1 .口頭回答の結果
1) 口 頭 回 答 の 分 類 口 頭 で 得 た 回 答 か ら, 高 坂
(1996)を参考にして22の下位カテゴリーを抽出し,そ れぞれ定義した(Table 2)。全ての対象児の口頭回答に おける22の下位カテゴリーへの分類については,筆頭 筆者と1名の心理学を専門とする大学院生で行い,評定 者間の一致率をCohenのカッパ係数により求めた。そ の結果,一致率はκ= 0.978であった。なお,不一致の 箇所は協議により一致した。
Table 1 実験に用いられた物語と選択肢の概要
場面 物語内容 選択肢
自己先取場面
(スコップまたは 絵本)
1.○○ちゃん(対象児の名前)がスコップで遊んで(絵本を読んで)
います。2.そこにお友だちがやってきて3.そのお友だちが○○ちゃ ん(対象児の名前)が使っているスコップ(読んでいる絵本)を取っ てしまいました。質問.こんなとき○○ちゃん(対象児の名前)な らどうしますか。
① 取り返す(行動的主張)
② 返してと言う(言語的主張)
③ 我慢する(自己抑制)
他者先取場面
(シャボン玉または クレヨン)
1.○○ちゃん(対象児の名前)はお外に(お部屋の中に)います。2.そ こでお友だちがシャボン玉で(クレヨンで絵を描いて)遊んでいる のを見つけて3.○○ちゃん(対象児の名前)もお友だちが持ってる シャボン玉(クレヨン)で遊びたくなりました。質問.こんなとき
○○ちゃん(対象児の名前)はどうしますか。
① 取る(行動的主張)
② 貸してと言う(言語的主張)
③ 我慢する(自己抑制)
対等場面
(ボールまたは ぬいぐるみ)
1.○○ちゃん(対象児の名前)はお外(お部屋の中)にいます。2.お 友だちもお外(お部屋の中)にいます。3.2人で一緒にボール(ぬい ぐるみ)を見つけて,取り合いになってしまいました。質問.こん なとき○○ちゃん(対象児の名前)ならどうしますか。
① 取る(行動的主張)
② 貸してと言う(言語的主張)
③ 我慢する(自己抑制)
22の下位カテゴリーには大きく分類すると,自己主 張するもの,または自己抑制するものの他に,じゃんけ んや順番など,自分の欲求を表出しながらも,相手の主 張も取り入れている回答が見られた。これらの回答は,
相手の欲求も考慮しながら自分の欲求も通そうとしてい ると考えられる。したがって,22の下位カテゴリーを,
自分の欲求や意志を表現する,または実行する「自己主 張」,自分の欲求や意志を抑制,または制止する「自己 抑制」,自分の主張と相手の主張を尊重し調整する「自 他調整」,どれにも属さない「その他」の4つの上位カ
テゴリーに分類した(Table 3)。下位カテゴリーの上位 カテゴリーへの分類についても,筆頭筆者と1名の大 学院生で行い,その結果,一致率はκ= 0.832であった。
そして不一致の箇所は協議により一致した。なお,これ ら4つの上位カテゴリーを総称して,自己調整カテゴ リーと呼ぶ。
3場面において,年齢ごとに上位カテゴリーと下位カ テゴリーの出現度数を調べ,Table 4に示した。
2)自己調整カテゴリーの年齢間の比較 まず,年 齢別,場面別に,自己調整カテゴリーにおいて男女差が Table 2 口頭回答を分類する下位カテゴリー
カテゴリー 定義
譲渡 相手に玩具を譲る
我慢 相手の持っている玩具を取らない 代替行動 代わりの玩具で遊ぶ
代替物 相手に代わりの玩具を差し出してその使用を提示する 略奪 取る,取り返すことで玩具を所持する
攻撃 相手に身体的苦痛を与える 依頼 玩具を所持するために頼む
限定 時間的・量的な限定を加えて玩具を所持するために頼む 条件 時間的・量的な限定以外の条件を出す
拒否 相手の行動を言語で拒否する
先行所持 自分が相手より先に使用・所持していたことを示す 使用中 自分が今使っていること,まだ使っていることを示す じゃんけん じゃんけんで玩具を所持する人を決める
順番 順番に使う。どちらが先に所持するかは断定しない 先行 順番だが,自分が先に所持する
後行 順番だが,自分は後で所持する
一緒 対象の玩具を2人で一緒に使う,または一緒に使うことを提案する 他者依存 自分で解決せず,他人に解決してもらう
結果予測 場面状況について,どうなるかの予測 善悪判断 場面状況について,良いか悪いかの判断 感情 場面状況における自分の感情
謝罪 相手に謝る
注.上記に当てはまらないものを「その他」とした。
Table 3 4つの自己調整カテゴリー
上位カテゴリー 下位カテゴリー
自己抑制 譲渡,我慢,代替行動
自己主張 代替物,略奪,攻撃,依頼,拒否,先行所持,使用中 自他調整 限定,条件,じゃんけん,順番,先行,後行,一緒
その他 他者依存,結果予測,善悪判断,感情,謝罪,その他,D.K.,N.R.
注.D.K.は「わからない」,N.R.は無反応を示す。
見られるかχ2検定を行ったところ,いずれの分析にお いても有意差は見られなかった。そこで性別を込みにし て,年齢(3歳児,4歳児,5歳児)×自己調整カテゴリー
(自己主張,自己抑制,自他調整,その他)のχ2検定 を,場面ごとに行った。その結果,自己先取場面では有
意な差は見られなかったが(χ(2 6)= 8.09,n.s.),他者 先取場面(χ(2 6)= 31.62,p <.01)と,対等場面(χ(2 6)
= 19.50,p <.01)で有意差が見られた。さらに残差分析 を行ったところ,他者先取場面では,Table 5に示した ように,「自己主張」は,3歳児には少なく4歳児と5
Table 4 上位カテゴリーと下位カテゴリーの出現度数
場面 年齢群 上位カテゴリー 下位カテゴリー
自己先取 場面
3歳児(n =40)
自己抑制7(18) 譲渡5(13),我慢2(5)
自己主張12(30) 代替物1(3),略奪2(5),攻撃1(3),依頼5(13),拒否3(8) 自他調整3(8) 条件1(3),一緒2(5)
その他18(45) 他者依存1(3),結果予測1(3),感情3(8),N.R.13(33)
4歳児(n =40)
自己抑制9(23) 譲渡6(15),我慢2(5),代替行動1(3) 自己主張16(40) 依頼15(38),拒否1(3)
自他調整6(15) 条件1(3),順番2(5),先行1(3),後行1(3),一緒1(3) その他9(23) 他者依存3(8),感情1(3),謝罪1(3),N.R.4(10)
5歳児(n =40)
自己抑制4(10) 譲渡4(10)
自己主張16(40) 略奪2(5),依頼6(15),拒否6(15),使用中2(5) 自他調整8(20) じゃんけん1(3),順番1(3),先行3(8),後行3(8)
その他12(30) 他者依存4(10),感情1(3),その他1(3),D.K.2(5),N.R.4(10)
他者先取 場面
3歳児(n =40)
自己抑制5(13) 我慢5(13)
自己主張7(18) 略奪1(3),依頼6(15) 自他調整3(8) 後行1(3),一緒2(5)
その他25(63) 他者依存1(3),善悪判断2(5),その他1(3),D.K.1(3),N.R.20(50)
4歳児(n =40)
自己抑制3(8) 譲渡1(3),我慢2(5)
自己主張22(55) 依頼22(55)
自他調整7(18) 限定1(3),順番1(3),一緒5(13)
その他8(20) 他者依存1(3),結果予測1(3),感情1(3),N.R.5(13)
5歳児(n =40)
自己抑制3(8) 譲渡1(3),我慢1(3),代替行動1(3)
自己主張22(55) 依頼22(55)
自他調整10(25) 限定2(5),後行2(5),一緒6(15) その他5(13) 他者依存2(5),善悪判断1(3),N.R.2(5)
対等場面
3歳児(n =40)
自己抑制7(18) 譲渡2(5),我慢4(10),代替行動1(3)
自己主張8(20) 略奪1(3),依頼5(13),拒否1(3),先行所持1(3) 自他調整5(13) 一緒5(13)
その他20(50) 他者依存1(3),結果予測3(8),善悪判断2(5),感情1(3),その他1(3),N.R.12(30)
4歳児(n =40)
自己抑制7(18) 譲渡3(8),我慢3(8),代替行動1(3) 自己主張9(23) 略奪1(3),依頼7(18),拒否1(3)
自他調整12(30) 条件1(3),じゃんけん4(10),順番2(5),一緒5(13)
その他12(30) 他者依存1(3),結果予測3(8),謝罪1(3),その他1(3),N.R.6(15)
5歳児(n =40)
自己抑制12(30) 譲渡7(18),我慢4(10),代替行動1(3)
自己主張5(13) 依頼5(13)
自他調整18(45) じゃんけん3(8),順番2(5),先行4(10),後行5(13),一緒4(10)
その他5(13) 他者依存1(3),謝罪1(3),その他1(3),D.K.1(3),N.R. 1(3) 注.数字は人数。( )内は%。D.K.は「わからない」,N.R.は無反応を示す。
歳児には多く見られ,「その他」については,3歳児で 多く5歳児は少なかった。また対等場面では,Table 6 に示したように,「自他調整」の回答が3歳児で少なく,
また5歳児で多いことが示され,「その他」の回答は3 歳児で多く,5歳児は少なかった。
3)3歳児の無反応 2)の分析で他者先取場面と対 等場面において,3歳児に「その他」が多く見られたの は,Table 4から無反応の多さによるものであることが わかる。3歳児の無反応に着目すると,3つの場面で口 頭回答がすべて無反応だった3歳児は10名で,1つの 場面または2つの場面で無反応だった3歳児は11名で あった。場面差を,変化性の検定によって分析すると,
他者先取場面が他の2場面に比べて,有意に無反応が多 かった(自己先取場面との差;p < .05,対等場面との差;
p < .01)。なお,無反応の3歳児は,課題に耳を傾けて
はいたものの,口頭ではどのように回答してよいかわか らない様子であったが,選択回答を求めると全員選択を 行うことができた。
4)自己調整カテゴリーに関する場面差 4種の自 己調整カテゴリーの選択が,各場面でどのような変動 を見せているかについてコクランのQ検定を用いて年 齢別に調べた。その結果,「自己抑制」については,ど の年齢においても,場面間に有意差は認められなかっ た。「自己主張」については4歳児と5歳児で3つの場 面間にそれぞれ有意差が見られたため(4歳児,Q(2)
= 10.58,p <.01;5歳 児,Q(2)= 10.96,p <.01), さ ら
にMcNemarの検定で2場面間の比較を行ったところ,
4歳児,5歳児において他者先取場面と対等場面との間 に,1%水準で有意差が見られ,他者先取場面で対等場
面よりも「自己主張」が増加することが示された。
「自他調整」については,5歳児においてのみ3場 面 間 に 違 い に 有 意 差 が 見 ら れ た た め(Q(2)= 7.30,
p <.05),McNemarの検定を行ったところ,自己先取場
面と対等場面との間に有意差が見られた(p < .05)。こ のことから,5歳児では自己先取場面より対等場面で「自 他調整」が増加することが示唆された。
「その他」については5歳児において有意差が見られ たため(Q(2)= 6.53,p <.05),McNemarの検定を行っ たが,2場面間では有意差は認められなかった。
2 .選択回答の結果
各場面における3つの選択反応の出現数を,Table 7 に示した。
1)選択回答の年齢間の比較 まず,年齢別,場面別 に,選択反応において男女差が見られるかχ2検定を行っ たところ,いずれの分析においても有意差は見られな かった。そこで性別を込みにして,年齢(3歳児,4歳児,
5歳児)×選択回答(自己抑制,行動的主張,言語的主 張)のχ2検定を,場面ごとに行った。その結果,自己 先取場面のみに有意差が見られたため(χ(2 4)= 10.43, p <.05),残差分析を行ったところ,「行動的主張」の回 答は3歳児で有意に多く( p < .01),5歳児において有 意に少なかった(p < .01)。
2)選択回答に関する場面差 選択回答ごとに,その 出現数について年齢別にコクランのQ検定を行ったが,
有意差は認められず,選択回答については場面による有 意な差は見られなかった。
3)口頭回答と選択回答との関係
各年齢で,口頭回答の自己調整カテゴリーの反応と選
Table 5 他者先取場面における自己調整カテゴリーの出現度数と残差分析結果
自己主張 自己抑制 自他の調整 その他
度数 残差 度数 残差 度数 残差 度数 残差
3歳児(n =40) 7 – 3.9** 5 0.9 3 – 1.9 25 5.1**
4歳児(n =40) 22 2.0* 3 – 0.4 7 0.2 8 – 1.9 5歳児(n =40) 22 2.0* 3 – 0.4 10 1.7 5 – 3.2**
注.数字は人数。**p< .01,*p<.05
Table 6 対等場面における自己調整カテゴリーの出現度数と残差分析結果
自己主張 自己抑制 自他の調整 その他
度数 残差 度数 残差 度数 残差 度数 残差
3歳児(n =40) 8 0.3 7 – 0.2 5 – 2.8** 20 3.2**
4歳児(n =40) 9 0.8 7 – 0.8 12 0.1 12 – 0.1 5歳児(n =40) 5 – 1.2 12 1.6 18 2.7** 5 – 3.1**
注.数字は人数。**p < .01