた。一方,5点満点中2点台の平均点であっ た表情ラベリングと感情推測について,母親のMMは 状況に基づく他者の感情の推測という能力よりも,顔表 情の名付けという言語的表現の発達に寄与していること が示唆された。

子どもの感情語彙の使用の発達には,子どもが経験 する言語的環境からの影響が考えられよう。先述のよ うに高いMMを持つ母親は,その特徴の現れとして,

子どもに心的語彙を多く付与しやすいことが仮定さ れ(Meins, 1997),実際にMMの高さがこうした母親 の発話の多さと関連することが見出されている(篠原,

2006, 2008)。本論で補足的に実施した影響プロセスの

検討結果から,母親のMMの高さが生後6ヵ月時にお ける子どもへの心的語彙の豊富な付与を介して,4歳時 点における顔表情の命名能力を高めることが確かめられ た。特に,母親のMMは子どもの表情ラベリング能力 に直接的影響を持たず, MMが親子間での心についての 会話という具体的なやりとりを通して,子どもの感情語 使用の発達に寄与する過程が示された。これまで,母親 の心的語彙使用と子どもの感情理解の関連は報告されて いるが (Laible, 2004; Taumoepeau & Ruffman, 2006),な ぜ母親の心的語彙の使用量に個人差があるのかという点 は十分に問われていない。今回見出されたMMによる 感情理解の促進機能,特に発達早期からの影響過程に関 する知見は,子どもの感情理解を支える環境の理解にも 新たな視点を提示すると考えられる。

MMと子どもの一般語彙理解について

4歳時における語彙理解能力にも母親のMM得点との 有意な相関が認められた。MM自体,あるいは母親の心 的語彙の使用による子どもの語彙能力全般への影響を直 接的に問う研究は少ないが,本論の分析から,MMが直 接的に,また,母親による心的語彙の使用を介して,子 どもの語彙理解を引き上げていることが示唆された。観 察された心的語彙の使用場面を見ると,乳児の好みや 興味の対象を含む発話(「車が好き?」や「絵本を読み たいの」などの表現)が多かった。こうした,子どもの 心の状態を描写しようとする際に様々な語彙を含む母親 の発話が,子どもの語彙全般に対する理解を促進しやす かったのではないかと考察される。

なお,一般語彙,ならびに心的語彙の発達について,

母親による幅広い語彙の使用,あるいは全体的な発話量 の多さが子どもの言語的発達を促進していた可能性も考        *p <.05,**p <.01

Figure 2 プロセスモデルのパス図

R2=.398

えられる。本論で母親の心的語彙の使用に着目したの は,MMという子どもの心への目の向けやすさが直接的 に反映されるだろうと考えられたこと,また,発話の全 体的豊富さではなく心的語彙の使用が,子どもの感情や 誤信念理解に影響するという先行研究の報告(Ruffman, Slade, & Crowe, 2002; Taumoepeau & Ruffman, 2006)を重 視したためである。しかしながら,特に母親のMMと 一般語彙の相関関係が見出されたことから,今後,子ど もへの発話総量や母親の語彙能力も分析に加え,統制を とることが課題である3)。また,分析対象とした心的語 彙の付与量について,今回は生後6および9ヵ月時点 の観察結果を用いたが,生後1年目以降の母親の発話も 含めた検討を行うことが必要であろう。これにより,幼 児期に至った子どもに対する,母親のMMによる影響 プロセスの全体像がより詳細に明らかになると考えられ る。

MMと欲求・信念理解について

本研究では心の理論の発達を段階的にとらえる視点か ら(Wellman & Liu, 2004),母親のMMの高さが誤信念 理解より早期の欲求理解の発達をも促進するのではない かと予測した。検証の結果,母親のMMは,先行研究

(Meins et al., 2002, 2003)で検討された時期よりも早く,

3歳時の欲求理解の成績とも関連を持つことが明らかと なった。しかし,その関連性は予想された線形のもので はなく,乳児期に測定されたMM得点の中位群に属す る母親の子どもが,3歳時の欲求理解,ならびに4歳時 の誤信念課題の成績に優れることが見出された。そして,

予想とは異なり,高いMMを持つ母親の子どもはこれ らの課題の成績が相対的に低いという関連パターンの存 在が示唆された。

母親の高いMMが子どもの課題成績の高さを予測す るという先行知見(Meins et al., 2002)との差異について,

まず,MMの測定方法の差異が関係しているのではない かと考えられた。Meins et al.(2002)においてMMは,

母子相互作用中に母親が子どもの内的状態に言及した発 話のうち,文脈に照らして適切だと判断された発話の割 合が指標となっていた。一方,本研究ではMMとして,

そもそも乳児に対して何らかの心的帰属を行うのか否か という点を重視し,共通の乳児ビデオ刺激に対する心的 帰属の量に着目した。「乳児を心を持った一人の人間と して扱う」という養育者の特徴(Meins, 1997) を測定す る方法として,Meinsらと本研究では重視した点に差異

があるため,子どもの誤信念理解との異なる関連パター ンが示されたのではないかと考えられる。

心的帰属の量に着目したMMを用いた今回の検討結 果について,欲求・信念理解との関連分析から新たに示 されたMMの高群と中群の差を考察したい。本論では 当初,これらの群の間に子どもの発達の差を予想してお らず,特に, MM高群の子どもの欲求や信念理解の成績 の低さは予想と大きく異なるものであった。MMの高さ

についてFonagy et al.(2007)は,臨床的な見解とした

うえで,子どもに対する偏りを含んだ「過剰な心的帰属」

(hyper-mentalising)と,「適度なMM」を区別する必要 性を指摘している。本研究で高いMMを持つと分類さ れた母親は,乳児の心について目を向ける際,過剰性や 内容の偏りを含んでいたのだろうか。中程度とされた MMには相対的に過剰性や偏りが少なく,子どもの欲求 や信念理解の発達に寄与し得た可能性も考えられる。た だし本論で用いたMM測定方法では,そもそもあらか じめ固定されたビデオ場面における乳児の内的状態につ いて回答を得るため,回答内容の偏りを検出するのに十 分な手続きとは言い難い。しかし,MM測定実験で回答 数が多い母親は,自分の子どもとのやり取り場面でも心 的世界への発話が多いこと(篠原,2006,2008)を考慮 すると,高いMM得点を持つ母親は子どもに心を帰属 しようとする機会自体が多く,母親が自発的に子どもに 対して心を読み込む機会,ないしその際の具体的内容に,

偏りや過剰性が含まれる可能性があるのではないだろう か。例えば,実際には子どもの側が必要としていない時 に,母親がMMの高さ故に子どもの心を想像してやり とりを図ろうとする,あるいは,子どもの自発的な環境 や他者への思考を(結果的に)先回りして,母親が発話 や行動を起こしてしまう,などということも考えられる だろう。

これに関して篠原(2009)は,子どもが生後6ヵ月時 に測定された,本論で用いた実験に基づくMM得点の 高さが,その4年後に測定された母親自身の子どもの心 に対する語りの量的豊かさと関連していること,しかし 一方,母親ではなく子ども自身の見方を考慮して語る姿 勢,あるいは子どもの姿を受容する視点とは関連してい ないことを報告している。この検討は4年という時間を 経た比較であり,乳児に対する心的帰属の量的な豊富さ が,子どもに向ける視点の適切性とは独立している可能 性を示唆するにとどまる。今後,母親が持つ乳児の心に 対する見方の特徴について,量的豊富さと内容としての 適切性を同時に測定し,両者の重なりと相違を明らかに することが課題である。また,実際の母子相互作用につ いて,高いMM得点を持つ母親は心的語彙の付与とい う発達の足場を提供しながらも,同時に,やりとりのタ イミングや内容としては,子ども自身による自発的な他 3)子どもの社会・認知的発達については,母親の認知能力による影

響も考えられる。これに関して本論では(母親の認知能力を直接 的に扱ったものではないが)母親の学歴による影響を分析したが,

MM得点,生後6ヵ月時と9ヵ月時の母親による子どもの内的状 態への言及頻度,4歳時の子どもの表情ラベリング能力ならびに 語彙月齢との関連は認められなかった。

ドキュメント内 問   題 (ページ 42-50)