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怒りの多次元的特徴

ドキュメント内 問   題 (ページ 95-99)

全体的討論

研究 1  怒りの多次元的特徴

小学生を対象に,怒りの多次元尺度であるMSAIが捉 える怒りに加え,慢性的な怒りについても測定を行い,

怒りの多次元的な構造と各側面間の関連を検討する。ま た,使用した項目によって捉えられる怒りの構成概念妥 当性を確認するため,教師による行動評定との関連につ いても検討する。

方 法

調査対象 同一地区の公立小学校2校(A校,B校)

に通う5・6年生の児童319名(男子162名,女子157 名)。

調査時期 2003年12月。

調査内容 調査は無記名で行い,フェイスシートにて 学年,性別,出席番号(教師による評定との対応づけの ため)を尋ねた。

(1)怒り体験・怒り表出に関する項目:MSAI(Smith et al.,1998)のうち Anger Experience,Anger Expression

(Destructive Expression, Positive Coping) に相当する項 目を邦訳し,バックトランスレーションにより原文と同 じ内容であることを確認した1)。 Anger Experience に ついては13項目のうち1項目( The teacherʼs pet gets to do all of the special errands in class. )のみが日本語表 現の難しさから除かれた。それぞれの場面状況について どの程度腹が立つかを「ものすごくはらがたつ」から「ぜ んぜんはらがたたない」までの4件法で,顔絵を添えて 回答を求めた。 Anger Expression については腹が立っ たときにそれぞれの項目が示す行動を取るかどうかを

「いつもそうする」から「しない」までの4件法で尋ねた。

(2) 慢 性 怒 り( 敵 意・ い ら だ ち ) に 関 す る 項 目:

MSAIの Cynical Attitude も慢性的な怒りの認知的側

面であると考えられるが,項目が学校や教師への否定 的な記述からなるため,使用には配慮を要する。そこ で,本研究では特に学校についてのシニシズムではな く,一般的な敵意やシニシズムを測定する項目を用いる こととした。小学生用攻撃性質問紙(HAQ-C:坂井ほ か,2000)からシニシズムに近いと思われる項目を4項 目,敵意的攻撃インベントリー(HAI:秦,1990)から 2項目を,協力校教諭と協議のうえ表現を一部変更して 用い,さらにこれらを参考に2項目を作成した。いらだ ちに関する項目についてはHAI,小学生用ストレス反応

1)筆者と2名の心理学系大学院生とで日本語訳を作成し,英語圏在

住歴のある心理学部卒の学生がこれらを英訳し,原典に照らし合 わせて表現を確認した。日本語表現については調査協力校の教諭 4名に適切であることを確認した。

尺度(嶋田・戸ヶ崎・坂野,1994)を参考に5項目を作 成した。日頃感じていることとしてそれぞれの項目にあ てはまる程度を「はい」から「いいえ」までの4件法で 尋ねた。

(3)教師による行動評定:各学級6〜8名ずつ児童 を無作為に抽出し,10学級計72名(男子37名,女子 35名)の児童についての評定を学級担任教師に求めた。

Teacherʼs Report Form(TRF: Edelbrock & Achenbach,

1984)から怒りと関連があると推測される Aggressive

Inattentive Unpopular について,計22項目を抜粋,

邦訳して使用した。それぞれの項目について「とてもあ てはまる/しばしばそうである」から「あてはまらない」

までの3件法で評定を求めた。さらに,学力について5 段階で尋ねた。

結果と考察

怒りの多 次 元 構 造  怒りの 多次 元 構 造を検 証 する ため,使用した項目の探索的因子分析を行った。まず MSAIを邦訳した項目についてMSAIと同じ因子構造が 得られるか確認するため,主成分解による因子分析(バ リマックス回転)を行った2)。 Anger Experience(怒り 体験),Destructive Expression(破壊的表出),Positive Coping(積極的対処) に相当する項目がそれぞれ異な る 因 子 に.46以 上 の 負 荷 を 示 し,Smith et al.(1998), Furlong et al.(2002)と同様の構造が確認された。この ことから,MSAIの概念構造の安定性が示されたと言える。

次に,怒りの慢性的側面とその他の怒りの側面が弁別 可能であるかを確かめるため,慢性怒りに関する項目 とMSAIの項目を併せて,同様に探索的因子分析を行っ た。慢性怒りの項目については,因子負荷量の低い3項 目を順次除き,10項目を以降の分析に用いた。MSAIの 3因子(怒り体験・破壊的表出・積極的対処)に慢性怒 りの2因子(敵意・いらだち)を加えた5因子構造を 想定したが,積極的対処に関する項目が2つの因子に分 かれて負荷を示したため, 6因子構造を採用した(Table 1)。6因子による累積寄与率は47.4%であった。因子Ⅰ には「怒り体験」の12項目が,因子Ⅱには慢性怒りの うち「いらだち」に関する4項目が,因子Ⅲには「積 極的対処」のうち5項目が,因子Ⅳには「破壊的表出」

の5項目が,因子Ⅴには慢性怒りのうち「敵意」に関す る6項目が,因子Ⅵには「積極的対処」のうち2項目 が,それぞれ.45以上の負荷を示した。MSAIの積極的 対処の項目が因子Ⅲと因子Ⅵに分かれて負荷を示した以 外は,予め想定されたとおりの因子構造が得られ,「い らだち」「敵意」が怒りの他の側面と弁別されることが 示された。因子Ⅵに負荷を示した2項目は,内容として

「社会的共有」(social sharing: Rimé, Finkenauer, Luminet, Zech, & Philippot, 1998)を意味するものであった。どち らの項目もFurlong et al.(2002)で女子において Positive

Coping への負荷量が低いことが指摘されており,他

の項目と区別して捉えられる必要があると考えられた。

そこで,本研究ではこれらの2項目を「社会的共有」,

その他の5項目はSpielberger et al.(1995)の

Anger-Control に近い内容を示していたことから「怒り制御」

とし,これらを区別して捉えることとした。

因子分析で各因子に高い負荷を示した項目群の記述

統計量とα係数をTable 2に示した。MSAIのα係数は

Smith et al.(1998),Furlong et al.(2002)とほぼ同程度 であり,「積極的対処」で低い値を示した。慢性怒りの うち「敵意」では低いα係数を示したが,「いらだち」

ではα=.79とある程度の内部一貫性が確認されたこと から,小学生においても意識されやすい「いらだち」に 注目することの有用性が示されたと言える。

怒りの各側面間の関連 怒りの各側面の特徴を検討す るため,性別ごとに変数間の相関係数を算出した(Table 3)。男女ともに「いらだち」と「破壊的表出」の間で最 も高い中程度の相関が認められた。「いらだち」と「怒 り体験」の間にも男女ともに弱い相関が認められ,いら だちはわずかな刺激で否定的感情を爆発させる予備状態 とされているように(Buss & Durkee, 1957),日常的な いらだちが強いほど刺激下で怒りを感じやすく,破壊的 な表出をしやすいことが示されたと言える。また,男子 では「破壊的表出」と「怒り体験」との間にも中程度の 相関が認められたのに対し,女子では「破壊的表出」と

「敵意」との間に中程度の相関が認められ,男子では刺激 下で怒り感情が喚起されやすいほど,女子では日常的な 敵意が強いほど怒りを破壊的に表出しやすいと考えられ た。これまでの研究で男子の方がより直接的に怒りを表 出しやすく,女子では関係性攻撃などの間接的な方略を 取りやすいことが指摘されているが(Crick, 1997; Crick

& Grotpeter, 1995),本研究の結果からも男女で怒りの表 出の仕方やそのプロセスに違いがあることが推察される。

また,女子では「敵意」と「怒り体験」との間にも中程 度の相関が認められ,日常的に敵意的認知をしやすいほ ど,刺激下で怒りを感じやすいことも示唆された。

もう一方の行動的側面である積極的対処については,

男女ともに「怒り制御」と「破壊的表出」の間にそれぞ れ負の相関が認められ,この結果は構成概念的妥当性の 一部を支持するものであると考えられた。女子では「怒 り制御」と「いらだち」・「敵意」の間でも弱い負の相関 が示され,怒りをコントロールしやすい女子ほど破壊的 表出をしにくく,また慢性的怒りも低いことが示された。

男女ともに「社会的共有」と他の怒りの側面との間に相 関は認められなかった。

2)各下位尺度の測定方法が異なるため,Smith et al. (1998),Furlong

et al. (2002)と同様,顕在変数同士のまとまりをより反映しやす

いと考えられる主成分解を用いた。

Table 1 怒りに関する項目の因子分析結果 項目

No. 項目 回転後の負荷量

共通性 M SD

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ いらだち

a2. ちょっとしたことではイライラしない .00 –.52 .26 –.13 –.08 –.21 .40 2.7 1.0 a4. いつもふきげんだ .06 .74 .01 .22 .22 –.10 .66 1.5 .8 a6. いつもイライラしている .07 .76 –.13 .24 .17 .07 .59 1.6 .8 a10. 気持ちがむしゃくしゃする .12 .71 .00 .25 .28 .00 .66 1.8 .9 敵意

a1. ほとんどの人は,正直ではないと思う –.01 .17 .02 .07 .52 .08 .31 2.3 1.0 a3. わたし(ぼく)は,みんなのことが好きだ .02 –.28 .07 .04 –.57 .07 .41 3.1 .7 a5. わたし(ぼく)は,とてもしあわせだと思う .07 –.08 .20 –.08 –.46 .41 .44 3.2 .8 a7. まわりの人は,みんな親切な人ばかりだ –.16 .11 .16 .08 –.72 –.03 .69 3.0 .8 a8. ふだん仲よくしていても,本当に困ったとき助けてくれない人もいる .11 .19 .18 .27 .47 –.28 .45 2.4 1.1 a9. 友だちのなかには,いやな人が多い .14 .32 .02 .17 .57 .00 .48 2.0 1.0 怒り体験

b1. 食べかけのガムが自分のイスの上に置かれているのに気づかずに座っ

てしまった .50 .26 –.18 –.15 –.01 .03 .37 3.3 .8 b2. 2人の強そうな子が,あなたのものを取りあげて、あなたをのけもの

にして遊んでいた .65 .06 .01 –.08 –.26 .05 .51 3.5 .8 b3. 先生に「気分がよくない」と言ったのに,信じてもらえなかった .57 –.06 –.17 .13 .27 .21 .49 2.6 1.1 b4. クラスの誰かがいたずらをしたので,放課後全員が残された .55 –.02 –.14 .13 .15 .10 .37 2.7 1.1 b5.「トイレに行きたい」と先生に言ったら,だめだと言われた .59 –.17 –.02 .12 .20 .04 .43 2.1 1.0 b6. 朝,自分の机の中を見たら,勉強道具が盗まれていた .60 .13 .12 –.13 –.11 –.10 .42 3.3 .9 b7. クラスの誰かが,あなたのことをどうにかしてくれるよう,先生にた

のんでいた .57 –.01 –.05 .11 .10 .03 .35 2.6 1.1 b8. 他の子はもっと悪いことをしているのに,あなただけ先生に呼ばれた .55 –.14 –.18 .26 .23 .16 .50 3.3 1.0 b9. テストのために一生けん命勉強したのに,成績が上がらなかった .47 –.06 .20 .27 .10 –.05 .35 2.1 1.1 b10. 給食の列に並んでいる時に,誰かが間にわり込んできた .52 .21 .18 .02 –.06 –.17 .38 2.0 1.0 b11. 勉強していたら,誰かがわざと机にぶつかってきて,やり直さないと

いけなくなった .63 .11 .10 .05 .05 –.02 .42 2.8 1.0 b12. 誰かがあなたをいやな呼び名で呼んだ .61 .08 .04 .07 –.06 –.06 .39 2.9 1.0 破壊的表出

c2. 怒っているときは,まわりにいる人にやつあたりする .13 .15 –.35 .48 –.03 .20 .44 1.7 .8 c4. はらが立つと,ものをこわす .04 .25 –.10 .66 .01 –.14 .53 1.6 .9 c7. はらが立つと,まわりのこと全部がいやになる .27 .23 –.15 .54 .17 .13 .48 2.2 1.1 c9. はらが立つと,その気持ちをおさえられない .22 .32 –.20 .56 –.02 –.01 .50 2.1 1.1 c10. とてもはらが立つと,自分を傷つけたくなる .02 .21 .09 .56 .21 –.21 .45 1.6 1.0 怒り制御

c1. 怒っているときは,何か別のことを考えるようにしている .05 –.02 .66 –.04 –.15 .02 .46 2.0 .9 c3. 怒りでばくはつする前に,どうしてこうなったのか考える –.01 .05 .67 –.29 .05 .08 .54 1.9 1.0 c5. むしゃくしゃするときは,そのことを笑い話にしようとする –.11 –.10 .48 .40 –.02 .14 .44 1.8 .9 c6. はらが立ったときは,走ったり遊んだり,体を動かして、すっきりさせる .04 –.17 .64 .07 –.11 .11 .47 2.1 1.1 c8. むしゃくしゃするときは,本を読んだり,何かを書いたり,絵を描い

たりして,自分を落ち着かせる .01 –.06 .53 –.21 .06 .20 .38 2.0 1.1 社会的共有

c11. 学校で頭にきたことがあると,その気持ちを誰かに話す .05 .07 .17 .02 .00 .82 .70 2.7 1.1 c12. むしゃくしゃするときは,誰かとそのことを話し合う –.02 .08 .19 –.07 –.03 .78 .65 2.3 1.1

固有値 4.13 2.70 2.48 2.44 2.44 1.92

寄与率(%) 12.14 7.94 7.30 7.17 7.16 5.64

注.項目番号のaは慢性怒り,bMSAIの怒り体験,cMSAIの怒り表出(破壊的表出・積極的対処)に関する項目であることを意味 する。.45以上の負荷量を太字で表示。

ドキュメント内 問   題 (ページ 95-99)